幼稚園へ行こう!!



「聞いて聞いて〜」

任務完了の書類を提出していたら腕に可愛いわが子を抱きかかえた歩く迷惑男が近づいてきた。
ちょうど長期の任務が終わり、
久しぶりに里に戻ってきたはたけカカシ(暗部)はチラリとうっとおしげに
昔の担任を見ると眉をかるく持ち上げた

こんな声を出すときの担任ははた迷惑なことしか言い出さないのを長年の被害者であるカカシはよぉぉぉぉく知っていた。


「おかえりーーかぁしーー♪」
可愛い歓迎に疲れが吹き飛ぶようだ
「お帰りぃカカシくーん♪」
こちらの声はげんなりするけど

「ただいまナルト。良い子にしてたか?」
「うんっ♪ちゃんとひとりで歯もみがいたしパジャマも一人できがえたってばーーー」
「よしよしよく出来ました」
ポンと頭をなでてからハタと気づく

「・・・てば?」
なんだそのヘンテコな言葉は
戸惑うカカシに気づいたのか先生は指を立てて説明してくださった

「あのねーなんか最近『〜ってばよー』とか『〜だってばーー』っていうのが流行っててね。」
今年の流行語大賞はこれで決まりだね
とかうんうん頷く担任は無視して、
「この言葉が癖になったらどうするんですかっ」
教育係(勝手に自分で決めた)としては黙っちゃいられない
「ええー可愛いじゃない?だいじょーぶっそのうち廃れるからサ」
「幼少期の言葉は残るものですよ。後で困るのはナルトなんですからね」
「こまる?なる困るってば?」
コクリと首を傾げてそんなことを尋ねられたらこの親ばかーズの二人がタダで済むわけがない


かっっっわいーーーーーーーい

「もっとしゃべってみてごらんナルト」
上ずった声でカカシが言えばさらに首をかしげながら舌ッたらずの言葉を吐き出した
「えーなにいえばいいってばー?んとねーあっきのーとーちゃとお花屋さんでまーがれっと買ったってばよっ
きーろくてすっごくキレイだってばっっあとでかぁしにもみせてあげるねっ。あとねーうーんうーん思い出せないってばーー」

一昨日なにしたとか
今日の朝ごはんがなんだったとか
とっさに思いつかないナルトはプクゥと頬を膨らませかわいらしく文句を言い募る

それに嵐にさらわれそうなほど翻弄された二人は

「先生」
「カカシ君」

以心伝心で向かい合う

「このままで」
「うん、いいよね」

大人二人の一致によりナルトの言葉問題はここに終結した(のか?)
なにやらほのぼのとした空気がめずらしく大人二人を包む

「と言うことで・・・・・すみませんが今日は疲れているのでお話のほうはまた後ほど−−−−−−」
「まぁったぁぁぁ!明日も仕事じゃなーい。今しかないから今付き合ってネ♪」
この隙にと上手く逃げ出そうとしたが見事襟首を引っつかまれた

明日も仕事と知っているのなら今くらい休ませてくれ

可愛い元生徒の体調管理なんて気にもしていないのだろう
っていうかそれどころじゃないのかもしれない。
なにせこの男愛するわが子のためになら三日三晩どころか一ヶ月だって寝ずに祈祷だってしちゃえる男
いやナルトの為ならそのくらい俺もするけど

「で?ナルトになにかあったんですか?」
とりあえずサクサク進めようとズバリ核心に触れる

どうせ何を言っても聞きゃしないのだからさっさと聞いてしまうのがいいだろう
面倒ごとじゃなきゃいいけど
そう思いながらもナルトのこととなればこの重いからだを引きずってでも走り出すことを自分で解っていた。
ああ、もうラブラブだねこりゃ


「やぁさすが僕のこと良くわかってるねー
よっ最年少暗部っ今一番人気者の暗部っさらにはこの里で一番恐れられちゃってる最強の暗部ーーっっ」
持ち上げているのか貶されているのかわからない
というかこの男に誉められたところで皮肉にしかとれないのは何故だろうか

「こんな公衆の面前で暗部暗部と連呼しないでくれませんか」
「いやぁごめんごめん。さっすが僕の生徒っとか思ったら嬉しくて嬉しくて」
先生泣いちゃうっ
と男泣きしだすこの人をホントにどうにかして欲しい

