〜約束「15」〜


コナン

とうとう八日目がきてしまった。
満月。
綺麗に晴れ渡ったそらに、満ちた月が淡い光をともしている。

「どうしよう。」
思い出せない。
記憶に靄が掛かったようで、微かに本当に微かに思い出せたような気はする。
だがピンぼけした写真より写りの悪いその記憶では頼りないどころかまったく役立たない。
唯一の手がかりといえばこの前テレビで見た怪盗KID。
彼がなにかしら自分と関わりがあるのだろうことはコナンの第六感が告げていた。
それがあの男―――――快斗との関わりがあるのかまでは解らなかったが。
肝心な真ん中をつなぐピースが明らかに欠けていた。
それが埋まらない事には答えを出せたとは言えないだろう。


このままだとあの人に捨てられてしまう。
だって彼は待たないと言った。
それはもう要らないということじゃないのか?

記憶のない俺なんていらないってこと・・・。

コナンは焦っていた。
もうずっと外で月を眺めていた。
祈るように手を組み合わせ月を睨む。
寒さでかじかむ指先は組み合わせた所がカチカチに強ばっている。
相変わらず少し強い潮風をうけながらもしっかりと一人で立ち、
蒼く輝く双眸を月へと一心に注いだ。

頼むから教えてくれよ真実を。

そんなコナンを三人は困った顔で見守っていた。
記憶を取り戻せないでいるのを三人は知っていた。
それに落ち込んでいることも。

彼・・快斗がコナンにとって大切な人であることは見た瞬間にわかった。
コナンの目がずっと彼を追っていたから。
記憶がないのにそれなのに彼だけを見ていたから。
それに、あの少年が付けていた腕時計。
しっかり者の母がきちんとチェックしたのだから、間違いなくペアの片割れだろう。
水にも強いのかあんな目にあったというのに未だにきちんと時を刻んでいるコナンの時計のメンズバージョンだろう。それは二人を今も繋いでいるような気がする。

「大丈夫よ。なんて気軽な事は言えないしね。」
「そうだな。」
「見守るしかないんだよね。実際。」

はあ・・・とため息をつく。
コナンを無くすのはつらい。
でもこんな悲しそうなコナンを見ている方がもっとつらい。

今四人はあの海へ来ていた。
コナンを拾った海。
彼が現れた砂浜。
暗闇に海の音だけが響く。
皆寒い中ジッ待っていた。
その時が来るのを。
月を睨み付けるコナンを心配気に見守っていた三人はたまに寒さの余りに意味不明にラジオ体操なんぞをしたりしていた。
緊張感があるのかないのか分からない三人組である。


「あ・・・」
それは果たしてだれのこえだったのか。

空を見上げていたコナンは呆然と一点を見つめた。

暗闇に白い物体が飛行している。
それは風にのりゆっくりゆっくりこちらへと向かってきているようだった。

「あれは・・・まさか。」
清和が目を見開く。
解らない両親は一生懸命目をこらして空の一部を見続けた。

そのうちその白い点がドンドン大きくなりハングライダーだと言うことがわかった。
満月を背に白い翼を広げるそれは
「・・・・・怪盗・・・KID?」
まさか・・ね。
そう思いつつも消せない思いに清和は目を離せなかった。
それはコナンも同じ。

この時点でコナンはあれがKIDであることを疑っていなかった。
理由を問われたら困るが絶対そうだと感じたのだ。

「KIDってこの間のテレビのあれよね?」
「そうだよな。いや他にいるのか?」
「いないよ。そうこのあいだのあの白い怪盗。そうだよっ間違いないっっ。」
すげーー本物見ちゃったよ。うわー自慢出来ちゃうーーー。
興奮気味の清和にやはりまだ事態が飲み込めていない二人はあれ・・泥棒ですよね?
うんそうだな。
と暢気に話していた。

