◆◆◆◆◆◆◆グリーン・グリーン3(後編)◆◆◆◆◆◆◆◆◆

山道に入りしばらくしてから車が止まったのは倉庫みたいな所だった。
正確には倉庫に使っていたものと言ったほうがいいのかもしれない。
多分昔は使われていたのだろうその倉庫はみるからにボロかった。
「清香ちゃんの衛生上に悪いわっっ」
いやそんな問題じゃないし。
「そうですよ。あんなに可愛い子が埃にまみれちゃいますっ」
運転手さんあんたまで・・しかも遠目でチラリと見ただけで何を力説してるんだ。

「まあほら、とりあえずこの倉庫には一人しか残らないみたいだし、ラッキーだよね。」
そんなに広い倉庫ではない。
残りの人間は他の仲間(いるのか解らないが)の所にでも行ったのかもしれない。
それかリーダーに進行状況を聞いているのか

「兎に角、今がチャンスなのは確かだね」
いくよ

コナンはそっとタクシーから降りると倉庫の裏手に回った。倉庫の表は外と内の両方から鍵がかかっている。それに扉の開閉には激しい摩擦の音が響くので危険だ。見上げればかなり高い位置に天窓が一つ。
正面を除けば出入り口はそれしかなさそうだった。
少し思案の末、近くの倉庫に潜り込んでロープをゲットした。


小さな天窓を開くと小柄な体を生かしてするりと入り込んだ。手には下から繋がっている縄が抱えられている。それを気付かれないように下へパラリと落とすともう一本持っていた縄を窓枠にくくりつけはしを手にした。

「どうやら親父さんは金を払ってくれるみたいたぜ?よかったなお嬢ちゃん良い親父さんでさ」
「・・・」
ニヤニヤ笑う男に縛られてさらに猿ぐつわをつけられている清香は唯一自由になる目で精一杯の抗議をした。
「まあそうなるとこの時点でお前は用なしになっちまうんだけどな。さてさて。いつもならあいつに任せるんだけど仕方ねーよな今日はあいついねーから俺がやらなきゃ」
パチリと折り畳みナイフを開く。
上から見ていたコナンはそのナイフを見て目を見開いた。
(昨日の犯人が持ってたのと同じメーカーだ・・)
外国製のジャックナイフ。
かなり珍しいものだ。
切れ味は確かで、あまりに危険で世に流通していないというその型。
それを偶然と取るべきか悩むところである。
「まあほら親の愛は解ったしね。なんだったら後で親父さんもあの世に送ってあげるからさ。寂しくないよ」
ニコニコと微笑みながら男はいう。
そっと清香の首をつかむ。
涙目で見上げた清香は天窓の所に立つコナンを視界に止めビックリ眼で凝視した。

「なんだ?なんかいるのか?」
自分を素通りする視線に男は慌てて振り返った。
そこめがけて足が降ってきた。
「うわっ」
「ったたっっっ」
男の上に乗っかるとコナンは慌ててナイフをけりつけ遠ざけた。
「てめっ」
いくらあの高さから落ちたといっても軽い子供の体くらいでは大した衝撃にならず男は即座に立ち上がり殴りかかった。
それをなんとか避けると扉の前へとブチ当たる。
「ダメぇぇぇ逃げてっっっ」
清香の叫び声が聞こえた。
だがコナンはここから逃げる気はない。
ガシャンとさびついた錠を引き抜くと同時に扉が開いた。
向こう側から二人掛かりで開いたのだ。

「重い重すぎるわこれ。なんで油さして置かないのよ」
使わないからだろう。
「無事でしたか。その人が犯人なんですね」
やる気満々の運転手。ぎっくり腰が来そうな歳なんだし大人しくしてたほうがいいんじゃとコナンは思う。
「いいから逃げるよっ」
コナンは呆気にとられて二人を見る清香の手をひっつかむと慌てて倉庫から飛び出した。

それに緑も運転手も走り出す。
手を握られた清香は嬉しそうにコナンに引っ張られるまま走る。
(ははーん。もてもてじゃん少年)
緑は一瞬にしてそれだけ見て取ると意味深な笑みを浮かべた。

