木の葉の里には有名な暗部がいる。
随分昔からコンビを組んでいるナナとシシ。
どう有名かと言えばとにかく強い。
そして頭脳明晰。
一度でもその凄さを目にした木の葉の暗部、そして他の里の暗忍達は彼らのことを

「智将・闘将」

と呼んでいた。


  ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
   木の葉の智将・木の葉の闘将
       ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

その日彼らは合同で任務をしていた。
カカシ班とアスマ班。その2班が合同になると、決まって片方の班が苦労することになる。
そしてやはり本日もその片方の班から激しい不満の声は起こったがそれはいつものこと。

「ちょっとーあんた達の担任は一体いつになったら来るのよー」
イノの激しい問い詰めにすでに慣れきっているサクラは冷静に推理してみせた。

「そうねぇあと2時間弱って所かしら」
サラリと述べられたそれにコクコク同意するナルトとサスケ。
とんでもない話である。

「ぬぁんですってーー」
あまりに当然とばかりに告げれた現実にイノはとにかく心のままに叫んだ。

「うるさいわよイノ。たかが2時間くらい待てないの?」
「そーそー。それにまだ30分しか待ってないし。短気すぎだってばよイノ」

サクラに続きナルトにまで呆れたように言われた。まるでイノの方が我がままを言っている
かのような対応である。

「たかがって・・・まだって。あんたたち何言ってんのよーーーーーー!!」

どわぁーと激しい怒りを喚き散らすのはイノだけだが10班のほかの面々は同じ思いだった。

「たかが2時間・・・ね」
「まだ30分・・・か」
「・・・感覚狂いまくってんなあいつら」

元々気の長いアスマ、チョージ、シカマル達ですら呆れるしかない。
アスマはタバコの火を指でもみ消すと携帯灰皿に仕舞いこみ。それから首に手をやり空を仰
いだ。

「マジ置いて行きたくなってきたな」
あのバカカシ。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

本日の任務は『遺跡探索』。
かなり珍しい種類の任務に子供たちはウキウキしていた。
今までの草むしりやペット探しのような子供じみた任務ではない。誰に言っても「おおーす
げぇ」と言われるようなカッコいい物だ。

「今度木葉丸に自慢してやろーっと」
あの素直なお子様は目をキラキラ輝かせて任務について尋ねてくるだろう。そう思うと今か
ら笑みが零れてしまう。そんなナルトにシカマルは呆れた声で突っ込んだ。

「お前なぁ。守秘義務っつーもんがあるんだけどな忍びには」
「知ってるってばよ。でも遺跡の場所も言わないし、中についても言わないってばっっ。言
うのは『俺が遺跡探索に出かけてかっこよく財宝を手に入れた』って事実のみっっ」
「・・・・まぁ夢は大きく。子供を育てる第一歩だよな」
「シカマルに育てられた覚えはないってばよーーー」
「へーへー」

言わなきゃいいのについ突っ込みを入れてしまったシカマルはぷくぅと膨れるナルトに苦笑
しながらダラダラ歩く。
いつもなら一番先頭を先陣切って走っていくナルトが最後尾のシカマルとのんびり歩いてい
るのは純粋にシカマルと話たかったからだ。

・・・という建前でただ今休息中。
言わずと知れた暗部業。

木の葉の暗部に聞きました。

貴方の憧れる人は誰ですか?で、トップ3に必ず入るナナとシシという最強暗部。その2人
がこの最後尾をじゃれ合いながら歩くお子様2人だと知るものはとても少ない。

ちなみに数年前までは「三代目火影様」と「ナナ」と「シシ」が上位三人でデッドヒートし
ていたのだが、最近は新たに「スイ」という暗部が出てきたせいで三代目火影様は甘んじて
4位の立場を受け入れている状態である(笑)

ナナがうずまきナルト。
シシが奈良シカマル。

と言うのが木の葉最大の秘密であるが、実はもう1つ

スイが「海野イルカ」であるというのも最高ランクの極秘の話である。
木の葉の里はとても秘密に満ちているのであった。

さて、そのトップ3のうちの2人は最近とっても夜の任務が忙しかった。おかげで今も眠く
て眠くて堪らない。2人で一生懸命フォローし合いながら歩みを進めているのが情けない
話、現状であった。

「おらナルト。ふらついてるぜ。段差無いところで転ぶなんて恥ずかしいことすんなよ」
「・・うっせーってばよ。シカマルこそ目が泳いでっけど・・・前見えてる?」
「まぁ日常生活に支障はねぇ」
「ある。ありまくりだってばよ」

いきなり斜めに歩きだしたシカマルの手の平を握り締めブンブン振りまわす。
眠気覚ましとシカマルの歩みを軌道修正するのにカモフラージュとして手を繋いだのだが触れ
合う手の平が心地よくナルト、シカマル両名の気分が浮上していくのを感じた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「この遺跡だ。まだ未知の遺跡だからな。とりあえず様子見だけで危険を感じ取ったら即座
に退避。いいな?」
探検気分の子供たちに釘をさすようにアスマが念を押す。それに不服ながらもハーイと返事
だけは元気にする子供たち。

「なんか不安だが・・だがしかし一番の不安は」
キッと背後を振り返り目を輝かせて遺跡を覗き込んでいるカカシの頭をガンッと叩いた。

「お前だカカシっっ」
「酷いなーアスマ。俺は大人よ?分別くらいつきますーー」
「分別つく大人が2時間以上も遅刻してくるかってんだ」
「いつものことだもん。だからいいのー」
「訳のわからねぇ屁理屈こねるんじゃねえっ。ったくいいかお前たちがしっかりこいつの手綱
握って進んでくれよ」

サクラ、サスケ、ナルトの順に頭を撫でくり回し深く溜息をつくアスマがとても苦労症で哀れ
に見えた。

「地下と二階があるからまず全員でこの階を制覇したら上と下の2手に解れて探索。この階だ
けで危険と判断したらそのまま帰る。わかったな?」
「はーい」

大人しく返事をしたのがチョージだけなのが気になるがアスマはあえて気にしない事にして注
意事項を細々言い渡した。

「遺跡・・ね。なるほど確かに明らかに自然じゃあねぇな。」
「うん。人の手が入ってるってば。・・・なんか変な感じがしないかシカ?」
「あー。俺はあんまし。お前お得意の第六感じゃねぇの?」
「嫌な感じー。マジで嫌な感じだってばよ。あんま入りたくないなぁ。シカも警戒バリバリで
行けってばよ」
「りょーかい。石あるし。札もあるし。なんとでもなるだろ」
「それ最悪の状況考えての話だってば?」
「ったりめーだろ」
「・・・うう。眠いから早く帰って寝たいのに・・・ただじゃすまない気がするってばよーー
ぅ」


あいにくと一階に不穏な気配は漂っておらず捜査続行となった一行。


上の階の探索となったナルト達は特に危険もスリルも無くただ一室ずつ覗いていくだけ。
このまま何も起こらないでくれと願う気持ちと裏腹に

「なーんにも無くてつまんないってばよーー」
ふて腐れたように文句を述べるのがうずまきナルトである。

「なにも無い方がいいでしょ?だいたいお宝が眠ってるなんて夢のような話しよ?」
「宝くじで一等が当たるより難しいだろうな」
「むむっ俺ってば一等当てた事あるもん。ヨユーだってばよ!」 
「「え?」」
「すっげ昔じっちゃんに貰ったお小遣で一枚だけ買ったら当たったってば」

エヘンと胸を張って見せるが3人の驚愕は並ではない。

「「「一等が?」」」
まさかと聞き返せばあっさりうなづかれた。

「あんた大金持ちじゃない」
「へ?あーでもじっちゃんにあげちゃったってばよ?」
「「「はぁぁ?」」」
「だってさじっちゃん困ってたし」

さらっと語られた驚愕の事実にカカシは思い出してしまった。

「そういや何年か前にうちの里財政難に陥ってたなぁ」
「「まさか」」
「ん。たぶんそのお金だと思うヨー。でもナルトそれでよかったの?」
「んーとじっちゃん喜んでたし。それにじっちゃんならうまく使ってくれると思ったから」

