悪夢到来!!!  小さな反乱2




「でけー」

「ホント。おっきいなー。さすが裏でなにやらやらかしてるお方は違うねー」
「全くだ。全部裏金でまかなったのかと考えると腹が立つやら情けないやら」
「情けないの?」
「お前に教えられなかったら知らずにただの金持ちという認識しか持たなかっただろうなと思い至って自分が情けなくなってくるんだ」

なるほどその情けないか。相変わらず自分に厳しいコナンに快斗は呆れてしまう。
人間領域というものがある以上、裏も表も全てを知るなんて不可能なのだ。
快斗が知ってるのは快斗自身が裏の人間だからだ。反対に表舞台には疎いことがある。
だからコナンと快斗足して二で割れば丁度いい―――――と言うよりも、二人でいれば最強じゃん?って俺は思うんだけどなー。

「ま、俺が知らない事はお前が知ってるしなんとかなるか」

ほぼ似たような言葉がコナンの口から漏れでて、快斗は思わず隣りを歩く少年を見下ろした。

「なんだよ?」
「いや・・その・・ちょっと嬉しかったから」

同じ考えなのが。
一緒にいてもいいと許してもらえたような気がして思わず顔がほころんでしまう。

「変な奴だな」

訝しげなコナンにも快斗の笑みは止まらない。
いいのコナンには分からなくても。
それに無意識に出る言葉だからこそ真実味があって胸にくるものだしね。

マーシェリー家付近にはやはり予想通り大きな家はなかった・・・と言うよりこの家が大きすぎるのだ。
他と比べるのもおこがましいほどに。
結局間違いなく偽物はこの家に入ると見当付け、二人は家の周りをぐるりと一週した。

「とりあえず逃走経路はたぶんここだな」
「だね。もう一つ怪しい所あるけどちょっとリスク大きいからねー。」
「お前だったらあっち使うだろうけどな」
リスクとは言っても快斗ならばなんとかなる程度の障害だから。
「うん。あっち使う。でも偽物君にはちょっとハードル高いっしょ?」
「念のため二方向気を付けておくけどな」
「うん。念のためね。こっちから逃げるとしたらこのままあの屋根に飛び移って、―――――」
「だろーなー。追いかけるのはお前だな。とりあえず俺はどっかのビルの屋上で観察しておく。」
「一応追跡シール一枚頂戴。貼れたら貼るから。」
「ああ。夜渡す。お前は他の奴ら撒いて偽KIDだけ追えよ。俺がフォローする」
「らじゃ。その眼鏡便利だよねー。望遠鏡にもなるし」
「ああ。怪しまれないように連絡いれるから携帯はバイブに」
「らじゃー。」
「後は―――――」

「臨機応変に」
「臨機応変に」

コナンの言葉を読んだかのごとく見事にハモると快斗はいたずらっぽく目を輝かせた。
「でしょ?」


そんな息のあった二人の会話を影で聞いていた人物が一人。

『おやおや?奇遇ですね?』

金髪に深い緑色の瞳を優しく和ませた美形男が朝の散歩とばかりにラフな格好で歩いていた。
げっ・・
コナンも快斗も同時に眉をしかめる。

『縁があるみたいですね。飛行機であった二人組みだよね?』
『・・お医者さん?』
『そう。覚えていてくれてうれしいですよ。あの時自己紹介もしてなかったからね。私の名はロバート。職業はもちろんお医者さんです』

このまま背を向けて走り去りたい気分だが、自己紹介されてしまった以上逃げるわけにもいかない。

『えっと・・シンイチです。職業はもちろん高校生』
もちろんの部分を強めに言ってみる。
『その子は?』
『コナン。小学生ですよ』
『ふむシンイチ君にコナン君だね。君たちこの家に何か用なのかな?さっきからじっくり眺めているようだけど』

と言うことはじっくり眺める姿をじっくり見ていたということだろう。

『いえ。大きな家だなーと思いまして。』
『確かに。ここら辺で一番大きな家だからそう思うだろうね。たまに観光客が見に来るくらいだから日本でも有名なのかな?』

いやそんな事はないだろうと思いつつ曖昧に微笑む快斗。

『かなり古くからあるからねこの家。そうそう8年前に先代が引退して、結構話題になったんだよ』
『引退が話題にですか?』
『うん。まだ50代で引退したし、それに先代はとても偉大な人だったらしくてね、沢山の人に惜しまれながら引退したそうだよ。』

偉大なのに引退したのか。それとも落ちぶれる前に光り輝いているうちに消えてしまおうと思ったのか。
だがその後裏の世界で一旗揚げているのだから引退と言っても本当の引退ではない。

『そうなんですか。』
『そう。何があったんだろうね8年前に』

そっとつぶやくと手を挙げその男は二人に背を向けた。朝日をまとって爽やかに去っていくその男に二人は心からホッとした。

「よかった何処に泊まってるの?とか聞かれたらどうしようかとおもったぜ」
「同感。ってかあいつお前しか目にはいってなかったな」
「いやーん狙われてるっぽいー?って嫌だなーマジかよ?」
「マジ。気を付けろよ」
「おー」


爽やかな朝に起きた小さな波乱だった。





『コッナーーーンくーーーーん。おっはよーーー』


家へ戻ると突然背後からとびつかれコナンは前へ転びそうになった。それをそっと快斗が支えると女性三人の目がかまぼこのような形になる。
元凶のアリスはさっと姉妹の所へ戻ると興奮気味に手を振り回した。

