グリーン・グリーン2(後編)



「なんか最近視線を感じるの」
緑は言った。
2年生の教室である。
紛れもなく快斗の教室である。
なんでここにいるの?なんて聞いたところで周囲の目から逃れる筈もないのでとりあえず話を大人しく聞いておくことにした。
「そう」
「まあ、私が美しいのは事実だから仕方のないことよね。うん。視線なんていつも感じているわ」
自画自賛。
見事に自分を褒めちぎると緑はどこかへ吹き飛んだかのような表情でうっとり両腕で自分を抱きしめた。
「ああ・・美しいって罪。。」
「・・・んで?」
「ちょっとそこで合いの手いれなさいよ。一人でやってるとバカみたいじゃないの」
っつーかバカそのもの?
快斗は思ったが口に出す勇気は残念ながら持っていなかった。

「だいたい、一昨日黒羽君に会った後からだったからもしかして黒羽君が犯人かしらと思って聞きにきたのよ。」
「違いまーーっす。俺の目はコナンちゃんが独占状態でっす」
「そうよね。そう言うと思ってたわ。じゃあ一体どういうことかしら」
「いつもの視線とは違うの?」
「ええ。あんな監視されているような視線は初めてよ。いつもはもっと、こう・・なんていうのかしら、ねちっこいと言うかまとわりつくというか・・そうねぇうっとおしい感じ?」

実は見られるの嫌いなの?と聞きたくなるような表現だ。
「でもそれがまた快感なのよねー。うふふ。私を見てるわぁぁぁぁぁっっって感じで」
一生解りたくない感情です。

「でもあんな監視みたいな視線だとなーんか居心地悪くてね、いい加減にして欲しいのよ」
「それは本人に言って下さい」
「あら、それもそうね。ああ、後ね昨日体育の授業の間に私の鞄が漁られてたみたいなのよ。近くを通りかかった教師が見つけて追い払ってくれたみたいだけど薄気味悪くなーいー?ただの物取りならいいけど―――――」
「ストーカーの仕業かもねぇ」
「だとしたらルール違反よね。つけるまではいいけど人の鞄までさぐっちゃあいけないわよ」

いやーストーカーも充分犯罪だと思うけど・・・。
緑なりの許せる範囲があるらしく、鞄に関しては激しく憤っていた。

「なんか盗まれてたの?」
「ううん。お金もちゃんとあったし定期もあるし、なーんにも。だから余計怖いじゃない」
「そうだね。」
「ま、いいわ。じゃあお邪魔したわね。今日にでも犯人とっつかまえて口割らせてみせるからっ」
「はあ、お気をつけて。」

そこで男なんだから手伝いなさいよっと言わないところが緑の良いところというか格好いいところである。
とっつかまえる・・かぁ。うーん普通の女なら出来ないよな。


一応そんな話をコナンに連絡することにした快斗。
もちろんコナンに電話する口実にしただけだ。
用がなければかけてくるなというコナンの手厳しい言葉に快斗はくすんと涙ぐむ。
だから快斗の部屋にはコナン人形が増えていくのだ。
そのうち人形展が開けてしまうかもしれない。
まあそれはさておき、こんな機会を逃すはずもなくそそくさと携帯を取り出すと快斗は短縮一番をポンッと押した。
「コッナンちゃ〜〜〜ん♪」




下校時刻。
大河内緑は驚いた。
そこに黒羽快斗が立っていたからではない、その隣りにいた白馬に目を奪われたのだ。
「まあ♪」
「ちょっとそこのおねいさんや。目移り早すぎじゃないの?」
「うるさいわね黒羽君はだまってらっしゃい。私は美しいものに目がないのよ。」
「じゃあ俺もウツクシかったわけ?」
「黒羽君のはそうねぇ美しいっていうより面白い?」
「・・・そうですか・・」

「えーっと大河内緑さんですよね?僕は白馬探です。」
「ええ、もちろん知ってるわ。ロンドンから転校してきた探偵さんよね。この間は突然ぶつかっちゃってごめんなさいね」
「いいえ。覚えてらっしゃったのですね。お昼休みの会話を聞いていて女性一人では危ないと思い微力ながらお手伝いをさせて頂こうかと待っていたのですがご迷惑だったでしょうか?」

控えめな申し出。
ちょっぴり不安気な揺れる瞳。
なにより緑好みの整った顔でそんな事を言われて「迷惑よ」なんていえるはずもない。
むしろ大歓迎なお話だ。

「ううん。ありがたいわ。それじゃあなに黒羽君もそのために待ってたの?」
「違うよん。俺はコナンちゃんに頼まれたから」
「・・何を?」

さすが自分の理屈でしか行動しない男である。
か弱い女性が凶悪犯と今まさに闘おうと言うときにこの男はあっさり見捨てていくのだ。
普通の男なら手伝うかそんな危険な行為を止めるか警察に協力を求めるよう説得するだろう。

(奥が深いわよね黒羽君って)

