事件というものは毎日どこにでも起こっているものだ。だから
「やぁ最近事件が多いねぇ」
なんてのは当然の話。
「昨日もスーパーに強盗が入ったらしいわね」
「そーそー。一昨日はそこの公園で焼死体が発見されたっていうし物騒になったもんだ。」
なんて会話は日常的である。←そうか?

だがしかし


「最近事件多すぎねぇか?」
「だよねぇ昨日はスーパー行ったら強盗にバッタリ」
「一昨日は死体にバッタリ」
「そーそー焦げてたよねぇ」
これが日常会話とは誰も認めちゃくれまい。

彼らをよく知る警察陣以外は…




50.日常
〜事件続きの日〜


「いやぁよく捕まえてくれたね、お手柄だよ」
朗らかに褒められる。なんだか久しぶりの経験かもしれない。
「ここに名前と住所と電話番号をー」
「あーいいよ。連絡しなくて」
派出所にて、現在二人は窃盗犯を突き出し中だった。
どうやらスラれた瞬間にすりかえしたらしいが(そんなバカなっ←警察官心の叫び)

「見覚えあるなぁって思ったらこの人だった」
と至る所に貼付けてある指命手配の紙を子供が指差した。
「よく見てたねコナンちゃん」
「昨日本庁で高木さんとこの話してたから」
「あー俺が聴取受けてる間ね〜」
「なんか小さな家ばっか狙う小物だとかなんとか。でも一人、ご年配の方が衝撃のあまり倒れて未だ入院中だってさ」
「あ〜びっくりしちゃうよね確かに」
「お前の心臓分けてやれよ」

昨日だって銃口目の前にヘラヘラ笑っていたのだ。凄いを通り越して変だ。
「ムリですから。ってか人の事言えないじゃん」
コナンだって焼死体を発見した瞬間「あー焦げ過ぎ」とか呟きながら冷静に観察していたのだ。恐ろしいっっ。

「あ…あのでも一応連絡は…」

もちろんそんな二人の人間としてどうよ?的な行動は口に出されることがなかったが、それでも十分に脅威な存在である。
なんだか慣れた様子といい、本庁とか聴取とかサラリと会話に出てきたことといい、一体君達なにもんだーっっと内心突っ込みつつ青年と子供に恐る恐る話し掛けた。

「立て続けだったから行き飽きたし」
そういう問題ではないと思うのだが
「名前伝えればわかると思うんで。じゃ俺らは用事あるんで失礼します」
「バイバーイ」

「あっはっはっ彼ららしい」
連絡を受けて引き取りに行ったのはちょうど手が空いていた中森警部。正確にはキッドの暗号解読に煮詰まり散歩をしたい気分だった警部が自ら立候補したのだが。

「何なんですかあの2人はー」
なんだか泣き付かれたらしい。
「快斗君とコナン君…か。ああ本庁じゃ有名だからな。名前を言えばたいていだれでも知ってるだろうが。」
はは。あいつらまた巻き込まれたのか。

笑いながら窃盗犯を引き取る。

「まぁ相手が悪かったな」
ポンと犯人と警官の肩を叩くと、警部は

「犯罪のエキスパートだよあの2人は」

朗らかに余計わけがわからなくなる言葉を残していった。


さてその頃2人は


「飽きた…」
「さすがのコナンちゃんもとうとう飽きたのね」

事件大好き謎大好き。
そんな彼がボソリと呟いた一言は彼にしてはありえない言葉。

「あーあそこで大人しく連行されてりゃヨカッタ」
なんて犯罪から遠退こうなんて快斗にとってはありがたいセリフ。
明らかにこの連日立て続けに降り懸かる事件にうんざりしている様子。



「でもさ」
見過ごせないんだよね。コナンちゃんはさ。
もし連行されてても後でこの事件を知った時落ち込むに決まってるのだ。

『俺が行ってれば…』と。
もし負傷者や、下手して死者でもでてみろ。
(地の底まで落ち込むよねぇ)

だからこれでいいのだろう。
巻き込まれておきながらも達観している快斗は現状に不満はなかった。←いや一応あるけど

2人の用事とは、宝石展だった。
タダ券を昨日佐藤刑事から貰ったので勿体ないからきた…というのは建前で本音は快斗の下見に付き合ってあげていたコナン。

そんな親切心が仇になったのはほんの5分前。
まぁ、例によって例のごとくやってきたわけだ強盗が。ご丁寧に
「あれ…」
「う〜んKIDのつもりかなあ」
白いスーツ上下とシルクハットにマントという出で立ちで。

「ママーあれKID?」
側のお子様が興味津々に指差した物体。
確かにアレと呼びたくなる代物だった。

「シッ言っちゃだめよそんなこと」
「なんでー?」
子供の最もな疑問に母親はキッパリ答えた。

「KID様はもっとカッコイイわっっっ」


「わぉ、素敵だわ奥様っ」
なんだかカッコイイと呼ばれた筈の本物の反応は微妙だった。

犯人は3人。うち1人がKIDに扮装し2人は黒いスーツ。妙なとりあわせである。

人質とされている運が悪い人間は10名ちょっと。快斗、コナンペア。先程の母幼い娘。宝石でじゃらじゃら着飾ったような金持ち奥様が2人。
そして美術展の支配人。
+従業員。

