合同任務と言う名の手合わせ。

 下忍達は時たま、自らの技術を磨く為に合同手合わせを行う。
 一応里の為の行為。
 微々たる物ではあるが火影より報酬も出る。
 普段はある三班のみが合同手合わせをしていたのだが、今回はそこにもう一つ加
わった。





見せる真実・見せない真実





「はーはははは!!お前達、青春してるか!?」
「はい!僕はこれ以上無い位青春してます!!」
「……」
「頭いた〜い……」


 果てしなく濃い、ガイの班が。
 集合場所にて太陽を指差し、何故か号泣しているガイとリー。
 きっと何も無いのに感極まったのだろう。
 そんなテンションの二人を見、ネジとテンテンは頭を押さえていた。

 基本的に手合わせは一対一で行われる。
 しかし三班のみでは微妙に数が足りないのだ。
 よって、ネジ達が召集された。

 性格は色々と『アレ』だが、その技術は確かな物。
 その技術を吸収している彼らの力量も同様。



「よぉし!!それではこれから四班合同で戦う、勝利者には我が秘伝の服を贈呈しよ
う!!」
 その手にはリーが愛用している服が握られており、ナルトとリー以外の者は。


『勘弁してよ……』


 いかにも嫌そうな表情を浮かべていた。
 ガイに憧れ、心酔しているリーが呆れる筈は無い。
 むしろ「流石です、ガイ先生!」と嬉しそうに笑っている。
 ナルトの方は……既にその服を贈呈済みの為。

「はいはい、贈呈は勝手にして良いから。
 手合わせの相手決めするから、ナルトは俺の膝においでー」
 呆れつつも話を先に進めようとするカカシ、さり気無く自分の膝を軽く叩いてい
る。
「何馬鹿な発言しちゃってるんですか?先生。ナルトも素直に座ろうとしないの!」
 普通にカカシの元へと向かおうとしたナルトを呼び止め、サクラは怒りの表情を見
せた。
 まだまだ序の口の怒りだったが、過去何度も見ているカカシは声にならない声を上
げそうになる。

「一応こちらで手合わせする相手は決めたからね、最初は武器も術も無し。
 ただの体術のみ」
 カカシとガイをほっとき、紅が皆に指示を出す。
 ただの体術とは言え、極めれば恐ろしい程の力となる。
 最後の言葉はリーへと向けられた言葉だった。

 本気でやるな。

 そう告げているのだ。
「はい!分かりました!!」
 まるで軍人の様な敬礼をしつつ、リーは返事を返す。
「やるからには全力で戦いましょう!!サスケ君!!」




 最も、理解はしていなかったが。



 各々は告げられた相手と組み、少し離れた場所で構え出した。

 ネジの相手はナルトだった。
「ふん。あの時は負けたが……今回もそうだと思うなよ?」
 日向家特有の構え方をし、目の前のナルトへと言葉をかける。
 あの時とは違い、相手を見下す色は宿っていない。
 浮かべられた笑みを見、ナルトも笑う。
「へへ!!今度も負かしてやるってばよ!」
 術も武器も使用不可。
 それでも負けるつもりは無い。

 そして。






 勝つつもりも。







 妙な違和感を感じる。

 既に術や武器の使用は許されている、それなのに……自主的に使ってこない。
 前戦った時、彼は攻めに入ったら何処までも攻めて来た。
 守りに入ろうとはせず、何処までも……我武者羅に。

 それが今はどうしたと言うのか。


 ネジの攻撃がどの様に来るのかが分かっているのに、わざと攻撃を受ける。
 彼の眼でも捕える事の出来ない一閃が振り降ろされたかと思えば、その一撃は寸前
で止められた。
 一瞬の間により、ネジはスレスレながらも避ける事が出来た。


 これではまるで……上忍に指導されている様だ。
 指導だから自ら撃っては来ない。
 指導だから、ギリギリの所で攻撃を止める。

 そんな馬鹿な。


 自らの思った事をネジは頭を振り、意識の中より追い出した。

 あのナルトが俺に指導?
 馬鹿馬鹿しい。


 しかし、一度辿り着いた憶測を消す事は容易では無かった。

「くっ……ふざけるな!!!」


 怒りの声を上げるネジに、他の面々は手を止めた。
 皆の視線は二人へと注がれる。

「ふざけるって何だよ、俺ってばしんけ……」
「何処がだ!!俺をコケにして楽しいのか?!」

 ナルトがそんな事をする筈が無い。
 だが、そう思わなければこの違和感は説明する事が出来ないのだ。

 言葉を止める事が出来ず、ネジは瞳から力を抜く。


「……ネジ兄さん……」
 後方よりヒナタの声が聞こえるが、その声に答える余裕は無かった。
 睨み付けるように見ていたナルトの表情。

 それは……哀しげに歪んでいた。






 休憩をしよう。


 そう言ったのは何処の班の担当上忍だったか、ネジは覚えていない。
 持参して来た握り飯を口の中に押し込む様に食べつつ、苛立つ心を抑える事は出来
なかった。
 視線は少し離れた場所でチョウジとラーメンの素晴らしさについて語り合っている
ナルトへと。
 向ける視線はどうしても疑惑の眼差しに変わってしまう。