それはゆっくりゆっくり降りてくるとコナンの前に降り立った。翼を見る間に片づけると白いシルクハットに白いスーツのその男は丁寧に腰を折った。90度の最敬礼にも帽子は落ちる気配をみせない。まるで磁石でひっついてでもいるかのようだ。

「お久しぶりです名探偵。」
あげた顔は怪盗にふさわしく自信に満ちあふれた笑顔だった。
モノクルの奥に見える瞳は感情を伺わせないよう気を付けているのかただ柔らかく微笑んでいる。
だがコナンは知っている。こんな時にこそ彼は何かを心の中に押さえ込んでいるのだということを。
激情でも、憤りでも、悲哀でも、歓喜でも、絶望でも、彼は一切を表に出すことを普段から禁じている。
ただ自分の前でだけは拗ねたり泣いたり怒ったりそんな普通のその時の表情を見せてくれる、それが嬉しかった。
この何も伺わせない瞳の中から真実を読みとる事が出来るのは自分だけだという優越感。
普通は嫌がるそれを自分にだけは許してくれる快感は他のなににも変えられない。

(こいつが大切で。こいつの為に生きて行きたいと思って。こいつが安心して眠れる場所を自分以外の所に見いだすのなんて絶対嫌で、助けて助けられてフィフティーフィフティーの関係を築いて行きたい、ずっと傍にいたいと初めて思ったから。)
だから忘れたくなかった。
思い出したかった。
自分がいない所で涙を流させたくなかった。
緩やかに流れてくる記憶に目の前のKIDをなんとも言えない顔でコナンは見つめた。
唇をかみしめ、寒くて赤くなった手をギュッと強く握りしめる。

「・・・・・」
返答のないコナンに少しだけ傷ついた瞳をみせたKIDは優雅にコナンの前に片膝をつくと右手を取り甲に口づけをおくった。

「きっど・・・。」
「ええ。私の事は忘れられていないようですね。ほっとしましたよ。今宵は素敵な月夜ですね。」
「・・・・そうだな。」
「実は今日は珍しく初の試みで予告状無しで盗みをしようと思っているのですよ。」
「へー。そう。」
気のない返事のコナンにKIDは自分の胸を苦しそうに押さえた。
だか、次の瞬間にはまたいつもの不敵な笑みをうかべ、まるで幻でも見たかのような感じをコナンは
うけた。。
「素敵な青い瞳をお持ちの姫を月へとさらいにやってまいりました。あなたの心も体も頂きます。」
「・・・・・・だれが姫だ。」


そんな会話を繰り広げる二人に清和は指をさした。
「コ・・・コ・・コナン。もしかしてその人と知り合いなのかなぁぁ?」
「知らない。」
記憶にないから。ニッコリ笑うコナン。
だが会話はスムーズに流れていた。
しかも怪盗は「お久しぶり」と言ったのだ。
知り合いなのだろう彼と。
どういう知り合いなんだ?


「まだ記憶を取り戻していないのですか?今日が約束の日なのに。」
「約束したのは快斗とだ。お前じゃない。」
「・・・快斗が来ればいいと?」
「さあな。快斗は記憶のない俺なんて要らないんだろう?」

ふんっと横をむく。
それにムッとしたKIDはコナンの顔をひっつかみ自分の方をむけると
「だれがそんな事いったっっ。」
怒鳴りだした。

「さあなぁ?どこかのバカイトじゃねーの?」
「てっめぇぇ。」

「えーーあーーもしもし?そこのお二人さん。お伺いしたいことが2.3あるのですがぁ。」
そのまま喧嘩を始めてしまった二人にさすがに三人とも呆れてしまい、
とめにはいる。

「なーにー清兄っ。」
「記憶戻ったの?」
「ある程度は」
「どこらへんまで?」
「これの正体までなら思い出した。後はなんで海に流されていたか・・・だな。」
心なしか口調まで変わっている。
清和としては天使の外見なのだから天使のような愛らしい口調がうれしい。

