5万ヒット記念
科学者と探偵のスクールライフ

眠かった。
信じらんないくらいに眠かった。


「あーちくしょっ」
あのバカっっ
机にひじを突いて悪態をつく。
小声の為誰にも聞きとがめられる事がなかったのは幸い。
今は授業中。
教わる必要のない足し算を勉強している最中なのだ。
あくびが出ても仕方ないだろう?

『意外に小学校の授業というものは奥が深いわよ?』
なんて楽しげに授業を受けているどこかの科学者とは違い、とても楽しめる気にはなれない。

ふわぁぁぁ・・・

大きなあくびを一つ。

「江戸川君」
黒板から振り返った担任が大口を開ける俺を指さした。
「はい」
「眠いなら寝なさい」
「・・・は?」
「いいのよ。先生の授業つまんないんでしょ?寝たいなら寝ればいいのよ。しくしく・・」
明らかに泣き真似と解る行動をされ俺は困った。
あれが嘘だと見抜いているのはどうせ自分と灰原哀くらいだろう。
ここで「嘘泣きなんか通じませんよー」なんて言って見よう物ならきっと非難ゴーゴーだろう。

「ごめんなさい先生。えーっとえーっと・・先生の授業とっても楽しいよ」
「しくしく。いいのよお世辞なんて言わなくても。どうせ私の授業なんて教科書通りなんだわ」
「・・・」
俺にどうしろと?
思わず救いを求めて後を振り返ってしまった。
白い目がつきささる。
いたい・・・

その中に灰原の笑った目を見つけクチパクでヘルプコールを送ってみた。
だが口の端を軽くあげるだけで彼女がなんとかする気は全くなさげだった。
それどころかこの状況をとても楽しんでいる。
こんな時どうすればいいのかなんて習った事かあるはずもなく、必至で俺は考えた。
考えて考えて考えたあげく―――――


「あっ僕廊下に立ってようか?」
「え?」
突然の言葉に今度は担任のほうが驚いた。
「ほらっ遅刻した罰とかで水入れたバケツもって廊下に立つって言うじゃない?」
「実際やっている人って今時いないわね。」
「そうそう。僕一度やって見たかったんだよね」
以前快斗が遅刻連続一週間記念にやったと聞いて快斗の高校ってそういうところなんだと思っていた。
残念ながら今時の高校でそんな事はしない。
もちろん快斗の通う高校だって普通はしない。
ただ快斗自身が提案して勝手に実行したらしい。
両手にバケツを持って1時間。『結構楽だったなー』と言っていた。
それを聞いて以来一度やってみたかったのだ。

それなら今がチャンスなのでは。
なんでか俺の頭にそんな事がよぎる。


「しても良いけど・・・それって体罰になるんじゃないかしら」
「ならないって。だって自分からやるんだもん。大丈夫だよ。ねーやって見てもいい?」
担任は頬に手をやり数瞬悩む。
それを見て少年が一人手を挙げた。

「あっあっ俺もやりたいっっ」
元太だ。
たんなる好奇心だろう。
「歩美もやってみたーーい」
何かを勘違いしているのだろうかワクワクと歩美ちゃんまで手をあげる。
「そうですね。僕も一度体験してみたいと思っていたんですよ」
光彦まで・・・
更にはクラスの子供達が俺も私もと我先に手を挙げていく。
なんだか訳が分からなくなってきた。

そして


バケツが足りないから却下


そんな判決が下され俺の小さな楽しみは奪われた。
ちぇっ。一度やって見たかったのになー
眠気も覚めて一石二鳥って思ったのに。
そんな事を思ってブスくれていた俺に灰原はのたまった

「良かったわね。」
「何がだよ」


「話題がそれたことよ」

いつの間にか話題をすり替えられた事に担任はおろかすり替えた自分自身気付いていなかった(笑)
いやーラッキーラッキー。
「それにバケツ持って立つですって?あなたの体力でそんなこと出来ると思っているの?」
辛辣なお言葉まで頂いてしまった。
「出来ねー・・かな?」
「持って10分ね。水が入っているのよ?空のバケツならまだしも」
空のバケツもって立っても意味ねーじゃん。
でも水入れたバケツってよく考えたら重いよな。
水場から教室まで運ぶのにも一苦労なのにそれ持って一時間ってそりゃ体罰だよなー
単に快斗が体力バカだってだけか。


「良かったわね。話題がそれた上にバケツ持ちがお流れになって」
「確かに・・・」
バカな事を言いだしたもんだ俺としたことが。うっかり快斗と自分の体力差を忘れていた。

そしてお流れになったその後授業はまた再開し、次の時間の国語でまた担任と同じような問答を繰り返すこととなることを今気付いていのはいつも冷静な科学者さんだけかもしれない。


今度はバカらしくなったのかフォローを入れてくれた灰原に世話かけられ賃とばかりに質問された。
出来ればそれだけはして欲しくなかった・・・
「昨夜何があってそんなに眠いのかしら?」
と聞かれ情けない事に真っ赤になって狼狽えてしまった。
・・くっっ勝手に顔が赤くなりやがる。そっと灰原から目をそらすが視界の隅で意地悪気に笑う灰原を見とめ、どうやら解っていながら聞いている事に気付いた。
「いや・・ちょっと本読んでたら遅くなっただけだから」
あのバカに夜の散歩と称して連れ去られていたなんて口が裂けても言える訳がない。
首筋に残る赤い跡に視線を向けられ思わず隠してしまった時点でもう言うまでもないのかも知れないが。
「そう。相変わらずの本好きね。ほどほどにしないと体に支障をきたすわよ。」
「あ・・ああ。そうしとく。」

流してくれるのだろうとホッと息をつく。
だが俺は非常に甘かった。灰原を善人に見過ぎていた(笑)
「どこかのおバカさんにもそう言っておきなさい」
「・・・・・(涙)」