悪夢到来!!!  悪夢到来5


『すまないがモリス。私は明日どうしても出掛けなければならない。』
『珍しいですね。』
『ああ。親しい友人のパーティーでどうしても断れないんだ。コナンは君の知り合いだという医者にまかせて置けば大丈夫かな?』
『ええ。たぶん。なにぶんこんな事は初めてですので私にも分かりかねますが』
『そうか。私も出来る事なら明日の用事を取りやめてしまいたいぐらいだが・・・そうはいかないか・・はぁ・・。まだうなされてるのかね?』
『ええ・・』
二人で重いため息をつく。
こればかりは快斗も演技でなく暗い表情になってしまう。
『熱のほうはもう下がりましたけど、いまだ怖い夢でも見ているのかうわごとで何かを呟いています』
『・・・見ていて辛い。代われるものなら代わってやりたい・・』
『私もです』
沈鬱な表情の二人に丁度部屋から出てきたマリアは小さく微笑んだ。
あれが裏で薬を売ってる悪党とはとても思えない。
今まではこの人がどうなろうが知った事ではなかったがこういう姿を見てしまうと、とても見捨てる事なんて出来なくなってしまう。

コナン達がこの家に潜り込んだ事情を聞いたマリア達一行は、とりあえず看護婦のマリアと医者(のフリ)役のカバがやってきた。
なにせカバは穏やかな空気を醸しだしていて、小児科の先生ですといわれたら納得してしまう。
適材適所だろう。
『コナン様の様子はいかがでしょうか?』
『未だうなされています。なにか心身的にショックを受けたとしか考えられません。おそらくPTSD・・心的外傷後ストレス障害・・ですね。何か以前に爆弾で怖い目に会ったとか・・ありますか?』
マリアの言葉にモリス・・快斗の体がピクリと動いた。
『モリス?まさか以前にもコナンは爆弾に関わった事があるのか?』
『・・ええ。一度だけ。その時はひととき記憶を失ってしまったのですが、今はもうすっかり・・』
『よほど辛い体験だったのでしょうね』
爆発に巻き込まれた時の記憶を忘れ去ってしまうくらいに。
(あの後コナンは爆破以後からあの清和達の家で目が覚める瞬間までの記憶がないと言っていた。単に気を失っていただけだろうと思っていたが、まさかそれを思い出したのか?)
『とにかくしばらくは安静に過ごすことが一番です。それと、爆弾の話やそれを思い出させるような言葉を使わないこと。今しばらく様子を見てみましょう』

『ありがとうございました』
マリアの言葉に先代が頭を深々とさげる。
人に頭なんぞ絶対下げないといった風貌だけにマリアの方が狼狽えてしまう事態だ。
『本当になんとお礼を言っていいやら。マリアさん。ありがとうございます。』
そして、この恰幅のいい女性がよもやシンイチ(本当は快斗だが)だとはマリアには信じられなくてしかたない。
『いいえ。他ならぬモリスさんのお願いですし。どうしましょう私たちはこのまま付いていたほうが?』
『お願いできますか?』
マーシェリー氏の言葉にマリアは微笑んだ。
快斗も内心こぶしを握る。
『もちろんですわ。』




マーシェリー氏・・先代が明日は早いからと床につくため部屋を出たその瞬間マリアの態度が横柄に変わる。
『勝手に行動するからバチがあたったのよ』
非難がましいメアリの言葉に心の余裕のない快斗は無意識に冷たい瞳を向けた。
いつもならこの程度の皮肉簡単に受け流す事が出来るが、残念ながら今は本当にまいっている。
マリアが腰に手をあて怒っている仕草をみせたが、快斗はそれにチラリと視線をやっただけで頷いた
『それはスミマセンデシタ』
とても会話を交わせる気分ではない。悪いけど放っておいて欲しい
その冷めた視線と人間味のない口調にマリアは空気が凍るのを感じた
そんな空気を放った彼を見れば今までいかに自分を隠してきたかが伺える。