タクシーは裏手に止めてある。
すぐに飛び乗って動かせば逃げれるだろう。


だが運の悪い事に残りの二人(どうやらここにもう一人待機していたらしい)が奥の倉庫から出てきてしまったのだ。
「なんだお前ら」
三人掛かりで追いかけられた。
最初に車にたどりついた運転手は慌ててエンジンをかけっぱなしの車を動かせるようにする。
緑が飛び乗り清香が乗ったところでコナンが時間稼ぎの為にまだ遠くにいるのに気が付いた
「いいから行ってっっっ僕なら大丈夫だから。全員捕まったら危険だけど僕一人なら殺されないからっっ」
叫ぶ。
そのうちコナンは捕まり後の二人が車に近づいてきた。
逡巡ののち、運転手はコナンの言葉を信じて車を走らせた。
そう、まずはここから脱出しなければ。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

橘をつけていた快斗は不審な行動を見ることとなる。
まあ彼が怪しいと解っている時点で当然の行動だろうが。
多分仲間と電話をしているのだろう、携帯に向かって笑っていた。
軽く見えない相手にアタッシュケースの箱を掲げてみせて
「うまくいった」
と口もとが動いたのを快斗は見届けてから草に頭をひっこめた。
(うーんコナンちゃんビンゴッッ)
コナンが介入しなければ間違いなく完全犯罪は成立したことだろう。
このまま彼はお金を失敬しておきながら何食わぬ顔で藤堂家へ戻ればいいのだから。
警察に連絡をいれていないのもきっと彼の差し金だな。
そうでなければ今頃ここには刑事の張り込みがわんさかいたはずだ。

橘は辺りを見回した後公園に入り木の陰でなにやらごそごそし出した。
多分お金をケースから取りだし別の袋に移し替えているのだろう。
そして持ってきたお金をコインロッカーにでも預けケースはそこらへんに置いておく。

犯人に指示されたと言えばそれでいいのだ。
後で藤堂がアタッシュケースを発見して中身がないのを知れば犯人が中身だけ持っていったと思うだろう。
あーあー・・執事のおっさん信じた時点でもう手の施しようがないほど罠にはまってるってわけか。

「なんですって!?」
突然橘が携帯に向かって大きな声をあげた。
とても驚く事態が起こったらしい。
「逃げられた?それで?少年を一人だけ。・・・そうですか。」
それはやばい口の中で呟くと橘はしばらく目を閉じたのち、ハキハキと話だした。
「その子は大切に人質として扱いなさい。」
殺してやるっっと意気込む相手に橘はため息をついた。
「バカですねぇ。考えても見なさい。今その子供を亡くして困るのはこちらですよ。何故か?そんな事も解らないのですか。仕方ありませんね。貴方がたは顔を見られていますね。逃げられたというのなら顔写真を作られ、すぐにでも指名手配になるでしょう。マスコミの威力を侮ってはいけません。顔さえばれてしまえば、すぐに捕まります」
じゃあどうすれば・・・
ようやく今のやばい状況を理解した相手に
「まず電話をしなさい」
優しく優しく指示をした。
「警察に連絡すればその子の命はないと。娘の命の恩人を見捨てるわけありませんからね。素晴らしい盾となってくれますよ。次に今すぐ空港へ向かいなさい。私が手配しておきます。本当は明日の便の予約をしていたのですがそちらはキャンセルですね。もったいないことをしてしまいました。とりあえず国外へでてしまえばこちらの勝ちです。それまで人質を放すんじゃありませんよ?あなた方の命綱なんですからね」
電話をきった橘は疲れたように頭を振った。
完璧な筈の計画が崩れた事にきっと焦燥感を感じているのだろう。
そしてクルリと振り返りとりあえず予定通り手荷物を駅のロッカーにでも、と歩き出した矢先そこには見知った少年が立っていた。
目を瞠る橘。
「ちょっとやりすぎたみたいだね」
少年は笑っていたけど笑っていなかった。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「ね・・ねえ。コナン君もの凄くやばいんじゃないの?」
「でもあの子がそう言ったんで・・・」
「戻りましょうっっ江戸川君が殺されちゃうっっ」
「でも・・」
「そうだわ黒羽君っ彼なら何とかできるかも」
その前にコナンを置いて逃げた事に激怒されるかもしれないが。