「このあいだ持ってたカメラを貸してくれませんか?」
「カメラ?ああ。あれねまだ現像に出してないのよねー」
「うんそのままでいいよ。ちょっとフィルムみせて欲いだけだから。」
「フィルム?」
「うん」

鞄から取りだしカメラごと手渡すと快斗はクスリと微笑んだ

「ああ。見るまでもなかったみたい」
「え?」
「これフィルムないよ」
「ええっっ何でよっ」
「うん。だってシャッター押しても反応ないし。なによりこの間持った時より数グラム軽いね」
「・・・」

そんな事わかるの?なんて不審な緑の瞳を受けつつ快斗は了解も得ぬままカパリと後を開いた。

「ほらね」

カラカラ〜〜と何がそんなに楽しいのかリズムをつけて言う快斗。
確かにからっぽだった。

「現像には出してないわよ。だって昨日から鞄にいれっぱなしで・・・・・・・ってまさかっっ」
「うん。これが盗まれたんじゃないの?さっきそれを確かめてこいってコナンちゃんに頼まれたのよ」
「え?なんで解ったのかしら」
「さあ?とりあえず大河内先輩、俺はこれで帰るんでストーカーとの対決頑張ってくださいね」

「・・・やっぱり手伝う気ない?」

「ありませんね。俺は面倒ゴトに首突っ込む趣味ないんで。女性を守るのは男の義務ですとか言ってるどこかのどなたかとは人種が違うんだよね〜〜」

ちろりと隣りでニコニコ話を聞いていた男に視線をやると即座に白馬は反応を示した。

「それって遠回しな嫌みですか黒羽君っっ」
「いやだなー嫌みだなんてそんなぁこうみえても凄いなぁって誉めてるわけよ」
「嘘ですね。今の言葉からは悪意しか感じ取れませんでしたっ」
「そお?被害妄想だと思うんだけどなぁ」
「あくまで言い張りますか」
「だってぇ白馬君の趣味ってとっても世のためになるよなぁってそんでそれに俺を巻き込んでくれたりしなければ俺はホント尊敬するよ」
「・・・・」

過去何度か巻き込んだ経験があるせいか白馬は言葉に詰まった

「こ・・今回は巻き込んでませんよ。どうぞお帰り下さい。今すぐにでも」
「うわーありがとう素敵な白馬君」
「なんででしょうか。とっても痛烈な皮肉を言われているような気になるのは」

憮然とした顔で快斗を見ると白馬はすぐに営業スマイルで緑に向き直った。

「大河内さんこんな男の風上にもおけないような人間に頼っても無駄ですよ。僕たちの力だけで犯人を捕まえてみせましょうっ」

力強く語りかける。
それに緑もやる気が満ちてきたのか

「そうねっ二人の力だけでっっ愛のパワーねっっ」
「え?」
「愛のパワーよっっ」
「は・・はあ」

なにやら気圧され気味の白馬に意地の悪い笑みをうかべると快斗はさっそうとその場をさった。




「さあっいつでもかかって来なさい犯罪者っ私の鞄を漁った罪は重いわよーー」
白馬の協力を得強気の緑はブンブン腕を振り回す。
隣りで聞いていた白馬が小さく笑った。

(黒羽君を好きになる女性は芯の強い方ばかりですね)

紅子といい、青子といい、レベルが高いのは顔だけでなく中身もだ。

「そう意気込んでいると逃げてしまいますよ」
「そうかしら?」
「ええ。いつものようにしていて下さい。僕は少し離れた所で見張ってますから」

そう言うと白馬は手を振り緑に背をむけた。
もしこの場を見られていたとしても道の分かれ道で別れたように見えるように少し歩いてから追跡を開始する。
(そういえば何でフィルムが盗まれた事をコナン君は気付いたんでしょうね?)


緑は言われたとおりにいつものペースで歩いた。
心なしか足が早まってしまったのはやはり怖いからだろうか。

(嫌だわ。あんな卑劣な奴を怖がるなんて、悔しいじゃないの)

そんな自分が不甲斐ないと思うが指先が微かに震えるのも止められない
(あー白馬君が付き合ってくれてよかった)
強がってはいたものの、本当は怖かった。
友人が協力してくれると言ってくれたが、断ったので(女の子を危険な目に会わせるわけにはいかない)本当は快斗を巻き込むつもりだった。
だが実際に彼を目の前にすると助けて欲しいなんて弱々しい言葉がはけなかった。

(私って見栄っぱりよね)

時々損な性格だわと思うがそんな自分を気に入っているので変える気はない。
「さっさと出て来なさいよーーーー」






『そうか。やっぱりなかったか』
耳元に大人びた声が聞こえた。
高い声でありながらも、真剣味を帯びたその声は耳元に柔らかな余韻を残す。

「うん。何でわかったの?センパイも気付いてなかったみたいなのにさー」
『いや。確証はなかったんだけどな、もしかすると・・と思って』

快斗は50m走なみのスピードで走り続けていた。それにも関わらず携帯に向かって話す声は息一つ乱れていない。

「フーン。って事は写真に何かやばい物が写ってんだろうって思ったんだよね?」
『しかも俺達と会った後頃からストーカーが出始めたなら十中八九こないだの公園のひったくりが怪しい』
「そーゆーもん?」