『あなたは一体・・』
初めてみせた冷たい瞳に背筋を凍らせマリアは呟いた。
それにすぐに穏和な笑みをみせ、
『さあさあ。マリアさんもコナン様は私が夜中の間見てますから今から睡眠をとってください』
『え?』
突然モリスとして対応されマリアは目をしばたいた。
そこへカツンカツンと戸を叩かれる音がして、執事がお茶を持って入ってきた。
(気配を感じたと言うの?)
戸からここまでの距離は結構ある。
さらに執事が戸を叩くまで少しの間があったと言うことは扉の前に立つ前に人間がいると判断した証拠。
『お疲れ様ですマリア様。旦那様もいたく感謝しておられました。なにせコナン様は旦那様にとって目にいれても痛くない程の大切なお孫ですから。もちろん私ども館の住人一同も感謝しております。どうぞ。お口にあうか分かりませんが』
と紅茶とクッキーをテーブルにセッティングする。
『モリスさんもいかがですか?』
『いえ。私はコナン様が気にかかりますので。よろしければお医者様の分を用意してあげて下さい。部屋から呼んできますから』
『わかりました。』
『それではマリアさん。お休みなさい』
『ええ。モリスさん。また明日。お休みなさい』
コナンが寝ている部屋へと向かう快斗の後ろ姿にマリアは視線をやる。
(シンイチ・クドウ・・・ただ者じゃないわね)


『カバさんすみません。代わります。』
そっとコナンの汗を拭っていたカバにモリスの変装のまま新一の声で声をかけた。
『いいよ。僕は疲れていないし。』
『いえ。代わらせてください。何かしないではいられないんです』
快斗の苦笑にカバは痛々しい瞳を向け、それならばとベッドの傍によせてあったイスから腰をあげた。
『さっきからこの子は誰かを呼んでいるみたいなんだ。カイトという名に聞き覚えは?』
『この子の友人です。』
間髪入れず返事を返し、カバに代わってイスに座るとコナンの苦しそうな顔をのぞき込む。
『そうか・・友達か。その人がここにいると本当はいいんだけどね』
『そうですね。ここは僕は見てますから。執事の方がお茶を用意して下さっているのでどうぞそちらで一休みしてきて下さい。』
『ありがとう。そうするよ』
ゆっくり髪をなで愛おしそうな瞳をコナンに見せる快斗にカバはそっと部屋から出た。

「コナン・・コナン・・一体どうした?何を思い出したんだ?」
そんなに嫌な記憶なのか?
思い出す事を拒否してしまうくらい。思い出したら倒れてしまうくらいに。
それならもう一度忘れてしまってもいい。
だからだから・・目を覚まして




コツンコツン。
暗闇に響く足音。
それはたった一つだけだった。
水の音が近くでする。
これは地下水路か?
朦朧とする頭で何かを考える。
考えたくもなかったが、考える。
今何をしなければならないか。
手も顔も足も体も。
全て汚れていた。
茶色いもので。
いや・・・元は赤かった。

水面にうつる自分の顔に動きを止めた。
汚れた水には自分の本当の姿が映っている。
人の血にまみれた自分の姿が。
人の屍を乗り越えて今ここにいる醜い自分の姿が・・・・・。
冷えていた心が燃えるように熱くなりふるえが指から肩へ、全身へと広がってゆく。

「なんで・・なんで生きてんだよ俺」

申し訳なくて仕方ない。
沢山の犠牲をだしたあの爆発で自分一人だけが生き残った。
その確率は決して高くは無いはず。
運だけですまされる問題なのだろうか?
死にたいわけでは決してない。
ただ自分のせいな気がしてやりきれないだけだ。
何かもっと上手い方法があったはずだ。
いつもなら考えないような後ろ向きな思考が次々浮かび頭から離れない。
「もし」なんて考えても仕方ないことは頭では分かってる。
でも・・・嫌な考えに捕らわれている。

どこかでまた爆発の音が聞こえた。
それを遠い意識で感じ取る。
次いで水がものすごい勢いで遠くからやってきた。
貯水タンクが壊れたのか?
そう思いつつ一歩もその場から動けなかった。
もう、どうでもいい。
何故か投げやりな気分に陥り迫ってくる水に自分の身を投げ出した。
水の思うままに流され、苦しい息の元で考えていた。

