その日あたし達は夜の散歩をしていた。
沢山のことが一度に起こったせいで多分気分転換がしたかったんだと思う。
星が綺麗でまぶしくて、なんだか泣きたくなるほど澄んだ夜だった。
3代目が亡くなってまだ2週間。
あんなに偉大な人が居なくなったと言うのに木の葉の里は相変わらず平和に回っている。

   ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
     木の葉が回るわけ
       ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「3代目が亡くなったって言うのに平和よねぇサクラ。」
「そうね。不思議なくらい平和だわ。まぁいいことだけれど」
「それにしても。5代目は誰がなるのかしらね」
「さあ?今の木の葉で火影になれる程カリスマを持った人なんて思いつかないわ」

親友兼生涯のライバルである彼女は可愛い顔に反してかなりシビアだ。頭が良い分あた
しなんかよりいろんな事を考えているだろう彼女は時々きっつい言葉を吐き出す。
今回もそうだ。誰もが漠然と思っていた事実をキッパリ口にしてしまう。
まぁ他人の前で言うほどバカじゃないから安心しているけど。

「そうねぇ。確かにパッと思いつかないわね」
「でしょ。例えばこれが10年後とか言うなら話は別なんだけどね」
「10年?」
「そ、10年後ならサスケ君たちが程よい年頃じゃない」
なーるほど。

でもサクラ、サスケ君が火影ってあたし想像つかないんだけど。そりゃあかっこ良くな
る事はうけあいだけど・・・カリスマ・・・・・ねぇ。

「まー火影ってのは難しいかもだけど、サスケ君なら手助けできるくらいの位置にはい
れそうじゃない」

あら、判ってたのね。ホッとしたわ。恋に目隠しされて現実を見えないようだったらさ
すがにヤバイもんね。

「それにネジさんとかシノ君も期待できるわ」
ぐっとコブシを握り締め断言。
あーヒナタのいとこもねぇ、最近丸くなったって噂だし確かに期待できるかもしれない
わね。やっぱりあの子に伸されたのが効いたのかしら。

「シカマル君は多分中忍になれると思うし」
「え?うそっ」
「何言ってんのイノ。今回の選抜の中で一番中忍に向いた闘い方をしたのはシカマル君
じゃない。」
「えーでもギブアップしたのよあいつ」

予想通りといえばそうだけど、あの諦めの早さはいかがなものかと思うのよねぇ。
「あれでいいのよ。今回シカマル君が受からないんだったら全滅だと思うわ」
そこまで・・・。
幼馴染が褒められるのは嬉しいけど、なんか過大な期待をされているようで居たたまれ
なくなってくる。
「ま、受かったら盛大にお祝いでもしてあげよーかしら。シカマルめんどくさがりそー
だけど」
肩をすくめてそう言えばサクラはクスクス笑い出した。

「なんにせよ。10年後が楽しみよね」
「そうね。」
自分達の仲間がきっと凄い人になるってそう思えるから。
彼らに負けないように頑張らなくちゃって思う。

「でも」
「うん、でも」

分かってるわよ。あんたが言いたい事くらい。
一番あんたが期待してて、楽しみにしているのは

「「ナルト」」

よねーー。
「分かっちゃった?」
「とっくにねー。10年後、火影の席がもし不在になったら、あんたもあたしも・・・・
多分あの子を知る誰もがあのこの名前を挙げるわ。」

認めるわよそれは。いくらドベでも。いくらやかましくても。
いざって時に思わず仰いでしまう。
いざって時に何かをやらかしてくれる。
そう思わせる人。それがあの子。それがそれこそが

「カリスマ・・・ってもんよね」
「でしょ」

自慢そうに笑うサクラに苦笑を返して、あたしは未来に思いをはせる。金の髪をゆらし楽
しそうに笑う彼はきっととても強くなっていることだろう。楽しみよねホント。
・・・と、一緒に思いを馳せていただろうサクラが突然耳元にささやいてきた。

「ねぇ。なんか物音しなかった?」
「え?こんな森のなかで?」
ただでさえ、ちょっぴりビクビクしながらの森のなかの散歩だったのだ。物音といわれ、
熊しか思いつかない。