探偵の思考は良く分かんないなーと怪盗は言い、ポリっと頬をかいた。

『今日電話もらってすぐに調べたんだがあの日公園近くで殺人事件が起こってる。多分高木さんが言ってた強盗ってのはこれのことだったんだろうな。強盗殺人。しかも立て続けに何件か起こっている。同一犯の仕業ではないかとマスメディアは騒ぎ立ててるみてーだぜ』

子供達に興味を持たれては困ると殺人の事は伏せたんだろうと思い至りコナンは苦笑をした。

「わお。関係ありそうな口振りねぇ」
『ありそうだな。時間的にも丁度事件直後だし、あの時写真に何か写しちまったんだろうと思う。あー盗まれてなけりゃなーー』

ちくしょっと悪態つくコナンの声に快斗は視線を辺りに彷徨わせた。

「あーそのー・・」
『なんだ?』
「・・・い・・いや何でもない・・・」
『言いかけといて止めるな。今言わないで後で後悔してもしらねーぞ』
「お・・・怒らない?」
『さーな』

そんなん聞いてから考えるに決まってるじゃねーか

「怒らないなら言う」
そんな子供じみた快斗の言葉にコナンはプッツンきれた
『うるせーぞっさっさと言えっっっっっっ』
「うぐ・・コナンちゃんの怒りんぼ」
『で?』
冷めた声が返ってきた。これ以上ちゃかすと後が本当に怖い。
「フィルム俺が持ってる」
『は?』
何を言われたのか理解出来なかったのか。なんで持ってるのか解らなかったのか知らないがコナンは素っ頓狂な声をあげた。
「だって・・こないだセンパイったらコナンちゃんの写真バシバシ撮ってたんだよーそんなん許せるわけないじゃん」
その場でニコニコ見ていたのは後で盗んで置くことを想定していたおかげだ。
「だから別のにそっとすり替えときましたー」
そこまで言って怒られることを予想して目をつむる。
だが予想に反してコナンの怒鳴り声はやってこなかった。

『でかしたっっっっ!』

「へ?」

(も・・・もの盗んで誉められちゃった)
驚きのあまり携帯を落とすところだった。





「ちょっと離しなさいよっ!」
緑は力の限り叫んだ。同時に暴れる。
だが掴まれた左腕はびくともしない。
(やだっ白馬君っ)
助けてよぉぉぉぉ

人気のない通りだった。
そこをいつものごとく歩いていたら突然現れた男に無理矢理引っ張られたのだ。
裏路地へ向かっているらしい。

「いやーーー何するのよへんたいーーーーゆうかいまーーーーー」

とにかく色々と叫びまくった。
背後に居るはずの白馬に届くように。
どんっと壁に押しつけられ緑は暗闇に目をシパシパしつつ目の前の男を見上げた。
暗くてよく見えない。

「フィルムを渡せ」

男が低い声で言った。
まさかこいつが昨日私の鞄漁った犯人?

「フィルムを渡せ」
もう一度男は言った。

「ちょっと待ってよ。フィルムは昨日あんたが盗んだんでしょっ」
人の鞄勝手に漁ってっっ

「あれじゃない。その前に入っていたフィルムだ」
「前?」
今の状況も忘れて緑は考え込む。
「前のならかなり前に現像に出したわよ確か・・」
でもこのカメラはしばらく使っていなかったからずいぶん昔の話しだ。
「そのフィルムは?」
「えー?どこやったかしら。だってもう一年くらいたってるから忘れちゃったわよ」
「・・・」

何かがおかしいと男も感じたのだろう眉をよせた。
その隙にどうにか出来ない物かと緑は辺りを見回す。
だいぶ目が慣れてきたおかげで辺りの様子が見て取れた。
裏路地らしく、薄暗いだけでなくどことなくかび臭い空気だ。
壁にたたきつけられているので背中辺りが汚れてそうで嫌だなーと緑は思う。
男の顔もようやく見えてきた。
男は30代後半ぐらいですこし茶色がかった髪をキレイに刈り込んでいた。
(あれ?)

どこかで見たような顔だった。
たしか―――――
「ひったくり犯っっ」
バーンでポーンと空を飛んだ男だ。
まさか恨みを晴らしにやってきたのだろうか?いやいやフィルムがどうの言っているから違う件なのだろう。だがしかし盗まれてしまったのだから仕方ない。
おや?そうすると昨日人の鞄を漁ったのとは違う人間と言うことになるのでは?