純粋そのものの明るい表情でそういってみせた子供に木の葉の里は何度この子供に助けられれ
ば気が済むのだろうか?
カカシは大人代表として情けない気分になってきた。その気持ちが更に強まるのはこの数分後
のことである。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「・・・ストップ」
「「「え?」」」

いきなり停止の合図をしたカカシに子供たちの足が止まる。
何があるというわけでは無い。ただの廊下が続くだけの道。右には今探索し終えたばかりの少
し大きめな一室。

スッと空気に触れている片方の目を細めたカカシはアゴで先ほどの部屋へ戻るように子供たち
に示した。

(この狭い空間で戦うのはこっちが不利だ)

挟み撃ちにされたらどうしようもなくなってしまう。
意図を汲んで子供たちも息を潜めソロソロと部屋へと入ると

「ようこそ、はたけカカシ。うちはサスケ。私の狙いは君達だけだ。後の大事なお仲間を巻き
込みたくなかったら大人しく降伏したほうが良いですよ」

涼やかな声がどこからか響いた。
「なんだとっっ!?」

声に向かって飛び出そうとするサスケをナルトは思わず引き止めた。
(おいおい。相手の場所解ってないだろーにどこ行くんだよお前・・)
一見クールだがしかし実態は猪突猛進なサスケを知るサクラもそれに気づいて慌ててサスケに
しがみつき。
「闇雲に向かっていっても相手の居場所が解らないんだから意味ないでしょっっ」
と叱ったりしている。

そんな見事なチームワーク(?)にホッとしながらカカシが気配に向かって何気ない動作でクナ
イを投げつけた。
手ごたえは全く感じなかったが、それでも声の主はあっさり姿を見せた。
思ったより近くに立っていた男は漆黒の髪に茶色の瞳を持つ男性だった。黒い服は木の葉の暗
部服に似ている。スラリとした肢体に整った顔立ち。
まだ20代後半か30代前半だろうと思われる若い男だった。

「・・・あくまで闘いたいようですね」
すう、と後から声がしたと思った瞬間カカシの右腕から血が吹き出した。無駄の無い動きにナ
ルトの眉がひそめられる。

「くっっ」
動く気配すら感じさせなかった相手にさすがにカカシも戦力の差を悟るしかなかった。

(これほどまでの腕前とは。どこの里のもんだ?)
それにより相手の使う手が見えてきたりする。しかしどれだけ気配やチャクラを探っても相手は
カカシより数段も上手らしく全く情報は読み取れなかった。
そんなカカシに男はうっすら微笑むと丁寧な口調でゆっくりと言葉をつむいだ。

「まぁ私としては戦うのは本望ですけど。でも・・・」
「っっっ」
「サクラちゃんっっ?」

スゥとまたもや気配が動いたかと思えば今度はサクラの背後に立っていつの間にかその細い首に
クナイを当てていた。
「最初に言いましたよね?他のお仲間を巻き込みたくなくば、と。私は邪魔なものから排除す
る主義でして」
ニッコリ微笑む。

忍びになった時から死との距離は近くなったとは言え、それでもまだその身に感じたことはほ
とんどない。サクラはガタガタ震える体で半ば本能的に死を覚悟した。いくら下忍でも解るほ
どの男の強さを肌で感じとってしまったのだ。


「「「やめろっっ」」」


ナルト・カカシ・サスケの必死の叫びをよそに男は人質にするでもなくサクラの首にあてたク
ナイをすぅと動かした。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

困った担任が率いる7班と別れ、なんとなく楽になったアスマを先頭に彼らは下へと続く階段を
慎重に下っていた。
その最中だ。
そろそろ地下に到着か?と思われるほど降りた頃、シカマルは違和感に気がついた。
「ちょっと待て」
即座に三人に声をかければ首を傾げてシカマルを振り返る。
しかしその瞬間グラリとチョージの体が揺らめき
「きゃあー」
「うっわ。おいっ」
「ご、ごめんー」

チョージは前にいたイノとアスマ・・・そして最後尾にたっていたシカマル(助けを求めて服を
鷲づかみされた)をも巻き込み階段を転がり落ちてしまったのだ。
(うわ。今確実になんかの幻術範囲に飛び込んだぜー)

チリっと感じた違和感で読み取ってしまった事実は結構大問題で
「・・・マジかよ」
あまりの現状に呆然とシカマルは呟いた。
対象物にかける幻術と違って範囲指定されたソレはやっかいな代物である。
制約はいくつもあるものの、前以て準備できる分威力のある幻術が作れる。通常格上の敵の場合
よっぽど相手が油断しない限り効果範囲に入る前に気づかれてしまうので使用されない。
現にシカマルだって気づいた。
しかし気づいても役立たない時というものはあるのだ。

「敵のワナか、はたまた純粋にチョージのうっかりか」
判断に悩むところが苦笑を誘う。
「・・ったたた。もーチョージっっ何て所で転ぶのよーー」
乙女にとって大切な腰を痛めたらどうするのっっ。
起き上がって即文句を叩きつけられたチョージは眉をへの字にして
「ごめんねイノ。でも、なんかにドンッて押された気がするんだけど・・」
「最後尾はシカマルが歩いてたろーが。おいまさかシカマル・・・」
「んなめんどくせぇ事しねーっつーの」

言い訳がましく口にした言葉にアスマもおいおいと突っ込みつつ恐る恐るシカマルを見たりする。
なんだその失礼な反応は。内心憮然としつつ呆れた顔で答えれば3人は心なしかホッとした表情
を見せた(笑)
しかしシカマルにとってはやっぱり最悪としか言い様が無い。
(何かに押された・・ねぇ)
完全に罠だ。って事が判明してしまった。
やめてくれよ本当に。
しかもチョージは自分の前を歩いていたのだ。その何かにシカマルが気づかなかったと言う事
は・・・それなりのレベルの敵である。と言うことなのだろう。

嫌だいやだ。
めんどくせぇ。

とりあえずそのまま転がり落ちた階下を探索することにした10班。
しかし・・・なんだこりゃ?
地下におりてすぐに突き当たりだった彼らは大人しく来た道を戻っていた。しかし降りてきた
階段があったあたりには何故か大きな扉が発生していた。

「おい。シカマル、これはどうなってんだ?」
とりあえず担任は頭脳担当の少年に尋ねる。これはいつものことだ。
自分で考えるなんて無駄なことをせず、正しい解答を導いてくれる生徒にまず尋ねる。
それはどーよ?と思うが、短い担任生活でそれが一番手っ取り早いことをアスマは実地で学んで
きたのでとっくに大人のプライドは投げ捨てている。

「さぁな?・・・っとこれ何か書いてあるけど。暗号か?」
眉を寄せながら扉に彫られた文字を見る。
「解けたら扉が開くのかな?」
「パターンとしたらそれが妥当だろうな」

チョージの疑問にシカマルがあっさり答える。だがその言葉は適当に聞こえながらも熟考した
末のシカマルの答えであることを彼らは知っていた。そしてその答えが間違っていたことは過
去ほとんど無かったのだった。

「シカマル解るのー?」
「ん?まぁこんくれぇなら」

イノの言葉に軽く頷き扉のとって部分に手の平を当て
「申・戌・辰」
呟いた瞬間たやすく扉は開いた。
「やったぁっ。さっすがシカマルね」
イノの賞賛をよそに
「喜ぶのはまだ早そうだぜ」
シカマルは苦い顔を見せ先を見つめた。
「うそ・・」
そこにはまたもや同じ扉と違う暗号が用意されていたのだった。