「女子供ばっかだな」
犯人の呟きをきっちり拾い上げた快斗は
「俺も子供に数えられちゃった♪」
とチョッピリ嬉しそうに笑う。
まぁ一見ヒョロヒョロの(美)少年だ。子供に数えてなんら問題はなかろう。

「いやぁそれにしてもまさかKIDで乗り込んでくるなんて」
楽しそうに快斗は囁いた
「なぁぁんて…命知らずデショ」

(同感)
と横からの黒いオーラに怯みつつコナンは犯人の運の悪さに同情した。



「さてカード置いてずらかるぜ」
口汚い偽KIDの言葉。

(やめとけ。それ以上煽るなっっ)
深まる暗黒オーラを直に浴びているコナンは心から懇願した。


「おいKID。人質連れてくんじゃなかったのかよ」
「ああ。そーだったな。そのちっこいのにするか。」
と指差されたのはコナン…ではない方の女の子だった。


「え。ちょっやめてっっ」
母から子供を奪おうとする男達に当然ながら必至に抵抗をみせる。
これはぁ仕方ありませんよねぇ。
内心くつくつ笑いながら快斗が腰をあげた時、その動きを読んでいた少年がピョンッと飛び上がった。

「待って。僕がいくから。その子放してあげて」

その子と言ってはいるが、少女は明らかに江戸川コナンより年上である。
3、4年生なのだろう少女はコナンを振り返りキョトンと目を見開いた。

「どうするよKID?」
「どっちでもいい。自分から来るって言ってんなら抵抗はしねーだろ。」
顎でコナンを指し示し偽KIDはつれてけと指示を飛ばす。
変な格好をしているがどうやらリーダーらしい。

ぐっと持ち上げられ、コナンはひらひら犯人達に見えないように少女と母親に向かって笑顔で手を振ってみせる。
余裕である。

「むしろ人質になったほうがいろいろ楽だもねぇ」
コナンの意図を十分理解している快斗も『汚い手でコナンちゃんに触るなんてぇぇぇ』と激怒しつつもおとなしくしておく。

「さてはて、コナンちゃん。まさか俺の出番無しとか言わないでしょうねぇ」
黒い物を放つ自分を見てビクビクしていたコナンを思い出し、なぜだろうか・・・決して俺が手出ししないようにしているような気がしてしまう。←そりゃそうだ
KIDの名を汚されたのだから、自分が報復すのるのが筋ってもんだと思うんですけどねぇ。

コナンをつれて店の外へと出て行った犯人達。
警察がくるまでまだ時間がかかるだろう。
ふむ、と一つ頷くと快斗はおもむろにポケットから携帯を取り出した。

「あ、中森警部〜。あのさーちょっとコナンちゃん攫われちゃって〜今から取り返しに行ってくるからいろいろ適当にお願いね♪」

一方通行にそれだけまくし立て満足げに微笑むと他の人質達を振り返った。

「あ、犯人もういないみたいですし動いても大丈夫ですよ。すぐに警察もくると思うので事情聴取受けといてくださいね〜」

じゃ、と軽くてをあげ、快斗は優雅にその場を去った。


「っあーーー。ずっこいずっこいずっこいーーーー。なんでコナンちゃん全部片しちゃうのーーーー!」
「うっせー。おメーに手ぇ出させたらぜってー人死にがでるっっ。俺はそう確信したんだ!」
「勝手に確信しないでよぉ。もーーっえいっ」
「おい蹴るな。一応麻酔銃で眠らせてんだからな」
「いいのっ。えいっえいっえいっっ」

そんな(偽KIDを見た目より強力な脚力で蹴りつける)快斗をほおっておいてコナンはやれやれとため息をついた。


「おい快斗。どっちにしても今日は本庁いかなきゃなんねーみたいだな」
「ねぇ。ついでにさっきの強盗逮捕の聴取も受けといてあげよっか」
「ああ。そうだな」

なんだかなぁと思いながらも、コナンも快斗も今月21回目の本庁です。


おりしも本日6月21日。

「ああ、一応いってやるか。誕生日おめでとさん」
「ありがとー♪あっお願いしたら高木さんがケーキ買ってきてくれるってさー♪」
「お前本庁で誕生会開くつもりかよ」
「えへ♪貴重なた・い・け・んってね」
「・・・・・・ふ・・新一時代は毎年そうだったぜ」
「・・・・ごめん。あんまり貴重じゃなかったね」

そろそろ警察に住み着いたほうが早いんじゃ?ってくらいの他人様から見れば非常識な日常だけど、
「おい、そろそろ過剰防衛だ」
「いーえ。正当ですっ」
二人で一緒にいること、それが二人にとっての一番平和な日常。