悪夢到来!!!  偽者現る2



大勢の警備員をひっさげ逃げる偽KIDはいつの間にか警備服を脱ぎ去り、あの特有の白い姿を見せた。
『これる物なら追いかけてごらんなさい』
余裕すら感じさせる笑みでそんな事をいいはなった。
そいつはコナン&快斗の予想通りの逃走経路をたどると、塀から屋根へと身軽に飛び移り、おたおたする警備員達を楽しげに見下ろしていた。


『今回は何故かジャパニーズインスーペクターに邪魔をされてしまいましたが、次回までに対策を練ってきますのでどうぞお手柔らかに』

人を食った言葉を優しい声音でかけると、KIDはフワリと空へと浮いた・・・いや、気づかぬ間にハングライダーをセットしたらしい。
浮き上がった足を掴み損ねた人々が次々に屋根から転げ落ちる。
ガゴンと可哀想なほどに鈍い音が静かな夜空に鳴り響く。
月夜に消えていく悲鳴。
そして落ちた上に更に新たに落ちてきた人間につぶされ二重に苦痛の声をあげる者。
高所恐怖症を忘れていたのか屋根に登ったっきり動く事ができず屋根にへばりついて震える者、遠くから唖然とそんな状況を見つめて居る者。
それなりに騒然としていた。

そこへ

『何故あなたは宝石を狙うのですか?』

安定の悪い屋根にしっかり立ち空へと浮かび上がる怪盗に必死の形相で尋ねた警備員が一人いた。
前から受ける強い風に時折ぐらりと揺れながらも警備員の目は偽KIDから離れる事はなかった。
それに偽者はちょっと目を丸くし薄い苦笑の形をみせた。

『おや?なかなか根性がある人もいたものですね。何故・・・ですって?それは欲しいから・・じゃだめですか?』
『一週間後に返すのに?』
『ええ。飽きるんですよ一週間たつと』
シラッととぼけた返答を返す相手に警備員はくいっと帽子を持ち上げにやりと微笑んだ
『8年前。』

『はい?』

『全ては8年前に起こった何か・・ですね?』

確信に満ちたその言葉にようやくKIDに変化が現れた。
リズムのよいテンポが微かにずれたのだ。
外面には現れない為大抵の人は気付かない程度の変化だった。

『どういうことでしょう?』
『それはこちらが聞きたいですね。8年前何があったのか』
『意味がわかりかねます』
『8年前。今まであんたが盗みに入った家は共通して8年前に何か変革がある。例えばマーシェリー家ならば先代の隠居。その前のラヴィソン家では先代の発狂。はたまた家人の死。様々ですが、なにかしら起こってます。』

だがそれは取り立てて言うほどの共通項目ではない。
偶然と言われてしまえばそれだけの物。
だから単なるはったりだ。
堂々と言ってみるとハッタリも真実味を持ち、なんとはなしに何かあるような気がしてしまう。

『それが何かおかしいのですか?』
『符号が・・何か共通する符号があると思うのです。どうでしょう?』
『さあ?と答える他にありませんね。私はただ欲しい石を手に入れる為に盗みに入っただけですよ?まあそこまで調べた努力に免じて、私の手の内を一つだけ見せてあげましょうか・・・・・』
ふ・・と笑うとついてきなさいとハンググライダーを畳みもう一度屋根の上を走り出した。
それに危なげなくついていくと前の人物の唇が微かに持ち上がった。
『なかなかやりますね。それでは』
今度は違う家の屋根へと飛び移り、軽々着地を決めるKID。それにならって警備員もなんとか屋根に飛び乗る事に成功した。

『ほう。まあいいでしょう。ここまで離れれば誰も追ってこれないでしょうし。あなたの正体を教えて頂けますか?偽警備員さん?』
『・・・あらー?バレテたのね。』
警備員はやっぱり?と言ったように悪びれなくそんな声をあげた。
そして二人の偽者が笑いだす。
それはとても陽気とは言い難く、水面下で火花が散っているのが見えるような気がした。

クスクス笑いをスッとおさめると警備員の服を取っ払い鏡に映したかのごとく同じ服装の人物が現れた。

『お初にお目に掛かります。にせKIDさん』
優雅に腰を折る目の前の男に偽物は余裕さえ感じさせる微笑みをみせた。
『ふふ。やはり貴方でしたかJr。』










『なんでですかっっっ』
『君はまだ幼い。それに・・・これが君にとってよい道だとはとても思えない』
『そういうのは自分が決めることですっ』
『私の為に君を犠牲にする気はないよ。もちろん息子達の事は気がかりだけどね』
『知ってます。なんでか狙われているのでしょう?だからだからっっっ』
自分が彼の家族を守る。
そう口にした小さな子供に彼は困ったような慈しむような微笑みをみせた。
『し・・信用できませんか?どんな修行だって頑張ってついていく自信はありますっっ』
『うん。君は頑張りやさんだからね。でも君は私の家族を守る為だけに一生を費やす気なのかな?』
『貴方がいない時だけですっ』
『じゃあ永遠にいなくなってしまったら?』
その瞬間子供は泣き出しそうな顔で彼を見上げた。
『ああ。すまない泣かせるつもりはなかったんだ。例え話だよ』
『貴方は死んだりしませんっだってこの世で一番光輝く存在だから』

その信じきった瞳を彼は眩しそうに見つめた。
純粋に無垢なほどに一途でひたむきな瞳。
子供特有の、それでいて大人びた表情は目の前の小さな子供にとても似合っていた。
自分の為に自分の家族を守ると言い切ったまだまだ小さな子供。
何故にここまで気に入られたのか解らないがこの子が真剣に言っているのだけは解った。
譲る気はない頑固さまでもが困った事に愛らしかった。
『やれやれ。でもね。この世は何が起こるか解らないんだ。明日には私はここにいないかもしれない。もしかすると君がいないかもしれない。そんな世界に足を踏み入れてしまったのは私の落ち度でもあり、周りの人にははた迷惑な話だね。でも私は後悔をしていないし、例え過去に戻れても同じ選択をするだろう。例え家族を危険に巻き込んでも近しい者が危険にあっても・・・これはエゴかもしれないな』
『?よくわからないよ。なんで?貴方は貴方の好きなように生きればいい。それが一番貴方が輝く瞬間なんだから。エゴとか迷惑とかだれも思ってないよ』
『君は幼い。でもとても頭が良い。この先きっと素敵な大人に育つだろうね。
だからこそ今はダメなんだ』
『なんでっ』
『ダメだよ。せめて・・そうせめて後5年は待ちなさい。その時まだ同じ気持ちなら私の元へおいで』
『5年・・・その間にどこかにいっちゃったりしませんか?』
『大丈夫だ。私はここにいる。妻も息子もいるのだからね。突然に消えたりしないよ』
『解りました。約束ですよ』
『ああ。約束だ』

差し出した小指に大きな小指が絡まった。

それに満足すると駆けだした。
『絶対ですよっっ約束ですよっっっ嘘着いたら息子さんに悪戯しちゃいますからねっっ』
『こらこら。それはやめてくれよ。解ったから。5年間しっかり考えて、生きてゆきなさい。それでも気が変わらなかったら私の妻と息子を守れるくらいに鍛え上げるからね。』
『はいっ貴方がいつ闘いに赴いてもいいように安心して家族を任してくれるように貴方の信頼を勝ち取ってみせますっ』




結局それが彼―――黒羽盗一――と交わした最後の会話になってしまった。



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