・・・めんどくせぇ

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

誰もがサクラの死を予想しただろう。その1人を除いては。
「え?」
生きているのに驚いた。なんであたし平気なの?視界の片隅には驚愕をあらわに見せた男の姿
。じゃあ自分はどこにいるのだ?サクラが疑問を覚えた瞬間。

「大丈夫だってば?」
上からそっと覗きこまれた。
「ええっ?」
「さすがにさ。仲間見殺しにするほど俺人間捨ててないんだよね」

彼に似合わない苦笑いをしてみせる。

「ナル・・ト?」
「うん。立てる?」
「たぶか。」

お姫様だっこをされていた状態からそっと地面に下ろされて、目の前のいつもと雰囲気の違う
ナルトの様子にサクラは呆然と見つめてしまった。

「そうか。お前が・・・」
納得したような男にナルトはブンっと目にも止まらぬ速さでクナイを投げつけた。ガキンと受
け流されたクナイ。それに驚愕するでもなくドベのナルトらしい天真爛漫な笑みを浮かべてみ
せた。

「初めまして、だってばね。ツクモ。」
「・・・何故それを」
「企業秘密だってばよ♪」

名を当てられツクモと呼ばれた男はうろたえた。
「ツクモって水の国の!?」
まさか、という思いと「だからか」という想いが交錯しているだろうカカシはあまりにもあま
りな今の状況に混乱していた。
霧隠れのツクモと言えば、とても有名で。木の葉で言うところのナナやシシに匹敵するレベル
の暗部である。なぜそんな彼が今ここにいるのか。

「そー。まさか車輪眼の為にツクモ使うなんてなぁ。俺ってば水影さまの太っ腹具合に感動し
ちゃうってばよー」
この場に合わぬ暢気なその声音の持ち主にツクモは先ほどの何倍ものスピードでサクラに近づ
こうとした。

「あー、待つってばよ。サクラちゃんを危険な目に合わすのはこれ以上駄目だってばよー」
車輪眼ですら追えなかったそのスピードにたやすく追いつきニッコリ攻撃を弾いたナルト。も
う疑いようもなかった。

「ナルト・・・あんた一体・・・」
何者?
サクラの言葉にカカシもサスケもナルトを見つめた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

5つ目の扉に直面した時、シカマルは何度目かの呟きを口にした。
「めんどくせぇ」
飽きた。すっげー飽きた。

少しずつ上がっていく難易度。しかしまだ自分のレベルでは可愛すぎる問題ばかり。
それの為に頭を動かすことも、一々チャクラを使って解術を唱えるのも飽きるのだ。

じゃあ変わりにアスマあたりに頼むのはいかがか?と問われたならば
それもまた「めんどくせー」なのだろう。
こういう術を繰り出してくれと頼むのもめんどくさい。それならば自分でやった方が早いし楽
だし確実だ。
そう思って20個目まで解いてきた。

しかし

「アスマ。気づいてっか?」
「・・ああ」

タバコの火を大きな指先でジュウともみ消しポケットから取り出した携帯灰皿に押し込む。
ちなみに以前ポイ捨てをしてイノに散々叱られた経緯を持つアスマはその日からこの灰皿と生
活を共にしている。

その姿を満足そうに眺めたイノは
「どうしたのよシカマル?」
いつもより心持ちめんどくささがアップしているシカマルの様子に幼なじみであるイノもチョ
ージもこの後厄介なことが起こるのだろうことは想像がついた。

「いつからか知らねぇけど監視されてんだよ。どーやら俺達は、な」
アスマの言葉に2人は目を瞬いた。
怪しい扉が現れた時点で確かに危険信号は点っていたのだ。
しかし扉はシカマルが開いてくれるし、担任は一緒にいるし、と気楽に考えていた事実は否め
ない。
自分がまだヒヨッコの下忍であるから・・というのは言い訳にはならない。

なぜなら、同じ立場のはずのシカマルは気づいていたのだから。
警戒心をほとんど解いてしまっていた自分達の甘さが悔やまれる。


(この階に降りてきたその瞬間からだっつーの)
などとアスマの言葉に内心突っ込みつつシカマルは溜息をつきたくなった。

あーやっぱあいつの第六感は相変わらず冴えてやがるぜ。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

なんとも居た堪れない視線が突き刺さるがナルトとしては痛くも痒くもないと言ったところだ
ろうか。
ふふん。と鼻で笑って無視できてしまえる程度の図太い神経は持ち合わせている。

「何者ってひどいってばよ。俺は将来火影になる男っっ木の葉のうずまきナルトだってばよっ!」
こんくらい出来てトーゼンだってば!!
と偉そうに胸を張ってみせる。

その言葉をう受け一瞬の間を置き三人は顔を見合わせそれから力強く頷いた。
幾分視線を和らげ、意図して肩の力を抜いてみせる。

「ふんっドベが何いってやがる。あいつの事を知ってたのだって大方ビンゴブックでも見たんだ
ろう」
「まぁ意外性ナンバーワンのナルトだしネ。しっかし3代目もビンゴブックをナルトに見せ
るなんて甘やかしてるなぁ」
「ち・・ちがうってばよっったまたま黒い本が落ちてたからパラパラーって見たらそのおっ
さんが・・・っ。そ、それに俺ってばかっこよく活躍してサクラちゃんも助けちゃったりした
ってばよ。すげってばよ俺っっ」

「もー偶然なら偶然って正直にいいなさいよー。でも・・助けてくれてありがとねナルト」
「サクラちゃんひどいってばよー。」

彼らは必死だった。
ここで認めてしまったら。ナルトを無くしてしまう、そんな気がして。
とにかく仲間の心が同じ事を視線で確かめあった今、3人は強力して全力で知らないフリを貫く
決意をしたのだ。
ナルトも必死だった。せっかく彼らが知らないフリをしようとしてくれるのだ。
どうしてかは解らないけど・・・ならばそれに応えたいではないか。


そんな7班一同の一生懸命の現状回復へのフォローを思わず呆然と眺めてしまった男はハっ
と気がついた。

そう、彼は知っている。木の葉の旧家には護衛がつくことを。そして当然護衛任務は極秘で
行われるのである。
目の前のこの金色の髪の少年がはたして本当は何歳なのかは知らないが。
でも間違いなく護衛の役を担ったものだ。そう判断した。
そして・・・この年代の旧家の護衛には何故か木の葉のトップの暗部2人がついている、という
のは確かな筋から手に入れた情報である。まさかこいつがソウなのに?ドキドキ高鳴る胸を押さ
え油断無くナルトを見据えるツクモ。

7班全員による精一杯の『ナルトはフツーの困った下忍なのよ』作戦(←作戦?)を打ち砕くかの
ように男はサラリと今一番いっちゃならない言葉を口にした。

「そうか、お前らは知らないのか。そいつがお前たちを護衛していると言うことを」
「「「わーーーー」」」
思わずサクラ・サスケ・カカシの3人は耳をふさぎ、それから
「・・・うるさいってばよ」
ナルトは低い声で唸った。

今まで騙しに騙してきた事実をあっさりばらしてくれたツクモに、7班全員の頑張りを軽ぅ
くフイにしてくれたツクモに。ナルトは怒りに任せて前触れもなく現れた光る球体をたたきつけ
た。

「まさか・・螺旋丸?」

カカシが驚くのも無理ない。チャクラを練る時間もかけず、突然に発生したのだそれは。し
かも明らかに威力がいままでと桁外れだった。
ぐっと腹を押さえるツクモに冷え冷えとしたナルトの言葉が突き刺さった。

「あんまり人様のプライベートに立ち入ると怒るってばよ!」
「こ、の球体はまさかナナの・・」
「まだ言うか」

そう、ツクモの言うとおり。暗部ナナのオリジナルの技。構成としては螺旋丸に似ているが
印1つで出せて、投げつけられてしかも更に追跡機能付きというとっても便利な術である。