プルルルル。プルルルル。
さっきコナンに聞いて置いた快斗の携帯へとかける。
『はいはいー』
「ちょっと早くでなさいよ」
『すみませんねぇ』
「とにかく今もの凄く大変なのよーーーーーーー」
『ああ。解ってる。コナンが捕まったみたいだな。』
「え?」
『俺、今橘さんの前にいるわけよ。んで橘さんが電話で会話してたの聞いちゃった。』
「戻ったほうがいいよねっっ」
『いや。戻らなくていい。っていうか逃げて正解。コナンは殺されないよ。少なくとも国内にいる間はね』
「え?」
『とりあえずすぐに警察に連絡してくれます?空港に警備が欲しいと』
「え・・ええ。あっそれはすでにコナン君が連絡してたわ。今頃配置について犯人待ちかまえてる頃だと思う」
『さすがコナンちゃん。先を読む男だねぇ。じゃああなた方はとりあえず藤堂の家にでも行っておいて下さい。俺はちょっと野暮用がありますんで』
なんの?
と聞けない迫力が声にあった。
「・・わかったわ」
緑はそれだけいうと携帯を切り、ほっと胸をなで下ろした。
電話越しでよかった。
もし目の前に快斗がいたら怖くて会話なんて交わせなかっただろう。それ程に快斗の声音は怖ろしかった。
(何?野暮用って。もしかして橘さんとか言う人を絞める気?そのまま殺しちゃったりしないわよね?)
そんな心配をしてしまうくらいに快斗の声は怒っていた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「さて。まあそんな訳です」
パタンと携帯を閉じ胸ポケットにしまった少年の髪を強い風がからかうように揺らした。
橘は知っている。
この少年の事を。
親ばかな藤堂の為にあの三人の男を調べたのは彼だから。

「たしか黒羽・・・快斗君。でしたよね。何故ここへ?」
彼は確かあの三人の中で一番平凡な人間だったはずだ。
顔も普通より程々によく、だが白馬探という男には敵わない程度。
頭も程々によく、だが委員長と呼ばれていた小暮庸司には敵わない。
もしここに居たのが白馬ならば橘もここまで驚きはしなかっただろう。
白馬は確か探偵なのだから。
もし小暮がいたとしてもそこまで驚かなかったかもしれない。学年1良い頭脳で自分の事を見抜いたのだろうと思っただけだろう。
なら何故彼がここへ?

「少々頼まれまして」
片方の眉を器用に上げると小さく微笑む。
やくざに囲まれて生きてきた橘の背筋がヒヤリと冷えた。
(たかが一介の子供に何びびってるんだっ)
それでも橘の体は勝手に微かに震え出す。
恐怖が彼を襲った。
目の前の少年は一体何者だというのだ?

「だ・・だれにだ?」
「俺の相方にですよ。とてもとても大切な人です。」

そう返事をすると、パチリと指を鳴らした。
その瞬間橘が持っていた札束入りの袋が風にさらわれた。
あっと叫ぶまもなく口が開き中の大量のお札がイタズラな風に舞った。

橘は慌てて取り戻そうと手を伸ばしたが風は器用に手を避けお札を空へと運んでいく。
そうしてようやく一枚を手にした橘は目を見開いた。
「おもちゃ?」
さっき移し替えた時は確かに本物だったのに。今はいつの間にやら子供銀行発行の紙切れに変身していた。
「驚きました?」
「貴方の仕業ですか?」
だが自分が常に持っていたのにそんな事が可能なのだろうか?半信半疑で尋ねた。
「そうですね。私の仕業といえばそうかもしれませんが・・・天の裁きかもしれませんよ」
クスと意地の悪い顔を見せる。
さっきまでと明らかに少年は違っていた。
その言葉遣いも。
その表情も。
放つ空気まで。
「あなたがどんな罪を犯そうと私は関係ないのですよ。気にもとめません。ですが・・・貴方は運悪く私の逆鱗に触れてしまった。」
スイと手を伸ばし人差し指と中指で未だ優雅に空を舞う紙切れを一枚挟んだ。
それを彼が軽く振ると何と言うことだろうか
「ほんものだ・・・」
橘は呆然と呟いた。
もう何がなにやら解らない。
「あなたがおもちゃだと思っている紙は実は本物かもしれませんね」
次々に彼の手の中で本物に生まれ変わる紙を橘は朦朧とした意識で見つめていた。
「おやすみなさい」
彼の呟きと共に橘の意識はプツリととぎれた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