『うふ。やっぱりなんだかんだ言って二人の仲はいい感じね』
『あのさりげなく肩を支えるしぐさサイコーですわ』
『助けられ慣れてる風のコナン君もまたいいわね』

二人をちらちらと見ながらひそひそやる三人に快斗もコナンも顔を見合わせため息をついた。

「なんなんだ一体?」
「いや・・。乙女の夢が暴走してるみたいよ」
「は?」
「こっちのこと」

コナンちゃんが知ったら怒り狂いそうだし。


「そうそうマーシェリー家についての資料見るんだろ?」
「そうだった。さっさと部屋に戻ろう。あの女性軍団に捕まる前に」
コナンの言葉に全く同意見の快斗はコクコクと頭を縦に降り続けた。


「あれ?先代の交代って7年前になってるぞ?」
「ああ。それな8年前に引退宣言したけどその時の当主が頼りないから一年だけ裏からサポートしてたらしい」
「なるほどな。8年前に何があったのか・・・ねぇ。そんな内容あったか?」
「なかった。確かに突然だったから誰もがビックリしたらしいけど」
なにがあったのだろうか。


「とりあえず順を追っていくぞ。まず第一の事件。グラムレイ家。」
8年前に先代が病死している。
今回の事件で12年前に引退した先々代が殺害された。
盗まれた宝石はビッグジュエルと言うにはいささか大きさが欠けている。
だがかなりの値打ち物であり、さらには盗品であることが判明。
今とても大変な状況に陥っているらしい。


「第二の事件ボナバルト家。マーシェリー家とはかなり昔からのつきあいがあるらしい。」
8年前これと言ったことはないが、あえてあげるならば家を建て替えたことだろうか。
修繕ですむ程の事だったのにその時の主人が強行したらしい。
今回の事件では2年前に引退した先代が殺害された。
盗まれた宝石はその家の家宝といえる緑の翡翠。
そちらに気を取られている隙に殺害されたと言われている。


「第三の事件はカーティス家。」
どの家も大きいが5件の中で一番大きな家だ。
もちろん警備は万全。そんな中偽物は宝石を盗み出した。
赤い赤い血のようなルビーを。
8年前この家もこれと言った事はない。
言うなれば・・・当主の妻が病に伏せたこと・・くらいか?とは言っても今はある程度回復しているらしいが。
今回の事件で近々引退予定だった主人が亡くなった。
そのせいで、また奥さんが病にふせってしまったらしい。



「そして第四。一番新しい事件はラヴィソン家。」
ここも先代が今回の事件で殺害されたらしい。
8年前ここの先代は精神を病み引退、その後近くの離れで療養していたらしい。
キッド騒ぎのさなか殺害されたのか、離れはほぼ無人状態。
近しい知人しか中へ入らなかったというガードマンの報告がある。
毒を飲んで亡くなったことからこれは自殺ではという疑いが濃厚。



「んで第五の事件が勃発する予定ってか」

狙われるのは8年まえ・いや7年前に引退した先代だろう。
偽物が盗むついでに殺害しているのか、そのついでに石を盗んでいるのか解らないが、
石よりも命のほうが遙かに比重は重い。
警察も家人の守りを強化してくるだろう。

「うん。今回マーシェリー家の先代が周囲の反対を押し切って警察に予告状を届けたらしいな。
殺害された人の共通項をみて自分が次に狙われるのに気付いたのかもしんねー」
紙にサラサラとペンでメモっていくとコナンはトントンと亡くなった人たちを指していった。
「ほぼ同期。年代的に言えば差はあるものの、家柄もほぼ同じで、仕事関連でも関わりがあったり個人的にも交友関係がある。」
「らしいねぇ。この5人。でもさ6人目が洗い出せないって事はさ、この事件で偽者君の行動は終わるんじゃないの?」
「かもしれない。たぶんマーシェリー氏が最後。だからこそ今回逃したら後はないんだ」
「あっやばいねそれ。俺達も時間少ないし〜それじゃあ何としても先代を守り抜かないと」
「それは警察がやってくれるだろ?たぶん警察もそのくらい解っているだろうし、お前は偽物を追えよ」
「そう?ま、追いつけるのは本物くらいってかーー格の違い見せつけてやるぜっっ」
意気込む快斗。本気だか冗談だかさっぱり読めない。


「そうだっ快斗。偽KIDについて言い忘れている情報があった。あいつな。宝石手に入れてからほぼ一週間後にすべて返してるらしい」
そのせいで余計に本物のKID説が流れるのだろう。
「返してる?って事はやっぱり盗みがメインじゃなく殺害が・・・でもなんのメリットがあってわざわざ返してるんだ?」
「さあ?」
めんどくさそーな事件だな。
とりあえず快斗の感想はそんな程度のものだった。




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この事件解決できるのか私・・・
とか弱気発言(笑)
なんだか複雑化しているような単純化しているような
事件です。
一応犯人決めてはいるんですけど、土壇場に変わったり(おいっ)するかもー
成り行き任せですからね。
ああ、でもやっと事件っぽくなったとおもいません?
12話目でようやくってやばいけど(爆)
2002.8.18