悪夢到来!!!  スミスさん家の事情1



朝。
思ったより晴れやかな気分でコナンは朝を迎えた。
前回失った記憶を全て取り戻したコナンは少し胸が痛むものの、それでもそれを過去と認識して、前を見つめるだけの力を持っていた。
他にも夢を見たような気がするがすっかり忘れた。
だが夢なんてそんなもんだ。
特に気にするでもなくコナンは頭をひと振りした。

今はしなければならない事がある。
過去の事はいつでも考えられるのだから、今の事を未来で後悔しないようにしっかりやるしかない。
それを寝起きに誓うと窓の外から差し込む気分同様の晴れ晴れとした空に微笑みかけた。
「大丈夫。頑張れる。」

「快斗っ起きろっ快斗っっっ」
イスに腰掛けたままコナンの寝ていた布団に頭をつっぷし熟睡していた快斗を遠慮なくぶっ叩くとコナンは昨日倒れたとは思えない元気な姿でベッドから立ち上がった。
「うーーー眠いーー朝日が目にしみるぅぅぅ」
「うるせー起きろっっ先代はどうなってんだ。」
「ふえ?先代―?なんか今日出掛けるとか言って―――――ああっっコナンちゃんおはようっっ今日もラヴリィーなお顔で嬉しいわぁ」
ギュっと寝ぼけ顔で抱きしめられコナンは離せぇぇぇと抗議をする。
「てめー先代出掛けるってどーゆーことだぁぁぁぁぁぁぁ」
「えー詳しく聞いてないーだってコナンちゃんが優先だったんだもーん」

お前なぁぁぁとこぶしを固める元気ハツラツコナンに快斗は満面の笑みをうかべると

「うっそよーん。ちゃんと情報収集はしてありまーす。コナンちゃんに後で怒られたら困ると思ってねー。先代が出掛けるのは今日のお昼ちょっと前。用事は裏の世界で新しくオープンする賭博場の記念パーティーみたいよーん」
「真っ昼間っからそんなダークな会合すんのかっ。」
「だってお昼にやるほうが健全に見えるでしょー?裏の世界もいろいろと考えてるわけよー」
「なるほど。で?どこでやるんだ?」
「さすがにそこまではー」
「そうか。じゃあ無理矢理連れていってもらうしかないな」
「そうねコナンちゃんが可愛―――いくおねだりすればさしものお祖父様もイチコロってね」
「まあな親父キラーと呼んでくれ」
「よっにっぽん一の親父キラーーー」
「本当に呼ぶなっ」
ノリの良い快斗の後頭部にチョップをいれコナンは引き出しから先代の用意してくれた服が入っているタンスを漁りだした。
どの服にするか悩みながら今思い出したというように口を開いた。

「ああ。そうそう。昨日の手紙ナイトメアに渡してくれたか?」
「あ、うん渡したよ。多分今日にでも返信がくると思う」
「まあ、おおざっぱに頼んだから期待はしてねーけど可能性は高い」
昨日の母への手紙に緊急で調べて貰いたい事を書いた。ナイトメアが所属するのがどんな組織かは知らないが情報は確かそうだから信用はおける(と思う)
「やっぱり身内なのかなぁ?」
「たぶん・・・」
それがコナンの出した回答だった。
セキュリティー万全の金持ちがそうやすやすと隙を見せるわけがない。
「しかもキッドから――まあナイトメアからの偽ものだけどな――予告状貰ってるわけだし、最初の1、2件はともかくとして、3、4件目の警戒は並じゃなかった筈だ」
「だろうねぇ」
「それに今回の件も、身内に犯人がいるとしか思えないだろう?」
「棚が倒れたり毒攻撃とか?まあこの家に入ってきたのはほとんどが身内だからその可能性のが高いよな。こう考えるともしかして今回の犯人って結構頭悪い?」
「結構どころじゃなく間違いなく頭悪いだろ。KIDから目がそれたら真っ先に疑いがかかるポジションにいる訳だからな。これで完全犯罪とか思ってんだったら大馬鹿ものだな。」