すでに警備は万全の空港を見て彼らは頭を抱えた。
こんな時の頼みの綱のリーダーは何故か携帯に出ない。
「何で警察に連絡してやがんだー」
「おーいーーどうすんだよっこーゆー場合っ」
「やっぱ人質盾にすんのが一般的なんじゃねー?」
一人がそう言い、二人はなるほどと頷いた。
まあ確かにそれが一番いい手だろう。
だが一般的というのは使い道が違うのでは・・コナンは秘かに心の中で突っ込んでいた。

彼らの思惑以上に人質効果は抜群で、警察はおろか一般の市民すらも道を空けてくれる。
「おーおー気持ちいーー」
「リーダーの言うとおりにして正解だったな」
「今でもこのくそガキは殺してやりたいけどな」
「まあまて、今はまだダメだ。そんな事したらすぐにでも警察がなだれこんでくるぞ」
「後でな」
「解った解った。それにあいつにも結局連絡取れなかったしな。」
「一体何やってんだあいつは?」
「なんか写真撮られたから殺しに行って来るとか言ってたけど?」
「ああ。最近機嫌わるかったのはそのせいか。あいつに狙われちゃあおしまいだな。可哀想に」
「俺もあいつだけは敵にまわしたくねーや。」
「あはは。全く全く。まあいい加減強盗も飽きたしな。向こう行ってパーーッと大きな事やらかそうぜ」
「だな。そろそろ警察の目もやばくなってきたしな。リーダーもうるさいし」
「ホント。うるせーうるせー。まああの人がいなかったら俺らなんてすぐに捕まってただろうけどな」
あはははは。
三人は何が楽しいのか笑いだす。

三人は先ほど気絶させて置いたコナンを片手に空港の中を堂々と歩いていた。
見事なマイペースぶりである。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「それでコナン君は一体どうなったんですか?」
息混んで聞く白馬に緑は一から説明を始める。その
後で父は娘にこっぴどく叱られ小さくなっていた。
「では彼らが昨日の犯人の仲間だと?」
「うんコナン君の話ではその可能性が高い・・みたいなこと刑事さんに言ってた。」
昨日の犯人がようやく自白したらしい。
仲間は今頃どこかのお嬢様の誘拐してるぜ・・と。
それでコナンが目暮警部に電話をかけた時丁度その話題が出て「もしかすると」と言うことだったようだ。
「もちろん誘拐事件なんていくらでも多発しているわけですからそうとは限らないでしょうが、偶然の一致とというのはあり得ることです。」
そこまで言って白馬はなるほどと頷いた。
「だから彼は大丈夫と言ったんですね」
「え?」
「彼らがもし強盗殺人の犯人ならばコナン君を殺したりしません」
「何で?」
「彼らは現場に今まで一つも証拠を残してません。それはとても頭の切れる人物がいるということ。ならば彼らはコナン君を殺したりしません。コナン君は彼らにとって大切な盾だと言うことに気付く筈だからです。さすがですねコナン君はあの状況下でそこまできちんと計算していた。」
「?」
良く分からないと首をかしげる緑。
それにまあいいです、と頷くと白馬言った。
「今すぐに僕たちも空港に向かいましょうっっ」
自分が関わった事件であることと、コナンが人質になっていることそれが白馬を燃えさせたらしい。
「青子も行くーー。いっちゃんも行こっ」
「ええ」
「僕も行こうかな。」
見学にと付け足しそうな委員長に緑と清香が睨み付けたが何処吹く風。気にした様子もなく委員長は立ち上がった。