「昨日私の鞄漁ったのってあんたじゃないの?」
「俺だ」
あっさり答えた。
あらあらあら?
「だって私フィルムずっといれっぱなしで昨日あんたに盗まれたのよ。知るわけないじゃない」
「だが昨日のフィルムは公園の写真が入っていなかった」
「え?」
それこそ緑にはあずかり知らぬ話しだ。
首を傾げる緑をよそに男はぶつぶつ呟きだす。

「じゃあまさかあの時に誰かが・・・」

肩を強く押さえつけられ逃げるに逃げられない緑はジックリと男の顔を見た。
(あら。よく見ると好みのタイプかも)
かなり状況を無視した思考が緑の頭をよぎる。
その男は少ししてから緑に向き直るとニッコリ微笑んだ。
「ま、フィルムがないんじゃ仕方ないよな」
(そうそう。だから解放してちょうだい)
うんうんと頷くと男はゆっくりした動作でポケットに手を入れた。
その時だ。

「大河内さんっっ」

一瞬の出来事だった。
男がどこからか聞こえたその声に驚いて振り返った。
それと同時くらいに何かがポケットに入れていた右手にぶつかった。
鋭い衝撃を受け男はポケットから何かを取り落とした。

コンクリートの地面がガシャンと音をたてる。
何が落ちたのか見る間もなく緑は

「逃げて下さい」

と言う白馬の声と共にそこから押し出された。
振り向くと白馬が真剣な顔で男を睨み付けている。
(な・・何?何なのーーー)
「早くっっ」
白馬のその言葉にとにかく逃げなければいけない事だけは雰囲気的に感じとり緑は走り出した
(フィルム?フィルが悪いのかしら―――――!!)
緑の頭は混乱していた






「ええ・・はい・・そうです3日前の夕方頃あの公園付近で・・はい。」

快斗がコナンに言われたとおり工藤家にたどり着いた時コナンは新聞片手に電話をしていた。
詳しい事情を聞いているのだろう。
それに犯人がもしかするともう逮捕されているかもしれない。
工藤家の高そうな電話機は蘭の掃除のたまものか埃一つかぶっていなかった。

(いーお嫁さんになれるよね蘭ちゃん)

だがお婿さん候補の新一は自分が貰うけどね。ごめんねーとか心の中で呟くと快斗は勝手しったる他人の家とばかりに勝手に家にあがりソファでくつろいだ。
それに気付いていながらも無視して電話をしつづけるコナン。
部屋の中には工藤新一の声だけが天上の音楽のように響き続ける。

(うーんコナンちゃんの声も可愛いけど新一の声も綺麗だよなー)

「はい。ありがとうございました。失礼します」

チンと電話を切ると口元にあてていた蝶ネクタイ型変声器をポケットに入れた。
そして背後を振り返り

「フィルム」

と一言のたまった。
挨拶一つもなしである。
せっかくここまでやってきた恋人(自称)にお茶のひとつ、ねぎらいの言葉一つもないらしい。

「・・・・」

だが偉そうな態度で右手を出してきたコナンの顔はどことなく焦っていて、こんな時にごねたりするととんでもない仕打ちが待っていたりするので快斗は大人しくさしだした。

「誉めてよ〜あの時俺が盗んでなかったら昨日のうちに証拠隠滅されてるところだったんだから」
「黙れ盗人」
「・・・・」
さっきは誉めてくれたのにな・・・




しばらく走った頃、息が切れて足を止めた緑はとりあえず角にしゃがみ込んだ。
途中から誰かが追いかけてくるのに気付いた。
だからこそ必至で逃げた。

(白馬君はどうしたのかしら)

背後の人物が白馬であれば声をかけてくるはずである。
そうするとさっきの男としか考えられない。だとしたら白馬はどうなったのだろうか?
怖ろしい考えしか思い浮かばない。
必至で怖い想像を断ち切り両手で腕を抱きしめる。
まだ追いつかれてはいない。
それだけが救いだった。
バレー部でさんざん鍛えているおかげで体力はある。
だが恐怖で息がはずんでいつもよりも余計に体力は消耗していた。
脇腹が痛い。
それよりも心臓の脈打ちのほうが激しく痛い。
これがはち切れそうと形容する心臓の動きなのだろう。貴重な体験をしてしまった。

(あーーーもぉーーーちょっと待ってよーーもしなんかやばい事になったら黒羽君恨むわよーーー)

叫びだしたかった。大声で泣きたかった。一人でここに居ることにすら耐えられないほどに緑は精神的に追いつめられていた。
バクバク心臓が鼓動する。ドクドクこめかみがなる。しゃがみ込んで自分の手で口を押さえないと泣き出してしまいそうなくらいに怖かった。
その時そっと小さな手が緑の肩にふれた。
悲鳴を上げなかったのは恐怖のあまり声が出なかっただけだ。
慌てて振り返った緑はそこにいるのが小さな女の子であるのを見留め、今にも止まりそうだった心臓を押さえ大きな息をついた。

(怖かったよーーー)

「大丈夫お姉さん?たてる?」
「え・・ええ」
小さな声で囁かれ緑もかすれた声で返した。
「じゃあこっちっ早く」
「え?ええ!?」


手を掴まれ引っ張られる。
訳がわからないまでも、その手のひらを、暖かなぬくもりを離したくなくて緑は少女の小さな引力に従うことにした。
背後の男はまだ追いついていない。脇腹も少し痛みがひいたし走れそうだった。
緑は小さな手のひらに安心を得、導かれるまま音を立てないように走り出した。

「私たち少年探偵団が来たからにはもう大丈夫よっ大船にのったつもりでドーーンと任せてね」
「え?」
どんと空いた右手で自分の胸を叩いた少女にようやく緑は相手の名前すら知らないのに気付いた。
(そういえば子供だからって安心してたけどこの子だれよ?)

