悪夢到来!!! 旅立ち2
「どっはぁぁぁぁぁぁ」
これが空港ってもんなのか。
物心ついてからは初めての海外(小さな頃はよく父の遠征に付き合っていたらしいが)。
快斗は額に手をかざしきょろきょろと田舎者を連想させるような仕草で空港内を見回していた。
もちろん隣でちょこんと立っているコナンは慣れたもので、てきぱきと行動していく。
「快斗っこっちだ。っと待て待て待て待てっっ時間がないって言ってるだろうがっウロチョロするなっ」
平日の朝だと言うのに空港は人に溢れていた。
なんだかんだ言いつつ、快斗の出席日数を考慮して冬休みにかかるようにの出発だった。
今年最後の期末テストが終わり、つい昨日通知表を頂き、そこの出席日数欄の横にある、
担任のメッセージを見て大爆笑した母コナン快斗。
今回のテストは実は校長との賭けテストだった。
何故休んだか絶対に口を開かない快斗はどうやら留年の覚悟くらいしているらしく、何を言われても鷹揚に構えていた。
元々その前にちょくちょく休んでいたのも響き、すでに単位は足りなくなっていた。
もちろん冬休みなど出て、稼ぐことはできる。
だが、
「黒羽君。この先も休まないと保証できますか?」
校長のおっとりとした問いかけに、快斗は口元に笑みを浮かばせあっさりと否定した。
「ムリ。なにかあったら俺は休むよ。たとえ学校をやめる事になってもね。」
傍にいた担任が止めるまもなく快斗はそこまで言い切った。
その瞳に何を感じたのか校長は分かりましたと頷くと、
「それでは貴方に一つだけチャンスをあげましょう。」
「は?チャンス?」
「そうです条件は二つ。一つは冬休み最後の3日間、あるゲームに参加してもらいます。」
「ゲーム?」
「ええ。まあ参加してもらえばいいので別に優勝しろとか言っているわけではありません。その3日間だけこちらの為に空けて置いて下さい。」
「ゲームで優勝?」
なんだそれは。
未だ首を傾げたままの快斗に校長はサクサクと話しを進めていった。
「そちらの詳細は後ほど連絡します。そしてもう一つは、今度の期末のテストで、主要5教科すべて90点以上をとって下さい。できますか?」
今までの快斗の成績を見る限りでは頑張れば出来なくもない・・と言った点数だ。(なにせいつもは大体平均点ちょい上をキープしているのだから)
だが、テストは一週間後の上、今まで三ヶ月以上休んでいたのだ、まず不可能なのではと担任は校長に抗議の言葉を述べようとした。
だがその声は快斗の興味深そうな声にかき消された。
「それ、取れたらどうなるの?」
「今までの君の休みをチャラにしてあげましょう、もちろん単位もね。きちんと進級出来るように取りはからいます。」
なんともイレギュラーな事をやってくれる校長である。たかが、5教科90点取っただけで(快斗としてはだが)ちょっと足りなかった休みも、どうやっても足りない単位もなんとかしてくれるとは。
「いいのそんな事して?」
「本当はいけないでしょうね。ですが、もしこの先同じ事が起きたら同じ条件を生徒に出してあげるつもりですよ。どうですこれなら平等でしょ?」
まあ確かに平等だが。納得行かない風の快斗に校長はほくそ笑む。
「この私からの挑戦を受けるも蹴るもあなた次第。どうです?やってみますか?」
いたずらを仕掛けるかのような校長の顔に快斗はようやくニッと楽しげな笑みを作るとガッツポーズで挑戦を受けたのだった。
「もちろん。」
それによしよし、とうなづく校長の首に腕をまわし抱きついた。
「ありがと校長センセっ」
そんな快斗におやおやと目を丸くしつつも、抱きついてくる可愛い生徒の向こう側に見える含み笑いを押さえきれない風の担任教師にウインクを送ったのだった。
快斗が退出した校長室で担任は校長に大きく90度以上頭をさげた。