「まさかお前が・・・木の葉の闘将なのか・・・」
「さー?それはあんたが身をもって確かめれば?」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「っつかよ。監視っつーより幻術だろ」
階段に何か仕掛けられていたのだろう。シカマルほどの人間が掛かった瞬間にようやく気
づけたその幻術。
敵はかなりの腕前である。
幻術返しを得意とするシカマルでもその幻術を解く手を見つけられない。

何か一定の条件が整わなければ解けない幻術ということまでは術の構成を読み取り、理解
できたが。
その条件を満たすか、はたまた幻術をかけた相手を倒すか。

今の状況では前者しか手立てが無い。

『気がついたようだな』

「誰だっ」
アスマが叫ぶのを尻目にシカマルはにやりと笑みを浮かべた。
(おお。ナイスタイミングだぜ。いい加減眠くてしょーがなくなってきたしな)
酷く余裕なのは自分への絶対の自信か?はたまたただの性格か。彼の相棒と幼馴染は即座に
答えるだろう。
「性格」だと。

そんなシカマルを無視して会話は続く
『こっちについてる護衛が誰かは知らないが・・・木の葉の智将と呼ばれるシシぐらいのレベル
が無ければ決して最後の扉は開かない』
「何を言ってんだ」
何故ここで護衛の話が?と疑問を覚えたのは火影からしらされていないアスマ。
護衛としてついている木の葉のトップの暗部達は、単に同じルーキーだからついでに護衛を任さ
れているだけだ。きっとりと契約を結んだ訳ではなく、気楽な口約束程度のその護衛任務。だか
らこそあえて担任に知らされるはずも無く、ましてや子供たちなんて一生知らずに終わるはずだ
ったことだ。

『知らないのか?お前達の班には・・いや、正確にはその旧家がわんさか世代の子供たちに護衛
がついてるらしいが』
「根拠の無い噂をうのみにされても困るんだが」
『くくっまぁいい。なんにせよそいつが早く出てこないと時間がないぞ』
「は?」
幻術内に響くのだろう男の声質からしてインテリ系。サドッ気がありそーでやーな感じ。という
のがシカマルの感想である。もちろん結界の外から高みの見物をしているのだろうその男。この
余裕は時間制限性の罠を用意していたからか。
『時間は2時間』
「それが過ぎたら?」
『・・この幻術ごとお前達も消滅する』
「バカなっ」
そんな幻術初めて聞いたぞ。アスマが信じきれない顔でシカマルを振り返った。シカマルはと言
うとアゴに手をやり眉をよせ

「・・・消滅っつーよりか、幻術消滅の反動で精神に負荷がかかって異常をきたすっつーのが正確
じゃねぇのか?」
これだけ強力な現出ならばそれに伴い命を落とすのも確率的には高い。消滅というのもあながち
嘘ではないだろう。

冷静に答えられ男が一瞬戸惑う雰囲気が伝わった。こんな子供が何故?と思う気持ちと、「もしや」
と思う気持ちが交差する。

『まさか・・お前が・・・・木の葉の智将のシシ?いや、まさか・・』
やる気なさげにボーッと立つ少年を見て、

『ありえんな』
誰の返事を待つでもなく一人勝手に自己完結を終えた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

あまりにあまりな人外魔境な闘いが始まってしまい、ただ傍観するしかない一行。
戦いのゴングが鳴り響く寸前にナルトがこちらに向かって印を切っていたことから目の前にある
透明の壁はきっと結界の役目を果たすものなのだろう。護衛って言ってたし、護ってくれるの
だと思う。
とりあえず安全地帯にいるのだから情報整理は今しかない。というか今しないと後で後悔
するだろう。サクラは車輪眼全開で闘いに魅入っている担任の袖を引っ張った。

「カカシ先生」
「なぁにサクラ?」

あまりに素晴らしい闘いの観戦の邪魔をされて少々めんどくさそうな様子の担任にサクラはため息
をつきたくなる。そんな悠長な場合ですかってなもんだ。アホか己はっっっ。
っつーかそこで握りこぶしを振り上げながら「そこだナルトっっ」「惜しいっ」とか叫んでる
愛しのサスケ君ももちろん同罪よーーー。
そちらの腕も引っ張って観戦を停止したらサスケに嫌な顔をされてしまった。

(こいつらムカつくわっっ)
とサクラが思っても仕方あるまい。
「ナナって・・誰ですか?

「あー先生の知ってるナナはねぇ木の葉唯一のケーキバイキングの店で働いてる可愛いウエイトレ
スさんだよー」
へらっと状況を弁えない返答にすでに堪忍袋がぶち切れかけのサクラは

「・・へえー」
ひどく冷たい笑みを見せた。それにようやく『やっばー』と思ったのかカカシもサスケもビシリッ
とマジメな表情を取り繕った。
「ごめんなさい嘘です。木の葉の闘将とか呼ばれてる事もある暗部のすっごいお人だと思います。」
「俺も聞いたことがある。智将のシシ・闘将のナナ。木の葉のトップレベルの人たちだ。」
「そんな凄い人とナルトったら間違えられてるの?」

大丈夫なのかしら。
(いやー今んとこ互角にやりあってるしネー。)
(むしろ今の状況でまだ人違いを心配してたのかサクラ・・・)

「っていうかカカシ先生呼ばれてる事もあるって随分遠まわしな言い方でしたけど」
「わーさすがサクラ。耳ざといナー」
「・・褒められてる気はしませんが」
「うん。褒めて無いもん。んーそうだなーあんまり口外するのはアレなんだけどね。一般的にそう
言われてるネェ」
「一般的?じゃあ一般じゃなかったら?」
「それこそ先生の口からじゃあ語れません」

真実は語れませんけど、そこに疑問を投げかけるだけの余地は与えましょ。そんな担任の態度にサ
クラは眉を寄せ、

「ナルトったらとんでもない人と間違えられてるのね。由々しき事態だわ」
((由々しいのはサクラのお堅い頭では?))


何度か刃を交わし、何度か傷をつけ、つけられ。ほぼ互角と思われる闘い。
しかし相手はそれに不満を抱いていた。
目の前の金の髪の少年は強い。確かに強い。だが・・・
木の葉の闘将に夢を抱きすぎていたのかもしれない。

「闘将と言ってもこの程度か・・」
つまらないな。と不服そうな顔の男にナルトはむっとする。確かに互角程度である。噂に流れて
いる圧倒的な強さと言うものは自分には体現できていない。しかし、だからと言って勝手に「木
の葉の闘将」を侮られるのは
非常にムカつくのだ。

「いつ、俺が闘将って言った?」
ガキリと互いのクナイがぶつかり合い、ぐっと押し合いが続く。
「なんだと」
「勝手に決め付けて欲しくないな。確かに闘将と呼ばれる時もあるけれど、俺はあいつにはとう
てい適わない。」
「あいつ?」
それにニヤリと笑うと勢い良く押して、その反動で後ろへととびずさり腰のホルスター内でカタ
カタ動き出した物体をすばやく取り出し

「俺の最愛の相棒さまのことだ♪」
ただの道端に転がっているような石を見せつけた。
相棒ってその石っころがですか?
そう思ったのはツクモだけどは無いだろう。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


『では健闘を祈る』
と心のこもらない言葉を最後に会話を打ち切った男。
その後シカマルは扉を開くスピードをひたすらあげた。最後の扉までどのくらいあるのか知らな
いのだ。
あれからすでに1時間。これで52個目の扉を開通したことになる。さすがに疲れてきた。
問題も難しくなってきただけあって僅かに時間が掛かり始めている。たぶんまだアスマ達には気
づかれていないだろう程度だが。
そんな一行の様子を相変わらず監視しているのだろう。どんどんシカマルに視線が集中するのが気
配で読めてしまう。たぶん今頃『あのやる気ナッシング少年=木の葉の智将』と結び付けられてい
るのかもしれない。