うかつすぎである。
あの状況ならば男性でなければだれにでも着いていったかもしれない緑は少し前を走る少女に目をこらす。
見たことのあるような顔だった。

「こっちです歩美ちゃん」

背後を振り返り×2走っていた二人はそんな声に慌てて辺りをキョロキョロ見回した。
ゴミ箱の陰から手がでていた。

「光彦君」
「しっ静かに」

跳ね上がる少女の声に少年が唇の前に指を立てた。
少女が「あっ」と口を閉じる。

「今、元太君が足止めをしていますからしばらくは安心です。まだ走れますか二人とも?」
「うん。大丈夫」
「え・・ええ」

そばかすの浮いた顔に丁寧口調それが緑の記憶を軽く揺さぶった。

「もしかしてこの間の子供達?」
「はい。そうです。お久しぶりです。今は残念ながら時間がないので挨拶は後と言うことで。行きますよ」

良く分からないが子供達は自分の味方のようなので緑は頷いた。

「ね・・ねえ。何でこんな裏道ばっかり通るの?」

さっき歩美につれられて走ったのもこんな暗いとおりばかりだった。
人通りの多いところに出ればあいつは諦めるだろうに。

「確かに表通りに出れば犯人は諦めてくれると思います。でもそれでは明日から安心して過ごせません。」
「まあ、確かにそうね」
「だからね、コナン君がおびき出して捕まえちゃおうって言ったの」
「は?出来るのそんなこと?」
「コナン君なら出来るのっ!!」

歩美の強い言葉に緑は半信半疑でそうなの・・と呟いた。

「だから僕たちが来たんです」
「私たちがついてれば百人力なんだからねっ」
やる気満々の二人の顔に緑は困った顔をみせた。こんな小さな子供達に言われてもあまり頼れるようには見えない。
しかもこの後どうする気なのだろうか?




「あーなるほどね」
快斗から手に入れたフィルムを勝手に現像したコナンは一枚の写真を取り上げた
「コナンちゃんの予想通り見たいだね」
「ま、これだけじゃわかんねーけどな。とりあえず拡大してみるか」
「・・とか言っちゃってするのは実は俺だったりするでしょ?」
「やりたいようだから譲ってやるよ」
「・・・・そう見える?」
コナンはニッコリ微笑むと写真をハイと差し出した。






「えっちょっと待って人様のお宅よここっ」

突然に通りにあった垣根を乗り越えだした子供達に緑は慌てて止めに入る。

「大丈夫です。許可はとってますから」

自信に満ちあふれた光彦のその言葉に緑は頭を抱えたくなった。
許可?許可ってなによーーいつの間にそんなもの取ったっていうの?

「大変っもう来てる。お姉さん急いで昇ってっっ」

すでに一番上まで登った歩美が遠くから息を切らして走ってくる男を見つけた。
緑は恐怖にかられ慌てて垣根を登りだした。
もう人様の家がどうの言っている場合じゃないのだ。

(障害物競走でこの威力が発揮できれば一等間違いなしよね)

そんなスピードで垣根を乗り越えた緑は先に降りたはずの二人がいないのに気づき焦った。
(嘘っ私おいて逃げちゃったの?)

やっぱり怖くなったのだろうか?ここまで一緒に逃げてくれたのに
突然一人になった心細さは壮絶なものだった。
すぐにでも逃げなければならないのに怖くて怖くて足がすくんでしまっている。

ギシギシなる垣根。
緑は重い足で後ずさった。
少し高いところから飛び降りたその男はさっきとは大違いの暗い目をみせた。

「やっと追いついた。」

右手に持っていた折り畳みナイフをカチリと開く。
(さっきポケットから落としたのってそれかしら?)
なんて考えて居られなかったのは刃が少し汚れていたからだろう。

「そ・・・それでまさか白馬君を?」
震える声で聞く。
「あのヤサ男の事か?あいつならやり損ねたぜ。ガキが邪魔しやがった。まああんたが先だったからな見逃したが後でちゃーーんと始末してやるから安心しな」

(何が安心なのよーーーーーーー!)

