74.通じてる?
ねぇ通じてる?
届いてる?
僕の声はきちんと・・・・・・君に・・・
「これってさー全滅の危機?」
おどけた声の調子にふと前方から視線が飛んできた。
クナイを一閃させ、数多いる敵をバッタバッタと倒していく姿は闘将といった感がある。
その闘将はのっそりした身体から想像もつかないほど素早く声の主まで飛んできた。
「お・ま・え・が、悪い!!」
「えーそうかなぁ。俺はちゃあんと予定通りにやったよ?最初からこのプラン立てたやつがバカだったんじゃなぁい?」
「その計画書を見た時点で不可能であることを何故察知しなかった」
「んーだってさー行けるかもって思っちゃったんだよね」
ヘラヘラ笑う姿は腹が立つ以外の何物でもなく、体の大きなその男はチッと舌打ちを繰り出した。
「カカシ。前衛を撤退させろっ援護を呼ぶ」
「もう呼んだよ」
こんな頼りなさそうな顔をしておきながら仕事はきちんとこなしている。
イヤミなヤツだ。
「それにさっきから撤退の合図を送ってんだけど戻ってこなくてねぇ」
これはいよいよ全滅の危機かもしれないネ
嬉しそうになんてコトをいうのだろうか。
死にたがってる?
そうなのだろうか。
「俺はまだやりたいことが残っててな。こんな所で死ぬつもりはねーんだ」
「あらーやる気に溢れてること。」
やっぱりそうなのかもしれない。
あの人が死んでからこいつはずっとこうだ。
死に場所を探している。
里を守り、かっこよく死んでいった尊敬する彼の担任、4代目火影様。
この全てがどうでもよさげなカカシが唯一、関心を示したその人。
彼と共に笑って。彼と共に泣いて、彼と共に叫んでいたあの頃のカカシはきっと一番幸せだったのだろう。
だから今はもう抜け殻のようにヘラヘラ笑うだけ。
「なぁ俺の声はお前に届いてんのか?」
「さあ?どーだろーネ。俺もいつも思ってるよ。俺の声は先生に届いてるのか・・通じてるのかって・・・もう聞こえないかなぁ・・・」
空の上だしねぇ
「こんなに近くにいても聞こえないんじゃ空にいてもかわんねーだろ。」
「そーだね。」
「誰か・・・・」
誰かいねーのか?こいつと通じ合えるヤツが?
誰か・・誰でもいい・・だれか・・・
早くしないと本当にこいつ狂っちまうよ・・・
「アースマッ。そんな顔しないでもさ。お前の声は届いてるよ。心配してんの分かってるから。でもあんまり俺のコト気にしないで。どうせ中身はからっぽの抜け殻なんだから。」
見捨てちゃってね。
「見捨てれるわけねーだろ」
ここまで一緒に戦ってきて。
ものすっげー迷惑だけど友人関係作ってきて、一応情みてーなもんも発生してる。
「カカシ後ろっ」
「え?」
飛んできた手裏剣に反応が遅れた。
わっと慌ててクナイではじけばその隙をついて敵がせまってくる。
刀が振り下ろされ間に合わないっ
目を瞑った瞬間
キンッ
金属音が間近で聞こえた。
何・・・
顔の前で交錯していた両腕を下ろし目の前の事態に目を開く。
二人の男が立っていた。
自分より小さいけれどとてつもなく大きな力を秘めているその背中が。
(だれ・・・?)