「ご英断ありがとうございました。」
「いえいえ。彼はいい友人を持ちましたね。」
机に腕を立て手の甲の上に顔をのっけニコニコと本当に嬉しそうに微笑む校長に担任も先ほどから隠しきれない笑みを全開に見せた。
「まさかあの子達が校長にそんな事を頼み込んでるとは思いもしませんでしたよ。」
担任をすっとばし校長室へ乗り込んだ白馬と紅子。
あの二人は確かにいいところを突いている。しょせん担任なんてしがない中間管理職。
出席日数をどうにかするなんて不可能だ。
「なかなか出来ない物ですよ。人のために頭を下げるという行為はね。私はそんな生徒を持っていることが誇らしいです。」
「そうですね本当に。私も実は鼻が高いです」
今時なかなかいないだろう。こんな生徒達。
そして校長室を出ていく寸前に泣きそうな笑みで小さくつぶやいた快斗の一言も。
彼らの胸を温かくする要因の一つであった。
「全くさーあいつらバカだよなー」
そして結局、欠席日数に燦然と輝く「0」その横に担任から『You
win』とだけ書かれていたのだ、これを笑わなくてどうするというのだ。
「絶対あの掛け思いついたのあいつだぜ?まさか校長に直談判するとはな。」
もちろん見抜いていたがどうせ問いつめた所ではぐらかされるかとぼけられるのが落ちなのだ。
あの後とりあえず教室に戻った快斗は白馬に一撃軽いストレートを加えて置いた。
「ばーか」
・・と。
それになにを言われたのか理解した白馬は苦笑し、同じくとなりにいた紅子も小さく笑みの形を作った。
「あいつって白馬か?お前が後輩になるのが耐えられなかったんじゃねーの?こないだ言ってたもんな」
『あなたとは永遠のライバルで永遠の目の上のたんこぶで永遠の親友というスタンスを持ちたいと思ってますっっ』
指を突きつけそれだけ叫ぶときびすをかえして帰って行った白馬にその後コナンは大爆笑し、快斗は複雑そうな顔で目の上のたんこぶと親友・・・とつぶやいていた。
「だいたいあいつらだって単位やばいんだぜ?俺の事にかまけてる場合かってーの」
バッカじゃねーの?と頭の後に腕を組み意地悪げに言う快斗。
バカはお前だろ。本当は嬉しくて仕方ないくせに強がりやがって。
コナンはそんな意地っ張りな快斗に軽くチョップを入れると笑いながら立ち上がった。
さーて旅行の準備でもすっかな。
地味目の紺のスーツを身にまとっているというのに際だつその存在。
いや、そんな服だからこそ真の美しさが分かるのかも知れない。
くびれた腰を強調するそのスーツも趣味のいい同色系のネクタイも何故か彼が着れば一流のデザイナーの作品に見える。
振り返った瞬間にキラリと光に反射する蒼い瞳も印象を強くする一因かもしれない。
そんな彼が似たような服を着た小さな子供とちょっと腰をかがめて会話する様は何故か親しみをわき上がらせた。
対するこの少年。大きな眼鏡に顔を隠されていて分からないものの、将来有望の可愛い少年である。
なにせ目の前の彼とどこか似通った顔立ちなのだから当然のこと。
白い肌も柔らかそうな黒髪も、眼鏡の奥で理知的に輝く瞳も、小さいながらもこの青年の隣りにいて遜色ない出で立ちだった。
そしてそんな人々の注目集めまくりの二人が一体どんな会話を交わしているかというと
「ねーあっちの方に店があるーお腹すいたよーコナンちゃーーん」
お腹を押さえ恨めしげに食べ物屋の連なる辺りを眺める整った顔立ちのはらぺこ高校生男児―――――快斗に大きな眼鏡をかけた少年コナンはぶっきらぼうに手をふった。
「いいから後だ後っっ。ほらっ荷物預けてっパスポートは持ってるかっ?」
あまりに急かすコナンの行動に本当に時間がないのかもと思った快斗は急いで二人分の鞄を預けた。
だが預けたすぐ後に言われた言葉に数瞬考える。
パスポートってうーんどっかに入れたっけ?
