人間に生まれりゃ、そりゃ……色々と秘密はあるだろう?
 幼い子供だって、それなりに色々な経験を積めば秘密を持つ。
 今まで何でも外であった出来事を親へと報告していた、それがいきなり、または次
第に無くなる。
 そりゃあ、誰でも。

『あぁ……こうしてゆっくりではあるが親離れの、反抗期の下準備に入るんだな』

 そう思うもんだろう?

 あ?そりゃお前の所位だって言いたいのか?

 まぁ……それは否定しねぇ。
 でも、人には言えない・言いたくない事が存在する。
 それは間違いないだろう?


 なんせ、俺にだって言いたくない事がある。
 普段なら隠し事なんて面倒な事、しねぇ俺だが……こればっかりは仕方が無い。


 あぁ……一体何時から、俺はこんなに甘くなったんだか。

 思い出すのも『面倒くせぇ』


                   shadow
                   影






 いつもの定位置、木の上。
 時折木の根元に居る事もあるが、大抵似た様な位置に居る。
 よって、そこは彼の場所という事になるだろう。

「はぁぁぁ!!」
「火遁!豪火球の術!!」

 いつもの景色。
 変わらない光景。
 何も知らない者がその図を見れば、確実に一人の少年を囲んで術を使っていると思
うだろう。
 簡単に一言で言ってしまえば『リンチ』『虐め』……並べる言葉は多数ある。
 その少年が、里で大人達に疎まれている存在ならばそれも仕方が無いかもしれな
い。
 けれど、それらは全て的外れな言葉。


 実際に痛い目にあっているのは。



「あでっ!」
「くぅん……」
「くっ……」


 少年を囲んでいる者達。
 中央に立っている少年、ナルトには指一本触れる事は出来ていない。
 まるで見えない結界がそこに張り巡らされているかの様に。
 いや、もしかしたら……そうなのかもしれない。
 そうで無ければ、里でもかなりの実力を下忍の中では持っている彼らが遊ばれる理
由が見つからない。
 けれど、それが事実。
 事実は変えられない、だから真実なのだ。
 それが歪められる事、それ即ち偽り。
 真では無くなった事柄を見極めるのは難しい。

 だからこそ、世の中には真実と偽りが同時に点在するのだ。

 事実が偽りとされ、偽りが真実となる。

 それを正そうとする者は、大抵が嘘つき呼ばわりされ……後ろ指差される事が常。
 唱える者が死した後、偽りが暴かれる事も……同様。


「だから言っただろう、お前達の動きは素早いが……その分自分も振り回されている
のだ。
 自分の身体、自分の速度……
 それはお前達の思っている以上に身体に負担が掛かっている。
 今はまだ何とも無いが、そのまま戦い続ければ……何処かで壊れるぞ」
 瞳を閉じたまま、皆に先程の何が悪かったかを語りかける。
 それらは定位置で見ていた者が思っていた事と同じ場所の指摘。
「う〜ん……でもよぉ?一体どうすりゃ良いんだよ」
 思いっきり弾かれ、肋骨が痛むキバ。
 喋ればその表情に苦痛の色が滲み出る。

 瞳開かぬ尾、瞑はキバの問いかけにしばし考え。

「ふむ……そうだなぁ……シカマル」
 不意に、木の上で一同を見ていた者へと声をかけた。
 いきなりそこへ話題が移ると思っていなかった一同の視線は、瞬時にシカマルの元
へ。
 シカマルの方としても、あまりにも突然すぎる為。
「あ?」

 かなり不機嫌な声になってしまった。

 それを特に気にする事も無く、問い掛ける。

「お前は、一体どう思う?」

「へ?瞑さん?シカマルは修行にはちっとも参加しないでサボってるのよ?
 何も奴に聞く事は……」
 いのの言う通り、シカマルが修行に参加する事は数える程度。
 むしろ片手で終わってしまう位にしか無いのだ。
 最も、この空間に居る。
 それだけで充分と言えば、間違いでもない。
 彼も正真正銘、皆と同じ……仲間。
 その間に力の差はあれど、心の距離は身近。
 だからこそ、その言葉に遠慮は無かった。

「そうだなぁ……サスケは術の最中、前方への注意はしっかりやってるが……後方は
がら空き。隙だらけ。
 少し早く動ける野郎なら……簡単にそこに行くなぁ」
「っ」
 口を開き、言葉を紡ぐ。
 その言葉に皆は耳を傾ける。
 言ったのがここに居る者達以外ならば、怒りを覚えたかも知れない。
 けれど、サスケの心に負の感情が宿る事は無かった。
 むしろ心地良い。