「仕方ないよな。フィルムが見つからない以上さっさと関係者の口を封じとかないと俺捕まっちゃうし」
「え?」
ひったくりの容疑など殺人に比べれば可愛いものではないか。
「本当はフィルムを手に入れるだけですんだのに手間かけさせやがって」

「なんで私が殺されなきゃいけないのよーーーーーーーー!!」
「仕方ないだろあんた俺の写真とっちまったわけだし」
「知らないわよそんなのっ」
「しかも俺が獲物始末してるときだったんだよな。焦った焦った」
「だから知らないってっっ」
「あの公園で血を洗い流してから捨てようと思ったナイフをなバッチリ写してくれちまったわけよ」
「何で言うのよっっ言わなきゃいいじゃないっ私知らないんだからっ」
「そりゃ殺すからだろ」

ヘロリと笑っていったその男が怖い。
まるで世間話をしているかのように人の生き死にを口にする。

「あんたが言わなきゃ知らなかったのよっ放っておきなさいよーーー」
「残念だな。もう言っちまったし。どうせ最初にフィルム奪還に失敗した時点であんた殺すリストに入ってたけどな」
「・・・」

なんでそんな簡単に殺してしまおうと思えるのだろうか。
そんな、たかが写真一つで。

「俺はねーもう何人も殺してるわけよ。今まで証拠は一つも残さなかったのが俺なりのプライドって奴?まさかあんな偶然に写真撮られるとはさすがに思いもよらなくてね。あんたにはプライド傷つけられた恨みみたいなもんがあるってーことさ」

「勝手な事言わないでよっ」
「そーそーその気の強さもねー。俺そーゆー女ってすっげーーーむかつくわけよ。」
「あんたのそのしゃべり方もスッゴクムカツクわよっ」
「今の状況わかってんの?」
「どっちにしろ殺されるんなら腹の内全部まき散らしてから死ぬわよっ」
「おーおー威勢のいいことで。」

男のニヤニヤ笑いは消えない。
人の家に侵入したはずなのにこの家の草はボーボー。家自体も大きくてキレイなのだが蔦が生え茂っていて、とても人が住んでいるようには見えなかった。
これはとってもやばい。
もの凄くやばい。
助けを読んでも聞こえないだろうくらいにその家の敷地は広い。

さっきの子供達が応援を呼びに行って居ることを願うくらいしか緑には出来なかった。
だからこそ少しでも長く話しをさせる。
だがさっきから怒らせてばかりで余計に寿命を縮めているような気もするが。

「そうだ。フィルムの事だれかに言ったか?」
「・・・・・い・・・言ってないわよ」
ふうん?と頷いた男の顔はあまり納得したようではなく、緑は言い募った。
「だ、大体フィルムが無いのに気付いたのもついさっきなんだからっ」
「・・・・」
「何よっ本当よっ」
「別に何にも言ってないけど?まあそれだけ言うって事は誰かに言ったんだろうね。例えば―――――」
さっきの男とか。と白馬の事を口にする。
緑は青ざめた。
自分の後確実に白馬が狙われるだろう。もしかするとその後は快斗も。白馬を助けたという子供も殺害リストに仲間入りかもしれない。
どうしよう自分のせいで・・・

「やだなーやっぱり言ってるんじゃないの。じゃああの男は絶対殺しておかないとな。後は他にもいる?例えば―――――ああ、この間の子供達とかさ」
バーンでポーンととばされたその場面にいた子供達。
その子達がさっき緑をつれてここまで逃げてくれたのをこの男は知らない。
「・・・・・」
口を開けば墓穴を掘ることを悟った緑は口をつぐむ。
「まあいいけど。子供の言うことなんてだれも聞かないだろうしね。」

男はニッコリ笑った。
とても人を殺す顔には見えなかった。
それが余計に怖ろしい。

「すぐに済むよ。首を掻ききるだけだからさ」
小さなナイフでは心臓を指しても致命傷にならない可能性が高い。狙うなら喉か手首。
慣れた男のその仕草に緑はカチカチなる歯の音を聞きながらスポンジのように柔らかくなった膝で一歩後にさがったその瞬間カクリと足が折れ後に倒れてしまう。
そこに刃が降りてきた。
(怖いっ怖いっ怖いっっっっ)

助けてなんて叫ぶ余裕はなかった。兎に角目をギュッとつむることしか出来なかった。





男がポーンと飛んだのはその時だ。
二度目の浮遊に男は少しだけ余裕があった。
(誰がやったんだ)
視線をたどると少年がいた。
眼鏡をかけたその顔が不敵に微笑んでいた。
(女の次は子供か―――――)
それを最後に地面にドサリと落ち男は意識を失った。
その後数コンマ遅れてサッカーボールがテンテンと男の隣りに転がった。

「一件落着・・・てな」

緑は思考のどこかでそんな声を聞いた。






「ではのちほど重要参考人として署の方までご同行願えますかな?」
「今はまだ混乱しているみたいですし後で僕がお連れします」
「そうか頼んだぞ高木君」
「はい」

とても刑事とは思えない高木のその容貌と覆面パトなら周囲の奇異の目も避けられるだろうという彼らの心遣いにコナンは小さく微笑んだ。

「僕たちも後でお姉さんと一緒にいくね」
「ああ。そうしてくれると一度で済んでありがたい。あの男だけ連れていくよ」
「うん。ありがとう。あっそれと高木さんカセットも目暮警部に渡しておかないと」
「ああ、そうだったね。目暮警部これが例の証言を取ったカセットです。彼女には怖い目に会わせて申し訳ない事をしてしまいましたが」

