最近寒い日が続いている。
こんな日はコタツだよな。
思い立ったが吉日とばかりにコナンは財布片手にすっくと立ち上がり工藤家を後にした。
こたつ
学校からの帰宅直後の我が家にて、
快斗は世にも珍しい物体を目に留めた。
「あれーコナンちゃんじゃない。何かまた急ぎの用事でも出来たの?」
自分に無理やり連行以外で黒羽家の敷居をまたぐことがめったにない(一見)愛らしい子供の姿に快斗は素っ頓狂な声をあげた。
「あ?」
対する子供は持ち込んだ本を片手にコタツにごろりと完全にくつろぎムード。
いやぁ。
なんっていうか。
そりゃーコナンちゃんがかしこまってコタツに正座なんて姿いまさらもう想像できないけどね。
でも見てよ、この家主よりよっぽど家主か?と疑いたくなるくらいのくつろぎっぷり。
まるで数百年も前からここにいたみたいじゃない?
などとかなり現実味のないことを考えつつ快斗はかばんを壁に立てかけ制服の上着をハンガーにかけるとコナンの横に座り込んだ。
「だってコナンちゃんが自主的にうちにくるのって珍しいじゃない?」
そう言われて思い返してみれば緊急の用でもない限り自分からは来てない気がするコナンは
「ああ。確かに」
そうだったかもな。 苦笑しながら同意を示した。
どうやら今回は違うらしい。
こののんびりした様子からして本当にただ本を読むためかくだらない用事のためにきたのだろう。
また事件にでも巻き込まれたのではと心配していた快斗はそう判断してホッと胸をなでおろした。
そうなると気軽な軽口だってたたけるってなもんだ。
「もしかして今日は快斗君に会いに?・・・なぁんて妄想は夢にも思いませんからその本投げるのはやめてちょうだいね」
ただ言って見たかっただけの快斗は今にも投げつけそうな構えを見せるコナンに慌てて手を振った。
それを呆れたように眺めやるとコナンは軽く肩をすくめ本をおろした。
「もともと今日は工藤の家に泊まって読書しまくりの予定だったんだよ。ちょっとこっちのが都合がいいことに気がついてな」
「都合?」
言いにくそうなコナンの様子に快斗は首をかしげ「都合」の内容を考えてみた。
工藤家になくて黒羽家にあるもの。
家族のぬくもり?
いやいや、そんなものコナンちゃんが求めるはずがない。←ちょっと失礼
便利な小間使い?
欲しけりゃ電話一本で呼び出すに決まっている。←そして喜んで飛んでいくのだろう
じゃあ・・・なんだ?
快斗の目にはぬくぬくくつろぐコナンの姿。
まさか・・・。
いや・・まさか・・・。
そう思いつつも怒られることを覚悟して恐る恐る聞いてみる。
「・こ・・・・・コタツ・・・・?」
「ふ、さすがIQが200だか400だかあると違うな」
「200と400だと雲泥の差だと思うけど。いやそれより、あんまりIQ関係ないから」
「まぁなんにせよこのコタツという物体は寒い冬には欠かせないっ。そのことに俺はさっき気がついたんだ」
そしてここにいるわけだ。
胸を張ってまあ・・。
「ちなみにうちのお母様は?」
「おばさん?俺と入れ違いに買い物にいったぞ」
「ふ・・夜ご飯がゴージャスになるのね」
いそいそとコナンが本を読んでいる隙にコナンの好物を用意して餌付けしよう作戦なのだろう。
ちなみにコナンがいると魚介類が出る率が高い。
二人で快斗を虐めて楽しむためだ。
ひどいっひどいわっっ。
なんて泣き叫ぶのにもすでに飽きるくらいに虐められ慣れてしまった(哀れな)快斗は魚介類がメインの夕飯じゃないことを真剣に祈りつつ先ほどから気になっていたコナンの手元を覗き込んだ。
「ああ。やっぱりこれだったんだ。また読んでんの?」
「悪いか」
「ううんー飽きないなぁと思って。」
「飽きるわけがないっ。読めば読むほどホームズを超える探偵なんていねーっって感動しちまうな」
「・・・そう」
言うまでもないがコナンの手元にあるのは「シャーロックホームズ」である。
頭元には続きが山と積んである。
コナンにしては頑張って大量に持ってきたなぁってくらいにある。
ちなみに言えば文庫本サイズ。
多分持ち運びが楽だからだろう。
「でもこの和訳はなぁ・・」
「原本の持ってこればよかったのに」
あったでしょ?
と首をかしげて問うた快斗への返信はさすがコナンちゃん。見事な仰天ものだった。
「売ってなかった」
う・・・・売って?
「・・・・まさかっっ来る時に買ってきたの!?」
「あ?そうだけど?」
驚愕の快斗をよそにコナンはケロリと一般人には納得できないことを口にする。
「だってコナンちゃん家にもあるじゃないっ。大きいのも小さいのもふっるぅぅぅいのも。英語のも日本語のもどこの国のかわからない言葉のもっっっ」
なんか同じものが姿を変えて大量にあるのだ。
現に今コナンが手にしている文庫本だって新一の部屋に置いてあったのを快斗は以前見ている。
一言で言えば無駄・・・。
「だってよーうちから持ってくるよりそこの本屋で買ったほうが楽だろ?」
コナンにとってはきっとたかだか数千円なのだろう。
快斗にとってはそれでどんくらいハンバーガーが食べれるだろう?ってなもんだ。
「お・・恐ろしい。その経済観念のなさが・・・・。金持ちってこうなのーーー?俺ぜったい一生ブルジョワな人にはなれない気がするぅぅぅ」
「億単位の宝石を気軽に手にしときながらよく言うぜ」
「だってあれは所詮返すものじゃない?くれるって言われたらビビッて速攻逃げるねっっ」
胸を張って情けないことを言う一般人。←いや、ぜんぜん一般じゃないけど
「くれるってんならありがたく頂けばいいじゃねーか」
「ほらーーこれがきっとブルジョワってものなのですわーーーー」
「・・うるせぇなこいつ。自分の部屋いけ」
「あのぉ・・ここはわたくしの家なのですが・・」
「お前のものは?」
「・・・コナンちゃんのものでぇっす」
「そういうことだ」
うむ。と鷹揚にうなづくとコナンはまた楽しいホームズの世界へと羽ばたいた。
「夜ご飯までには(現実に)帰ってきてね」
邪魔をすればかなりの罵声をあびせられるのを経験で知っている快斗は控えめにこれだけは譲れないラインを告げておいた。
それに対する返信はというと、
「んーー」
うっわ。絶対聞いてないよこれ。
ちなみに1時間後飲み物を取りに階下へ降りてきた快斗が見たものは、
こたつから顔だけだしてスヤスヤ寝息を立てるコナンの姿。
読みながら眠ってしまったのだろう。本がコナンの顔で押しつぶされていた。
「本読みにきたんだか、眠りに来たんだか」
名探偵すら勝てないコタツの睡魔に内心拍手喝さいしながら快斗はコナンの顔の下にある本をそっと救出してやった。
「夜ご飯までには起きてね」
「んーー」
そっと耳元でささやいた言葉に返ってきた、1時間前とまったく同じ返事に快斗は噴出しそうになった。
おしまい
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