72.クッキーの崩れる音

「あら江戸川君いらっしゃい」
「ああ。博士は?」
「研究室に閉じこもって今日で3日目ね」
「あーあの人もなぁ」

のめり込むと抜け出せない似たもの同志の困った性格に苦笑する

「ちょうどよかったわ。今クッキーが焼けたところなの。」
後で届けるつもりだったらしい。

「じゃあコーヒー入れるよ」
「私は紅茶をお願い」
「へーへーお任せくだされお嬢様」

たまに女の子らしいことするよなこいつ。
感心したようにクッキーをオーブンから取り出す姿を眺める。

「なにか用?」
「いや。珍しいな、と」
「この間黒羽くんに教わったのよ」

なるほど
シンプルな赤一色のエプロンを外し、コナンが用意した紅茶用にレモンを切る。

「ってことは初挑戦?」
「そうなるわね」
(オレは実験台か)

内心げんなりしつつコーヒーをお先にすすりだす。

「はい、どうぞ」
「ああ。じゃ一個・・・」
「待ってっ忘れてたわ」
「あ?」
「クッキー占いよ」

そう言うとおもむろに持っていた菜箸をクッキーにつきたてた


ばきぃ



クッキーは砕けたが、箸は折り曲がった。


今・・・すっげー音がしたんですけど
まさか失敗したクッキー?
でもさぁ、食べろとだされた気が・・・


「け、結果は?」
「うまく崩れなかったわね・・・」

そりゃこの硬さじゃ崩れはしまい。

「ってことは。凶ね。今から私と周囲の人間にいやなことが起こるわ」
「・・・」

すでにいやなことの内容まで予想できたコナンは張りつけた笑顔でコーヒーを飲みきると、

「わりぃ。用事思い出したから帰るな」
そそくさと逃げ出す算段を立てた。

「あらクッキー包むわよ?」
「気持ちだけもらっとく」

慌ただしさに言葉の真実味が増し、哀はおとなしく獲物を逃がした。

「博士、甘いもの好きだったわよね」

菜箸がおれまがる硬さのクッキーを食べさせる気らしい。
止めるものは残念ながらこの場にいなかった。


※クッキー占い諸注意※

崩れないときは失敗なのでもう一回作り直しましょう。