「し・・正体って?」
それって凄いよね?母が尋ねる。
「大したもんじゃないよ。ただのバカだから。」
「バカはてめーだよ。このバカッ。」
「お前今KIDなんだからその口調やめた方がいーぜ?せっかく紳士とか一応言われてるんだし。」
「これはこれは失礼しました名探偵。あなたの可憐な瞳に心を奪われてしまった哀れな男のしでかした事です。忘れてください。」
はいはい。勝手にいってなさい。

母はどうしても納得できないらしくKIDに尋ねた。
「ねえ。どうしてここにKIDがいるの?」

今お前は有名人とお話しているんだぞ。
それにはたしてお前は気付いているのか。
冷静に見えて実は一番パニクッている父はそんなどーでもいい事を心でつっこんでいた。

「宝石がここにあるので頂きにきたのですよ。」
「宝石?そんなもんこの街のどこにも・・・。」
「ほらここに。」
コナンを背後から抱き上げる。
「極上の青いサファイアが二つもありますよ。」
「な・・・。」
そうきたかっっ。
確かにコナンの瞳はすばらしい。そんじょそこらの宝石も目じゃないくらい綺麗だ。
しかし―――――

「コナンちゃんを迎えに来る人がいるんですっ。その人から預かっているんですから
そう簡単に盗まれるわけにはいきませんっっ。」
母は負けていなかった。
すごいぞ母。怪盗KIDに食って掛かる女性。
これはなかなかお目にかかれない。


「あーー恥ずかしい奴。大体お前今日俺が思い出さなかったらどうする気だったんだ?」
「おや?きちんと言ったはずですが?『8日以降は待たない』と。」
その言葉に三人は顔を見合わせる。
それを言ったのはあの綺麗で礼儀正しい黒髪の美少年だった。
・・・と言うことは?

それに気付いたKIDはシルクハットをとり軽く挨拶をする。
「すみません。こんな姿で。こいつに思い出して貰うためには荒療治しかないと思っていたもので。最後に会ったときの姿なら覚えてるかな・・・って思ったんだよ。」
最後の言葉はコナンに。
「うん。お前見て結構思い出した。」
快斗の考えはあながち見当はずれではなかったらしい。

「それじゃああの時の人?」
失礼にも指をさす清和。
「ええ。」
「あれが本当の姿なのか?」
「さあ?怪盗KIDは変装の名人ですからね。」
父の言葉に楽しげにKIDは答える。

「キッドさん。・・黒羽君でもいいわ。あなたは・・・・あなたはコナンちゃんを幸せにできると約束できるかしら?」
母の真剣な瞳をうけKIDは一瞬目を丸くしたあと穏やかに微笑んだ。
「私の一生涯を掛けて。」
「KIDっっ。」
「静かにしてなさいコナンちゃん。これは大切な事なのっ。それなら許すわ。あなたは泥棒よね?悪いことをしている人だわ。コナンちゃんはとっても頭がいいの。きっと貴方の事解っている。
だからコナンちゃんが大好きなあなたが悪い人なわけないことも私はわかるわ。」
そこまで言うとKIDに抱えられたままのコナンの頬に手をやる。
「コナンちゃん元気でね。この人が約束破ったらすぐにでも逃げてらっしゃい。いくらでも匿ってあげるわよ。そうじゃなくてもいつでも来ていいのよ。」
KIDから預かりしっかり抱きしめる。