「まさか・・・・」
「ちょうどいい機会ね。ちょっと覗いちゃいましょ」

サクラ?
意気揚々と音が聞こえたと思わしき方向へと前進するサクラに無理矢理ひっぱられた。
あんたそんなに熊が見てみたかったのーー?そんならうちの班に来なさいよっ毎日いやっ
てくらいみれるわよーーーー。←アスマのことらしい

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「死ぬ・・・まじで死ぬって」
「言うな。むしろ俺のほうが瀬戸際だっての」

とりあえず今日の任務が終わった。ただいま、すでに朝方。
ああ、今日は久しぶりにまともな睡眠が取れるかもな・・・なんてささやかな幸せに喜ん
でしまう二人。
最近基本的に2時間程度の睡眠が続いていた。

「なぁナナ、これ以上こっちばっか負担かかんのってどーかと思うんだよな」
「仕方ねぇだろ。ホムラ達にはできる限りの仕事回してっけどいつポックリいくかと思う
と睡眠削らせるわけにいかねーし」
「だよな。1人減ったらその分やっぱり負担がこっちにくるんだもんな」

もっと平和な時ならポックリ全然大歓迎。むしろ五月蝿いお目付け係がいなくなって万歳
三唱だというのに。

「しかしよー。こっちが先にポックリいきそうじゃねぇ?」
「頼むからシシはダウンしないでくれよ」

お前が倒れたら間違いなく3日とたたずに俺も倒れるっっ。そんでもって多分2日とたた
ずに木の葉の里は機能しなくなるだろう。断言しよう。
なんて情けない言葉を言い切るとナナは顔につけっぱなしだった仮面をヒョイっと頭に移
動させた。

二人の今の格好は黒ずくめ。ついでに言えば20代前半に変化している。この姿を誰かが
みれば気づいただろう。彼らが暗部に所属していることを。更には暗部に属している者な
らば彼らのことは知っているはず。今は亡き、3代目火影様の専属の暗部。ナナとシシと
いう木の葉最強の暗部ということを。

ちなみに言えば現在の火影不在のこの状況下、暗部を動かしているのは実はこの二人だっ
た。更には他国に今が侵略のチャンスと思われないようにと大きな仕事をこなしていき、
「木の葉の里は揺るぎませんっっ」てな姿を見せつけまくっているのはこの二人の仕業で
ある。

おかげで今の木の葉の平和があるのだ。

だからこそ暗部の誰もがこの二人におとなしく従い・・・というか心酔しまくり、かなり
の無理難題を押し付けられているにも拘らず不平不満を述べずに頑張って働いていた。な
にせ一番大変な思いをしているのがその命令を下している二人なのだからとても文句なん
て言えない。

「ふぁーーーとりあえず、大きいのは終わったからしばらくはデスクワーク三昧だな。」
「あーめんどくせぇ。けど体力回復にはありがてぇな」
「まったくじっちゃんが先手をうっといてくれればこんな苦労しないですんだのに」
「だな。3代目がさっさと5代目を用意しといてくれりゃぁな。」

ふぅぅぅと盛大なため息をついた二人の正体は、実を言わせて貰えばまだ12歳の幼い子
供達であった。
ナナと呼ばれる青年はただいま本当なら5代目となる「綱手さま」を探しにいっているは
ずの、うずまきナルトその人であり。
シシと呼ばれる青年は下忍の任務が休みで父に山に無理矢理連れ込まれ、修行をつけられ
ているはずの、奈良シカマルである。

二人はもうずいぶん昔から暗部をやっているのだが、それでもここまでハードな毎日を送
ったのは初めてであった。

「わざわざ室内で変化しとくのも疲れるしなぁ」
「誰か適当なのひっぱってくっか?」
「それもいいなぁ。いいのいるかシシ?」
「まぁ俺らの姿見てめんどくせぇ反応しなきゃ誰でもいい」
「おーさんせーい」

二人は疲れたからだに鞭をうち、木の葉の里へとようやくたどり着いた。
だがしかし、彼らはそこで最後の力を振り絞らなきゃいけない事態に遭遇してしまったの
だ。
頼むから・・・頼むから・・・・


俺らの貴重な睡眠時間を削らないでくれーーーーーーー!!


