悪夢到来!!!  偽者現る1


「夜が来た」
「うん来たね」
「行くぞマーシェリー家へっ」
「おうよっ」

意気揚々と部屋を出た二人を最初に阻んだのは何を隠そう小さな少女アリスちゃんだった。

『グッドナーーイト。コナンくーんシンイチお兄さまー』

元気よく目の前に飛び出した少女にコナンは一歩後に下がった。襲われそうな気がしたのかもしれない。
怪しい空気を無意識に感じ取っているのだろうコナンはどうもアリスが苦手だ。
(いや・・いい子だとは思うんだけどな・なんか本能が警告を促してるような気がして・・)
実に正しい判断である。

『こんばんはアリス。マリア達はもう準備すんでいるのかな?』
『ええ。皆玄関で待っていますわ。さあっいきましょっすぐに行きましょうっっ。ああ・・ワクワクしますわ』

快斗の腕を引っ張り急がせるアリス。
コナンはその二人の後からのんびり付いていくことにした。


玄関で顔を見合わせたメアリが開口一番に口をひいた。

『・・・シンイチ・・その子も連れ行くつもり?』
『ええ。何か不都合でも?』
『何かあったらどうするつもりかしら?』
『でもここに一人で置いていくのも心配ですし』

その言葉がどこかつぼを付いたのかアリスが興奮を堪えるように荒い息を繰り返した。
背後にいたマリアも動揺らしく息も絶え絶えに快斗の言葉を聞いていた。

『め・・メアリお姉さま。仕方ないわシンイチお兄さまはコナン君のことがとっても大切なんですもの、一人で家に置いておくなんて気が気じゃないんですわきっと。目の届く所にいないと心配なんですわよ』
『そうよメアリ。シンイチの思いを分かってあげましょう』

うふふ。愛ね。とつぶやき会うアリスとマリアにボール、ピエロ、かばの男三人組は不気味な物を感じたのかそっと見ない振りをした。

『連れていくと言っても近くのビルの屋上に待機させるつもりですし、大丈夫ですよ』
『コナン君には私たちが付いて置くから安心してくださいなシンイチお兄さま♪』
別の意味で心配だが
『ありがとうアリス』

コナンの嫌そうな顔を視界の隅にとらえつつなんとか笑顔でお礼の言葉を述べた自分を偉いと感じた快斗だった。


マーシェリー家付近は予想以上に凄い量の警備員がはびこっていた。
家の周囲に近寄るどころか、その隣の家に入ることすら出来ないくらいにびっちりガードされている。
『とりあえずここで待機してましょう』
快斗の言葉に行動隊のピエロ&ボールは大人しく頷いた。異存があるはずがない。
女子供+カバが遠距離組でビルの上から望遠鏡で覗いているはずだ。
その連絡待ちである。

快斗はと言うとコッソリ片耳にイヤホンをはめ、警察の無線を傍受していた。

―――――KIDが現れるまで後約1時間だっしっかり警備していろよっ―――――
―――――今回は逮捕より家人の命を守るのが優先だ。深追いは禁物だぞっ―――――
―――――そうそう夜ご飯食べてない組は今のうちにおにぎりを取りに来い―――――


などなどいろいろと雑音と共に聞こえてきて便利である。

―――――警部―なにやら日本の警察から刑事が派遣されてますがどうしましょう―――――
―――――なにー?聞いてないぞっ誰だ?―――――
―――――KID専任の刑事らしく中森と名乗ってます―――――

―――――ナカモリ?まさかこの間しつこくKIDが次現れる場所を問いつめてきたあのナカモリか?一応警部とは言ってたが信用できるもんか。ただのKIDフリークだろう。だが念のためだ。とりあえず私の所へ通せ・・・その前にそいつがKIDでないか念入りにチェックを忘れるなよ?―――――
―――――了解―――――


(中森警部・・・そうやってマーシェリー家の事聞き出したのね。というより根性だね。よく聞き出せたよな)
本当に感心してしまう。
タダでさえ今回5件目にして初めて事前に手に入れたKIDの情報。
報道関係にも漏らしていないほどの徹底ぶりなのに中森はお得意の粘りで情報をゲットしたようだ。
体当たりの人生だよなホント。

そんなに苦労して手に入れた情報を快斗とコナンにペロリと吐いてしまっていいのだろうか?そう思うが、自分の立場を考えて言ってくれた中森に感謝の心を感じる快斗。
彼はこの現場に自分が来るのを望んでいない事はわかっている。
心配してくれているのも分かっている。
でも・・でも・・・・

ごめんねぇ俺コナンちゃんには逆らえないのぉぉぉぉ。


心の中で涙を流しつつ、中森警部に頭を下げておいた。

まあ、それはおいといて、
(・・・中森警部・・・まだ接触してなかったのね)
そちらがちょっとばかし気になる。

普通ならこちらに着いたと同時に署に乗り込みKID専任の刑事は誰かね?と聞きに行くはずなのに。今頃のこのこやってくるとは行動が遅すぎる。
まさか迷子になってたとか言うんじゃないだろうな。
ありえる事に快斗は苦笑をもらしてしまう。

