ある日いつもはお布団で眠ってるママがナルトの部屋にヒョッコリ顔を出しこう言った。
「なぁるちゃん。お出かけしーましょ♪」
いつもより元気そうな顔。初めて見たかもしれない外行きの服。
もちろんナルトの返事は決まっている
「行くってば〜♪」
初めての、お母さんと2人きりのお出かけにナルトはウキウキしていた。
「とーちゃは?」
「今お仕事中よ。拗ねちゃうからお父さんには内緒ね」
ふふっと唇に人差し指をあてた母にウンウンっとナルトは何度も頷いた。初めての母との内緒事に興奮でピンク色に染まった頬をつんと突かれ笑いあう。
「よぉしお父さんに見つかる前にそーっと帰りましょうね」
「そーっとだってば!」
「どこ行こう?なるちゃん欲しいものある?」
「んとねーなる長靴ほしーってば。さくらちゃんが水溜まりにバシャーってやってたのっ」
「あらあら。そういえば最近雨が多いものね。じゃぁなるちゃんの長靴を探しにおっきい靴屋さんまで行くわよー」
「わぁい♪おっきーくつやさん〜」
父と3人の時は母を気遣っていつも近場。
母と長く一緒に歩けることがナルトにはとっても嬉しかった。
「ママ今日げんきなの?」
「そーなのよ〜だからいっぱい歩こうね」
「うん♪」
お母さんと2人きりの初めてのお買い物。
初めてお母さんから買ってもらう長靴。
初めてのお母さん独り占め。
お母さんと繋いだ手の平をきゅうっとにぎりしめる。
「ん〜?」
首を傾げ自分を見る母ににこぉと笑えばにっこり微笑んでくれる。
嬉しくて嬉しくてたまらなくなってナルトはお母さんの細くて優しい腕にしがみついた。
「あのね、なるね」
「なぁに?」
「ママだぁいすき〜」
「やったぁ嬉し〜♪ママもなるちゃんがだぁいすきよ〜」
ラブ×2母子はほんにゃり笑いあいのんびり歩く。
ゴールの靴屋まで2人の足であと30分。
「かぁわぁい〜い〜」
なにこれっめちゃ可愛い!
ママはさっきから服屋の前から動かない。
「ママーなるの長靴ー」
「え?ええ覚えてるわよ。ねーなるちゃん合羽もほしくない?」
「かっぱ?」
ナルトの頭には皿をのせた生き物が…
『かっぱはキューリがこうぶつなのよ。襲われたらきゅーりを投げ付けるのよっ』←やっぱりなんだかビミョーな知識(笑)
と真剣な顔でサクラが言っていたのを思いだしたナルトは目うるうるさせた。
「な…なるキューリ持ってないからかっぱいらないっっっ」
「は?」
「かっぱはきゅーりがこうぶつってさくらちゃんが言ってたってばっっっだから投げつけたら逃げてくのっっ」
"こうぶつ"の意味を間違えているとしか思えない解釈である。
「んーと・・・なるちゃん。ママが言ってる合羽はね、こっちのことよ?」
先ほどからみていた黄色いビニール製のジャンパーみたいなものをヒラリと差し出して見せる。
「・・・かっぱ?」
「うん。これは雨合羽って言ってね、雨の日に服の上に着るの。ビニールだから濡れても大丈夫でしょ?」
「・・・・きゅーり?」
「きゅーりは関係ないわよ。その河童とは違うものよ」
「んと・・・」
「ね?長靴と一緒に雨の日これ来て水溜りにバシャーんってすれば服も汚れないわよ?」
「・・・・・ほ・・欲しいってば!!」
いまいち用途が分っていなかったナルトは具体例を出され目を輝かせた。
そう、サクラちゃんが水溜りに飛び込んだとき確かスカートに泥がハネていた。後でママに怒られちゃうと、帰り道しょんぽりしていたのだ。これを着れば・・・・
「決まりっ。やっぱりなるちゃんは黄色かなぁ。こっちとこっちどっちがいーい?」
母が見せたのはどちらも黄色。
片方はフードの部分がアヒルの顔。
片方は背中にでんっとアヒルが三羽。
「・・・・・・?」
「ママ的には〜このアヒルのお帽子被って欲しいかなぁ」
とフードを見えるように前へだす。