「わっっワシも行くぞ」
親父が言った。全員の白い目がつきささり、さすがに親父も縮こまる。
「く・・車を出すから全員乗るといい」
「そのくらい当然ね。」
清香がビシリと言った。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「飛行機離陸まで後30分か」
機内の三人は時計をチラリと見た。
警察は空港内から遠ざけてある。
もちろん私服の刑事を使われてしまえばどうしようもないが、少なくとも最初より人数は減った筈だ。


確かに人質がいなければすぐにとっ捕まっていたなと橘に感謝する
「こいつ向こうまで連れていくのか?」
「まあどーでもいいけど」

『すみませんが三人とも降りて来てもらえますか』
そこへ突然機内放送がかかった。
「リーダー?」
ガタリと三人が立ち上がる。
周りの乗客がビクビクと三人を見つめたが気にしない。
『急いでください時間がないんです』
ドウイウコトダ?
三人はとりあえず急いで飛行機から降りるため走り出した。
リーダーがあそこまでせっぱ詰まった声をだしたのだ何か大事が起こったのだろう。
飛行機から降り辺りを見回す。

「彼を人質にした時点であなた方の選択は失敗しましたね」
「リーダー?」
違うと解っていながらも思わずそう口にし男は振り返った。
そこにはそこらのモデルが裸足で逃げ出しそうなほど整ったボディーそして見た者の視線を独り占めするほどの美しい顔をもった少年が一人立っていた。
ようするに怖ろしいほどの美形と言うことだ。
陶器のように白い頬がすこし赤みがかっているのは此処まで走ってきたからだろうか?

いつもならヒマワリのごとき暖かな空気を醸し出す彼が今は触れたら切れそうな刃物のような空気を発していた。
遠くで見ていた白馬が
(黒羽君・・お気を確かに)←ちょっと違う
と暴走しないことをひたすら祈るほどだ

「残念ですねぇ橘さんなら刑事さんと仲良く最近の強盗事件についておしゃべりしている頃だと思いますよ」
あくまで無表情。
「お・・お前これが見えねーのか」
意識を失っているコナンの首もとにナイフを当てる。
「見えますよ。・・で?」
それがどうかしましたか?
心底不思議そうに尋ねられ彼らは背筋を冷やした。
こいつは危険。
そう第6感が告げたのかもしれない。

震える手がナイフを引いてしまった。
コナンの首筋に一筋の線が出きる。
血が出るほどではないにしろ後で痛むだろう。

それを見て快斗は目を細めた。
「・・・・・・コナン。もういいぞ」

今までぐったり気絶していたコナンがムクリと起きあがった。
そして温存していた麻酔銃を打ち込む。
自分を抱えていた男がグラリと倒れるとそこから素早く抜け出し快斗の後へと回った。
「おせーよテメー」
「悪い悪い。ちょっと橘さん運ぶのに時間かかっちゃった」
何が起こったのか解らないのは残りの二人である。
突然人質が起きあがったと思ったら仲間が倒れた。
「なにしやがったっっ」
「さあねぇ」
しれっと快斗が答える。
「まあ人質も居ないことだし?これで安心して手をだせるね」
橘は眠らせてから数発蹴りいれといたけどまだ暴れたりねー
ぶっそうな事を呟くと快斗は男の目の前まで移動した。
あまりの早さに男は快斗のこぶしが腹にめり込んだ瞬間もまだ呆然と快斗の綺麗な顔を見つめていた。
こういう事態に慣れている白馬でも残像すら捕らえられなかった快斗の動きに戦慄する。

「いてて」
ちょっと切れた首の傷を触るとコナンは弱い物苛めをしているとしか思えない快斗を見つめた。
相手がナイフを手にしようが快斗は怯まない。
邪魔だとばかりにナイフを叩き落としコナンの方へとけっ飛ばす。
それを丁寧にハンカチに来るんで拾い上げるコナン。
どさくさに紛れて麻酔銃で寝ている男まで踏んだり蹴ったりしているのはわざとなのだろう。
一欠片の容赦もなく繰り出されるパンチやらキックはきっと一撃で意識を失うほどに重いもので、だが器用に急所を外し気絶をさせないでいる快斗にコナンはため息をついた。