『どうしたんですか?』
ひそやかな快斗の笑い声を聞きとがめたピエロが驚いた顔で尋ねた。
『いえなんでもありません。凄い人数だなと思いまして』
『そりゃ今までのメンツが掛かってるからなー。かなりメディアに叩かれてるし、市民の人気も落ちてきてるから必至なんだろう?』
がはははと陽気に笑い出すボールの口を二人掛かりで押さえ込み、そっと周りの気配をさぐる。
大丈夫見つかってないようだ。
『ボールさーん静かにって最初に約束したじゃないですかー』
『悪い悪いすっかり忘れてた』
ケロリと言ってのけるボールにピエロは心臓がバクバク鳴ってるらしく、胸を押さえ苦しげに呻いた。

(後一時間このメンバーでいるのって辛いな・・)



「高いなぁ」
場所は超高層ビルだ。
あの住宅街からはかなり離れているが周囲は一番見渡しやすい。
『あっあれがマーシェリー家ですのね。ふぅーん本当に大きいんですわねー』
双眼鏡を当て甲高い声を挙げるアリスにコナンはとっさに耳に手をあて災害対策をとる。
『あっピエロちゃんですわ。まー相変わらずおどおどと。だからボールに苛められるんですわぁ』
そこいくとシンイチお兄さまは素敵ねーとうっとりするアリスに隣りで同じように双眼鏡を覗いていた姉妹もこくっと頷いた。
『おいおい。君たちの役割はKIDを見つけることだろう?』
カバの穏やかな問いかけに三人は同時に振り返るとギッと睨み付ける。

   うるさいわよ。

『・・ごめんなさい・・・』
カバが大きな体を縮めて謝ってしまう程の視線だった。
当然の事を言っただけなのに・・・(涙)
それにコナンはただ疲れた笑顔でかばの背中を叩いてやるのだった。
これくらいなら言葉が通じなくても大体分かるものだろう。

「がんばれっカバさんっ」


コナンは双眼鏡よりも高性能な眼鏡にこの間、新たに取り付けてもらった熱感知で周囲を調べていた。問題は警備員の数が多すぎる事だが、新たに遠くからくる人間や、ここから遠くへ離れる人間くらいなら見つける事は可能だろう。
「しっかしこんだけ人数いたら変装し放題じゃねーか」
敵は変幻自在な怪盗KIDと知ってこの配置なら責任者は無能だな。
そこに快斗からメール(阿笠博士の手腕により携帯は当然のように海外でも使用可。)が入りKIDが一時間後に現れる事をしったコナンはとりあえず眼鏡を普通の眼鏡に戻した。なにせ電気を食う。いざというときに使えないのでは意味がないのだから仕方がない。
「一時間後・・・ねぇ。」


かくして一時間後KIDは現れた。やはり変装をして警備員に紛れ込んで。
それを見破ったのは他でもない邪険にされてもなんとか食い下がり無理矢理警備に加えてもらった中森銀三その人だった。

KIDだぁぁぁ

その時の銀三はまさしく英雄だった。

だれもが彼の指さす方向を見た。

そこにいたのは自分と同じ制服を着たどこにでもいそうな顔立ちの男。
だが銀三には分かる。過去KIDの変装を見破ったという自信により目の前の男から尋常でない空気を感じとったらしい。
狼狽える周囲を押しのけずんずんその警備員に近づいた銀三はおもむろに手をひっつかみポケットに潜ませてあった手錠を掛けようとした。
そこで警備員は驚いた顔をすぐに消し、慌てて手を振り払い逃げ出したのだ。
犯人は私ですと告白しているようなものだった。

追えーーーーーーーーー

日本語だけど空気で伝わるものなのだろう。その素晴らしき肺活量の持ち主の命令に誰もが従った。
だが考えてほしい。今回の役目は追わなくていいのだ。そんな事はしらない銀三は仕方ないとして、うっかり言葉に従ってしまった警備員達には困ったものである。

「よしよし。英語なんかひとっことも分からなくてもやはりなんとかなるものだな」

満足気に頷くと銀三は偽KID逮捕の朗報を待つことにした。
あれ以上の人数が行ったところでジャマになるだけなのは分かっている。
偽物には情熱がないせいか、本物のように自分のこの手で捕まえたいとは思わない。
とりあえず誰でもいいから引っ捕らえろっっと思うだけだ。


「へーよく見破ったなー」
外で飛び交う無線を聞いていた快斗は真剣に中森警部に感心した。
(警部外まで声聞こえてたよ・・。)
別の意味でも感心してしまう


ほぼ丁度同じ時に胸ポケットの携帯がぶーぶー振動を立てた。
当然今かけてくるのは最愛の相手しかいまい。
『動いたぞ。そこから北へ約500M。例の逃げ道ドンピシャだ。なんでか知らないけど警備員が大量にひっついてるな』
室内で何が起こったかしらないコナンは不思議そうに首を傾げた。先ほどきた快斗のメールの話では、家人の護りを優先にする筈ではなかったのか?
それに全てを知っている快斗は内心爆笑の渦に巻き込まれつつも、よっこらしょっと立ち上がった。
「了解北ね。今から向かいまーす」
とりあえず電波を繋げたまま快斗は携帯を胸ポケットに滑り込ませた。
『すみませんKIDを追います。二人は中の人物の警護を。特に先代に注意して下さい』
慌ててそれだけ言うとピエロとボールの制止の声を聞かず走り出した。

『抜け駆けかっっ』
『先代ってどういうことですかっっ』


二人の声は残念ながら快斗の便利な耳には届くことはなかった。






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ちょっと失敗。偽KID出てきたけど変装したまんまだからダメじゃんね。
次回に回します。
2002.8.24