「あっ鞄の中・・」
「バカイトッッ。すぐに取り戻せっ」
すでにお姉さんに渡しベルトコンベアーの上でゆるゆると遠ざかる快斗の鞄を指さし慌ててコナンは叫んだ。
そぉんなに焦らなくてもすぐに行きますよぉ。
ちょっくら失礼とカウンターを乗り越え荷物を追いかける。普通は空港の受付の人に頼めば追いかけてくれるので、ここまでする客はいない。
しかも自分の胸まである高さのカウンターをひょいっと乗り越える奴もなかなかな・・・というか普通はムリだろう。
それに周囲が目をぱちくりさせている間に快斗は鞄を抱えて戻ってきてしまったので、止めるどころの騒ぎではなかった。
「えっとーパスポートー。あった。これだな。」
「あと保険証と損害保険証も一応自分でもっとけよ。」
小さな子の的確な指摘にはあぁぁぁいと良い子の返事をする癖っ毛の少年。
チャックを閉め、もう一度未だ呆然としているお姉さんにはいと鞄を渡すと取りだした物を背中のリュックにしまい込んだ。
「ほらっ行くぞ。」
「分かったってちょっとそんな引っ張らなくても」
まるで目を離したらどこかへ行ってしまう困った子供の面倒を見ているかのようなコナンに辺りから失笑がもれる。
一見快斗の方がそんなコナンに付き合ってやっているように見えるからかもしれない。
だが事実はそのまんまだった。
放っておけばどこかへウロチョロと行ってしまう快斗のおもりをしているのだ実際に。
「ねー食べ物屋さんが遠ざかってくーーー」
後でって言ったのにー嘘つきぃぃ。
そんな快斗の愚痴に耳にふたをしてコナンはずんずん先へと進んだ。
まだまだやらなければならない事はあるのだ、食べるのはその後で充分だ。
何故コナンがこんなに急かしたかというと免税店に寄るためだ。
なんと言っても女性の味方免税店。
日本の免税店には出発前しか入れないため、今がチャンスなのだ。
もちろん向こうの免税店でもいい。むしろあちらの方が安いだろう。だが何が起こるか分からないのだから先にこちらで買って置いた方が賢明だろうと判断したのだ。
「別にさー免税店で買わなくてもいいのにな」
そんなコナンのつぶやきに隣で化粧品を物色していた快斗が猛烈な勢いでつめよった。
「何言ってんのっ。免税店で安く買うからいいんじゃないか。君は一般ピープルの気持ちが全然分かっていないようだね。例えおみやげとは言え母さんは気にするのだから、いっそ免税店で少しでも安く購入し、渡すときに『免税店で買ったから大した事ないよ』と軽くいうのがポインツだろうっ。だめだなぁ君ぃぃ。しかも女性というのは限りなく安く買うのを嬉しく思うものだ。
そしてわざわざ免税店で安く買いたいばかりに海外旅行をするなどという本末転倒な事をするOLもしばしば見受けられるほどだ。分かるか?そこのところっっ」
何故かどこかの変態教授のような口調で快斗はとつとつと語る。
コナンはというと聞いているふりをして先ほど快斗が持っていた桜色の口紅を眺めていた。
こんな奴と縁を切りたい・・などと秘かに真剣に考えていたかもしれない。
「この色いいな。おばさんに合いそう。」
最初から口紅かマニキュアと決めていた二人は一人ずつから渡すと言うことにして、コナンは口紅を快斗はマニキュアを買うことにした。
だがなかなか本人がその場にいないと似合う色というのも分からないもので、先ほどからずーと悩んでいたのだ。
「うーんでもこの色もいいと思わねー?」
見せられたオレンジ混じりのピンクの口紅。
「・・・微妙だな。俺にはあまり色の違いが分からないぞ」
「実は俺も。店の人に聞くにも母さんこの場にいないから説明しにくいよなぁ。写真持ってこればよかった」
「やめとけ。マザコンみたいだぜそれ。」
「そう?」
そんな事を二人で真剣に話あっていた頃、背後でなにやら猛々しい音が聞こえた。
ダダダダダダダダダダダダ。
彼は多分普通に歩いているのだろう。
だが勢いが良すぎて前のめりになりまるで今にも頭が地面に倒れそうな歩き方だった。
「す・・すまないがこれを・・探してもらえないだろうか」
丁度二人の隣で快斗にうっとり見とれていた店員に声をかけたその男は、額に汗を掻きながら手に握りしめていた紙を勢いよく差し出した。
「警部ぅぅぅぅぅ。置いていかないで下さいよぅぅ」
「遅いぞ。私は普通に歩いていただろう。何故おいつけんっ」
「そんなバカなぁぁ。僕は必至に走ってましたぁぁ」
「語尾をのばすなっ。」
「はぁぁい」
「・・・・」