「偽KIDがなー。一番邪魔な存在だったよな。いいように利用されちまったもんだナイトメアも。身内だったらKIDの予告状の事も知っているだろうし簡単に偽KIDに罪を押しつけられるよなー」
「確かに。ナイトメアも運悪い時に行動したもんだな。
あの人のは怨恨だろ?しかもただ夜の恐怖を与えたかったなんて抽象的な事言ってやがったけど――――解ってるよな快斗?」
「ああ・・多分。キーワードは8年前。最初からずっと感じてた。俺の親父がなんか関係しているんじゃないかって。もしナイトメアの行動が復讐だったとしたら今守ってるマーシェリー氏含め5人が俺の親父を殺した犯人の可能性もあるんだよな?」
「なきにしもあらず・・ってとこか。そうだったらどうする?」
守るか見捨てるか。場合によっては自らの手で死に至らしめるか。
出来るだけ軽く聞こえるように尋ねてみたコナンに快斗はそっと目を閉じ考えるとしばらくして首を力無く振った。
「・・・・・・・・・わかんねー」
「そっか」
「ま、それはその時と言うことで、今は殺人犯をさがそっ」
「そうだな。さっきの話に戻すぞ。もしそうだったとすると・・やっぱり身内に実行犯、もしくは協力者がいるとしか考えられない。しかも・・今回の事件の5家、全ての家から共謀者が一人ずつはいると考えて間違いないだろう」
「それをナイトメアに調べて貰ったわけ?」
「まあそんな所だ。それを考慮した上で怪しい奴をピックあっぷヨロシクと書いておいた」
ヨロシク・・ねぇ。そんな簡単なものじゃないと思うけど。
人使いあらいからコナンちゃんって。

同情を感じ、頑張れよナイトメアーとそっと心の中で声援を送っていたら、
「どの服が一番悩殺できるだろうか」
などと、タンスを覗いていたコナンが顎に手をやり真剣に呟やいた。
快斗はベッドに顔を埋めこみうなだれた
「コナンちゃん・・悩殺ってあんた」
「似たようなもんだろ?ああ。お前親父の心理に詳しそうだから選べよ」
嬉しくない言葉を述べられ快斗は涙ながらに自分が一番そそられる服を選ぶのだった。



「この服でニッコリ微笑まれたら俺は世界の裏なり宇宙なりすっ飛んでいたいけなお子様のあめ玉だって盗んできちゃうな」
用意した服を渡し、しみじみと頷く快斗にコナンはパパパッと着替えると自分の姿を鏡でみた。
(こんな姿でかぁ?)
信じられるわけもなく、試してみることにする。
「・・・・快斗お兄ちゃん僕、月の兎さんがペッタンペッタンついたお餅が食べてみたいなぁ。」
宇宙にだって行けるんだよね?
両手を組み合わせお目目キラキラを意識したコナンは思い切り上目使いで快斗を見上げた。
「―――――――――――――――くあぁぁぁぁあ今から行って参りますーーー」
「待て待て待て待て待て待てぇぇぇぇいいっ分かった効果は充分に分かったから本気で行くなっ」
冗談でやっているのかと思ったがあの血走った目がとても冗談には思えずコナンはビビッタ。

相変わらずの半ズボンだが今日は限界まで短い短ズボンだ。
それを上に着た襟首の大きく開いたぶかぶかのセーターですっぽりおおい、まるでセーター一枚しか着ていないような出で立ちである。
快斗の趣味が丸出しだった。
それに短いハイソックス。
全て白で統一だ。
はっきり言って寒い。
だが襟首からみえる小さな肩と白い肌が親父心を刺激するのかもしれない。
セーターの下から覗くほっそりした足も思わずつばを飲み込むほどの美しさである。
それに寒さにほんのりピンクにそめた頬で意識した潤む瞳でさらには上目遣いとくれば、間違いなく親父は落ちる。

「ごめんコナンちゃん。俺はもうダメだ」
鼻をおさえうなだれる快斗にコナンは無情な言葉をのべた。
「何言ってんだ。お前はまだする事があるんだからこんな所で死んでもらっちゃぁ困るな。ほれっモリスになれっ」
「う゛――」
コナンの悩殺の威力は絶大だった。
見慣れているはずの快斗ですらこんなに簡単に落ちるほどに。
(は・・鼻血でそう・・・)