「何か変なのよねぇ……」
「変?」
 同様に弁当を食べるテンテンが呟く、既に食べ終えたリーはスクワットの最中。
 師であるガイも、ほぼ同様の行為を行っていた。
「うん、私の相手……ヒナタだったんだけどね?
 何か動きが変なのよ」
「っ!」
 テンテンが感じていた違和感、それはネジと同じ物だった。
 まるで手加減をして居る様な動き。
「そうだった、んです、か?僕は、全然、気付きません、でしたが」
 スクワットの最中の為、リーの言葉は途中で切られる。
 彼の相手はサスケだったが、特に違和感を感じる事は無かったらしい。



「ごめんなさいね、ネジさん……テンテンさん」



 そこへ、声をかけてきたのはサクラだった。
 スクワットの動きを止め、リーは嬉しそうに微笑む。
 想い人の登場に胸躍らせる姿。
 少し前はキャラが濃すぎ、引いていたのだが……今は違う。
 サクラは仲間のみに見せる特別な笑顔を浮かべた。


「けど、分かって下さい……私達は貴方達を馬鹿にしてるわけじゃありません」
 その言葉に、ネジは思わず立ち上がる。
「それは一体どういう事だ?奴らが俺達に手加減しているのがか?」
「ちょっ……ちょっと、ネジ!」
 詰め寄るネジを止めようとするテンテン、そのテンテンを止めたのはサスケだっ
た。
 まるで二人の邪魔をするな、と言いたげな表情で。


「……ナルトの事を認めてくれている貴方達を、馬鹿になんてする筈が無いじゃない
ですか」
 リーは同じ様に努力するナルトに好意を抱いてくれている。
 テンテンの方は特に態度に示す事は無いのだが、それなりにナルトの事を気に入っ
ていた。


 だが……少し前だったら、ネジは里の者達よりも始末に終えない存在だった。


 人は生まれながらにして、運命を定められている。


 それならば、その身に獣を封じられ……孤独と憎悪に囲まれて育ったナルトは?

 そうなったのは運命で決められていたから?

 そんな筈は無いと足掻き、今の状態から抜け出そうと必死になっている彼。

 ただ認めて欲しい。
 一緒に居て欲しいと願う、無垢なる願い。



 その想いを戦いによって真正面からぶつけられ、ネジは彼を認めた。
 基本的な態度を改める事は無かったのだが、それでも彼はナルトの事を認めてくれ
た。
 その事実が何より嬉しかった。


「何故手加減をしたかだって?」
 黙っていたサスケが口を開く。
 腕を組み、口元を軽く上げる。

「決まっているだろう?俺達が下忍だからさ」



 それは言葉が足りず、真実には少しばかり遠かった。


 下忍。
 優秀な者ならば、既に中忍となる資格を持っている者も居る。
 だが、今はまだ弱いままで居なければならない。



 力とは尊敬にもなり、脅威ともなる。
 サスケやヒナタが力を持てば……それは人々から尊敬を得るだろう。

 しかし……力を持った存在が、ナルトだったら?


 一部の者達は共に喜び合ってくれるだろう、だが。



 それ以外の者達は、確実に畏怖を覚える。
 恐れはやがて憎悪と共に人々を焦らせ、牙をむく。

 今はまだ早い。


 真の力を知っていて良いのは、仲間だけ。
 今はそれで充分なのだ。

「それじゃあ、午後は私と手合わせお願いしますね」

 にこやかに微笑み、サクラはサスケと共にナルトの元へと歩いていった。

 残された三人は、言葉も無く……ただその後ろ姿を見つめるだけ。




「で?」
 前方を歩くサクラへ向け、サスケは問い掛ける。
 その一言で相手には通じると知っているから。

「勿論、午後からは色んな制限が無くなるし。
 幾ら認めてるとは言え……ナルトを悲しませたんだもの」

 サクラは自らの拳の骨を鳴らし、ニヤリと笑う。




 手加減なんざしてやらねぇ……
 四の五の言わず、本気でやってやる。



 今までは内に秘め、サスケには絶対に見せまいとしていた裏の顔。
 その表情をバーゲンセールの様にして振りまいている。
 普通の者ならばその姿に恐怖を抱くだろうが、仲間は違う。
 仲間にとって、サクラのその姿は慈愛に満ちた表情に映ると言っても過言ではない
のだから。
 だからこそ。



「程ほどにな?」


 骨を折る程度で止めておけ?



 仲間にしか分からない調子で答えてやった。


「月世界」の葉月さんより素敵小説ゲッチュ!
やっぱりここのナルト設定好きなんですよねぇ。
今回のリクエストは「ネジ班がナルトたちの強さに疑惑を持つ」でした。
またもやネジでリクエストしております。無意識です。
凄いぞネジっっ縁真の頭の片隅にお前の住処があるようだぞっっ

ちなみに今回も題名は縁真がつけております。小説の雰囲気を壊してたらごめんさーい。

縁真より