悪夢到来!!!  依頼者達8


『まああの家がどんな悪事働いていたとしてもどーでも良いわ。今は奴の事だけよっっ。捕まえたら今までの恨みつらみ一気にはらしてやるんだからっっ』
『そうね。例え世間様の人気者だろうが犯罪者は犯罪者。容赦はいらないわ』
『手加減は無しっっですわよねっ。でも美形だったらちょっぴりアリス迷っちゃうかもしれませんわ。』
『アリスそーゆーのは心の中でだけ言っておけ。
だいたいよー俺達疑われまくって被害被ってるからなーうっかり殺しちゃっても正当防衛ってやつ?』
『・・ボールさん。それは正当防衛にならないと僕は思いますけど』
『確かにピエロの言うとおりだぞ。せめて半殺しにしておけ。ボール』
『ちっ。どいつもこいつも意気地がたりねー』

『そう言う問題じゃありませんっ』
『そう言う問題じゃないだろーがっ』
またもや三人の押し問答が始まったので快斗はその場からさっさと逃げ出すことにした。

『すみませんちょっと疲れたので夕食まで休ませてもらえますか?』
手元で未だ口を付けず転がしていたグラスの中のワインを一気にあおると快斗はイスから立ち上がった。
『ええ。そうねコナン君も眠そうだし』
マリアの言葉に隣りでうとうとしかけているコナンにようやく気付き快斗は苦笑した。
本気で眠いのか単なるこの場を抜け出す口実を作ってくれただけなのか、今は判断できないが部屋に入ればすぐにでも分かるだろう。

「コナン。部屋に行くぞ」
「う〜んーーー」

仕方ないので足下に置いていた荷物を肩に担ぎコナンを抱き上げるとアリスの磁石のように引っ付いてはなれない視線を感じたが、快斗はなんとか無視をしてマリアに笑みを見せた。

『部屋はどちらでしょうか?』

マリアとメアリの案内で自分たち用の部屋へと通された快斗はアリスの視線からのがれホッとしたのと同時に部屋に盗聴器がしかけられていないか調べようと心に決めた。

『夕飯は7時。一応内線で連絡するからそれまで熟睡していていいわよ。』
『ただ。電話の音にも反応しないようだったらそのまま寝かしておくから。その時は、お腹がすいてから出てきなさい。』

親切な二人の言葉にありがたく頷くと、快斗は扉を閉め、鍵をかけ更に胸ポケットに突っ込んであった手のひらに包み込める程超小型の盗聴器センサーを作動し、引っかからないのを確かめるとようやくホッとため息をついた。

疲れた・・。

それにしても怪盗KIDの嫌われようには偽物だと分かっていても落ち込む。
ボールなんか殺しても殺したりないくらい憎んでいるようだ。
口には出さない物の、他の5人も同じくらい嫌っているのは雰囲気で分かった。
そりゃ犯罪者だしそれも仕方ない事だと分かってはいてもやはり気が滅入ってしまう。


「お前さっきの言葉気にしてんだろ?」


さっきベッドに降ろしたコナンがムクリと起きあがり眠気のカケラも伺わせない顔で快斗の心を見抜いた。
それに(ああ。やっぱりタヌキ寝入りか)と納得すると快斗は近くのイスに座り手のひらで自分の髪をくしゃりとかき乱した。

「はは・・笑っちゃうなーこんくらい、いーかげん慣れろっての」

乾いた笑みを無理矢理作りおちゃらけた声音を出す快斗にコナンは顔を微かにしかめた。
「慣れんな。」
「え?」
「慣れなくていいって言ったんだ。んなくだんねーことに耐性つけてどーすんだ」

挑むような眼差しで快斗の目を下からのぞき込む。
その蒼い瞳は泣きたくなるほどに澄んでいて快斗は思わず愚痴りたい衝動にかられた。

「そんな事一生慣れなくていい」

痛いと感じる気持ちに慣れてしまったら、それほど寂しい事はない。
表面を押し隠す程度ならいい。自分すら騙してしまえるほどの演技は必要ないのだ。
辛いなら言えばいい。
その思いを分かち合える人間が目の前にいるのだから。
慣れる必要がどこにある?