「ありがとうおばあちゃん。」
「あなたはいつまでも私の孫なんですからね。」
「うん。」
「こらっずるいぞ。コナンっこっちこっち。おじいちゃんとも抱擁しようなー。」
「・・・うんおじいちゃん。ごめんね。帰らなきゃいけないんだ。」
「解っているよ。最初からな。この3ヶ月とても楽しかった幸せだった。ありがとうコナン。」
ギュッと抱きしめるとゆっくり離す。
そして清和に順番を譲るかと思ったその時往生際悪く父は叫んだ。
「あっちょっと待て清っ。コナンーーーーーー。やっぱり嫌だぁぁ。孫ーーまごーー。くぅぅ、どこの馬の骨ともわからん奴に大切な孫をやらねばならんとは・・いいかっっちょっとでもほーーんのちょっとでもコナンを不幸にしてみろ私がすっ飛んで行って奪い返すからなっっ覚えておけっ馬の骨ぇぇぇぇ」
もう一度コナンを抱きしめて頬ずりするとキッとその馬の骨に指を突きつけ花嫁の父のような文句を突きつけた。
それに苦笑するどころか真剣な眼差しでKIDは返答を返した。
「心しておきます」
「そんな政治家のような遠回しな言葉は私にはわからん」
これはもしや嫁姑の関係なのか、今から嫁いびりが始まっている。
それにKIDはなんと答えようか数瞬迷った末に、素直に答える事にした。
「・・・・えーっと・・・。絶対返しませんからね」
「・・・・よく分かったお前の意気込み」
簡潔な本心のこもったKIDの言葉に父はふっと笑うとコナンをようやく解放した。
今度はKIDの肩に手を置くとシクシク泣き出す。
「わたしの孫ーーまごーーー」
「はいはい・・」
なんだかんだ言いつつなだめ役になってしまったKIDは父に肩に寄りかかられながらも体勢を崩すことなくたやすく受け止め、柔らかく背中を叩いてあげた。


そんな二人を微笑ましいというより怖い者見たさで遠巻きに見ていたコナンと清和はようやくそこから目を離し互いに目線を絡ませた。
「清兄。」
「コナン。君のおかげで僕は家に帰れたんだ。話したよね?どうしても家に帰れなかったって。
大丈夫二人の事は俺に任せて。
いつか本当の孫つくって喜ばせてあげるから。ただコナンほど可愛い子ってのはなかなか難しい注文だけどね。」
クスクス笑うとコナンを優しく抱きしめる。
コナンも悲しげな顔で小さく笑うと首に抱きついた。

「清兄。あの時助けてくれてありがとう。助けてくれたのが清兄でよかった。」
「・・・・・こちらこそありがとう。」
「また・・・ね。」
「うん。いつでもおいで。あの家は君の家だよ。」


寂しいけれど君が幸せなら我慢できる。
だから・・・また会おうね。

「そう言えばコナン。君の本当の名前は違う名前なの?」
清和が思いだしたというように尋ねた。
この間黒髪の少年は違う名前で呼んでいた。

コナンは未だに肩に父を抱えているKIDに目をやった。
お前のせいだぞっ暗にその目は告げていた。

「あの名前は奪われたんだ。いつか本当の名前を取り戻した時にまた来るから。」
ごまかせば良いことだ。
なのに今は本当の事を言いたかった。
でもこの善良な人たちに告げるには「工藤新一」の名は危険すぎた。
「だから。その時が来るまで僕は江戸川コナン。」
「そして私が認めたただ一人の名探偵ですよ。」
ひょいっと背後からコナンを抱え上げたKIDがにっこり付け足す。

「探偵?まさかっ」
「本当ですよ。ちゃんと頭に名をつけて下さいね。」
軽くウインクを贈りハングライダーをカチャリとセットしたキッドは腕の中に大人しくおさまるコナンの髪に顔をそっとうずめる。
その幸せそうな顔に三人は寂しいながらも優しい気持ちで見送れる気がした。彼ならきっとコナンをみすみす不幸になんかしたりしないだろうから。
自分たちと同じか、それ以上の愛情を注いでくれるだろうから。
しかし探偵・・・。
確かに頭がいいのは知っている。
あの理路整然とした物事の組立方。
だが探偵を名乗るにはまだ歳が若すぎるのでは。