「なる、それほしーーってばっ」
滅多に無い母のお願いにナルトは力を込めていった。
いつも優しく見守ってくれる母が今日はとってもはしゃいでいる。いつもならこんな時父がこれって決め付けるのを母が『なるちゃんが決めるのよ。お父さんは黙ってて』と叱るのだ。
なのに今日は自分の意見が飛び出てくる。
期待を込めた視線にナルトが逆らえるはずが無い。ママが喜ぶ顔が見たかったのだ。
「きゃーーうれしー♪」
きゅーっと合羽を握りしめて飛び上がるママ。
思った以上の喜びっぷりにナルトは満足気に一緒に飛び跳ねた。
そんなこんなで靴屋さん。
「合羽はママが決めちゃったから長靴はナルちゃんが決めてね。なにがいーい?」
「う?」
さすが大きな靴屋だけに長靴の種類も豊富である。
いつもは父が5、6個持ってきた中から1つ選ぶくらいだから簡単だが。
視界いっぱいに広がる長靴。
「ママぁ・・・」
「なぁに?」
「いっぱいでわかんないってば」
「んんー。じゃまずは何色がいい?」
まぁ確かにこれだけあれば混乱してしまうだろうと納得した母はおおざっぱに狭めていくことにした。
「んと・・・ピンクと赤はいらない。女の子の色だもん。」
「そうねー。なるちゃん男の子だもんね。じゃあ後は?」
「・・・・・黒もいらなーい。さすけが履いてたもん」
むかつくーーーー。とナルトのクラスのよく喧嘩する男の子の名前。
聞けばむこうから絡んでくるらしい。
大人たちはよぉーーく分っている。「好きな子をいじめてしまう意地っ張りな男の子気持ちを」
(なるちゃん可愛いから仕方ないわよねぇ)
ほぅ・・と頬に手を当て自慢してみる。
「あとはー?なるちゃん何色がすき?」
「青〜。とーちゃとママのお目々の色〜」
「まぁ♪ナルちゃんも同じ色でお揃いだものね。じゃあ青い長靴にする?」
「うー。」
青、とひと言に言っても種類はまだまだある。
色合いが違ったり形が違ったり。
「それか合羽と一緒の色にしてもいいし」
「一緒?」
「うん。ナルちゃん髪の色も金色だからぜーんぶ黄色っぽくなって面白いかも」
ふいに想像してみれば確かにその通り。
「なる・・まっ黄っ黄ーー。」
うん。間違ってはいない。
何が楽しいのかまっ黄色の自分がツボに嵌まったらしくナルトはいそいそと黄色い長靴を目の前に並べ始めた。
「えーっとえーっと。これもアヒルさんにするってば」
とアヒルの絵が描いていない長靴を棚に戻す。
残りはあと7つ。
「うーーーーーーん」
顎に手を当て考えるポーズ。
「そうねぇ。後は履いてみて一番履き心地がいいものにしてみたら?」
「そっかー」
的確な提案にナルトは寄せていた眉間を戻し、パッと笑顔を見せた。
「んしょ。んしょ」
一生懸命長靴を履く我が子は可愛い。これ以上ないぐらい可愛い。
しかも親の欲目・・・だけでは無いのは周りをみればわかる。
お客を初め、店員までもが手を止め暖かく見守っているのだ。
「はけたぁ」
「よくできました♪どーお?」
「んーと。がぽがぽするー」
「ちょっと大きいのかしら?」
いそいそとワンサイズ小さめの長靴を取り出す母の背はウキウキしている。
こんな時いつもなら父が動くのだ。←ママは大人しくしていなさいっと叱られる
なかなかナルトの為に何か出来ない自分が悔しくもあったのでこんな些細なことでも嬉しい。
「はい。」
「ありがとぅ〜」
そんなこんなでお買い物終了。
ママが長靴をもって、ナルトが合羽を持って。
手を繋いで岐路をたどる。
「またお父さんに内緒で出かけちゃいましょーね♪」
「うんっ♪」
後日お父さんにお出かけのことがバレて盛大に拗ねられるのを能天気な2人は知らない。
おしまい
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