コナン
それはたまたまやっていた。
「KIDぉぉぉぉぉ。待てぇぇぇ」
テレビの中の刑事さんは大きな声で怒鳴っていた。
これは過去の中継。
どうやら怪盗KIDの特集をやっていたらしい。
最近現れない白い怪盗。
暗い事件ばかりの中、華やかに輝くKIDの存在はテレビ局新聞、はたまた警察にとって小さな救いなのかもれしない。
彼が犯罪者なのは確かに間違いないのだけれど。
「あらあら。元気な刑事さんね。」
「お母ちゃんこの人は警部さんだよ。さっき名前でてた。」
「ほー偉い人なんだな。ただの元気な親父だと思ったら。」
お前がゆうなお前が。そんな清和の心のつっこみが聞こえたのだろうコナンは小さく笑うとテレビに目を戻した。
「怪盗・・・KID・・・」
「コナンちゃん知ってるの?」
「あ・・うん。なんとなく。」
頭の中を白いマントとシルクハットがクルクル回っている。
そしてモノクルとその奥に見える傷ついた瞳も。
なんで?
怪盗KIDなんて大物を間近で見たことあるのか?
「こんな田舎まで普及してるんだもんなぁKIDの人気はすごいや。」
「そうだな。平成のルパンらしいぞ。」
「んじゃホームズはだれがやるんだろうな。」
そこまで言って突然清和がぽんっと手を叩いた。
「あーそっかシャーロックホームズか。そうだそうだ。」
一人勝手に納得している清和に三人は眉を寄せた。
「いやずっと気に掛かってたんだよ。コナン・ドイルって何書いてた人だったかなぁって。」
あーすっきりした。
「コナン・ドイルってコナンちゃんのお知り合い?」
「違うってっっ。」
なんでそうなるかな母につっこみをいれると清和は説明する。
「シャーロックホームズ書いた人がコナン・ドイルっていうんだよ。ほらっコナンの名前見た時に江戸川乱歩とコナン・ドイルだって言ってただろ?」
「あーそーいえばそんな事聞いた気が・・・」
うろ覚えな母と父は適当にうなづく。
「なるほどそれじゃあコナンがシャーロックホームズか。」
頭いいしな。
そりゃいい。と膝にのっけたコナンの頭をポンポンと父は叩く。
「うーー髪がぐしゃぐしゃになるっっ。」
もう降りるーーとわめくコナンを面白がって後から羽交い締めにする父。
彼らは必至に今の生活を生きていた。
あとたったの3日しかないのだ。
父は会社を休んだ。
母も買い物以外ずっと家にいる。
その3日を最大限に楽しく生きるために。
それにコナンも気付いているのだろう。
前と同じ用に振る舞う。
おじいちゃんおばあちゃん清兄。
そう呼び続けていた。
「KIDかぁ。向こうにいたときは凄かったなー。ほら東京ってKID出る確率高かったじゃん?」
「あーそうね本物見た?」
「そー簡単に見れるもんじゃないよあんな旬の人。」
「人をタケノコ見たいに言うんじゃない。」
そうか周りの人が旬旬言うから移っていたが確かに旬の人って変だよな。
今更気付く。
「あっでもKIDに一度盗まれたっていう宝石なら見たよ。」
「あら凄いわね。本物?」
「当然。でもなんか盗まれた後の方が盛況ってのもなんだかねー。」
その展覧会はそれまでまったく寂れきっていたのだ。
きっと支配人はありがとうKIDと叫んでいることだろう。
「なんで盗んだ物をわざわざ返すんだろうな?」
父は不思議そうに聞く。
「さあ?泥棒の考えなんて俺に解らないよ。たんにスリル味わいたいだけかもしれないし。」
「愉快犯っていうの?いやぁね。そーゆーのお母さん嫌いよ。」
その言葉を聞いていてコナンは悲しくなってくる。
KIDの事知りもしないくせに勝手な事いうな。
テレビでは白い怪盗が現れていた。
「KIDだぁぁ追えぇぇぇ」
中森警部が叫ぶ。
マイクを差し出す人々を押しのけ先陣きって走り出す。
見当違いの方向へ駆け出す中森警部にコナンはクスクス笑いだした。
KIDがこの後どこへ行ったのか―――――
自分は知っている。
え?
なんで?
この後小さな公園に行って宝石を見てがっくり肩を落としていた。
だから俺は・・・・。
『またはずれか?一体何を探しているんだお前は』
てっきりそれを考えるのはあなたの仕事でしょうと言われるのが落ちだと思っていた。
だが思ったよりあっさり奴は答えた。
『・・・凶星の性を持つたった一つの石を。』
耳の奥に響く低い声。
『見つけたら?そうですね・・・・・・粉々に砕きます。跡形も残らないほど粉々に』
そう言った彼の目は夜の闇より暗かった。
光が一点も見受けられないその瞳に俺は思った。
希望を持っていないんだこいつ。何一つ未来への希望を。
そしたらこの男は探している石を見つけたらどうするのだろう?