なんだかかなり哀れな二人であった。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「サクラ?」
「しっイノ。どうやら勘違いだったみたい。」

むしろヤバ気だから気配消してここに潜んでっっ
そう言われ、良くわからぬまま草むらにしゃがみ込み気配を出来る限り絶つ。
なんなのよ?
首をかしげて見せればサクラはそっと指先だけで上を指し示した。

「うそでしょー」

空で戦う人影
空と言っても木の上を飛び交っているというのが正確なところなのだが、滞空時間が長い
せいでまるで浮かんでいるみたいである。敵を土台にグッと跳びクナイを振るう。
どうやら2対多数らしい。早すぎて数え切れないが多数のほうは、多分、おそらく10人
以上はいると思われる。どちらが木の葉の忍びかは判断つかないが恐らくこの戦況からい
って2人組の忍びが圧勝であろうことは解った。

いままで気づかなかったのが不思議なのだが、結構地面から遠い上に、凄腕ばかりなのだ
ろう、木の枝に足を付いても枝が揺れたり草が激しく動いたりしない。たまに小さな金属
音が耳に届く・・・ような〜?ぐらいなのだ。とてもあの人数が闘っているようには見え
ない。

「うかつだったわ。まさか戦闘中の音だったなんて」

顔をしかめ聞き取れないくらいに小さな声で呟くサクラ。
「あんた一体何と間違えたのよ」

同じように潜めた声でそう聞けば
「ここの森でたまに夜中に修行してるって言ってたからいっぺん覗いてみようと思ってた
のよ」
あーはいはい。ナルトね。あんたがそんなホコホコ顔見せんのなんてあの子の事ぐらいだ
もんね。
ふぅとため息をつきもう一度空を仰げば激しい戦闘中の忍びの数は着実に減っていってる
ようだった。

「すごすぎ・・・」

予想通り勝利を手に入れた二人組は高い木の上でなにやら短く会話を交わしている様子。
そのままさっさと去ってくれればいいのだが、もしあの二人が他国の忍びなら自分達の命
の危機である。まぁその際は抵抗するだけ無駄な事は十分に理解してしまったので諦める
しかないのだろうが。

「「あ」」
と、グラリと体が揺れたかと思えば片割れが勢いよく降ってきた。ドスッと鈍い音が辺り
に響く。

「落ちた」
「落ちたわね」

華麗に着地するのだろうと思った二人の期待をみごとに裏切り、ソレは頭から地面に突き
刺さるように落ちた。
これは凄い。あんな激しい戦いを勝ち抜いた上で落下。
なんだかあまりに可笑し気な展開にサクラと二人であんぐり口をあけてしまった。
もちろんあんぐりしていたのはあたし達だけではない。上に残ったもう一人もそうみたい
だった。

「マジかよ。おい」

慌てて追って来たかたわれ。傍らに座り息をしていることを確認するとホッと胸を撫で下
ろした。こんな事で命を落としたら笑い話にもなりやしないだろう。

「いきなし事切れんじゃねぇよ焦っただろ」

ゴンっと軽く頭を小突く。いくら疲労ピークとはいえ家まで持ってくれよ。なんて情けな
い呟きとともに。

「ったく・・・くそっチャクラ足んねぇ」

何かの・・たぶん医療用のチャクラを練り上げようとして舌打ちを繰り出すのが見えた。
そしてなんとその人物はチラリと草むらに潜んでいるこちらの方を振り返った。
バレたかっと思って跳ね上がった心臓をグッと押さえる。そいつはすぐに顔を戻したが激
しい動悸はなかなか納まらない。心臓止まるかと思ったわよーーーーー!!

「ま、いっか」

青年はこちらの驚きに気づくでもなく、小さく首を傾げ逡巡したのちそんなあっけらかん
とした言葉を零し見慣れた印を組始めた。
なんか・・なんだか・・それすっごぉぉぉぉく見覚えがあるっていうかぁ。習ったことが
あるっていうかぁ、使ったことがあるっていうかぁ・・・。
まさか・・まさか・・・。
煙幕とともに青年の体が縮む。


やっぱりぃぃぃぃぃ。


予想通り変化の術を解くときの印だったのだ。
チャクラの消費を押さえる為に変化の術を解いたのはわかったが・・・現実を受け止める
のは難解だった。
その体の大きさは明らかに自分達と同じくらい・・・ようするに子供だったのだ。

そんなバカな、と思う。先程の動きを思い出せばかなりの手だれであることは疑いようが
ない。てっきり暗部だと思っていたのだが。
ちょっとぉ子供の暗部なんているのー!?