そんな謎を残し二人はフワリと空へと飛び立つ。
月へと帰るために。


「快斗。」
「うん?」
「忘れてごめん。」
「そうだな。お前には言いたいことがたくっっさんある。」
「それと探しにきてくれてありがとう。」
「それは俺じゃなく裏方に言ってくれ。哀ちゃんお怒りマックスだからな。」
「うえー灰原怒ってる?やべーなー。」

ハングライダーを上昇させると上から三人が見えた。
ずっと見送る三人にコナンは手をふる。
さよなら。
もう一つの家族。

「しっかし本当に哀ちゃんの言ったとおりなんだもんなー。」
「なにが?」
「んーお前が死んだーーーって俺が落ち込んでる時に哀ちゃんがね『彼が死ぬわけないわ。今頃のんきにこたつでごろごろしてるわよっ』てね。」
大まかにはしょってつげる。
しかも芸の細かいことに哀の声をまねてだ。
コナンは言葉もでない。だってそれは事実だったのだから。
記憶を取り戻したきっかけはテレビで怪盗KIDを見てから。
ずっとぐるぐる回るうちに少しずつ思い出していた。

でも決定的に思い出したのは本物が現れてキザなセリフを吐かれてから・・・というのはコナンだけの秘密。

「そうだっお前8日以降は待たないってどういう事だよ。」
思い出したっと怒り出す。
「こらこら暴れないのっっ。え?どういう事ってそのまんまだけど?」
グラッとするハングライダーをなんとか修正するとKID―――――快斗は首を傾げてそう返した。
「なんで泣きそうなわけ?―――――あーーもしかしてコナンちゃんってば勘違いしてる?」
「え?待たない・・っていうんだからもう要らないってことだろ?」
確かに泣きたい気分だった。
そんな簡単に捨てられてしまうのか俺はと思って。
いやそれよりも捨てられた自分が悲しくて。


「要らないはずないだろ?まったく。『待たない』だよ?そのまま記憶なくても嫌がっても連れ帰ってしまうって意味。」
お前の居ない生活に8日以上耐えられないと思ったんだよ。
でもその後後悔した。
なにせ8日どころか離れたその瞬間から会いたくて仕方なくなったのだから。

でも男のプライドでなんとか8日堪え忍んだ。
もう離れない。
「お前がな。帰りたくないって泣き叫んでも連れ帰るつもりだった。」
「そーゆー意味だったのか。」
「そんで思い出すまで家に閉じこめて置こうかな・・とかいろいろ考えてた。」
「お前・・・」
それは監禁だろうが。犯罪者め。

「よかった思い出してくれて。あいたかった・・コナン。」
「まあな。・・・俺も。」
快斗が帰ってからずっと会いたかった。
あの時最後に目すら会わせてくれなかった快斗にコナンはとってもショックをうけていた。
それは好きな相手だからこそ。
「さっきもな。知らないとか言われて傷ついたぜ?」
「あれは・・・だってお前恥ずかしい事べらべら言うから。」
むう・・と唇をとがらせるコナンに怪盗KIDなんだから仕方ないだろ?とわけのわからない言い訳をすると快斗は陽気に笑い出した。

「さー叱られに帰るか。」
「あーー気ぃ重い。」
「俺なんかお前いない時に一人でお叱りの言葉受けたんだぜ。まったくどいつもこいつも手加減無しでさぁ。」
そう言いつつもなにか嬉しそうな快斗にコナンは笑ってしまう。
「なんだよ笑うなよ。あっそうだ中森警部に正体ばれた。」
さらりと重要な事をながした。
「へー中森警部に。大変だな。」
コナンも流した。
「うん。でも大丈夫そうだから心配しないで。」
「心配って・・・・・・・?―――――あ・あ・あーーー中森警部だとぉぉぉぉ?お前おいっどうすんだよっ。」
今更脳に浸透するってのもねぇ。遅すぎるって。もしかして平和ボケ?
「だから心配しないでって言ったろ?なんとかなりそうなんだ。」
「そうなのか?」
「ああ。」