背筋が冷える思いだった。そんな事なら一生それが見つからなければいいのに。
まだこんな落ち込んだ表情をみている方がマシだ。
だから一つだけ約束をしたんだ。お門違いだと分かっていてもどうしても言いたかったから。
『死ぬ時は俺に一声かけろよ』
その言葉に白い衣をまとった怪盗は小さく笑みの形を刻んだ。
『止めてはくれないのですか』
『見届けるだけだ。俺が止めたところで死ぬ気の奴は止められないからな』
『別に死にたい訳ではないですよ。生きている事に価値を見いだせないだけで』
『それじゃあ早いところその価値を見つけるんだな。』
『見つかるといいですね。』
人ごとのように言ったその男はそんなこと一生あり得ないといった顔を見せた。
それが怪盗・・・・KID。
宝石を盗むのは理由があるから。それを返すのは必要ないから。
死なせたくないとおもった。
死ぬときは見届けたいと初めて思った人。
思考がゆっくりとすすむ。
彼を自分は知っている。
快斗
あの日快斗はハングライダーで飛んで帰った。
電車に乗る気分じゃなかったのと頭を冷やしたかったのもある。
帰る道すがら次の日の朝日を拝んでしまい、たどり着いた時にはすでに夕日が見えた。
長時間飛行の為両手が強ばっている。いやよくみると少し震えている。
寒さのせいか筋肉痛の前兆か・・・それとも―――――。
「哀ちゃん?うん俺。あいつ見つけた。」
とりあえず裏路地に隠れるように降りると携帯を取りだしようやく落ち着いた心で電話をしだした。
「いや・・まだ。だってあいつ・・・俺の事忘れてるんだもん。」
もう隣にいていちゃいちゃしてるんじゃないでしょうね?
と皮肉気に尋ねる哀に快斗は出来るだけ明るい声で言った。
大した事ないよ・・そう聞こえるように。
「大丈夫だって。うんへーきへーき。悪いけど白馬たちに連絡頼める?うん・・ありがと。」
プツっと切ると大きくため息をつく。
8日・・・あと7日か。
それまでに思い出してくれるかなあいつ。
カッコつけて言ってみたものの自信はない。
いやもうさっぱりないのだ。
でも言ってしまった言葉は取り消せない。
多分あの時ぶち切れていたのだろう。
忘れた?俺を忘れただと?
どの口が言うかそーゆー言葉をぉぉぉぉ。
みたいなーー。
血が出るほどきつく唇をかみしめ近くの壁を殴りつけた。
「俺のバカっ」
八つ当たりしちゃったよ。あいつすっげー泣きそうな顔してた。
バカバカバカっっ。おおばか者っっ。
あーでも畜生っっ。一体俺が何したってんだ。元々神なんざ信じちゃいないけどよー。でもこれは酷すぎるんじゃねーの?
こんなに酷い目に会うほど悪い事したか俺?
なあっっ。
小さな希望をようやく手に入れて、日々頑張って生きている若者に痛烈な仕打ちだよな。
忘れられた悲しさとショックを癒すためについきつい言葉をはいてしまった。
あいつが悪いわけじゃないのにな。
すべて事故なのに。
以前哀にコナンが爆破に巻き込まれた理由を聞いた。
あくまで可能性だが十中八九あっているのだろう。
―――――――――――――――
「貴方一人が暴れたくらいであんなに巨大な組織をどうにか出来るなんて本気で思っていたの?」
次の日宣言どおり叱りにやってきた哀は快斗がコナンを失ったショックで朦朧とした意識のまま組織をむちゃむちゃにしてきた・・・と告げた瞬間辛辣な言葉をなげてきた。
「じゃあ?」
「おそらくあれはダミー―――――」
「―――――っざけんなそんなもんのためにあいつはっっ。」
哀の言葉をさえぎり怒鳴り声を出す快斗に側にいた快斗の母は眉をよせた。
コナンちゃんがいないだけでこの子はここまで壊れてしまうのね。
そんな二人をよそに常に冷静なその人は片手をあげ待ちなさいと暗につげる。
「続きがあるのよ。ダミーもしくは最近まで使っていたか・・ね。」
まったく困った人ね。
早とちりな快斗にため息をつきつつも哀は、快斗がそう言う反応をすると知っていてこういったのだ。
なにせ、いかに彼に辛辣な言葉を述べられるか・・・がメインだ。
昨日は涙なんか見せられたせいで怒りもそがれてしまったけれど、
一週間徹夜の恨みは恐ろしいわよ。
「後者の可能性は高いわ。私たちが調べているのをさっちして支部を移した。それなら私たち四人が騙されてもムリないわ。」