カカシの見たことのない人間だった。
守ってくれたことから木の葉の人間であるだろうとは思うのだが・・
片方が振り返って低い声でカカシを叱る
「油断している場合じゃねーだろ」
「ドク」
もう片方が敵を切り捨てながら左手に持っているものを掲げた。
それにドクと呼ばれた男は頷くと
「ああ。お前ら鼻と口押さえてろ」
カカシとアスマに命令した。
次の瞬間とんでもない異臭が辺りを漂う。
「め・・目にしみる・・・」
聴覚器官までおかしくなりそうなその異臭にカカシとアスマは倒れそうになった。
鼻と口を押さえているからその程度で済んだのだ。
そうでなければ本当に倒れていただろう。
バタバタと倒れていく敵タチを見て、思わず膝を突いたカカシは呆然と二人を見上げた。
二人とも鼻も口も押さえることなく平然とたっていた。
「なかなかの威力だ」
「でも改良の余地アリだな。ちょーっと効果ありすぎて仲間に被害がでそーだ」
「二通り用意すれば?」
「めんどくせーって。ま、俺たちの出番はここまでっと」
ゴミと化した異臭を発した筒をポンっと道端に放り、二人はカカシとアスマを振り返った。
よくよく見ればアスマも倒れていた。
ドクと呼ばれたほうが忌々しげな顔をしかめながら軽く頭に触れるとピクリとようやく反応しだしたが。
「お前は大丈夫だな」
「あ・・ああ」
もう一人の名も知らない男は低い声でそう告げると面のおくから揺るぎない瞳で見つめてきた。
まるであの人と同じようなまっすぐな瞳。
いたたまれなくて思わず逸らせば
「はたけカカシ・・だったか。最近のお前の任務は目に余るものがある。やる気がないなら暗部をやめろ」
他の奴らに迷惑だ。
きっぱりと
今まで遠慮して誰もが言わなかった一言を。
うっわー清清しいほど言い切られちゃったよ。
「うん。反省してます・・・」
止めたほうがいいのかなぁ・・でもやめたら死に場所から遠ざかっちゃうし・・・
「死にたいなら死ねばいい。お前一人で勝手にな。他の奴らを巻き込むな。それから・・・」
グッと頭半分くらい高いカカシの頭を両手で掴み自分のほうに向けさせると
「人と会話するときは目をきちんと見ろ」
『人と会話するときはきちんと相手の目を見ようね。』
「あ・・・・・・」
「目が見れないなら顔でもいい。見てるフリでもいい。他所を向くな」
『どうしても目が見れないなら顔のどこでもいいよ。それでも駄目ならフリだけでもいい。他のところを見るのだけは駄目』
「なんで・・・」
「それくらい出来るだろ」
『カカシ君なら出来るよね?』
「どうして・・・・・」
通じてますよ貴方の言葉。
貴方が言った一言一言は俺の宝物なんです。
通じてますよ心まで。
貴方が言った一言一言が俺の目標なんです。
ツゥと頬に伝った涙に驚いたのか目の前の男はちょっと目を瞠った。
それから
少しだけ目を和らげて
ピンッとデコピンをくれていった。
「痛い・・・」
額を押さえて呟けばすでにクルリと背を向けたその肩がかすかに揺れたような気がした。
笑ってる?
「ちゃんと通じたならちゃんと実行しろよ」
軽く肩越しに手を上げて、ドクと呼ばれた男と去っていく。
呆然とどのくらいそうしていただろうか。
いつのまにか彼らが呼んだのであろう処理班が倒れた敵を片付けにやってくると、ようやく動けるようになったアスマが立ち上がった。
「カカシ・・・」
「アスマァ。なんかやられちゃった」
涙をぐっと腕で拭いながら笑う。
「ここがね。すっごいなんか熱いの。先生と同じこというのよあいつ。やだなぁホント」
これじゃあ死ねないじゃない。
まだまだ先生の言ったこと沢山実行してないんだもん。
そう言って唇を尖らせれば
アスマは破顔した。
ようやく通じた。
こいつの受話器は壊れててな。
なかなか言葉が通じないんだ。
あいつはそれを直して行ってくれたようだ。
「あっしまったあいつの名前聞いてないっ」
「ドクと一緒にいたんならたぶんナナシだろ」
復活したときにはすでにナナシは消えていたのでドクの顔しか見ていないアスマはそう口にする。
彼は以前ナナシと会ったことがある。
ナナシの歌声を聴いたことのある貴重な人間だった。
「ナナシ・・・」
ナナシ。
生きていると何があるか分からない。
まさか貴方と同じ瞳で貴方と同じコトを言うなんて。
「惚れちゃったかも・・・・♪」
「おい。やめとけって」
「えーいーじゃなーい。人生にハリは必要よー。」
「いや。あいつにはドクがいるから。」
「なにそれーー障害はあるほど燃えるのヨ俺。」
「めんどうなヤツだな・・・」
「ほっといてちょーだいよ」
いつもよりずっと楽しい心で口げんかを繰り広げ帰路につく。
ねぇ通じてる?カカシ君?
通じてますよ・・・先生。
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