まるで囮のような扱いをしてしまったが、あの男の犯行は巧みで、容疑者としてあがるものの、どうしても確証が掴めずにいたのだ。
この機会を逃すわけにはいかなかった。

「後でいっぱい謝っておかないとね」
「そうだね。」

コナンの言葉に高木は頷く。あの連続強盗殺人犯を逮捕できたのだ。いくらだって頭を下げる覚悟だ。そんな高木に一緒に謝るからと笑いかけ犯人の乗ったパトカーを見送るとコナンは我が家に人々を招き入れた。

「ここって工藤君の家だよね?」
「うん僕、新一兄ちゃんから鍵を預かってるんだ」
「僕まで勝手に入っちゃっていいのかな?」
「大丈夫だよ」

遠慮のかけらも見受けられない快斗はすでにソファにくつろいでおり、他の子供達も思い思いに家の中を歩き回っている。
大人しいのは未だ放心状態の緑ぐらいのものだ。
コナンが手を引き家の一人掛けソファに座らせると緑はくたりと背もたれにもたれかかった。

「大丈夫?」

さすがに責任を感じたのだろうコナンがそっとのぞき込むと緑は未だボーっとどこかを見ていた。
無理もない。
知らなかったとは言え、殺人犯に追われていたのだ。
殺されかかったのだ。
その恐怖は味わったものにしか解るまい。
未だ震える手をそっと握りしめ、ゆっくり緑の体に浸透するように口を開いた。

「もう。大丈夫だよ。犯人も捕まったし。絶対にもう怖い目には会わないから」
ね?

のぞき込んでくる蒼い瞳は真剣そのもので、緑は何故だろうその言葉を素直に信じる事ができた。
「やだ・・もお・・信じらんない・・何なのよーーーー」

ようやく声が絞り出る。
同時に涙までポロポロこぼれ落ちて恥ずかしいったりゃありゃしない。
だがそんな事もどうでもいいくらいに今は泣きたかった。

「なんで・・あんな・・・ひっく・・・ひっく」
「うん。もう大丈夫だから。快斗っハンカチかタオルっ」

気の強い緑の涙に驚きの表情を浮かべていた快斗がコナンの言葉に慌ててポケットをまさぐり叫んだ。

「ええっ?ハンカチ?ないよそんなんっ」
「はい」

それに高木がそっと蒼いチェックのハンカチを差し出した。

「ありがとう」

緑の手を握りしめていた右手でハンカチをうけとりコナンはそっと涙をぬぐう。
その慣れた仕草に快斗が少しムッとしたが今、邪魔をするほど馬鹿ではない。

「ごめんね。怖い思いさせて。ごめんね。」

コナンが真摯な声音で囁く。
それに高木もゆっくり緑の横に立ち

「すみません。あんな目にあわせてしまって。」

深々と頭を下げた。
「ホントにねっ。もの凄く怖かったんだからっ」
「うん。怖かったよね。ごめんね」

そっと頭をなでられた。小さな手のひらが心地よい。
不思議と震えが収まってきてようやく緑は嗚咽を押さえ込んだ。
ハンカチをコナンから譲り受け自分でごしごしと涙をぬぐう。
横を向けば高木と呼ばれた刑事がどうすればいいのだろうっといった顔で立っていて笑いを誘われる。前を向けば蒼い瞳が心配そうに自分をのぞきこんでいる。


「もう。大丈夫だから。」
「・・・・」

そう言って緑は小さく微笑んだが、その言葉をコナンは信じる事が出来ず首を振った。

「歩美ちゃん。お姉さんの手を握っててあげてくれる?」
「はーいっ」

コナンに勧められ4人くらい座れそうなソファへ移動した緑はその横にちょこんと座った歩美の存在に何故かホッとした。
まだ怖さが抜けていないのをコナンは見抜いていたのだろう。
歩美の小さな手のひらが自分の手に触れた時もの凄く安心した。
人肌がこんなに安心感を与えてくれるものだと始めて知った。

「歩美ちゃん。それに元太、光彦よく頑張ったな。」
「あったりまえだぜっ。なんてったって俺達は少年探偵団だからなっ」
「そうですコナン君がいなくてもちゃんと出来るんですからね」
「でもね、追いつかれそうな時にちょっとだけ泣いちゃった」

歩美が緑の手を強く握りしめエヘヘと笑うと緑も一緒に微笑んだ。

「それは仕方ないよ怖かったろ?よく頑張って走ったな。えらいえらい」

コナンに誉められ歩美は思わず頬が緩んだ。
それは緑も同じだったらしい。歩美に言っているのは解っているのに一緒に自分も誉められた気がして嬉しくなってきた。
泣いたのも仕方ないと言ったその言葉も嬉しい。
相手は6才の子供だというのにこんな気持ちになる自分が不思議でならなかった。

「それと元太怪我ないか?」
「ああ。うん。ぜんぜん大丈夫だぜ。コナンの言ったとおりにしたら、あいつにも見つからなかったからな。あの兄ちゃん。えーっと白馬って言ったっけ?あの兄ちゃん助ける時に石なげたら睨んできてすっげー怖かったけど、すぐに走って行ってくれてよかったよなー。伝言もちゃんと伝えたぞ。」
「うん助かった。あのままじゃ危なかったもんな」