(どーでもいいけどな)

めんどくさい。それしかない。早くここから出て家帰って寝てぇ。
ソレが一番の望みだ。

大体最近寝てないのだ。だと言うのにこの仕打ち。なんでこんな状態のときにこんな任務押し付け
やがったんだあのクソじじいはっっ。と3代目火影様を恨みたくなってきたのが正直な気持ち。きっ
とあの食えない爺のことだからある程度予想はついていただろう。だからこそ木の葉最強の暗部であ
るナナとシシをここにむかわせたのだから。

(わざわざ下忍任務の時に押し付けたっツーことはあれか?経費をケチったのか?そうなのか?そう
なんだな3代目。とりあえず今回は後できっちり落とし前つけさせてもらうぜ)

内心激怒しつつ53番目となる扉をギギーッと開くことに成功した。
81個目の扉の問題を目にした瞬間シカマルは気がついてしまった。
残り時間と照らし合わせて、それを自分のレベルで解けるか。

「・・・俺には無理だな。」
答えは不可能。
「ちょっとシカマルでも解けないの?」
10班の面々知っている。シカマルが誰より頭が良いことを。木の葉でトップレベルの頭脳を持つ奈
良シカクが行き詰ったときシカマルに頼る姿を見続けてきた幼馴染はもちろんのこと将棋に関しては
かなりの自身を持っていたアスマも奈良シカマルという人間の頭脳を侮りがたく思っている。

有体に言えばシカマルが無理なら木の葉でこの暗号を解けるものはいないに違いない。そう思う程度
の能力を肌で感じ取っていた。

「やべぇな」
制限時間が設けられていなければのんびり時間をかけれるのだが。せめて後2時間ほどあれば解ける
時間がある。
いやどちらにしてもこれが最後の問題とはかぎらない以上どう考えても自分には荷が重いと判断でき
る程度には自分の限界を知っているシカマル。
しかし残りはあと30分。無常にもときは過ぎる。迷っている時間は無かった。

「ちっ頼りたく無かったんだけどな」
小さく呟くと腰に下げていた袋から小さな石を取り出して片手で複雑な印を切り始めた。

(ああああ。この借りは高くつきそうだ。ナルトのやつ何ねだってくんだろー)
内心そんな情けないことを呟きながら。

「お・・・おい」

アスマですら見失いそうな速さの印。まるで車輪眼を使っている時のカカシレベルだ。
頭脳は認めていた。しかし・・・・・・
呆然と見つめるアスマ達を無視してシカマルは石に向かって声を投げかけた。

「おい手ぇ貸せ」
『んあ?今忙しいんだけど』
その声は――――――――まさかまさかの

「「「ナルト!?」」」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


シカマルは手のひらに載せた小さな石と会話していた。
いや・・これは。

『やっかいそうだな?』
「まあな時間制限付きの暗号だ。残り30分弱。後いくつ問題があるかも解からねぇ。俺が解くに
は時間が足らねぇってのが現状だ」
『ある意味ナイスタイミングだぜシカ。こっちも厄介な状況なんだよなー。負ける気はしねぇけど
護りながらの戦いはいまいち苦手だな俺は。自分の血なんて久しぶりにみたぞ』
「・・・おい。怪我したのかお前」
『ばぁか。心配すんな、ただのかすり傷だ。お前と同じ状況下で1人で戦闘中。こっち抜けるわけ
にはいかねぇから交替するしかねぇな。』

トランシーバー?
アスマはこの石が?とまじまじとシカマルの手の平の石を見つめる。ただの石にしか見えない。投げ
つけても痛くないだろうそんな小さな小さな石。そこから聞こえるのはドタバタ忍者のうずまきナル
トの声・・・より少しだけ大人びているが多分本人。多分だけど。

「お前が苦戦してるとはなーマジ珍しい」
『それはお互い様だろ』
「違いねぇ」

『ま、あちらさんもそれなりに勉強してきてるっつーことだろ。準備はいいか?』
「ああ。」
『同時にな。お前の印が終わったら合図しろ』
「了解」
印を結ぶスピードは明らかにナルトの方が早い。それはこの術の本質を誰よりも理解してるからこそ。
「悪いがちょっと入れ代わる。生き延びたかったら俺とあいつの行動を大人しく見守っとけよ」
シカマルはパンッと壁に一枚の札を張り付けながら早口でそれだけ言うと丁寧に印を組み始めた。

「まさか・・・」
シカマルの組み始めた印を理解してしまったアスマが呆然と呟く声が聞こえたが無視して足元に置い
た石に向かって声をかけた。

「いけるぜ」
『・・オーケー役者交代だ』
楽しそうな声が聞こえた瞬間目の前のシカマルの姿が掻き消えた。

「なにっシカマル?」
「まじかよ」
シカマルの存在が目の前から掻き消えてほんの数分。フワリと壁に貼り付けられた札が揺れ、次の瞬
間その場に1人の人間が立っていた。

「・・・っと到着。よぉイノ、チョージ、アスマせんせー。とっとと終わらして帰らないと夕飯食い
っぱぐれるぜ」

ニィと笑ってみせたのは紛れも無いルーキー1のドベ忍者。うずまきナルトだった

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

『お前が苦戦してるとはなーマジ珍しい』
感嘆すら感じさせるシカマルの声音にチッと舌打ちをしながら目の前に振りかぶられた刃をよいしょ
っと軽く避けてみせる。
「それはお互い様だろ」
『違いねぇ』

「ま、あちらさんもそれなりに勉強してきてるっつーことだろ。準備はいいか?」
『ああ。』
「同時にな。お前の印が終わったら合図しろ」
『了解』

ナルトは懐から取り出した紙を、手にしたクナイに手早く括り付け目の前の敵に投げ付けた。
当然ながらかわされたソレは深く地面に突き刺さった。
それを敵のクナイを避けながら視界の隅に捕らえるとニッと不敵な笑みを作ってみせた。

「お前は本当に運が良い。」
「なんだと?」
「俺がここ最近の寝不足で大分消耗していたこと。そしてお荷物がいること。その2つが重なったお
かげで・・・」
堂々と偉そうにナルトは指を二本立ててみせた。

「ナナともあろうものが負け惜しみか!」
自分が負けた理由を他に擦り付けるとはなんて情けない奴だと叫ぶ。それに怒るでもなくナルトは微
笑んでみせた。

「今からあんたに本当の『闘将』を見せてやるよ」
なんだ?と訝しむ間もなくナルトは素早く印を結び
「やる気の無いシシの闘将モードが見れるなんてな・・本当にお前はラッキーだ」
早口にそれだけ言うと男の目の前から掻き消えた。

「なっどこに」

近くに身をひそめたのかと一瞬思ったが気配はしない。本当に消え失せたとしか思えなかった。

「「「なると?」」」

いきなり消えた金の髪の少年に驚いたのは彼だけでは無い。下で見守るしか出来なかった
班の仲間と担任も同様。いやむしろ彼らの方が驚きが深かった事であろう。

「・・わー。マジでめんどくせぇ状況になってやがるぜ」
代わりに。何故だろうか、今この時すっごく使えなさそうなめんどくさがり屋の少年がのっそりこの
場に現れポツリとつぶやいた。

「まぁ、たまには俺が全然ってのもアリだしな」

何と言ってもめんどくさがり。闘うより後ろから指示してるほうが性分にあっていると自負している
シカマルは、基本的に頭脳派だ。
しかしひとたびやる気モードに入れば・・
「・・っつーかあいつに傷負わせやがった分はきっちり返しておかねぇとな」
ナルト自信は全く気にしないがシカマルはナルトの怪我に敏感に反応する。些か・・いや、かなり過剰
に。
以前イルカに『お前は俺よりナルトに過保護だな』と苦笑されたくらいには。

