28.向こうから見たこっち
あんまり汚い手で触ると・・・・・・・コナンちゃんが汚れちゃうかもしれないじゃない
?
たまにそう、ひどく卑屈なことを吐いたりする俺の相棒。
それはよく夜の顔の時に発生する。
白い衣装を纏い、罪を一人でずっしり抱え込み、それでも全部をしまいこんで不敵
な顔で笑ってみせる。
そんな意地っ張りな怪盗の姿の時に。
「まてーーーKIDぉぉぉぉぉぉ」
毎度おなじみの中森警部の怒声。
それに
「きゃーーーー」
とKIDファンの熱い声援。
それらをバックに今日も優雅にお仕事終了。
気がつけば頬の筋肉が強張るくらいに微笑んでいたらしい。
いやぁちょっと今日はスマイルのサービスしすぎたかねぇ。
いくらタダとは言え後遺症として顔が筋肉痛にでもなったら笑えない。
もみもみと顔の筋肉をほぐす怪盗の姿はただ今とあるビルの屋上にあった。
「なにしてやがんだ?」
「んーもみほぐしてるの。」
「ああ。なるほど・・・ってお前せめて元にもどってからそういう事はしろよな」
なんか怪盗KIDのイメージが・・・。
「だって笑いすぎちゃってさー。ちょぉーーっと今引きつってるのよ」
「はいはい。怪盗のお仕事は本当に大変ですねぇ」
「えーんコナンちゃんの心のこもった労わりの言葉が欲しいよーー」
「ったく。どうでもいいけど確認したのかよ?」
「うん。さっき、コナンちゃんが来るちょっと前にね。」
その顔ではずれを確信してしまったのであろう子供は特に成果を聞くでもなくどう
でもよさげな声を一つあげた。
「ふうん。」
「寒いし帰ろっか」
マントをフワリと持ち上げた次の瞬間姿は変わる。
希代の怪盗からただの高校生へと。
鋭い雰囲気から暖かな太陽のような空気へ。
微笑から満面の笑みへ。
「なんだグライダーで送ってくれるんじゃなかったのか?」
「残念でしたー。このまま歩いて帰りまーす」
「ふぅん」
別にいいけどな。
そう呟きつつもコナンとしては非常に不服。
実は知ってる。
快斗が夜の姿の時にあまりコナンに触れないこと。
そして夜の仕事をしたすぐ後にも・・・・触れたりしない。
いつもなら無理矢理握りしめてくるはずの手のひらはポケットの中から出てくる気
配はない。
ったく意地っ張りで見栄っ張りで心配性なんだからなぁ。
向こうから見た俺がどれだけ「キレイ」に見えるかなんて知らない。
だが
「快斗。」
「んー?」
「俺にとっちゃ。俺なんかよりよっぽどお前のが綺麗なんだけどな。」
「は?」
いきなりの発言にキョトンした快斗の隙を突いて
「隙あり!」
「へ?」
快斗の右手をポケットから引きずりだし無理矢理小さな左手で握りしめる。
ふふん。俺様の手を振り払うなんてマネお前が出来るわけがねぇしな。
「こ・・・・コナンちゃぁぁぁん」
離してっねぇお願いだからっっっ
「ふん。お前ごときに俺様が汚染されるってそう言いたいのかお前?ああん?俺を
みくびってやがんのかぁぁ?」
「い・・いえ・・めっそうもございません・・が・・・」
「"が"とか"でも"は受け付ける気はねぇからな。答えは一つ。俺のしたいようにす
るっ。お前に拒否権はナシっっ文句は?」
「・・・・・・・ありませーん・・・・」
なんだかなぁ。
小さな手のひらのあまりの温かさに泣きたくなる。
小さな子供の暖かな気持ちにも。
解ってるよコナンちゃん。
コナンちゃんから見たこっちはさ、きっと輝いて見えるんだよね。
パンドラ捜して一直線の迷いないKIDを汚いなんて思えないんだよね。
でもねコナンちゃん。
罪は罪。
犯した罪は消えないし。
いくら取り繕ってもしょせん俺は犯罪者なんだよ?
この手は汚れまくっててね。
本当はコナンちゃんの傍にいる権利すら無い。
でも
「だからどうした?」
そういってくれる君がいるから。
俺は今日も明日への希望が持てるんだ。
向こうからなんてこっちの事は見えないかもしれないけど。
思うことは出来る。
想像することも。
考えてくれて、一番俺の負担にならない言葉をくれるコナンちゃんだから・・・・・。
「大好きだよコナンちゃん」
「はいはい」
「愛してるっっっ」
「はいはい」
「もう絶対離さないからねっっ」
「はいはい」
「あとねーー」
「はいはい」
「あのねー」
「はいはい」
「負けないからっっっっ」
「・・・・・・・・ああ」
沢山の思いを込めた言葉を汲み取って。
柔らかな笑みで頷いてくれる。
「信じてる」
「うんっっっ」
深い闇にも、暗い悲しみにも。
負けない。
信じてくれる人がいるから。
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