5万ヒット記念
黒と白の学校生活


「おはよう」
から始まって
「さようなら」
で終わる学校生活。
俺が穏やかだと感じる生活の一部。
捜し物が見つからなくてささくれだった心を癒してくれる暖かな場所。

ホントに最近まではそう思ってた。


あくびをする。
「昨日は遅くまで大変でしたから眠いでしょう?」
白馬が嫌みったらしく言ってくる。
「何の話だ?俺は早く寝過ぎてねみーんだよっ」
「そうですか。まあいいですけど」
受け流しても受け流しても何度でも挑んでくるロンドンからやってきた(帰ってきたって言うべきなのかもしんねーけど俺にはやってきたとしか思えねーな)探偵。
スマートな外見と裏腹にかーなーり〜しつこいっ。

「お前なぁ。いい加減うっとーしーってーの」
「本当の事を言って貰うまではつきまとう気ですよ?」
「だ〜か〜らぁ俺はあの大怪盗様とは縁もゆかりもございませんっつーとるだろーがっ」
「・・・・信じられませんね」
「はぁぁぁぁぁ」
大きく大きくため息をつく。
っていうかさーこれって無理矢理言わせる作戦か?
魔女裁判かおいっ魔女ならあそこにいるぞっっのしつけて押しつけてやるぞ?

だいたい俺が『実は俺怪盗KIDなんだ』と言ったらさっさと去ってくれるっつーのか?違うだろ?
そう言えばそう言ったで更に攻撃は増す。
なんか無駄なあがきしてる気分・・・。

打っても蹴っても踏みつけても起きあがってくる敵ほどやっかいな者はない。

「おめーと話してると疲れてくるぜ」
「僕は楽しいですけど?」
キョトンと首を傾げられた。
そーですかぁぁあそれはよかったですねぇぇぇぇ



学校という組織。
僕はそれがあまり好きではない。
それは今も変わらない。
時間になったら席につく。知ってる授業でも大人しく聞かなければならない。
無駄と知りつつ一時間イスに縛り付けられる。
もったいない時間だと感じる。
それが嫌で大検を受けようと思った時期もあった。
向こうにいるときスキップしても良かったのだけど探偵業の合間にそれは難しく、
とりあえず無難に進級するのが精一杯だった。
だから今こうして学校という組織に所属しているのだ。

向こうと違いまだこちらでは名が売れてない為か、依頼は少ない。
警察関係の知り合いも少ない為、現場に行っても居心地が悪い。
たまに毛利探偵とバッタリ出くわしたりすると一緒に付いてくる小さな子供とホームズ談義なんか出来て楽しい思いもするけれど、大体に置いて神経が疲れてしまう。


今のオアシスは以前の僕からは考えられない事だが、学校という生活だった。
ロンドンにいるときもそれなりに友人はいたし、頭の切れる教授達と会話をするのもとても楽しかった。
でも今ほどではない。
この緊張感。この心躍る時間を僕はいつの間にか楽しく感じていた。
「黒羽君」
呼ぶたびに嫌そうな顔を見せる彼。
彼がKIDだと疑っていた。
今ももちろん疑いを解いたわけではない。
ただ、それがどうでも良いことになりつつあるだけだ。
最初の頃は『怪盗KIDかもしれない』黒羽快斗が気になっていた。
でも今は『黒羽快斗』という人間が気になるのだ。
その人間がもしかするとKIDかもしれない。ただそれだけのこと。

それでも会話のイトが掴めないためついKIDの話をネタに会話をしようなんて思ってしまう。
それが彼の機嫌をよけいに損ねると解っていながら。

「お前ないい加減にしろよっ」
何度もどなられた。 
何度もため息をつかれた。
それでも彼へのつきない興味の為近づく。
迷惑だと知りつつも。


「そう言えば黒羽君もうすぐ誕生日ですね。何か欲しいものありますか?」
「んあ?」
机につっぷしていた黒羽君がピクリと反応した。
きっと夜の仕事で疲れているのだろう。(すでに決めつけている)
そう思いそっとしておきたい気持ちもあったがつい口を出してしまった。
「なんだよおメーにプレゼント貰うなんておっそろしーことしたくないぜ俺は」
「?怖ろしい?別に怖いもの送るつもりなんてありませんけど」
「・・・っつーか男にプレゼントもらっても気色わりーだけだろ?」
「・・・・・この間コナン君にねだっていたじゃありませんか」
「あいつは別っっ」
即答されてしまった。
相変わらず黒羽君はコナン君だけ特別扱いみたいだ。
いつの間に知り合ったのか・・も気になるけれど、何故そこまで気があったのかがとても気になる。それ程に二人はよく一緒にいる(正確には黒羽君が引っ付いているみたいだけれど)。
ほぼ対等に会話を交わし、互いを認めあっているように見えた。
黒羽君は何故コナン君には気を許すんでしょうね。僕にはこんなに失礼な態度とるのに。
KIDの名を連呼しすぎたせいでしょうか?