いまだ大阪から来ることのできない服部は一人うずうずと学校へと通っている。
さすがにいままでいくつかの闘いに関わってきた彼は出席日数がもうやばくなっているのだ。
留年なんて絶対にさせない。
コナンと快斗の強い要望により今回だけ作戦を外されていた。
もちろん下準備は手伝ったが、メインの部分はテストの為に参加を断られてしまった。
「お前が留年したら俺は一生自分を恨む。」
コナンの言葉が鶴の一声。
服部も諦めてむちゃむちゃいー成績とって次回は絶対参加するからっっ。
ケガすんなよ。無事帰ってこいよ。
むちゃすんなよ。
沢山の言葉と共に大阪へ帰っていった。
本当なら今も飛んできたいくらいなのに学校がある。
だから土曜まで土曜になったら金曜の夜からバイクぶっ飛ばしていくからな。
服部はそう言っていた。
多分今もじりじりと机を睨んでいるのだろう。
なにも出来ない自分にジレンマを感じて。
「しっかしあそこでドンパチするくらいならいっそ捨てる・・・か」
そんな事が簡単に出来る程でかい組織ということか。
快斗はため息をつく。
「しかも捨てるといっても私たちを道連れにする気だったのだから高く買われたものじゃない?」
「俺達はたかだか支部ごときと同じ値段か。」
安いって。俺なら地球まるごと買えちゃうぜ?
そんな快斗の言葉をサラリと流して哀は続ける。
「まあ昨日も言ったけれど江戸川君が死んだと決めつけるのは早いでしょ。まず彼の事だから生きているわ。
多分あのビルははなから爆破する準備が出来ていたのね。私たちが暢気に作業をしている間に爆破・・・いい手だわ。」
そんな事にも気付かなかったなんてなんたる失態。
それじゃあ中の人間はすべて死ぬ覚悟でいたのか、組織に捨てられたのか・・・だよな。まあ大抵は捨てられた奴らだろうけど。
「あいつはそれに気付いたのか。」
なんらかの理由により見当をつけた彼は処理のため自ら危険を冒したのだ。
爆発から快斗を守るために。
「あのバカ」
いつもバカバカ言うけど本当にバカなのはあいつの方だ。
それまで静かに聞いていた快斗母が唐突に手をあげる。
「はいっ質問。」
「なにかしら?」
「快斗に連絡して二人で逃げれば速かったと思いますっ。」
学生のようにハキハキと質問する母に哀はふむ、とうなづくと
「良い質問ね。」
笑顔をみせた。
「黒羽君。あなたなら爆発物を見つけたらどうするかしら?ちょっと離れたところには江戸川君がいるわ。」
「・・・解除を優先するな。」
「その心は?」
「あいつを守るため。」
悔しいけれどコナンと同じ立場にたったら多分自分も同じ行動をとるだろうと快斗は思っている。
「でも・・・」
「でももへったくれもないわ。あなたに連絡すれば間違いなくあなたは江戸川君のいる危険地帯へと向かったはずよ。彼を逃がすために。」
不服そうな快斗に違う?と強い目で睨むと哀は母の方へと向き直った。
「解ったかしら?」
「えっと・・・それじゃあコナンちゃんは快斗を守るために黙々と爆弾処理をしたというわけなのね。」
なんてけなげなのかしら。
「だよな・・・・俺でもそうするか・。」
『爆弾があるからすぐにその場を離れろっ俺もすぐに逃げるから』
きっとそう言われても迷いなくコナンの方へと走り出す。
だってあいつが爆弾をそのまま放って逃げるわけないから。
読まれてるよな。
多分あいつは解除しているときに敵にみつかったかなにかで手間取ったんだろう。
間に合うと解っていたから解除を始めた筈なのだから。
それで仕方なく解除を諦め逃げる事にしたのだがその前に爆破はおこった。
きっとその際発信器が壊れたのだろう。
その時助かったのは奇跡かもしれない。
そして二次爆破が来る前に下水道あたりに逃げ込んででそのまま海にでちまった。
ってことか。
まああの場所からなら地下が一番てっとり早いもんな。
だが一歩間違えれば死んでいた。
なんであいつは海になんか出てるんだ。
そのまま地下から地上へ出られる道があるはずだったのに。
そして記憶をなくした。
だから彼をせめる事はできないのだ。
だって自分を助けるために彼は危険な目にあったのだから。
「コナンあと7日だぜ?思い出せよ?それ以上はもう俺は―――――」
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