悪夢到来!!!  悪夢到来3



「初めましておじいさま。コナンです」
緊張でカチカチに体を強ばらせた少年は紅潮した頬とはにかむような笑顔がこれまた可愛らしさをアップさせていた。少し大きめのセーターと半ズボンから延びる白い足もギュッと抱きしめたいほどの魅力を醸し出す(快斗談)
『おお・・私なんかの元へ天使が・・。』
だからこんな言葉が思わず漏れ出てしまったとしても仕方ないと快斗は思った。
『生憎生身の人間ですよ。このたびは、おじい様にお会いしたいと、コナン様のたっての希望でして。』
『ワシに?そうかそうか・・』

好々爺と言うにはいささか目つきの鋭い老人が満面の笑みを浮かべた。
棒のように痩せた体は、快斗よりも数センチ低いにも関わらず威厳のせいか大きく見える。
設定としてはこの老人―――――マーシェリー家先代の末娘の子供・・・である。
末娘は父の裏家業を知って十数年前に家を飛び出したっきり音信不通らしい。
ナイトメア情報によると、日本に渡り、そこで出逢った日本人の男性と家庭を持ち幸せに暮らしているらしい。
実際にコナンと似たような年頃の息子がいるらしく、嘘八百を並び立てるよりも本当を混ぜ込んだほうがより真実みが増すというナイトメアの言葉により、コナンがその息子―――――先代にとっては孫―――――を演じる事になったのだ。
コナンの役目は先代を護ること。
逐一傍に控え、犯人がしびれを切らして姿を現すまで徹底的に護りきる事を要求されている。かなり重要な役割だ。
そして
『ご挨拶が遅れましたが、私コナン様の通訳として付いて参りました、モリスともうします。』
ふっくらした体型の穏やかな顔つきの中年女性はまるで乳母ですといった雰囲気を醸しだし、コナンの横に立っていた。

『とするとこの子はこちらの言葉は話せないのかね?』
『ええ。生憎日本語しか・・』
『そうか。私も日本語は自由と言うほど使えない・・モリス私とこの子の言葉の隙間を埋めて貰えるかね?』
『ええ。喜んで』
驚くほどすんなり先代がコナンの事を孫と認めたのは、間違いなくナイトメアの手回しのおかげだ。
事前に娘の字に似せて手紙を送ってあったらしい。
その話では娘が行くと言うことになっていたが(ナイトメアが変装するつもりだったのだろう)、子供が使えるのならそちらの方が警戒心が薄れると言うことで、今回、抜擢されたのだ。
特にコナンのように天使かと見まごう風貌を持った子供が孫として現れたら彼でなくとも喜んでしまうだろう。
疑わしく思っても信じたくなってしまうのが人という生き物かもしれない。

『あの子がこれなくなったのは残念だが、風邪にかかってしまったのなら仕方のないこと。かわりにこの子が・・コナンが来てくれて私はとても嬉しく思うよ。彼はいつまでこちらにいれるのかね?』
『今は冬休みですのでしばらく居られます。そうですね・・7日ばかしは。』
『7日?それだけしかいられないのか?』
『学校がありますので。』
『・・・そうだな。我が儘を言っても仕方がない。この少ない7日という日を有効に活用すべく出来る限り一緒に入れるようにするしかないな』
『そうして頂けるとコナン様もお喜びになられるでしょう。おじいさまに会われるのをそれはもう楽しみにしておりましたから。』
『そうか』
その言葉に見るに耐えないほどとろけきった笑顔を見せた先代は、キョトンと二人の会話を見ていたコナンに手をさしのべると自分の膝の上に座らせた。
「私の話相手になってくれるかな?」
「うん」
間髪いれず可愛い笑顔で頷いたコナンに先代は幸せの絶頂をかいま見たらしい。




『で?どうです?』
『なかなか敵さんも頑張ってるみたいよ。コナンちゃんも負けてないけどねー』
コナンのお願いで母への手紙をポストへ投函しに出たモリス・・・・に化けた快斗は外で待機していた近所のおばさまに化けたナイトメアと世間話をする風に装い手を振りふり会話を交わした。
『よく飽きないよねー。次から次へとさ。結構レトロだよーこないだなんかサソリだもん。ビックリしちゃった』
何に驚いたかっていうとサソリなんて古風な手を使う事に一番驚いた。
コナンもあきれ果てていた程だから敵はどうも手段を選んでいないというより思いつかない人物なのだろう。
『サソリとは・・まるで一昔前の暗殺劇ですね。他には?』
『とりあえず、毒攻撃を数回。銃弾の雨が2回。家具が倒れてきたり花瓶が落ちてきたこともあったなー』
『ああ。だからおちびちゃんが先代と一緒に夜ご飯を作っていたのね』
『どこら見たんだ?まあそう言うこと。とりあえず俺、モリスも信頼されているけど、屋敷の住人は一通り疑ってかかることにしてる。先代が生活している離れに家に住んでるのはコック3名と執事1人にメイド4名+俺達の計11人。
たまに遊びに来る先代の友人知人それに息子や孫達がたまに泊まっていくな。でも信頼されてるのはコナンと俺だけみたいだ』
『まあ疑心暗鬼にもなるんじゃないかしら。とりあえず窓ガラスは防弾ガラスに元々していたみたいだし、今の所一応被害は出てないわね。よかったわ』
その言葉に頷く瞬間何か嫌な気分にとらわれた。
(なんだ?何か引っかかってるのか?・・それとも胸騒ぎ?)
『まあな。全部未然にあいつが防いでる。いちおう毒関連は俺が気を付けてるし。』
コナンの手紙という口実で外への連絡をおえた快斗は、自分の胸のざわめきの原因をすぐに知ることとなる。


『倒れた?ど・・・どうしてですかっっ?』
はなれの扉を開いた瞬間先代が慌てて飛び出してきた。
ついで執事やらコックにメイドまでもの凄い形相で快斗の周りに群がってきた。
家中が何故か浮き足立っているような空気を入る前から感じていた快斗は先代や他の人たちの慌てぶりにコナンに何かあったのだと感じた。
コナンはこの静かなで質素な暮らしを彩る花的存在になっていた。
小さな笑顔と可愛いしぐさそれに毎日の挨拶、何かすればちゃんとお礼を言ってくれるそんな一つ一つの事にこのはなれの人間は心奪われていた。
コナンがその部屋に居るだけでパっと空気が和み、誰もがなんとはなく微笑んでしまう。
だからこそコナンに何かあった時はこの家中の人間が大慌てなのだ。
そして急くあまり文章にならない先代の言葉をつなぎ合わせコナンが倒れた事を知った。


『私にもよく分からないんだ。ただ先ほどポストに入っていたらしい手紙を執事から受け取った瞬間この子が外へ走り出して・・・』
『手紙?』
まさか爆弾か?
『ああ。何故かその後外で大きな音がしたと思ったらフラフラとしたこの子が戻ってきて、君が戻るまでここでジットしていろと―――――どういう事だ?』
ソファに座る先代は膝にコナンの頭を乗っけて、そっと髪をなでていた。
コナンの顔色は蒼白で、何かが起こったとしか思えなかった。
爆弾・・。
それが原因か?
「ごめ・・かい・・と・・・・」
何が・・一体何がお前をそんなに苦しめているんだ?
快斗はただ呆然とコナンを見つめる事しか出来なかった。




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