「キバの回転技、先に腰辺りを強打しちまうと……一気にその威力が減る。
 その分赤丸の回転が速くなり……微妙に技のタイミングがずれちまう。
 今はまだ微々たる物だが、尾ぐれーの野郎と戦う時には命取りになるな」
「う……」
「くぅん〜」
 確かに、先程尾との修行中に攻撃が腰に命中した。
 その痛みが抜け切る前に技へと移行した。
 それが原因で、強打していない赤丸との拍子がずれてしまったのも……事実。

「いのの方は論外。
 はっきり言って、こいつの技は戦闘に使うより情報収集の技。
 一応戦闘に使う術もあるらしいけど、まだ使えねぇなら……そっちを覚える事を先
決にした方が良いだろうな」
「こんのぉ……言わせておけばぁぁあ!!」

 確かに、負の感情が宿る者は少なかった。
 だが。


 存在しないわけではなかった。


「そんな事、分かってるわ・よ!!」
 理解はしているのだが。だからこそ……他人の口から言われると余計に腹が立つ。
 それが他でもない。
 班員であり、いつもやる気が無い『あの』シカマルに言われた。
 いのは怒りを隠そうともせず、シカマルの居る木へと体当たりするかの様に向かっ
て行く。
「わわ!?」
 物凄い勢いで向かって来るいのに恐怖を抱き、シカマルは慌てて木の枝から飛び降
りた。
 そのまま大急ぎで、即効で、躊躇無く、走り出した。
 女に追われ、全力失踪。
 かなり格好は悪いが、特に格好良く見せる必要がこの空間では無い。
 元々無いのだが、この空間では格好つける方が間違っているのだから。


「こらぁぁぁ!!!まてぇぇぇぇぇ!!」

「あんな形相で『待て』って言われて、本当に待つ奴が居るかよ」

 そんな事を口の中で呟きながら、シカマルは疾走(失踪)した。







 シカマルは頭が良い。
 この世の理を、ほんの少しの情報から読み取る事が出来る程に。

 一を知り、十を知り……百を知る事が出来る。

 だからなのだろう。
 年齢に比べ、妙に落ち着き払っているのは。
 だからなのだろう。
 少しでも困難と言う名の『厄介事』に直面した時、たった一言で切り捨ててしまう
のは。
 だからなのだろう。


 困難で、厄介で、その上理不尽な状況でも……けして諦めない少年の真の強さを見
抜けたのは。


 彼は弱い。
 自らを蔑んでいるのでは無い。

 実際、彼は自らを強くする行為を行って来なかったから。

 自分にあるのは、一族に伝わる特殊な術。
 そして……生まれ落ちた頃より持ち合わせた人より早く回転する脳。

 この二つ。


 この二つで諦めを知らぬ少年の手助けをするには、どうしたら良いのか。
 他の者同様、腕っ節が強くなれば良いのか。

 否。


 それだけでは駄目だ。

 半歩後ろで、皆を見つめる眼。
 それが必要だ。
 実際に何かあってからでは遅すぎるのだ。

 岡目八目、昔の人間の言う通り。


 彼は、当事者であり第三者。
 彼は、主人公であり脇役。



 彼は影。


 けして前に出過ぎる真似はせず、皆のフォローに回る。
 サポートされている者は、それに気付く事無く。

 ただひたすら前に進めるよう。

 皆頭が回るようで、一度走り出すと停止するのが難しい暴走機関車ばかり。
 その下にレールがあろうが無かろうが……その速度を弱める事はしないのだ。


 だからこそ彼が周囲を確認し、その速度を速めてやる。
 機関車へと、力一杯走り続ける事の出来る燃料を注ぎながら。


 彼は何も言わない。
 だから誰も言えない。


 表面ではなく、それを根で分かってしまっているから。


「こらぁ〜!待てー!」
「そりゃ、無理な相談ってモンだ」


 走り続ける。

 彼らは走り続ける。

 その一歩を力一杯踏みしめて。


 そのすぐ後ろに、最強の影が存在している事を知っているから。

「月世界」の葉月さんより素敵小説ゲッチュ!
今回はシカマルでお願いしました。
いつも他の子供たちが修行に励んでいるときに1人のんびり木の上から
眺めるだけの彼の行動の理由。
これが知りたかったのです♪ありがとう葉月さんっっっっ
縁真より