嬉しそうな笑みは本物だった。
「紅子に怒られて母さんにハッパかけられて青子に殴られて白馬に叱られて哀ちゃんにネチネチやられてあげくに警部に手紙もらっちゃってさ・・・。そのあと服部にドアホーって怒鳴られたし。ホント大変だったよ。」
「皆優しかったろ?」
「――――――――――うん。」
優しすぎて涙でた。
あの暖かい気持ちの一欠片でもいいからコナンに伝えたかった。
初めて感じたあの感情を。




いままで負の感情を閉じこめていた。
だけどもしかするとパンドラの箱の最後の希望のように良い感情までも閉じこめていたのかもしれない。
コナンがいるからそれに気付いた。
あの友人達が気付くきっかけをくれた。

本当に俺って幸せものなんだなって・・・初めてわかった。

だからこそあの友人達を危険に巻き込みたくない。
矛盾はいまだにあるけれどきっとなんとかなるはずだ。
だって俺とコナンはずっと一緒なんだから。
それだけで力はみなぎるしやる気は満ちあふれている。

希望はいつでもここにある。

未来は自分で作れる。

光は俺の光は今この手の中に戻ってきた。

やっていけるなんだって。

だから。

「死ぬなよ」

この約束だけは守れよ絶対に。




後日談
「しっかしさぁ。あれだけ探してたんならなんで3ヶ月もかかったんだろうね?ちゃんと届けだしておいたのに。」
清和の不思議そうな問いにすかさず父は目をそらした。
「・・・・」
「・・・・」
無言の時が支配する。
「父ちゃん・・・」
「・・・なんだ?」
闘い5秒前




「お前のせいかぁぁぁぁぁ」
「そうだっ悪いかっ」
「悪いわぁぁ」
開きなおる父につかみかかる息子。
実に仲のよい親子だった。

そしてそれを側で見ていた母。
母は全てを知っていた。


「すみませーん昨日清和君が書いてくれたあの用紙なんですけどちょっとうっかり紛失してしまいまして。もう一度書いていただけませんか?」
ちょっとうっかりってあんたそんな楽しげに重要な事いうなよ。もしコナンが聞いていたら
呆れた瞳を受話器の向こうの相手に向けただろう。
そんな電話が近くの派出所から届いたその時幸か不幸か清和とコナンはお出かけしていた。
受話器を握っていた父は躍った。
それはもうハイテンションに。

「あっそのっいやーもう良いんですよあれは解決しましたから」
うわずりそうな声を必至にいつもの声にしようと抑え父はなんとか演技しきった。
「そうなんですか?それじゃあ清和君に伝えておいて頂けますか?」
「はい。もちろん。それではー」
とまらない笑みに父ははっはっはっはーーと高笑いとともにガッツポーズを電話の前でとっていた。

そしてそれをこっそり扉の陰から見ていた母は
(ラッキィィ。)
もちろん黙殺した。
なにせばれても怒られるのは父一人。
完全犯罪の出来上がりだ。
さすが母。
この家で最高の地位に立っているのはやはり母だったらしい。


「こっの犯罪者がぁぁぁ」
「はっはっはーー叫べ喚けっ今更だ」
開き直ると強い父と頭に血が上ると止まらない息子。
そして慣れたように見守る母。
今日もこの一家は元気だった。

きっと明日も明後日も。

いつか双子のようにそっくりな二人の青年達が懐かしそうにやってくるかもしれない。だからその時まで。
今日も明日も元気でゆこう。



end


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はい終わりましたねぇ。ホッとしました。
父の悪事がバレました。
あれは途中にいれるつもりが入らなくて結局最後に回したのですが、
まあこれでよかったかもしれません。
やはり最後は明るく締めたいですからね。
ずっと応援して下さった皆様本当にありがとうござました。

ではお暇な方は座談会へGO(注※コナン達はでません。)

2002.3.3