横を見ればやっぱりあたし同様サクラが驚愕で言葉をなくしていた。
その子供は、小さく小さく囁くような大きさで術を唱え、目に写し取るのさえ困難な早さ
で印を組んだ。最後にグッと倒れた相方の胸に手を押し付けるとそこら一体が淡く暖かな
光に満たされるのが見て取れた。

す、すごいっ

チャクラがフワリと倒れた青年の全身に広がるのがわかった。
初めてみる。これが医療忍術。最近数が減ってきているという貴重な医療忍術の使い手な
のかこの子供は。

子供は満足気に頷くと片割れをよっこらしょと肩に担ぎ上げた・・が、相方がでかすぎて
(少年が小さすぎるともいうが)足を引きずる。背負ってみる、がやっぱり引きずる。だ
いぶ考えた末によっこらしょっとその小さく細い両腕に抱えてみた。いわゆる――お姫様
だっこ―――で。
ちょっと勢いが付いたせいだろう。その瞬間被っていたフードから金いろが零れ出した。

(ま・・・まさかっ)

2度目のまさかである。あきらかに先ほどより襲撃はデカイが。
左に顔をやればサクラがこちらを見ながらパクパク金魚のように口を動かし、少年を指差
していた。
うん。いいたいことは分かるから。っていうかあたしも今混乱中だから。
きっと彼は最初からあたし達の存在に気づいていたのだろう。焦るでもなく唇を開いた。

「サクラちゃん、イノ。聞きたいこと沢山あるだろうけど今は余裕ないから後で、な」


隠れているはずの自分達へチラリと振り返りニっと笑ってみせたのは

「「な・・・ると」」
そう、さっき話題に上った期待の未来の火影さまだったのだ

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「今日はちょっと勘弁って感じだから3日後、興味があるなら火影宅まで来てくれ」

そう言われた言葉に従い、二人は火影邸にやってきた。正確には火影様が使用する執務室
へ。
ってかこのままおめおめと『あれは夢だったのよねーーー』なんて忘れたフリなんて出来
ると思う?あたしたちには無理ね、ぜったいに。
思えばこのときに好奇心を抑えておけばよかったのだろうが。そんな事このときのあたし
たちが知る由もなく。大人しぃくナルトの罠にはまり込んでしまった。



訳が分からないまま二人は火影宅へやってきたのだが、さすがにナルトの名前を出しては
いけないことくらい分かった。だからこそどうやって来訪を伝えればいいのだろうとおど
おどしていたのだが、幸いなことにそんなドキドキはほんの数分で打ち切られた。


「あ、もしかしてあなた達が春野サクラさんと山中イノさんかな?」
優しそうなお姉さん風の女性に尋ねられコクコク頷いた二人に彼女はニッコリ微笑むと手
招きした。

「二人が来たらこちらに通すようにって頼まれていたの。」
「もしかして待っていらしたんですか?」
「ううん。ここの警備が仕事なのよ。ついでに訪問者の相手とかね。でも忍びの数がやっ
ぱり足りないから、しばらくは警備も廃止するかもってナナ様が言ってらっしゃったけど
。もしかすると訪問者の相手はあなた達に押し付けられちゃうかもしれないわね」

あはははと朗らかに笑われ、思わず二人も一緒に笑ってみたが、言葉の意味をよく理解し
ていなかった。

「ここよ。じゃあたしは持ち場に戻るけど帰るときに一言お願いね」
「あ、はい。ありがとうございました」
「ありがとうございました」

手を振られ、慌てて頭を下げた二人は扉の前で顔を見合わせた。
でっかい扉である。
装飾が凝っていて、素直に高そうだなぁと思えるそれはなんとなく触るのすら気後れして
しまう。
せめてあのお姉さんがこの扉の中まで案内してくれれば・・・・。
そんな甘いことを考えつつ、二人は一緒に扉に手をかけ、ぐっと奥へと開いた。