「・・・うん」
ありがとう。



「そういえば何でこっちではKIDの予告状とかマスメディアに取り上げられてねーんだ?」
しんみりした雰囲気をどうにかしようとしたのか快斗が突然尋ねた。それに軽く笑うとコナンはあっさり返した。

「んあ?ああ。それは偽物が卑怯な手を使ってっからだよ」
卑怯?
「奴が狙う獲物は常に腹に一物抱えてる金持ちばかり。もちろん予告状は出してるが、警察の介入を拒むため、予告状は誰にも見せない。
例えKIDに宝石盗まれようが、警察にぱくられるよりかはよっぽとマシってなもんだろ?」

「あーなるほどー。んじゃ何か?こっちの警察が後手後手に回ってるっつーのは盗みに入られてからKIDが予告状を出したのを知るからか」
「そ。近所住民から白い影を見たとか通報が入ってから初めてその家に捜査令状を出すみたいな後手後手も極みだよな。
まあ、大抵の場合盗みに入られた直後その家の住人が亡くなっているから警察はどうあっても介入するんだけど」
「ってことは、最近被害者の周りで何かありましたか?とか警察が尋ねてようやく誰かが『実はKIDが現れたんです』―――――みたいなー?」
「ああ。最悪な事態だろ」

二人でため息を付いてしまう。
そりゃロンドン警察も可哀想だ。
「はー奴も考えたもんだなー」
「お前感心してる場合か」
呆れているような感心しているような口振りにコナンは額を押さえる。
「だってよーKIDとして動くには予告状は必須だろ?だけど警察の包囲網を本物のようにスルリと突破するのは不可能。
その結果こんな汚い手が浮かんだんだろうなーと思うと感心しちまうね」
その卑怯さに。
まあ、最初からこの家が目当てだったという可能性も無くはないが。それならば警察にも挑戦状を送ってこそ本物の怪盗KIDと言う物だろう。

「それにもう一つ、奴のうまい所は全ての人に本物だと思わせている所だろうなぁー。警察の中には本物を過去に目撃した奴がいるはずだろ?そいつらと接触しないようにしている。
8年。それだけ立てばその時新米だったとしても、今現在、現場にいることはないだろう。それなりの地位へ昇進しているはずだからな」

そいつらが見たら奴が偽物だって分かる筈だ。なかなか考えたものだな奴も。
と腕を組みふむふむと頷く快斗。

「それ言ったらお前も偽物になるんじゃねーか?」
「ちっちっちっ分かってねーなー。俺にはKIDのオーラがある。だが、それは他の奴にはない。ただそれだけの差さ。それが一番重要なんだけどな」

KIDのオーラ。本人はそう言い切るがこの二代目、本物の一代目KIDを拝んだことは一度もない。
たぶん寺井さんの受け売りだな。
そう判断を下すと偉そうに説明する目の前の男が急にガキッぽく見えてきて面白い。

「俺はそんな事よりこの部屋にベッドが一つしか無いことのほうが気になるんだけどな」
「・・・」
「なんで一つなんだろう?間違えたのか?」
「・・・」

きっと予定通りだろう。彼女たちの。
なにせ例の部屋呼ばわりだ。カップルだと思っている又はくっつけようと思っているなら確かにいい手かもしれない。一つしかないベッド。
二人で寝れなくもない広さのベッドであるところがなかなか小憎い演出だ。
そして寒さの為に抱き合って寝ろとばかりにちょっと小さめの上布団。
完璧だね。

「まあ、この部屋しかあいてなかったのかもしれないし」

とりあえずごまかすことにする。なにせどちらかというと快斗にとって好都合なのだから。

その後、マーシェリー家について話していたら時差のせいか、睡魔に襲われ二人そろってうっかり寝入ってしまった。
トゥルルルル。トゥルルルルル。
虚しく響き渡る電話に出る者はいなかった。






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2002.8.5