そしてお爺さまもやはり簡単に落ちた。





『モリス・・私は時々自分が信じられない』
『・・・』
『まさか、ああもあっさりコナンの願いを聞いてしまうとは・・・』
先代なりに苦悩しているらしい。
最初あの姿のコナンを見たときの先代ときたらそれはもう倒れんばかりだった。
『天使が・・天使が・・』
うわごとのように呟く彼に誰もが同意を示した。
お祖父様は一瞬お花畑を見たらしい。
それがようやく落ち着くとなんとか作った笑顔を見せた
「もう体は大丈夫なのかね?」
「うん。大丈夫。それより僕お祖父様にお願いがあるんだけど・・・」
キュッと祈るように指を組み会わせ上目遣いで見つめてくる孫。
祖父は非常に狼狽えた。
この瞳攻撃をかわせる人間がいたらお目にかかりたい。未だかつてこれほどまでにお年寄りの心臓を悪くさせる物があっただろうか・・いや無いっっ
「な・・なんだね?」
「あのね・・あのね・・今日のお出かけ僕も一緒に行きたいっっ」
「それは・・・」
「ダメ?」
「う゛・・」
揺れる瞳で聞かれ先代はひるむ。
「お祖父様と一緒にお出かけしたかったけど・・やっぱり僕の我が儘かな」
泣きそうな顔を見せられダメなどと言える筈がない。
本当はあんなダークなパーティーに連れてなど行きたくない。
うっかり目を離したらさらわれるに決まっているのだから。
だがここでダメというだけの根性もないのは確かだった。
「ごめんなさい困らせて」
うつむいて涙声で諦めの言葉を述べたコナンに先代は慌てて
「いやっもちろんいいとも。一緒に行こうコナン」
言い募った。
墓穴である。
そこで「すまんな。また今度どこかへ出掛けよう」と言えれば良かったのだが頭がパニクっていてそこまで考えが回らなかった。

「本当?」
パッと顔をあげ嬉しげな笑顔を見せたコナンに先代は頷いた。
「ああ。もちろんだ」
「お祖父様ありがとうっ」
抱きつかれて鼻の下を伸ばす先代に快斗はさすがコナンと思う前に嫉妬してしまう。
こらっコナンに引っ付きすぎだぞじじいぃぃぃ

『さあ。そろそろ出掛ける準備を致しませんと。この格好ではさすがにコナン様も寒いでしょうし』
さりげなく二人を引き離すとコナンを奪い取るモリス。
『・・・そうだな。モリス。その格好は止めた方がいいと私も思う。もっとこう・・そう暖かそうな格好にしなさい』
『かしこまりました』
言いたいことは痛いほど伝わる。
他の親父共にこの愛らしい姿を見せたくないのだろう。
白い肌は完璧に隠してしまわねばタダでさえ狙われるのに危険すぎる。
『それと誰か信用できる人が欲しい。コナンを守るために』
今現在先代は信用出来る人がいない。
未だKIDに命を狙われていると信じている先代は、自分の知人はKIDの変装の可能性があると思い疑ってかかっているのだろう。
それならば突然現れたモリスの知り合いならKIDも調査外だろうと思っているのだろう。
コナンを信じているからモリスも信じている。
この信頼感が綱渡りであることに本人は気付いているのだろうか。
しかも本物のKIDならば初めてみた人間にだって簡単に変装してしまうと言うのを知らないのだろう。
事前調査は必要な時しかやらないのよーん。

『そうですね。ではこちらでの友人を数名呼んでおきます。あとお医者様にも付いてきてもらった方が安心ですよね?』
『そうだな。コナンの体がまだ心配だし。ではそちらは頼む。友人はすぐにこれるか?』
『今から聞いて参ります。』
『こちらも人数の変更を先方に伝えておかねばな。』
コナンを促し部屋へ戻るモリスと、執事を呼びに部屋を出た先代。
その場にひっそり立っていたカバとマリアは呆然と事の成り行きを見守っていた。

『見た?カバちゃん』
『見たよマリア』
『なんか・・コナンちゃん悩殺って感じ?』
『僕もそう感じたよ』
『何かよく分からなかったんだけどでもなんか凄かったわね』
『よく分からなかったけど僕は怖かったな』
去っていくコナンの可愛らしい後ろ姿。
二人にはそのお尻に先がとがった黒いしっぽが見える気がした。

(江戸川コナン侮りがたし・・・)





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