室内はどうやら仕事場らしい雰囲気が漂っていた。とは言うものの、この部屋にいるのは
ちょっと奥まった所にある機能を重視したであろう質素なデスクに座る2人の青年だけ。
扉の真正面にある火影様用の豪奢な机は無人である。
片方はナルトが変化した青年で、片方はこの間高いところから落ちて死に掛けた相方だろ
う。

ナルトは一心不乱に書類に判を押し続け、相方は手元の書類を目にも留まらぬ速さでいく
つかの山に分けていた。
ちゃんと目を通しているのだろうか?
そんな疑問を持ちつつ二人は邪魔するのも憚れ、なんとなく扉をパタリと閉め立ち尽くし
た。

「あー悪い。ちょっとそこのソファでくつろいでてくれ」

死に掛けのほうが先に気づいて顔をあげずにそう言った。
結構失礼な態度なのだが、反応があったことにホッとした二人はとりあえずソファにちょ
こんと座りヒソヒソ話を始めた。

「ねぇあれナルトよね?」
「そのはずなんだけど・・・なんで変化してるわけ?それにもう一人は誰なのよ」
「あたしに聞かないでよ。あ、でももしかしてあっちの人もナルトみたいに変化してるの
かしら?だったらまさかまさかあたし達の同期だったりーーーなんて」
「シカマル君とか?」

「・・・・・・・なんでそこでシカマルがでてくるのよ」
「だってナルトと一番仲良いのってシカマル君じゃない」
「あんたどーもシカマルを買いかぶりすぎてる気がするわよ。そりゃこの間の試験でだい
ぶ凄かったかもしれないけど・・・・・・・・・・・って・・・んん?」

「やっぱり思い当たることがある?」
「っていうか、さっきの顔あげないで用件告げるとこなんてシカマルの生き別れの双子か
!?って感じね。それだけじゃ確証にはならないけどさ。あ、ちなみにシカマルに兄弟な
んて居ないわよ。いたらおばさん面白がって絶対教えてくれるはずだもん」

「シカマル君の兄弟ねぇ。見てみたいような見てみたくないような・・。ま、それだけじ
ゃ確信はつけないわね。でも・・怪しいわやっぱり」


同じ顔で『めんどくせぇ』とか呟かれたら笑えそうだ。でも兄弟は居ないというのだから
本人である確率は高くなる。ナルトがあれなのだ。シカマルがそれ(あれそれ呼ばわり(笑)
)でもおかしくないという訳の解らない基準が出来てしまっているせいもあるのだろうが。

「そーねぇー」
ジィィと正体不明の青年の姿を監視・・もとい見つめ続ける二人の耳にトントンと扉をノ
ックする音が聞こえてきた。


「悪いサクラちゃんイノ。用件きいといて」
「あ」
「うん」

青年の口から少し低めの声が漏れでる。でもナルトらしいイントネーションはそのままで
、ちょっと安心する。

「「はい御用ですか?」」
「木の葉商店街の代表のものだが、火影様代理はいらっしゃるかな」

厳つい顔をした禿げかけた頭のおっさんが横柄な態度で無理矢理室内に入り込もうとする
のを二人は鉄壁の笑顔で止め、イノがナルトの傍まで動いた。

「火影様代理っていらっしゃるの?」

「あぁ、悪いけど今むり。夕方頃もう一度きてくれって伝えてくんねー」
「りょうかい」

よく分からないまま頷き、その言葉を伝えれば文句をつけるかと思えたその親父はおとな
しく頭を下げ退散していった。
それにホッと胸をなでおろし、二人はまたソファへと戻る。

「ねーいつのまに代理なんて出来たの?」
「知らないわよ。っていうか今不在なのかしら。夕方に戻ってくるのかもしれないわよね」

そんな会話に背後の席で二人の青年が顔を見合わせ小さく笑みを作っているのをサクラも
イノも気が付かない。
その後同じようなことが何度か起こり、対応になんだか慣れてきた二人。

トントンとノックが聞こえれば自然と体が動いてしまう。
「はい」
「御用でしょうか」
「代理はいらっしゃいますか?これなんですけどねぇ」
「失礼ですがお名前とご用件をお願いできますか?」
「あ、はいはい。」

