16.池に映った


血に染まった自分が映っている。
暗いから赤いなんて分からない。
でも自分は知っている。
これは赤いのだ。


そっと手のひらを浸してみればジワリと黒い色が池の水面に広がっていった。

「うーん。自然破壊だな」

一応お気に入りの池だし、やめておこうかな・・・

呟き、手のひらの水をパッパッときる。

黒いものは珍しく顔にまで飛んでいた。

いつもなら返り血は浴びないよう気をつけている。
だが気をつけてどうにかなる問題でもないし、洗えば済むことなのでまぁいっかと思っている。

「しっかし今日はまた・・」

綺麗に頬にかかったものだ


ふ、と水面を見て思った。

へーこう見ると・・・・・・


「泣いてるみてーだな」


思っていた言葉が突然上から降ってきて反射的に見上げた。
自分が気づかない気配なんて一つしかない。
気づかないというより気づかなくてもいいと勝手に意識が判断を下してしまっている相手。


「ドク」
「よぅナナシ。お前勝手に抜けるから探しちまったじゃねーか」
「ああ、悪ぃ。目ン中に血が入ったから洗おうと思って」
「珍しいな」
「珍しいぞ」

頷きもう一度水面に視線を落とす。

頬に流れた一筋の血がまるで涙に見える。

だがしかし、泣き顔に見えたのはさっきまでの事。
今はとてもそうは見えない。



「ふぅん。」
「なんだよ?」
「いやー俺がいないと心細かったのか?」
「は?」
「だってさっきは泣きそうだったじゃねーか」
「バカ言ってんじゃねーよドク。誰が泣くかっての」
「ま、いーけど」

肩をすくめるとナナシのおでこをピンッと指ではじいて

「さっさと顔洗って来いよ」

背を向けて仲間がいるほうへと歩き出した。

「ちぇっ待っててくんねーのかよ」
特に痛いわけではないおでこを押さえ呟いたナナシは水面を覗き込んで空を仰いだ



「あちゃ。マジで泣きそうな顔してやがんの・・・」

悔しいがドクの言うとおりなのかもしれない。

「もーさっさと洗ってあいつんとこ戻ろーっと」

ぶつぶつと悔しいけれどそれが真実
池に映った自分の真実。


自然破壊?
なにそれ?
今は顔洗うのが優先じゃん?
そーそー。
こんな辛気臭い顔なんてさっさと洗ってドクんとこ戻ろうっ

さっき手を引いた水面にバシャッと頭ごと突っ込んだ。


WEB拍手用「100のお題」より