「おーい。誰か止めてやれよ」
思わず呟いてしまう事態である。
「あいにく僕は利き腕を怪我してまして・・」
「だよね」
近くまでやってきた白馬が自分の右手を指さしすまなそうに言う。
あの乱闘に入ったら間違いなく傷口がぱっくり開く事だろう。
更に後からやってきた委員長にコナンが目をやる。
「あっ悪いけど僕はあんな凶悪な人間の前に出たくないから」
実にもっともな意見をだった。
背後を振り返れば未だ蹴りを入れている凶悪犯・・・もとい高校生が一人。
見守る誰もが犯人の命を案じたことだろう。犯人に同情したことだろう。

「警察がきたら真っ先にしょっ引かれるのはあいつだな」
委員長が誰もが思っていながら言わなかった事実を述べた

「・・・」
仕方ない吹っ飛ばされる覚悟でコナンが近寄る。
その横を一陣の風が通り抜けた。

「はっ」
気合い一撃。
誰かが吹き飛んだなと思ったらそれは今まで暴走を続けていた男だった。だが幸いなことに人々の視線は少年がもといた位置に仁王立ちする存在へと注がれていたため少年の無様な姿は大々的には晒されなかった。

「は・・・・」
「え?」
呆気にとられたものが多いだろう。
口をポカンとあけそこに立つ人物を見つめる
「嘘だろ?」
コナンもそんな言葉を呟いた。

そんな中歓喜の笑みを浮かべた人が一人ばかしいた。
「いっちゃーーーーーん♪かっこいーーーーーーー」
そう言うことだ。
注目の人物は長い髪を後に払い軽く手をあげた
「ありがとう青ちゃん」
そう言うことだ。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「うわー結局俺かっこわるーーー」
「俺なんかもっと出番ないぞ」
「まあまあ二人とも。結局世の中は女性が強いと言うことですよ」
不服そうな二人を白馬がなだめた。

警察にこっぴどく叱られたのはコナンと緑と運転手さんと藤堂の親父さんのみ。
他はたんなる被害者だ。
快斗のは正当防衛が認められたらしい(どう見ても過剰だったが相手がナイフを取りだしたため認められたという)
家には連絡しないでという涙ながらのコナンの言葉は却下されもうすぐ毛利小五郎がコナンを迎えに怒鳴り込んでくること間違いなし。
「ああ・・・気が重い」
「まあ仕方ないよねーおじさんも蘭ちゃんもめちゃくちゃコナンのこと可愛がってるし。」
「ありがたいとは思ってるよ。でもなー。」
「ちょっと愛情が辛いのってか?」
「ちゃかしてる場合じゃねー。俺は多分何日か家から出してもらえなくなるぞ。」
「・・・だろうね。そんな気がする。」
「どうすればいいんだ?」
「・・・」
「こんな時ぐらいその天才的な頭脳を回転させて良い知恵絞りだせよっ」
「んな殺生なっっ」
「マジやばいんだよっ。このままじゃ。俺明後日どうしても本屋に行かなきゃいけねーのに」
「・・・・・・・・・・・それだけ?」
「あ?別に学校はどうでもいいんだよ。明後日発売の本が読めなくなるのが一番の問題だろ?死活問題だっっ」
嘘だ。どこが死活なんだか
「じゃあ僕が買って届けましょうか?」
「え♪」
目がきらきら輝いた。
そのくらい天才的頭脳を持って無くても思いつくだろう。
「探お兄ちゃん大好きっっっ」
「えぇぇぇ!!!」
たかがその程度でそんな嬉しいお言葉が頂けちゃうのですかぁぁ?
快斗は白馬を睨み付ける。
「俺が買って持ってくからお前はいらないっっ」
「なんだよ快斗お前は向こういってろっ」
「ひどいコナンちゃん。俺にはないの?大好きっって」
「ねーな。っむしろしばらく俺の目の前から消えててくれ」
「うわっ傷ついた。俺の心はバラバラよ」
「お前が関わってくるとなんか事件が寄ってくる」

