4.それだけは勘弁してください
「ド・・ク?」
ジリ、と後ずさる相棒にドクはニッコリ、いつもなら浮かべない笑顔を見せた。
「なぁんで逃げるのかなぁナナシくーん」
やはりニッコリ。
見ているこちらが怖いほどの笑顔に、傍で傍観していたアオは青ざめた。
なんなんだ?
ドクがナナシに迫っている。
・・・といえばなにやら艶めいたものを想像する人が多かろうが、目の前の現実は大いに違う。
正確に言えば、
ドクがナナシに(試験管片手に怪しい笑顔を浮かべて)迫っている・・・のである。
「ちょーっと体が頑丈なナナシ君にお願いがあるんだけどなぁ」
「え・・・遠慮しますっ」
「いやいや。そんな俺とお前の仲じゃねーか。なっ?」
ブンブン首を横に振るナナシにドクは笑みを深めた。
「こいつを飲んでくれればいいだけだからさ。なっ?」
ブンブン
「ド・・・ドク。それって何の液体?なんか毒々しいんだけど・・」
試験管に入った30mlにも満たない少量の液体は紫色をしていた。
更には灰色の煙を発生させていた。
ナナシじゃなくとも逃げるだろう。
恐る恐るのアオの問いかけに思わぬ返答があった。
「あ?ただの日焼け止め」
ひ・・?
あんた今なんと言いましたか?
「日焼け止めだって。だから塗るタイプじゃなくて飲むタイプにしてみたんだけどこれ試作品な。ラットで何度も実験したから人体に影響は無いと思うんだけど、一応心配だからこいつで試そうと思ってさ」
「俺を実験台にすんなーーー」
もっともなナナシの叫びにドクは朗らかに笑う。
「だってお前どこもかしかも頑丈だから安心だもんな。こないだ栄養剤と毒薬間違えて渡したときもケロリとしてたじゃねーか」
「ヴヴ・・・。そのとおりだけど」
「慌てて解毒剤渡しに行ったのに、むしろ元気になってたよな」
「ヴヴ・・だって栄養剤だと思ってたし・・・」
「病は気からってか。便利な体だよなー」
「便利以前に、栄養剤と毒薬を同じ棚に気軽に保存しておかないで欲しいと俺は思うのですが・・・・」
「だってどっちも開発中だったんだって」
「・・・・がーん。あれも試作品の実験台だったのか・・・」
「そ。さすがに毒薬は実験できないかと思ったんだけどーうーんお前なら平気?」
「まずいからヤだ」
「こんど豚骨味の毒薬作ってやるよ」
「・・・ラーメンもいれてくれる?」
「いれてやるいれてやる。」
「じゃ、いっか。」
よくないって。
聴いてたアオのほうが怯える。
間違えて渡すほど気軽に手に入るの毒って?
って言うか試作とか言ったけど毒とかそんな簡単に作っちゃえるの?
・・・とか
それ飲んで平気って頑丈とかですむ問題か?
とか、
まずくなかったら毒薬飲むのナナシ?
とか、
そんな頑丈な人間でテストしてもテストの意味があるのか・・・?
とかとか
なんかなんか・・色々ありすぎて・・
二人に対する突っ込みが溢れるが、なんと言うかこわくて突っ込めなかった。
「あ、アオも一緒に飲んでみるか?豚骨味の毒薬」
「珍しいから貴重だぞー。」
ナナシとドクから気軽に死への片道切符を渡されたアオは
ニッコリ微笑んで
「それだけは勘弁してください」
きっぱりはっきりと遠慮しておいた。
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