『死ぬなよ』

ごめん・・快斗。
ごめんなそんな簡単な約束も守れなくて。
ごめんな・・・。



自分は死ぬつもりだったあの時。
約束を破るつもりだった。
予想以上の悪運でそのまま生きて快斗と再会する事が出来たが、それでもその時の気持ちは本物だった。
何にそんなに絶望したのか?
自分が生き続ける事で血を流す人間が出るのが嫌だった。
そんな単純な事だ。
自分を守る為ではないことは頭では分かっている。
それでも爆風でとばされてきた男が丁度自分の盾になり、それによりたまたま生き残ってしまった自分とそこから這い出た時に見たあの風景。
数えていないが、沢山いたのは覚えている。
黒い服が転がっていた。
中身はすべて塊と化していた。
まさに地獄絵。
吐かなかったのが不思議なくらい。
気を失わなかったのが不思議なくらい。
発狂したくても出来なくて、ただ無意識に次の爆破に備えて退路を探している自分がいた。
確か地下に地上に出る道があった筈・・・

その道に出る前に水に飲み込まれ、そのままあがくことなく海へと投げ出された。
あがかなかったから生きれたのかもしれない。
全ては計算された事なのだろうか。
自分が生き残る為に。


それでもこれ以上自分のせいで人が傷つくのを見るのは嫌だった。
だから死のうとした
だから・・・記憶を封じてしまったのかも・・・
単に逃げただけだ。

ごめん快斗。
辛い事お前に押しつけて一人で逃げるつもりだった。
お前がどんな思いをするかなんて分かっていた筈なのに。
ごめん快斗。
ごめん。

水色の涙が流れ落ち床へと溜まっていく涙はいつの間にか黒く変色し、

黒い物は蝶になり

やがて・・


黒い蝶が舞った。


視界をふさぐほどに大量の黒い蝶が・・・


そして一気に視界がひらけ

緑が視界一杯に広がる。

柔らかな風を感じた。

草の香りを感じた。

まるで水に浮かんでいるかのように空にただよう自分の体が心地よい。

ふと風に導かれて見下ろすと、草原に二人の少年が座りこんでいるのが見えた。まだ六歳にも満たないだろう幼い子供達が。

忘れないで

忘れないから

涙を流しながら指切りをする。

あれは・・・俺だ。何故かそう思った。
それじゃあもう一人は誰だ?
奇妙なデジャヴ・・・それとも本当に過去にあった事なのだろうか?
コナンはそんな小さな二人を上から見下ろしながら考える。


何を忘れないと誓ったのだろうか。
自分は全てを忘れてしまったのだろうか。
約束だったのに。



さぁーと風が駆け抜けてゆく さあ目覚めろとばかりにさわやかな風が。それに浮上させられるかのようにこなんは目をゆっくりと開いた。
思ったよりすっきりとした目覚めだ。

忘れないで・・・


一体何を約束したんだろうか俺は・・・・・・



「コナン?コナンっっ」
ガンガン鳴る頭を押さえゆっくりと瞼をあげると目の前には求めていた人物がいた。
「か・・・・」
「うん。俺。大丈夫。ここにいるから」
「快斗・・・ごめん」
「ん?」
「ごめんな本当に・・・・」
「うん」
分からないまま快斗は頷く。
まだ錯乱しているのかコナンは両手で握りしめる快斗の手を左手で握り返した。

「俺。もう大丈夫だから。まだ頑張れるから。」
「うん」
「だからごめんな」
「うん」
そのままスゥと眠りに入ってしまったコナンに快斗は未だ心配そうに手を握りしめていたが、やがて呼吸がさっきより穏やかなのを感じホッと肩の力を抜いた。


「もう大丈夫・・・か」
お前は一人で背負い過ぎるんだ。
いつも俺の荷物まで背負うくせに自分の荷は譲ろうとしない。
一人で抱え込んで一人で消化して。
全てが終わってからやっと教えてもらえる。
俺だってそりゃ一人で内緒で消化する事あるけど、コナンちゃんの比じゃないよっ。
まったくと呟きつつコナンの汗をタオルで拭き取った。





小説部屋   Next


ますます訳の分からない展開に発展してますね(笑)
解ってるのは私一人。このもつれ合った話を
果たして解けるのか私っっ
話的には単純なんですが、いろいろな物を詰め込んでいるので
ごちゃごちゃしてます。

ここまでに張ってきた伏線をなんとか活躍させなければっっ
2002.9.20