「とーちゃっ泣いちゃメッなの。」
「うんうん。ナル君。そうだよね。男のこは泣いちゃダメだもんねっ」
だれが男の「子」だ
そこの親父っ

額に青筋を作りながら

「・・・・でっっっ!!?」
「え?なにが『で』なの?」
「聞いてるのはこちらです・・ナルトになにがあったんですか?」
「ああその事かー」

ポオンとナルトを抱えたまま手のひらをうつ男が憎い
この一週間ほぼ徹夜で、たった数時間前に任務を終えたばかりのこのカラダはとってもとっても
睡眠を欲している。
里に帰ってきた瞬間から張り詰めていた神経がふにゃふにゃになって
今にも膝がカクリといってしまいそうなのだ。
なのになのに。
引き止めた挙句になかなか話を始めない
きっと昨日もぐっすり眠ったのであろうツヤツヤお肌のこの里の4代目火影というこの男をたった今抹殺してしまいたいくらいに憎いっっっ

グググとこぶしを握り締めたカカシに気づいたのか気づいていないのかライオンのたてがみの如き金色の髪の火影は朗らかに笑いながら話の主題をズバリといった。


実ににこやかに

「あのね。実はナル君を幼稚園に通わせようと思うんだっ♪」

爆弾発言を。





返事はコンマ一秒も間が無かった

「ダメです!!」

驚くほどキッパリはっきり速攻の否定に4代目火影、注連縄は目を丸くした

「えーー。なんでぇ」
唇をとがらせて不服そうな声をあげる


「そんなことしたら俺がナルトと遊ぶ時間が無くなるじゃないですか」
「望むところだね」
ふんっと言い放った注連縄にさっきの爆弾発言で一気に眠気の吹き飛んだカカシは気づいてしまった
(この親父っ俺とナルトの仲を引き裂こうというんだなっ)
そのとおりである

「最近ねーなる君がかかしーかかしーって煩いの。」

嫉妬である
それ以外の何ものでも無い。

「なんでか僕の奥さんがカカシ君が許可したらねっとか言うから一応聞いてみたけど・・・」
なんでカカシ君なんかの許可がいるのかわかんないよっ
対抗してみたら

『あら。だって最近カカシ君に面倒見てもらってばかりじゃない?あなたや私よりカカシ君のほうがナルトの面倒みてくれてるのよ』
だから当然でしょ?
笑顔で正論を吐かれてしまったのだ。

「当然ながらダメです」

何度言われてもこの意思は変わらないとばかりにガンと同じ言葉を繰り返すカカシ。
それに4代目は肩をすくめる。
(こんなに頑固なカカシ君って始めて見たかも)
他人のことはどうでもいい。
自分のことだってどうでもいい。

そんな少年が我が子と出会ってここまで変わるなんて感動の前に驚きが来てしまう。
こんな風に必死に言い募る姿を見ると、
(ああ、カカシ君もまだまだ子供なんだよね)
としみじみ感じてしまう。

お師匠様の不思議な笑みに何を感じたのかカカシは一言しか発しない口を閉じ、新たなる言葉をつむぎだした。


「ちなみに念のため聞いておきますがどちらの幼稚園ですか?」
「そりゃ当然木の葉幼稚園に決まってるじゃない」
ニッコリ邪気のない笑みを見てカカシの胸に殺意が芽生えた

「絶対却下します」
「ええーなんでーあそこならうちからも近いし、先生も良い人がそろってるしーお薦めって噂なんだよー」
「ええ、もちろん知ってますよ」
ナルトの面倒をみるようになってから幼稚園情報は調べた
この里で一番人気のある幼稚園である
だが

「あそこだけはダメですっ」
「訳はっ?」
「お忘れのようですね。あの幼稚園にはあの人がいます」

おどろどろしい表情でのたまったことば
さっぱり分からなかった火影様は可愛らしく小首を傾げたその数瞬後、
「あああああっっ」
ナルトを抱えていなかったらポォォンと額を叩いたかもしれない
「そうだった。うっかりしてたよー」
「わかってくれて嬉しいです」
「あそこには」