などという会話もお手の物。
女性ならではの柔らかな対応に背後で見守っていた二人も思わず感心してまったものだ。





「さて、と。」
「あー終わった終わった」
二人の手が止まったのはそれからやく30分後。30分の間に来訪者は23名。見事なペ
ースだった。

「二人ともありがとな。」
「まじで助かったぜ。あいつらひっきりなしにくるからよ」
「それはいいけど・・・ナルト・・よね?」
「やだなぁサクラちゃんこの間みただろ?」
「見たけどなんか、なんていうか色々違うし」

顔も違うし、チャクラも違うし、言葉遣いも違うし、なんだか不思議な感じなのだ。

「うん。ま、それはおいおい慣れてもらうとして」
「とりあえず飯くいにいかねぇか?俺ら昼飯まだなんだよな」

現時刻は3時。世間ではお昼ご飯ではなくオヤツの時刻である。
「えっ」
「ちょっとそれなら早くいいなさいよっ。何か買ってきてあげたのに」
サクラとイノの驚愕の表情に手を振りながら
「や、昼ごはんなんて基本的に食べる時間ないからさ。今日はどっちかってーと特別。」

「だな。お前らが来ると思ってたからその時間分余裕をつくったからな。」
「話はご飯食べながらになっちゃうけどいいか?」

二人の青年は交互に彼らの忙しさを語っていく。本人達はその異常な生活をなんとも思っ
てないようだが・・。
「じゃ、念のため。」
サラリと紙にペンを走らせ、とてもナルトの字とは思えない整った字で不在を告げる。
最後に示したのはナナとシシというサクラ達の見知らぬ名前だった。




「あーー久しぶりかも昼間に外出るのって」
「かもな。最近かんづめだったからなー」

二人はあくまで変化した姿のまま里内を歩いていた。たまに呼び止められては談笑したり
するからなかなか前へと進まない。

「ねぇなんでそのままなの」
「あ?ああ、いろいろあるんだよ。ちなみに俺はナナ。こっちはシシって呼んでくれる?」
ナルトの言葉に少女達は戸惑いながら頷く

「ナ・・・ナナとシシって、えーっと凄いの?」
「凄いっていうのはどんなんだイノ?」
「だってさっき様づけで呼ばれてたから」
「あー最近多いな」
「まぁ仕方ねぇな。」

苦笑を見せ、別に凄くなんてねーよ。とサラリと返された。きっと本人達はそう思ってい
るのだろう。

「ね、ちなみにシシは誰なの?それ変化よねっ」
「あー。まぁご想像にお任せってだめか、ナナ?」
「却下。さっきヒソヒソ話してたろ。あれ正解。っつかこいつに兄弟いたら俺もぜってー
見てぇぇ」
「るせーぞ」

ってことは・・・やっぱりシカマルなのね・・・。なんとなく予想はしていたけど、よも
やよもやの話である。 

「・・・・そういえばあんたこの間すっっっごく情けない死に方しそうになってたわね」
「・・・・頼むから忘れてくれイノ」
「しかもナ・・ナナにお姫様だっこされてたのまで見ちゃったわよ」
「サクラまで。っつーかナナっなんで背負わねぇんだっ」
「仕方ねぇだろ。あの時変化といちまったから背負うと引きずるんだよ。抱っこのほうが
楽だろ」


腕力があるからこその言葉である。
ちなみにあんな状況下にありながらシカマルが変化を解かなかったのは単純に解けなかっ
ただけである。最近作成中の変化用のクスリをお試しに飲んでいたのだ。←チャクラが限
界にきてたから変化分を節約しようとしたらしい。

結果はといえば、使えるのは確かだが、副作用として眠気がくるのが判明したため、あま
り使わないようにしようと心に決めたシシであった。

「ってことはあれ眠くて落ちたわけー?」
ホントに情けないわねぇ。
「あーーだからいいたくなかったんだよっ。」

舌打ちをする姿は見た目は違ってもやっぱり幼馴染と同じ仕草で、イノは嬉しそうに微笑
を浮かべた。

「それにしてもねぇ二人がまさかこんな・・・・だなんて」
「どれから驚けばいいやらって感じでもーーーっっ1から説明してもらうわよっっ」


二人の言葉に楽しそうに笑うとナルトとシカマルは妙に洒落た高級和食料理屋へと足を踏
み入れた。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「だいぶ昔から火影様つきの暗部やってて、3代目が亡くなる前に火影印預かってて、遺
書を開いてみれば『後はナルトとシカマルに頼む』とかふざけたこと書かれてて、そんで
仕方なくただいま二人で火影代行中ぅぅぅぅ?」