最初から気付いていた快斗はただひたすら微笑みをたたえたままその場で立ちすくんでいた。
声を聞く前から分かっていた。
あのエネルギッシュな気配と荒々しい足音。
それだけで充分過ぎるほどだれかなんて分かってた。
ここで会う確率はかなり低かったはずだが、こうして会ってしまったのも縁なのかもしれない。
「えっと・・奇遇ですね。中森警部」
広い背中に声をかけた快斗ははじかれたように振り返ったその汗くさい男・・中森銀三にいつもの明るい笑みを見せた。
「おお。快斗君じゃないか。珍しいところで会う物だな。旅行か?」
「そう。こいつとロンドンまで行くんですよ。」
ぽんっと足下にいるコナンの頭を叩く。
「あのね、KIDを捕まえに行くんだよっ」
どういう考えがあるのかコナンは指を立て偉そうに言った。
それに固まったのは快斗ではなく中森警部の方。
機械のようにギギギ・・と首を快斗へと向け困った顔を見せた銀三に快斗はいつものようにのほほんとした笑みを見せる。
ハラハラしている銀三をよそに快斗は気にもしていないようだ。
(いいのかっこの子に正体バレたら大変だろうっっ)
「あーえーそーゆー事は我々警察に任せて欲しいのだが」
そんな事をいう銀三の後で丁度快斗と同じくらいの身長の背広姿の若い男性が不服を述べる。
「警部こそこーゆー事は向こうの警察に任せて下さいよーー」
ぶつくさ言うその男の言葉に二人は彼らの状況が簡単に読めた。
「・・・警部さんもKID捕まえに行くの?」
「ああ。そうだ。あんな奴パパパパパパァァァァっと捕まえてやらねばな」
KIDの名に傷が付く前に。
何故KIDの名を彼が守らねばならないのかは本人にも分かっていないが、彼は自分の心の中で大切にしているKID像を守るべく、偽物を追いかけにいくのだ。
しかも有休をとって。
「僕なんて警部のお目付役ですよ。僕が新人だからって先輩達が押しつけたんですっっ。せめてもの救いは有休を使われなかった所ですけどね。」
はあ・・とこっそり快斗達に耳打ちをするその男は多分銀三の部下なのだろう。
この熱血親父を止めるのはそれはそれはパワーがいるだろう。
先輩の誰もが、例え後で恨まれようがこの新人にやっかい事を押しつけた気持ちは二人とも痛いほどよく分かった。
「仕事してる方がぜっっったいに楽ですよ。ああ・・頼みますから中森警部向こうの警察といざこざ起こさないで下さいねっっ」
「私はただKIDを捕まえに行くだけだ。それのどこが悪い」
県を越えるだけでも警察というのはもめるものなのにそれが国を越えたらどうなるか。
今からその刑事は頭を抱えていた。
心なしか胃もキリキリしてくる。
「円形脱毛症になったら責任とって下さいね警部ぅぅ」
「分かった。いいカツラでもプレゼントしよう」
「・・いらないです」
「はいこれで全てそろった筈です」
どうやら店員が銀三の紙を見て商品をかき集めてきてくれたらしい。量はかなりある。
はいと手渡されたのは大きな袋4つ。
「私が海外へ行くといったら次々と餞別と共に土産を要求されてな。とりあえず先に買っておく事にした」
忘れたら怖いからと苦笑いをしつつ両手に持ったその袋を掲げて見せた。
そういう銀三に共感を覚えた快斗とコナンは、大きな荷物をよっこいしょと肩にかけさらに両手に袋を一人二つづつ手にする二人に暖かい瞳を送った。頑張れっ世の中年男性。
「ところで・・君はえーと毛利さん所にいた子だったね確か」
「うん江戸川コナンだよ」
「そうそうコナン君だったな。君は何故KIDを捕まえたいんだ?」
「何故?だって悪い人だもん。」
不思議そうに首を傾げるコナンに銀三は苦い顔を見せた。
「・・・・・・そうだな」
確かにKIDは泥棒だ。たとえ・・・・暗い世の中に光輝く一筋の光だとしても。
「うん他人に罪をなすりつけるなんて卑怯だよね」
「え?」
「ねーねーけーぶさん。KID今度はどこの宝石狙ってるの?」
コナンの言葉に慌てて思考を戻した銀三は即座に話題をずらされさっきのは聞き間違いだったのだろうか?と思い直す。
「それは言えないな」
「えーーーー」
「危険だから諦めなさい。夜は外に出たらぜっったいにいかん」
「やだーーーそしたらKID捕まえられないよーー」
プクっと頬をふぐにように膨らます可愛い少年に銀三は少し相好を崩したがすぐに顔を元にもどし、真剣な瞳で言った。
「いいか。間違っても明日マーシェリー家付近には近寄るんじゃないぞ」
マーシェリー?小首を傾げつつも
