出会い〜ホームズをこよなく愛する男〜

それは二人の出会い

「おっ珍しいぃー東の探偵が載ってるぜ」
本屋の雑誌コーナーを背に俺は新刊の文庫をチェックしていた

そのときそんな声が聞こえてしまったのだ
思わず振り返ってしまったのは己の不覚。
だが振り向きついでに揶揄るような口調でそんなことを言った少年の顔だけは
しっかり目に納めておいた。
「どれどれ?」
隣で別の雑誌を立ち読みしていた少年が声につられてのぞき込む
「な?」
「あーほんとだ。懐かしいねー」
年は元の俺と同じくらいだろうか。
高校生らしき二人の少年が雑誌に気を取られている間にようやく俺は顔を戻した。

これ以上聞いても腹が立つだけだろうしな


小学生の外見に似合わぬため息一つ
ああ、一つ幸せが逃げた


「最近出てこなくなったもんなー。売れなくなったのかなこいつ」
「売れる売れないって芸能人じゃないんだから」
失礼なことをいう少年にのぞき込んでいる少年が苦笑でつっこむ
そうだっそれに別に雑誌に載るために探偵やってるわけじゃないっ
それに今だって人気者だっ
工藤新一の名を知らないやつは都内ではもぐりだっっっっ


心の中で叫ぶ
ぐぅぅ退散するタイミングを誤ったようだ
うっかり聞いてしまわなければ気にもならなかったのに

「でもさー雑誌にもテレビにも新聞にも出なくなったじゃん?ってことはこいつ探偵業やめたんじゃねーの?
やっぱ天才は20歳には凡人になるんだよなー」
「工藤新一は俺たちと同じ年だろうがっ」
「じゃ、突発的な才能の枯渇だな。そんで突然ひらめかなくなったっっ」
あははと人ごとのように(人ごとだもんな)笑う背後の少年を殴り倒したかった。
だれが枯渇だーーーー
だれがひらめかないだーーー
だれが探偵業やめたってーーーーー


ここまで神経を逆撫でするやつも珍しい
今もバリバリ現役で活躍している俺になんたる侮辱っ
そりゃー名前は出てないけどさ。
全部毛利のおっちゃんの手柄になってるけどさぁぁぁぁ
悔しくてたまらない
「なんか事情でもあるんじゃないの?探偵って職業は危険だって言うし」
「そぉかぁ?」
ああっナイスフォローをあっさり流さないでほしい
「そうだってきっと。お前だって騒がれてる時はファンだって言ってたじゃねーか」
「いやーだってけなすと女子が怒るし」
「ノリかっ」
「悪いかっっ」
小競り合いめいた問答が少し続いた後
もう一度雑誌をみて
さっき俺のフォローを必死でしてくれた良いやつがしみじみとつぶやいた。


「いやーでもさーやっぱ相変わらず工藤新一かっこいいねー」

そりゃどうも
男にほめられても嬉かないけど
だがおまえは良いやつだ。
やっぱり良いやつだ。
世の中にはまだこんなに良いやつもいるんだなと幸せ(?)を噛みしめていた時
むかつく男が良いやつの頭をどついた。

「黒羽・・おまえが言うなっ」
「えーっだってほら。相変わらずおれそっくりじゃん?」
あはは。見てみてと雑誌を自分の顔の横に掲げる気配

なぬ?
またもや思わず振り返ってしまった
いや、それは俺だけに限らず周りの聞くとはなしに会話を聞いてしまった人々すべてが
少年に注目していた


キャッ
近場で女の子の黄色い声があがる
息をのむ声
それに

バサササ
持っていた大量の本(購入予定)を足下へ落下させてしまった
自分の音・・・・・



く・・・・クリソツ

俺がここにいる

ってくらいに


「なーんちゃって」
「なんちゃってじゃねーー。めちゃくちゃ注目あびてるじゃねーか」
「えーー。俺のせい?」
「おまえのせいだ完璧にっ」
「おかしいなぁ」
プクプクと頬をふくらませ
それから
「ま、いいじゃん?」

それですませやがった


更にはこんなに注目の的の中平然と雑誌を読み続けるその根性
尊敬に値するよマジで

「あっ見ろよ黒羽。次のページ、ルパン対ホームズだってよ。平成の怪盗にどう立ち向かうって
言われても本人いないしなー」
「あはは。そりゃーどうもこうもないよね。でもほら、結果なんて決まってるじゃない?」
まぁそりゃーそうだよな?
ルパンとホームズだぜ?
そうなりゃ当然



「とーっぜんルパンの大勝利♪ホームズなんかちょちょいのちょいっってね」

「そういうと思ったぜ黒羽」
友人はあきれた顔で笑った




だが俺はそういう訳にはいかない


敵っっ


敵がいます


尊敬するシャーロック・ホームズよっっ
ここにあなたの、ひいては俺の敵がいますっっっっっ


自分の援護をしてくれたことなんて薄い紙っぺらのように吹き飛んだ
自分がけなされるより
ホームズを馬鹿にされることをいたく嫌う男
江戸川コナン・・・元工藤新一(いや今もだけど)。


『てめーだけはぜってーーーに許さねーーークロバめっっ今にみていろっっ!!』


戦いの火蓋は今切って落とされた

ただし限りなく一方通行だが



おわり

二部作でっす。
次の話は当然相方です。
相変わらずくだらなくてすみません。
縁真より