「簡潔な説明をありがとうサクラちゃん」
「ついでに今、俺は親父と山篭りで修行中って事になってっし、ナルトは綱手探しに自来
也と旅にでてることになってっから。木の葉にはいないことになってんだ。」

ついでに言えば綱手探しはただいま自来也単独で行っており、シカマル父は妻と二人で長
期の任務に出ているらしい。
だから俺らの話はすんなよ。とのシカマルのお言葉にようやくイノとサクラは納得した。
そのせいで里内で変化を解けなかったのか〜と。

ちなみに彼らは個室にいた。
さすが立派な料亭である。しかもナルトとシカマルが(変化した姿とはいえ)顔パスだっ
たことにビックリした。何をいうまでもなく一番奥にある綺麗な部屋へ通された。軽食が
運ばれ扉をパタリと閉じられた瞬間二人は元の姿を現した。
こちらのほうが見慣れている筈なのに不思議な感じがするのは何故だろうか。

「でも二人が火影代行・・ねぇ」
「なんか想像を絶するわよねサクラ」
「そーよねぇ。暗部ってだけで理解の範疇軽々高飛びしちゃったから今ならなんでもこい
って気もするけど」
「あはは。それもそうかも。今なら頭マヒしてるもんね。何言われてもオッケーって感じ
〜」
「っつーかよ火影代行業はそらーもー見事な強制だったんだぜ。いくら拒否しようがご意
見番であるホムラとコハルが無理矢理押し付けやがったからな」

ったくめんどくせぇったらありゃしねぇ。
深い深いため息をつきシカマルが語る。

「でもこれで様付けの謎も解けたわ。二人が火影代行様だから様付けされてたのも当然っ
てことよね」
「いや、当然じゃねーけど。いくらやめろっつっても変わらなかったからほっぽってるだ
け」
「俺は様付けされるくらいならめんどくせぇ仕事を少しでも手伝ってもらいてぇ」
「だよな。だけど俺らのこと知らない奴らに万が一バレでもしたら、ほら。内乱がおきか
ねないし。下手に近くに置けなくってさ」

とナルトが肩をすくめなんだか深刻な話をサラリと述べる。それに同じように肩をすくめ
確かにと同意するシカマル。
次の瞬間二人は顔を見合わせニッと笑いあうと、


「ま、そんなわけで」
「そうそんなわけで」


同時に言い放った。

「「おめでとう。キミタチに白羽の矢がたちました〜」」

あまりに唐突でイノとサクラは意味を把握しかねた。

「「・・・はいぃぃぃ?」」

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

・・・というわけで火影代理付きになってしまった二人(やっぱり強制)は毎夜毎夜ぐっ
たりした体で帰路をたどるはめに陥ってしまったのであった。
ほんの1週間前には考えられない生活である。


「サクラぁあたしね。前言撤回するわ」
「同じく。」


偉大な火影様が亡くなったというのに木の葉は平和に回り続けてるだぁぁぁ?
アホな事抜かしてんじゃないわよっ。
少数の犠牲の元なんとかどうにか動いてるっつーの!!


もし里中でそんな他愛無い会話を交わしている人間を見かけてしまったら二人は物凄い形
相で蹴り飛ばすかもしれない。
『ふざけんなぁぁぁぁ平和だぁっっ?もっぺん言ってみやがれぇぇぇぇ』
ってなもんだ。


木の葉の里が今日も平和に回り続けられるのは。中心に毅然と立つ2人の子供達の忍耐が
とっっっっても強いからに他ならない。そうこの何日かで確信を持ったサクラ、イノ。


「「カリスマとかどーでもいいから誰かさっさと5代目になってよーーーー」」


そんで早くこの睡眠が足りない日々と重い責任から開放して欲しい。切実である。

5代目候補である綱手が自来也に強制連行されて帰ってくるのはまだまだ先のこと。
それまで果たして4人の子供達が耐え切れるのか。
木の葉の命運はその4つの小さな肩にドッシリかかっているのであった。

おしまい