相手は刃物を持っているのだ、しかも人を殺める事に罪悪感をカケラも抱いていない、いくら白馬がこういう事態になれていたとしても無事すむわけがない。
だからこそ白馬に『警察がいるところまで誘導するから犯人は見逃してもいい』
と元太に伝言を頼んだのだ。
そのおかげで白馬は右腕を切られただけで済んだ。
実際はすぐに警察が動いてくれるはずもなく、とりあえず高木刑事だけ無理矢理工藤の家に来て貰い、犯人をそこに誘導したのだが。

そうすれば殺人未遂の現行犯逮捕。巧くいけば自白もしてくれるかもといった次第だ。

おおざっぱな計画のわりに上手くいったのは子供達が予想以上に見事な動きをしてくれたおかげだ。
光彦はコナンに言われた道筋をザーッと走って隠れる場所をチェックしてからから歩美の元に戻って道案内をしたのだ。頭が切れる光彦ならではの役割だ。
歩美はもちろん緑を安心させるのに一番の適役。コナンの指示通りに道を走り光彦と合流するまで一人で頑張って緑を守った。

中でもとくに元太など一番の危険な役割を見事に果たしてくれた。腕を怪我しても必至で犯人に食い下がる白馬を助け、伝言を伝えた後コナンに連絡して白馬の怪我を教えてから緑を追いかけた犯人を先回りしてコナンに言われたとおりトラップを仕掛け足止め。大忙しだった。
罠を仕掛けている間に犯人に見つかったらとってもやばい一番危険なポジションを見事にやり抜いてみせたのだ。


普段なら元太の役割はコナンがやるのだが、今日は工藤家で裏方をしていたので仕方ない。
探偵団バッチで子供達を誘導し、パソコンで写真の拡大(これは快斗だが)、警察から高木を強引にテイクアウトして、カセットを垣根の近くに設置。
それだけしてから元太から白馬の負傷を聞き、救急車の手配をして、白馬の家に連絡をして、といろいろやっていたのだ。
決して家でダラダラ待機していたわけではない。



「マジ見直したぜお前ら」

満足そうなコナンの言葉に子供達は照れたように一様に笑った。
そんな彼らをみて高木も快斗も緑もほほえましさに頬がゆるんだ。
そんな暖かな空気を破ったのは

「フィルム」

思い出したかのように呟いた緑の声だった。
「え?」
「フィルムは結局どうなったのかしら」
消えたフィルム。その謎は永遠に闇の中かと緑は思ったが、コナンが言いにくそうに口を開いた。

「・・・あー・・そのーー・・現像してとりあえず全部警察に提出しちゃったんだ勝手にごめんね」
両手を会わせてあやまるコナンに緑は頭を傾けた。
「提出?」
「この間公園でサッカーボール避けたときにカメラ落としたでしょ?その時に犯人の写真が撮れちゃったみたいなんだ。」
「そういうことじゃなくて、あったの?どこに?」

「・・・・」

快斗に視線を向ける。
コナンの視線を受け快斗は軽く肩をすくめた。
その仕草を勝手に了解ととり、コナンはあっさり述べた。

「なんでか快斗兄ちゃんが持ってたんだ」
「黒羽君?なんでまた彼が持ってるわけよ」

眉を寄せてもしかたあるまい。そのせいでさんざんな目にあったのだから。

「あははは。まあそれは快斗兄ちゃんに聞いてよ。僕よくわかんなーーい」

コナンはあっさり快斗に話しをふり逃げた。
バトンタッチとばかりにニッコリ笑いかけられ快斗はあーあー、とため息をついた。
緑の追究に快斗は大変な目に会うことだろう。
納得行く答えが出なければ明日も明後日も明々後日も延々とつきまとわれるに決まっている。


コナンちゃんの意地悪ーーーー

コナンの笑顔は天使のごとく、でも中身は小悪魔さん。
こんなコナンに見惚れる歩美に二人の子供から
「抜け駆けですよっコナン君」
「そうだそうだ」
と非難の言葉を頂きコナンはキョトンと目を丸くし首をかしげた。
「なんの事だ?」
一目瞭然の彼らの態度に緑はほほえましさに快斗への怒りも忘れ口元を押さえながら笑ってしまった。
色恋沙汰に関してはその天才的頭脳も小学生以下らしい。
「私があと10歳若かったら惚れてたわよ。少年」
クスリと緑はもう一度笑った。




ごめんなさい。卑怯な手を使います。
どうしても長くなったので、仕方なく二つに分けました。
でもどうやって番号つければいいのか悩んだ末に前後編にしました・・・ごめんね。
もし自分のサイトへ持ち帰る方がいらっしゃいましたら、
長くてもオッケイよんって方は1つにまとて掲載してくれちゃって全然かまいません。
単に私が長い話だと飽きて読めなくなってしまう性質だから分けただけです←困った性質ですねホント
そう言うことでグリーン・グリーン二話目終了。
三話目も予定してます。
←まだ書く気だよこいつ