「別に良いじゃないですか男からのプレゼントでも。物に罪はないわけですし」
「どーゆー理屈だ。」
「欲しい物っないんですか?」
「あーうるせぇぇ・・ったくよー欲しい物・・・ねぇ」
根負けしたのか、これ見よがしに盛大なため息を一つ付くと黒羽君は顎に手をやりフッと遠くに視線をやった。
まるで一瞬にして意識が遙か遠くへ吹き飛んだかのような彼に僕は肩をひっつかんで揺さぶりたい衝動にかられた。
「黒・・羽・・・・・くん?」
「そうだな。二つ欲しいものがある。一つはいつか手に入れる予定のもの。一つはいつかこの世から抹殺したいもの。どっちも一朝一夕じゃあ手に入らねー。」
「・・・前者は解るとしてもう一つのはなんですか?抹殺?もしかして思い出したくないくらい恥ずかしい写真とか0点の答案とか・・あとはー昔書いたラブレターとかですか?」

「・・・」
「なんですかその目は」
「いや。お前ラブレター書いたのかなーと思って」
「書いたらいけないんですかっ」
昔の話だ。ピュアな頃の思い出は恥ずかしくてしかたない。
「へーーほーーーそれは確かに見つけだして抹殺しちゃいたいよなー解る解る」
「僕は違いますっっ。それにすでにあれは破って捨てて―――――あっっっ」
ニヤニヤ笑いを見せる黒羽君に見事に口を滑らせてしまった自分。

「振られたんだな」
あっさり確信を突かれた。
「・・・・・・・」
「お前でも振られるんだなー俺ビックリよぅ」
「・・小さな頃の話ですっ。」
「俺生まれてからこの方振られた事ないもーーん」
「コナン君に邪険にされているのは?」
「・・・・・・・」
単にささやかな抵抗としてコナン君を持ち出しただけなのに黒羽君は見事に黙ってしまった。
あれ?
「なんでそこでショックを受けるんですか黒羽君」
「いや・・そうだよな。お前解って言ってるわけじゃねーんだよな。はは・・サラリと痛いとこ突いてきやがるぜ。」
「え?」
「いいんだほっといてくれ。俺は傷心なのよぅぅぅ」
胸を押さえエグエグ泣き出す黒羽君。
何事ですか・・・






さっき白馬に実にじーーーつーーーにぃぃぃ痛い部分を突かれた。
痛かった。
本人に自覚がないだけによけいに胸にきた。
そうさ昨日だってコナンちゃんにつれなくされたさ。
ふられっぱなしの人生よぅぅぅう(涙)

机に頬をぺったりくっつけやる気なさげに授業に耳を傾ける。
この時間は眠い。
俺は一日のうちで2時間目と5時間目が一番眠くなる。
5時間目は解るけどなんで2時間目なんだろーなー。
今日は運良く2時間目が世界史だから寝てても文句言われない。
うーん幸せぇ。

・・と思ったら

「黒羽っお前なーいい加減毎時間毎時間俺の授業に寝るのはやめろっ」
「うーへー?なんでぇいつも文句言わないじゃーーーーーーん。タケやんのけっちーーー」
「誰がタケやんだっっ誰が」
コンコンと机を指で叩かれたがこのくらいご愛敬。
「だって皆タケやーーんって呼んでるもーん。俺だけじゃないもーーん」
「その皆が呼んでいるあだ名を広めたのは一体だれだぁぁぁっっ!!!」
「えー誰だろうねぇ?」
「とぼけんなよっ黒羽。ネタは上がってんだ。おらおら白状しなっ」
「センセーっっっギブギブっっ」
頬を両側から引っ張られ机をバンバン叩くとようやく離してもらえた。
若いねぇタケやんったら。もうすぐ30後半だっちゅーのに若々しいよホント。

しっかしなーちくしょー一体誰がもらしやがったんだ?青子か?木内?それとも委員長?まっさかねぇ
笑いの渦に巻き込まれ俺は周りを見渡した。
だ〜れ〜だぁぁぁぁぁ

「あ・・すみません。もしかして言ってはいけなかったんですか?」
そこへ背後からあっさり自白してきやがった奴が一名。
・・・・

てメーかっっ


「白馬ぁぁぁぁぁぁお前ぇぇぇ」
「え?え?だってこの間自慢気に話していたから言ってもいいんだとばっかり・・違うんですか?」
この状況を見て何故そんな事が言えるんだこいつは?
文句つけるのもバカらしくなってくてガクリとうなだれた。
「黒羽・・天然は世界最強と相場が決まっているんだよ」
世界史の先生のお言葉はとてもとても胸にしみました。