ので、ただ今何気にお怒り中だったりする。
ヒュンと右腕が動いたと思った瞬間、目の前の敵が吹き飛んだ。そのあまりの速さにまるでツクモ自
信が勝手に後ろへ飛んで行った様にすら見えてしまう。
ドガッと壁に背中から激突したツクモは小さく呻きながら何が起こったのかと驚愕する思考で考えた。
目の前のボーッとした少年はただ右手を下から上へと動かした。
それだけで自分は・・10メートルは距離を置いていたはずの自分が吹き飛んだのだる

「お前が木の葉の闘将なのか?」
「知らねぇよ。俺は闘うのは苦手なんだっつーの」

木の葉の誰よりも圧倒的な強さを持つというのにそれでも体を動かすのはしんどい。めんどくさい。
それが木の葉の闘将。

「ま、闘ってみりゃわかるんじゃね?」
訝し気な質問に答えるでもなくシカマルはため息混じりに呟いた。
「で?あんたの目的は?」
「車輪眼」
「解りやすいなホント。あんた程の忍び投入するほどのもんか車輪眼ってのは?それともただの人手
不足か水の国は」
「あの子供といい。何故そんな簡単に・・・」
「チャクラの質みてりゃフツー解るだろ?」
「・・・」

アッサリ言われた言葉に何ともいえない顔でシカマルを見た。しかし次の瞬間ツクモの口元は笑みに
形作られる。

「まぁ何にせよ。木の葉のトップレベルの人間がいまここに2人いるわけだ。」
「・・・?」
「こちらの予定通り、と言ったらどうする?」
「・・ふん。俺はこういう時は闘い専門だからな。そういう事はあいつに任せてあるんだ。」
余裕たっぷりのツクモの言葉にシカマルは微かに顔をしかめて見せたが肩をすくめ確信を持った言葉
を告げた。
自分よりもよっぽど奥深い思考回路をしている奴なのだ。シカマルが万の可能性を考えるとしたらナ
ルトはその数百倍もの可能性を考える。全く持って歯が立たないというのが智将たる所以。

「あいつと言うと?」
「さっきまでお前のお相手してた俺の相方」
「まさかナナが?」
あのオレンジの派手な格好をしたガキが?
霧隠れで最強の自分を苦戦させたあの少年が?
とうてう頭脳戦など出来なさそうなあの少年が?
闘将のはずだった・・・ナナが?

「知ってる奴らには智将って呼ばれてるぜ」
サラリと信じたくない言葉を聴かされてしまった。
智将といえば、冷静沈着で、眼鏡なんかかけてたりして、言動もひと言ひと言に裏がありそうで、
それでいて、誰もが頼りにしてしまうような。そんな男を想像していた。きっと自分だけでは無いだ
ろう。大方の人間が思っていたと思う。

「智将であり、俺の次に強い男。言っとくぜ。俺らのことを『智将・闘将』と呼ぶ奴らはいる。そい
つらはたいてい俺達2人とものことを『智将であり闘将でもある』そう心から思ってやがる。だから
こそ、俺らは誰のやっかみも受けずトップをひた走れるんだ。」

いつもは動くことが好きなナルトが前線に立つ。
動くより考えることが好きなシカマルが補佐に回り戦略を立てたりする。
だから良く知らないものは間違える。
木の葉の闘将はナナ・・・ナルト。
智将はシシ・・・シカマルである、と。

「さあ。闘将と呼ばれる所以。とくと見せてやろうか」
スラリと細身の刀を抜き放った。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

ナルトは現れた瞬間10班の面々を眺めたが即座に問題に意識を向けた。いつもなら楽しく反応を
眺めているだろうが残念ながら今回はそんな時間は無いのだ。

「って事で、さて―――――――問題ってのは?」
「あ、えと、ここにあるこの文だけど」
驚愕から抜け出せないまでも一番冷静だったのだろうチョージが指を指し示した。
そちらをチラリと眺めるとナルトは

「ああ、これは手こずるわな」
「え?」
いきなり印を組み出し・・・・・そしてあっさり扉は開いた。
「うそ」
「おいおい」

シカマルが先ほどウンウン呻って諦めたこれをナルトは一読しただけで解いてしまったというのだ
ろうか。

「呆けてる暇は無いぜ。死にたくなかったらサクサクいくぞ」
ナルトの言うとおり扉の先にはまた新たな扉があったのだ。さっきまでよりも難題な扉が。
「さぁて俺を楽しませてくれよ」
舌なめずりをしそうな楽しげな様子のナルトに思わず3人は見惚れてしまった。

「ちょっあれはナルトよ。ナルトなのよーーー」
「ぼ・・僕初めて同姓にときめいちゃったんだけど・・・」
「・・や、今のナシって訳にはいかんか?おいおい大人を惑わさないでくれよー」
動揺露な3人の様子に首を傾げつつナルトは次の扉も軽々開いてゆく。いったいどういう頭脳をし
ているのだろうか?最初からずっと見ていたおかげで問題の法則性がわかってきたアスマは多分な
んとなくこの問題の難易度の高さというものが見えてきた。

「今、どーーー考えても里内で指折りの人間しか解けないレベルだよな?」
「んー?それが解るだけアスマせんせーも成長したってことだな」
「さすがにこんだけ問題と解答を見続けてりゃあな」

法則は一緒なのだ。ようするに後は解答者の知識と読解力。頭の柔らかさ。そんなものが試される。

「1つ言っていいかナルト」
「なにー?」
「その印どこで知った?」
「今作った」
「まさかと思ったけど・・そうなのか」
問題は『こういう術を発動する印を組め』そういうものである。それが解ってきた。
予想では最初のほうは口頭で答えられる問題。そのうち複雑になってきてそのまま術を扉に送り込
んでいる、そういうことだと思う。

「今のは何の術だったんだ?」
次々と扉を快調に開いていくナルトに好奇心から尋ねてみれば

「大きなものを小さくするって技」
「・・質量保存の法則はいずこに・・」
「んなもん水が気体になるがごとし、だろ」
「よく解らんが違うと思う。」
「俺の中では理解できてんだからいいんだよ。まぁ実際使えるかって言ったら自然の摂理的に色々
問題があるから使わねーけど、いいなこれ。面白い問題だ」
ウキウキとナルトは次の問題に取り組む。
そう、ナルトの趣味は術の開発。そんな彼にこの問題は猫にマタタビ。命の危機を忘れてしまいそ
うなくらいに楽しくて仕方ない。だがしかし楽しいときは早く過ぎるものであり、無情にも最後の
扉へと差し掛かった。

「わお、マジかよ」
「何?もしかして解けないの?」
初めてのナルトの情けない叫びにイノは慌てて尋ねたが
「いや、この扉で最後っぽい」
「喜びなさいよっっ」
「うう・・至福の時よ、さようなら・・・」

くぅと無念と呟きながら最後の問題はじっくり時間をかけて、だがしかし1分ばかしで開いてしま
った。ガガーッと勝手に開く扉を悲痛の表情で眺めるナルトを見ていたイノは素朴な疑問を問いか
けた。

「ナルトって紙一重のバカなのかしら?」
「俺は・・天才に一票入れさせてくれ」
「僕は無投票でいい?」
3人は大げさに嘆くナルトに最後の扉開通の喜びが半減するのを感じた。

「さてと、悲しむのはこんくらいにして、3人ともとりあえず扉出たらその場から動くなよ」
「え?どーしてよ」
「外でさっきの人が待ち構えてるんじゃないかな?」
キョトンとしたイノにチョージが諭す。
「そーそーチョージやっぱり冷静だなぁ。何人かの気配するから大抵この幻術作ったヤツラだろう
なー」
それにナルトが嬉しそうに頷くとアスマは眉を寄せた。