イルカ君がいるんだよー。

「いるかくん?」
「ふふ。ナル君は知らなくていい名前だよ」
父はひきつった顔で頷いた
「もしナル君があそこに通ったら・・・」
きょーねーいるかせんせーとあそんだのー いるかせんせーがそーいったってば
いるかせんせーだいすきー
今から想像できるイルカベタぼめラッシュ

子供好きするあのやさしいほほ笑みに穏やかな性格
別け隔てない先生という名に恥じない男気あるその人は、相手が暗部最強カカシであろうが、この里最高位の火影様であろうが間違いは間違いと容赦なく叱り付ける勇気ある人だった

「僕前に幼稚園見学行ったとき廊下走って説教された」
「俺は町中でうっかりお金もたずご飯たべてしまい」
「・・・まさか食い逃げしたの?」
「いえ手近な一般人にお金を借りようと」
「・・・かつあげ」
「借りようとしたんですっ」

カカシが一生懸命自己弁護

「でもねぇカカシ君が『お金貸して♪』なんて言ったらビビッて財布ごと渡しちゃうよ〜」
さすが元担任はよくわかっている。過去何度かそんなことがあった。もちろんありがたくいただいたカカシ
そしてまさしくその時その状況だった
「で、イルカさんに持ってた雑誌まるめてぶっ叩かれました」
「あはは当たり前じゃん」
「その後その場で正座して一時間お説教ですよ」
うんざりと言うより思いだすだけで恐ろしいのだろう両腕をだきしめ身震いした

言うことが正しいので反論はしにくい
っていうかまさか自分の頭を打っ叩く一般人がいるとは思わず茫然としている間に正座をさせられていたのだが


「イルカ君はねぇ」
特に力が強いわけでも忍術が格別にうまいわけでもない
だがその一本筋の入った生き方は清々しく暗部の中にも彼には適わないと言うものが密かに沢山いるくらいだ。
かくいう4代目火影もナンバー1暗部かかしもそれに同意見である
「まぁイルカ君だしね」
「ええ、イルカさんですし」
逆らうだけ無駄なのだ。そのかわり普段の彼はちゃんと敬意を持って二人に接する。
悪いことしなきゃ良いだけの話なのだ

「里からああいう人がいなくなったら終わりだと思うし」
「貴重な人材ですよね」
あの正義感ならガイとも張るだろう。カカシもため息

「ところで幼稚園の話ですけど」
「ああ、もういいよ。これ以上敵を増やすわけにはいかないもんね」
カカシから遠ざけようともくろんでいたが幼稚園の先生と言う最強のライバルのことは頭に入れてなかった

「ナル君は僕が遊んであげるよ」

「いえ俺が」
「いーや僕っ」



「とーちゃっナルようちえんいくってば」
「「えっ?」」
とうの本人のおことば
「なんでっ」
「友達つくるんだってば。」

キラキラした瞳で父が言い含めた(丸め込んだともいう)誘い文句を口にした。

ああ・・・作戦が今頃効果あっても全然嬉しくなぁぁぁぃ
お父さんは泣きたくなった。

「ナルト。幼稚園って言ってもいいとこばかりじゃないんだよ。例えばすっっごく意地悪な子供とかいてね、ナルトがなんにもして無いのにえいって叩いてくるかもしれないんだよっ」
カカシは一生懸命否定材料を口にして意思を変えようとした

「大丈夫だってばっなる強いのっ負けないっっ」

か・・・返り討ちにする気満々?

さすがこの人の息子・・

とか思ってしまったカカシを怒らないでやって欲しい。


「いっぱいいっぱいいーーーーーっぱい友達つくって遊ぶんだってばーー」

ほうっとうっとりした瞳で虚空を見る。
すでに心は幼稚園へと飛んでいるらしい。


「せぇぇんせぇぇぇぇぇ」
うらみますよーーー

隣で泣きながらすでに諦めているらしい男(ナルトのお願いを断れるはずが無い)をギンッとねめつけた。

「しくしく・・・しくしく・・・・ごめんねぇカカシ君」

相当なダメージだったのだろう。
めずらしく謝られた。




ナル君幼稚園に通うの巻です。
ちなみにナル君のお母さんは体が弱くて普段から伏せりがちな
女性の予定です。←超My設定(笑)
だからナル君はよくカカシに預けられているんですねー。
でもたぶんこの家族、母が一番強いと思います。