「何かあるの?」
「いや何もないぞっそれじゃあ、またなっ。あっ快斗君外国は色々あるから・・・気を付けなさい」
色々の部分に沢山の物が込められていたのだろう
「うん。ありがと」
ニコッと微笑むと右手でコナンの髪の毛をぐしゃぐしゃにかき回す。
「そっちこそ気を付けて下さいよ。中森警部」
「ああ。では今度こそ本当に、また」
片手をあげて心配気な気配をそのままに去っていった中森警部。
そして早足の彼に頑張って追いつくべく走り出した刑事。
それを見送った後二人は溜めていた息をハーーーーーと吐き出した。
・・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
「いーーーーーーーーーーーーーー人だねぇ」
「いーーーーーーーーーーーーーー人でしょお」
コナンのしみじみした声に快斗もしみじみと答える。
「俺の最後の良心がうずくからねぇ」
「ほーまだ残ってたのかお前の良心」
「まあね。母のみって感じ?」
「・・・・」
白い視線をうけ快斗は速攻90度の最敬礼を小さな少年にした。
「ごめんなさい・・・」
「うん。あまりの切れのない返答にどうしようかと思ったぜ」
わかってるならいいと鷹揚にうなづく。
「しっかし・・・マーシェリー家・・・ね。普通その名前だけじゃ分か
らないなきっと。あれだろ?現当主、ゲイン・バーサ・マーシェリーが率いるあの有名な・・」
「うん麻薬の仲介人だな。」
あっさり答えた快斗にコナンはギョッと目を見張った。
近くにいた店員に聞こえていないかきょろきょろし出す。
「え?なんでそこで驚くのコナンちゃん。」
「いや・・俺の知ってる有名と違ったから・・・」
「へ?他に有名だっけ?マーシェリー家って言ったらクスリの仲介人捜しで真っ先にこの名前があがるぜ?当主はゲインの親父さんがやってるけどな。あそこ、こーゆー世界にしては珍しく世襲制だからたぶん次はゲインが継ぐんだろうなってもっぱらの噂でさ。あーでもそーゆーのってこっちの世界で有名なだけか。そっかそっか。」
そうかお前の世界な・・。アンダーグラウンドをちょっぴり覗いた気分のコナンはげんなり顔でキョトンとした快斗を見上げる。
「俺の知ってるマーシェリー家は音楽一家だよ。代々音楽の才能に恵まれた子供が産まれるらしくってな、今もバイオリニスト・ピアニスト・作曲家・はたまた指揮者。まあんないろんな人材を世に出している。その話で行くと先代は裏の仕事からまだ手を引いてねーっつーことか。表を息子に任せて今からもう一花咲かせようって思ってんじゃねーだろうなー?」
「さあ?それは分からないけど。へー音楽一家かー凄い詳しいねー」
「いや・・お前ほどではないけど」
よもやそんな音楽一家が裏の世界でも有名だったとは・・・コナンは世の中の怖さを今更ながらに思い知る。
そしてそんな世界でしっかり自分を形作り飲み込まれない快斗の強さも。
裏を知ると人間は全てに警戒心が働くものだろう。
彼はそんな事がないのだろうか?
「なに?俺の格好いい顔に何かついてる?」
「・・・・・・ほくろ」
「えっ嘘っっどこにっ?今朝鏡で見たときはなかったのに。ここらへんにほくろあると金持ちになるんだってよーー」
と額を脳天気にさす快斗にそうかお前は自分の顔にほくろがあるかないかまで知ってるんだな。
別の意味で感心する。
未だしつこくほくろの位置を尋ねる快斗を振り払いコナンはマーシェリー家について考えだした。
麻薬の仲介人・・ねぇ。
あの家には確かに泥棒が盗みそうなもんは大量にあるけどそうかそーゆー裏金で買ったものもあるんだよなきっと。
守る気も失せてくる。
とにかくコナンとしては偽KIDを捕らえる事が優先で、そーゆー悪人の宝物を守ってやる義務はない。
いっそ盗むのを見届けてから偽KIDからそれを奪いどこか裏ルートで換金して(正確には快斗にしてきてもらって)世の為に寄付でもしてやろうか?といった具合だ。
まあそれは向こうに着いてから考えるか。
その前に今回はKIDを捕らえる為にロンドンへ行くわけではない。
正確には父の依頼を譲られた・・いや押しつけられたのだ。
その依頼がただ「KIDを捕らえろ」と言ったものだっただけだ。
父さん・・そのうちこの借りはしっっっかりと返してもらうぜ。
そんな事を小さな体で空のお星様に誓ったらしい。
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