「動くなっていうことはナルト、お前がどうにかすると言いたいのか?」
「そ、アスマ先生なら解ってるよね。」

ナルトとシカマルの特異さを。最初に石で会話を交わし、それから『時空間忍術』。あの4代目の
すでに伝説とすら言われているあの術を2人はいとも簡単に使って見せた。まるで使い慣れたとで
も言った手つきで。

「あれは4代目の」
先を言いよどむアスマにナルトはニカッといつもの天真爛漫な笑みを見せた。
「うん、じっちゃんからそういう術をあの人が使ってたって聞いたからさ、俺なりに組み立ててみ
た」

あっさりと誰もが成しえなかった事を。目の前で見ていなかったら未だにアスマは信じられなかっ
ただろう。空間を移動するなんて。数多ある驚愕物のどの忍術よりもとんでもない離れ技だ。
それを・・組み立ててみた、かよ。
世界が違うと、アスマは思ったとか。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「まさか」
そんなバカな。
何故・・最後の難問をあんなにたやすく解かれるなんて。あんなハデなガキに。
口々に仲間達から驚愕の呻きがあがる。
痛いほど解るぞその気持ち。これを仕掛けて解かれたのは初めてだ。問題1つ1つに術がこめられ
ていて100の質問からこの術形式は成り立つ。術をかけられた者が30の扉を開いて完全となる。
29までは術者の意思で幻術を解くことが出来る。それを越えれば・・・。

この幻術は霧隠れの里の一大プロジェクトとして25年前から練りに練られた知りえる限り最も難
解な術である。
ぶっちゃけて言えば情けない話し霧隠れの里にはこれを解ける人間はいない。30まで扉を開いた
ら術者をどうにかしても解けない、両刃にもなりうるそれだけに強力な術だった。
だからこそ、解けるのは最後の問いに答えられるだけの頭脳とそれを発動できる技術、そしてこの
巨大な幻術を打ち破るために必要なだけの大量のチャクラ。どれが欠けても不可能な・・・そんな
バカげた術だった
わけだが。

「これをあの短時間で解いたお前は一体何者なんだ?」
「あーっさっきのインテリ声っっ」
イノの叫びと
「おお、すげー霧隠れの戦力投入しまくりー。水の里襲うなら今がチャンスって感じ?」

暢気なナルトの声が重なる。
「ナルト、知ってるのか?」
「あれー?アスマ先生知らない?霧隠れのツクモとヤクモのコンビ。さっき別のところにツクモも
いたんだよな」
「・・ビンゴブックのか?2人とも木の葉にいるのか!?」
恐る恐ると言ったように聞き返してきたアスマにナルトはあっさり頷いた。
「そう。後ろにいるのは同じ隊の仲間?あ、ちらほら知ってる顔があるから結構有名どころ集めて
きたんだねー」
「私のことを知ってたのか。まぁいい。お前がここにいることは計算通りだ、今頃外では――――」


「あー言っとくけど旧家の守りは完璧にしてあるから」
サクッと会話をぶちきられ、ヤクモは言われた言葉に驚愕しつつも虚勢を張る。

「・・・闘将が抜けた状態でどれだけもつやら」

「やー、余裕だろ。そっちだって腕利き2人抜けてるわけだし。スイに指揮任せたし。俺
らのフォローは無理だと伝えてあるし。何より能力高いの日向に集中させたし」

シカマルと同時に移動を開始して、先にイルカの所へ飛んだのだ。あいにくイルカには石を渡して
おらず遠距離会話が不可能なのだ。手早く現状況と対応を伝えその足でこの場にもう一度飛んでき
た・・印を組む速さと、チャクラの量が膨大だからこそ出来る荒業である。


サラっと述べられた現在考えられる最高の人員配置にヤクモ達は言葉を失った。
驚愕を彩る敵の表情に苦笑を禁じえない。
「あんた俺を誰だと思ってんの?」
「まさか・・・お前が智将・・・?本当にそうだというのかっっ」
この金色の髪とオレンジの服を着た派手さ爆発の少年が・・・恋焦がれて夢にまで見た(←おい)
智将だというのか?
さっきのめんどくさそーな少年が智将と言われたほうがまだマシだ。
しかし恐る恐るの質問はサラリと肯定されてしまった。

「ご名答。俺は木の葉の頭脳だぜ」

自信満々の発言は敵ですら見惚れてしまうほどの力強い笑みと共に発せられた。


そう木の葉の智将の読み通り。今回の狙いは旧家。とりわけ日向をメインとしていた。
この2班を狙って見せたのは都合がよかったから。
車輪眼と旧家を護衛している2人の超人を確実に日向から引き離すため。
最悪1人はいるはずだし居なければありがたく車輪眼&猪鹿蝶の三家をゲット。
どちらに転んでも損無い作戦。
崩れたのはこの短時間でそれを読み取り完璧な布陣を組み立てた智将を侮っていた自
分達のうかつさ。それが敗因。

「シカが来る前に片付けたいんだよねー。悪いけど・・こいつ使うぜ」
ヒュンッと何かが空を切る音がする。次の瞬間後ろにいた仲間の1人が床に倒れていた。
「お前はまさかナナ?いや、ナナは闘将のはず・・」
「さあて?だが俺が銀線使いのナナであることは間違いないぜ」
出血大サービス〜と自分の暗部名を教えてあげながらもナルトの指は止まらない。
いや、すぐに止まった。

「ありゃ。こっちのが遅かったみたい。」
ナルトの蒼い瞳が和らぐ。暖かな光を浮かばせ、柔らかく微笑む。
「シカー」
声をかけた瞬間目の前に現れたのは漆黒の髪を持つこの世でたった1人の大切な相棒。
彼はナルトにチラリと視線を寄越すと小さな切り傷に眉をひそめつつ持っていた一本の細い刀を
かちりと鞘におさめた。

「おう。よいしょっと。これで仕舞いだな?」
いつの間にだろうか哀しいほどにあっけなく、ビンゴブックに載っていたはずの男達は床へと倒
れていた。
あまりに圧倒的な力の差に嘆く暇も無かったのは敵にとって幸いだったのかもしれない。
「ん、さんきゅー」
「珍しいな銀線。苦手だったろ?」
「人質とられたら大変だから早く一気にって思ってさ」
ニシシと笑いながらナルトはシュルリと銀線をしまいこんだ。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

いきなり現れたシカマルを見れば肩に抱えていた男をどさりと床に投げ捨てていた。
あれを抱えていながらあの動きをしたというのだろうか?
あきれ返りながら眺めていたアスマは後ろからポンと肩を叩かれた。

「アースマッ」
「カカシ。お前ら無事だったのか」
「うん、シカマル君に助けられちゃったヨ。」
「ナルトが消えたら代わりにシカマル君が現れてあっという間に凄く強い敵倒しちゃったのよ。」
てへっと情けない事を言うカカシについでサクラが興奮気味に口にした。
しかし次のサスケの言葉を聞いた瞬間にアスマの頭はフリーズした。

「・・・さすがシシ、と言ったところだな」
「・・おいおい、マジかよ。」
先ほどまでただの妙に頭が良いだけの生徒と思っていたシカマルがとんでもない人物だと知って
しまい、アスマは呻いた。そう、ナルトがあの人だというだけでも驚いたのに・・・。