「「・・・・」」

快斗と白馬が顔を見合わせた。

それは貴方の事件体質のせいなのでは・・・

「全く困るよなーなんで俺が快斗のせいでこんなしょっちゅう事件に巻き込まれなきゃなんねーんだ。理不尽だ全くーーー」
理不尽なのはこちらなのですが。
快斗はうっうっと口元を押さえた。
それを何となくなだめるように白馬が快斗の肩を叩いてやる。
「黒羽君。頑張って下さい。世を儚んではいけませんよ?きっと明日は良いことがありますから」
「・・・」

明日も事件に巻き込まれたりして。
そう口にしようと思ったが現実になりそうなので止めておいた。

「ちなみにあの写真は結局この三人のうち誰を撮ったんだ?」
ずっと気になっていたのだろう親父の言葉に清香はそっと快斗を指さした。
「ええええっ」
誤解よ誤解なのよとコナンに言い訳をする快斗をよそに清香は
「だってこの人江戸川君に似てたから・・。将来こういう顔になるのかなーっと思ったら・・・つい」
「え・・・江戸川君というのは誰かな?」
親父がひくひく頬を引きつらせながら言った。

「この人よ。でも彼に手を出したら一生口聞いてあげないからねっ」
ガガーーン
衝撃の事実である。
コナンも清香に腕を掴まれたままピキリと固まっていた。
「そ・・それじゃあなにか?俺達の写真はただのめくらまし?」
「そうとも言うわね。役に立ってくれてありがとう」
「なんかお礼言われてるのに全然嬉しくないや」

快斗はまたもやうっうっと口元を押さえた。
先ほどと同じようになだめるように白馬が快斗の肩を叩いてやる。
「黒羽君。頑張って下さい。世を儚んではいけませんよ?きっと明日は〜以下略です」
「・・・」

同じ事を何度も言う気がない手抜きの白馬に快斗はちょっぴり世を儚んだ。

そんな彼らをよそに委員長は思いだしたかのように口を開いた。
「しっかし市村には驚いたなー」
「そう?でも黒羽君油断してたから効果あっただけで次はきっと無理よ?」
謙遜するように言う市村。だがそれは事実である。
気配で気づき、クラスメートに手を出してはいけないと快斗は躊躇したが、もし次回同じ事態に陥れば迷い無く市村を吹き飛ばすことだろう。
「いっちゃんはねー合気道の段持ちなんだよーっまえ青子が不良に絡まれてるところ助けてくれたの」
「なるほど。だから二人はそんなに仲がいいのか」
大人しいだけと思っていた市村だがそんな技を持っていたとは
「世の中ぶっそうだからね。清香ちゃんも何か習ってみたらどうかな?」
市村水鳥の言葉に清香は目を輝かせて言った
「お姉さまと同じの習いたいっっ」
「お・・ねえさま!?」
市村はちょっと驚いた顔を見せる。
更には
「私も私もっっ水鳥ちゃんだっけ?ファンだわー強い女性って素敵よねっ私も合気道習いたーーーい」
緑までもが調子にのって手を挙げる。

「まあでしたら二人で一緒に通いましょうっ」
「いいわねー清香ちゃん。」
「どうするのいっちゃん?」
「ふふ。まあいいけどね。うちの道場はやる気のある生徒は大歓迎よ」

ようこそ市村道場へ市村道場の跡取り娘はニッコリ商売の笑みを見せた。

誰が言ったか大人しい生徒、市村水鳥。
こんなに商魂魂を持った人間を知らないと快斗とコナンは思った。




おわり

えー。長らくおつき合い下さいましてありがとうございました。
五万ヒット記念小説はこれで完結です。
どことなく中途半端に見えても完結です(笑)
グリーン・グリーンの由来もほら完璧。"みどりさん"が二人!!!
↑思い切り後からこじつけただけのくせになに威張ってる
緑さんと。水鳥ちゃん。出番はもう無いかなぁ。

兎に角グリーン・グリーン3はかなり難産でした。
なんかどんどんつまらない話になってきて、こんなん持ち帰りにしてええんかーーー
とか思いつつアップしてます。←おい
とりあえずなんとか完成してよかった(涙)
終わらないかと思ったよぉ
それではこんな物でもお楽しみ頂けたら幸いです。
5万ヒットありがとうございました。