「アスマ先生?」
イノとチョージの問うような視線にため息と共に吐き捨てるように言葉をつむいた。
「シシ、智将と呼ばれる。」
「え?シカマルが?らしいっちゃらしいけど」
「だが事実は・・もっととんでもないぞ」
「どんな?」
「ナナとシシ。木の葉の暗部の中でも群を抜く凄腕のやつらだ。」
「うん」
「智将のシシ、闘将のナナ。そう一般的には言われてるが」
「・・・か?」
「一番に強いのはシシで一番に頭がいいのはナナ。」
「逆ってこと?」
「そんでもって2番目に強いのがナナで」
「はぁ?」
「2番目に頭がいいのがシシ」
「・・・」
「わぁ」
すでにシカマルの口から聞いていた7班のメンバーはしみじみと驚きに口を開きっぱなしのイノ
とチョージの様子に同意を示した。

「解ったか?」
「うん凄いのは」
「だからあいつらがトップと呼ばれ慕われるんだ」

2人の闘いを目にした者は圧倒的な強さとそのあまりの優雅さに驚愕し畏敬の念を抱き、その圧
倒的な強さに純粋に感動し、その頭脳に気づいてしまったものは畏怖と心強さを感じ、彼らがそ
の2つを兼ね添えると知る者は人間として無条件に尊敬する。

「やばい。めちゃくちゃ嬉しいかもしんねー」
「でショ。こんな身近にあの2人がいたなんてネ」
それはカカシもアスマも例外ではなかった。
とりあえずこの事態をとっとと収拾して帰って寝るかと話し合っていたナルトとシカマルは振り
返った瞬間思わずフリーズした。

「何・・やってんだ?」
いきなり片膝をついてナルトとシカマルに向かって頭を垂れた二人の上忍に子供たちだけでなく
最敬礼を取られた2人までも目を丸くした。

「元暗部としてあなた方の強さはよく存じております」
「口外する気は一切ありませんが記憶操作は2人の判断にお任せします」

「「おいおい」」
あまりの態度に疲れた溜息をつく。拒絶をされるよりかは嬉しい対応かもしれないが、ここまで
うやうやしくされると反応に困ってしまう。

「あー。シカ、いいか?」
「大丈夫だろ」

じゃあと頷くとナルトはニッコリ笑顔で
「秘密は墓まで、ヨロシクな。ついでに水のやつらの片付け・・任せていいか?」
「その後スイに合流して貰えるか?」
ナルトの深い蒼色の瞳とシカマルの黒い深遠の瞳を受け二人の大人は裏返った声で答えた。

「「もっもちろんです!!」
「悪いな」

それに首を傾げるナルトと苦笑を漏らすシカマル。
カカシとアスマのその態度は憧れのナナとシシにたいするものである。その2人に信用してもら
え、更には仕事を任された。二人を知る忍びとしてこれ以上名誉なことはないだろう。
カカシとアスマは水の忍びたちを抱えあげると嬉しそうにその場から去った。
それを見送っていたナルトは、視界の隅に入った子供たちの様子に首をかしげた。


「なぁんで逃げるってば?」
にこぉととっても人好きする笑みを浮かべるナルトが怖い。

「こ、こういう時はよくあるパターンってあるじゃない?」
代表してサクラが後ずさりながら言葉を紡ぐ。
正体を知った者の行く末など限られている。
忘却か死。先ほど担任の2人ですら忘却も仕方ないと口にした。それが普通なのだ。
そんな彼らに気がついたのだろう。智将闘将と呼ばれる二人は苦笑をみせた。

「安心しろよ。俺らだってかつての仲間に手をかける程非情じゃないつもりだぜ」
シニカルに笑ってみせたのはシカマル。

それに過剰に反応したのはイノだった。

「んな事くらいわかってるわよ!!」
他の子供達も当然だと不満げに同意を示す。
「「じゃ何で逃げるんだ?」」
不思議そうに首を傾げて見せた二人に子供達はムッとした。
なんでこの二人は解ってくれないのだろう?自分達の気持ちを。
ずっと一緒にいたのに。
なんで逃げるかだって?
そんなの

「忘れたくないからに」
決まってるじゃないっ
決まってるだろっ

腹の底から振り絞るように必死に叫ぶ彼らにナルトもシカマルも困惑した。

「「なんで?」」

「なんで解らないんだ」
サスケが眉を寄せ睨み付ける。
「それって僕たちに失礼だよね」
チョージもプクプクの頬を更に膨らませる。
「そんなの解りきってるじゃない。ねぇイノおバカさんな二人にハッキリ教えてあげてくれな
い?」
「仕方ないわねぅ。全く。忘れたく無い理由?そんなのあたし達があんた達の事を好きだ
からに決まってるでしょ」

決まってるのか。と呆然としながらイノの言葉を反復する

「好き・・・?」
「ずっと一緒に居たいのっ。2人が暗部ですでにすっごく強いのかもしれないけど、でも一緒に
修行して。一緒に強くなって一緒に将来上忍とかやって行きたいのっっ」
「ナルトは嫌なの?あたし達と一緒は」
「シカマルはどう?僕たちと一緒なんてめんどくさい?」
「お前たちは絶対に俺達の記憶を消したいのか?」

イノ、サクラ、チョージ。それにサスケまでも。
次々に言い募る子供たち。

「嫌じゃないし、記憶を消したいわけでも無い。でも仕方ないからなー」
「めんどくさい訳でもねーよ。ただ、俺ら暗部やってるのばれるわけにはいかねぇしな。」

困った顔で首を傾げる2人に4人の子供たちは一気に目を輝かせた。

「じゃあさー」
暢気なチョージの声にあわせ同時に彼らは言い放った。
「秘密にすれば」
「内緒にすれば」
「誰にも言わなければ」
「態度が今までと変わらなければ」

いいんだよねー?

口々に。全く同じ内容を。
それに最強の子供2人はキョトンとした顔を見せた後。

「「そりゃいいや」」

破顔した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「サスケ君。カカシ先生まだかしら?」
サクラはパタンと書物を閉じ傍らで同じ忍術書を紐解いていた少年に尋ねた。
「まだだな。後1時間とみた」
「ん。じゃあたしも少し寝よーっと」
「ああ。」
サクラの声に頷いたサスケは顔を僅かに動かし、暖かな布団の中で夢の世界に羽ばたいている
金の髪の少年を見やり小さく微笑んだ。その隣に敷いてある布団にもそもそもぐり混むサクラ
も慣れたものだ。
それらを見取り、それから先ほどまで読んでいた書物にもう1度目を通し始めた。

カカシを待つ間。今までなら騒いだり修行したりと大忙しだったナルトが優雅に熟睡中。
最近はこれが日課だ。
最初からサスケの家集合にしてのんびり三人で睡眠をむさぼって遅刻してきたカカシに起こさ
れる。
今までからは考えられないナルトにとってパラダイスな時間である。

たまに10班が飛び込み参加で一緒に熟睡してたりするのもご愛嬌。

今日もまた。


「ナッルトー。今日はあたし達任務オフなのー。一緒に眠りに来たわよーー」
「イノっ駄目だよ。ナルトが起きちゃうよ」
「あー大丈夫だろ。あいつ最近ここの家では気ぃ抜きすぎてっから。さー俺も一眠りすっか」

何をするでもない。
ただ彼の傍で眠りに付くだけ。

でもそれでも。
ナルトの横という特権は。
シカマルだけのものだけど。

「シカー?」
「ああ。寝とけ。」
「んー」
ギュウと抱きついてくるナルトを抱きしめコトンと意識を飛ばすシカマル。

「まったく見せ付けてくれるわよねー」
「2人だけの世界って感じよね」
「それでも。僕たちのそばで寝てくれるだけでも幸せかな」
「まぁ少しは信用されてるって事だろうな」

チョージとサスケの言葉に4人で誇らしげに笑ってみせて。
今度はサスケも混じって。
熟睡体制。



「あーーまた寝てるーー。センセーも混ぜて欲しいのにーーーー」

いつものごとくカカシの絶叫で目が覚めるまでは。
皆で仲良く惰眠を貪る。


それが今の彼ら・・・智将・闘将と呼ばれる最強暗部たちの。


一番の幸せ。