悪夢到来!!!  無血の闘い方3


『screw you(くたばれ)っっっっ』

口汚いスラングを吐き出すと男はまっすぐに一点を狙った。
コナンの指さす頭ではなく、心臓を。
それは当然かもしれない。あそこまで挑発されればじゃあ見事心臓を撃ち抜いてやるよと考えても仕方ない。
思ったより見事な腕前だった。
そんな事に感心している場合ではないのにコナンは思わずクッと笑ってしまう
(後は頼むぜ、快斗)
そのまま胸に強い衝撃をうけ体がふわりと浮くのを感じた。


人々は見た。小さな体が後へと吹き飛ぶのを。
コマ送りのようにそれが目に映る。
叫ぶ余裕もないほどに一瞬の出来事。
そして・・・・

トサっ

少年の体は近くで待ちかまえていた男の腕に抱き留められた。
「むちゃな事を」
男がコナンを見下ろし呟く。
それにコナンは小さく微かに笑みの形をみせた。


その一部始終を見ていた者は実は少ない。
何故ならコナンが撃たれたとほぼ同時に別の衝撃が人々を襲ったからだ
白白白・・・・・辺りを白い煙がうめつくした。
どこからか誰かが呻く声が聞こえてくる。
そんな事も気にかからないほど人々は煙の奥の真っ白の物体に目を奪われた。
『まさか』
誰かが呟く。
噂をすればなんとやらご本人の登場か?
目をこらして見つめる。
煙が消えたそこには―――――


『かいとう・・・きっど』
その人が立っていた。
何故だろう誰もが納得した。
誰もが心から信じた。
彼が人を殺めるわけがないことを
彼が本物であるということを

『嘘だ。貴方は死んだはず』
呆然と呟く声はかすれていて目の前の出来事に混乱をきたしていた
紛れもない。
目の前の人物が本物であることは疑いようがなかった。
圧倒的な存在感
無垢な白を纏うに相応しい清涼なオーラ
細めた瞳は鋭くそれでいてどこか目に写る全てを許しているかのような優しさすら感じさせる

『おかしいですね。私はここにいますよ?』
KIDはシルクハットのつばを軽く持ち上げると不敵に微笑んだ。
足下にはあの瞬間にやったのだろう数名の青年が転がっていた。
彼らに捕らえられていた3人は素早くKIDにより救出されていた。
これの為だけにコナンはあんな事をしでかしたのだ。自分の身を危険にさらしてまで。
持っていた拳銃は遠くに放りなげられ、コナンを撃ったその男は怪盗の足下にへたりこんでいた。

ここに居るのが本物の怪盗KIDならば彼らは意味のない殺人を犯した事になる。
身内を自分達の手で死にいたらしめた。その罪は重い。
復讐という免罪符を掲げていたのにそれを奪われてしまった今ただの”人殺し”しか残らない。

『本来なら姿を見せるつもりはなかったんですけどね、私が心より尊敬申し上げる探偵があんな目にあわされたとあっては見過ごすわけにはいきません。』
チラリと怪盗が目を向けた方向はさっき見事な啖呵をきった少年がいた。
その後にはいつの間にか来たロイドがニッコリKIDに微笑んでいた。好みのタイプなのだろうか。
秘かにKIDは視線を逸らしておく。

「お久しぶりですね名探偵。お元気そうでなによりです」
スッとシルクハットを腰の辺りまで持ってきて優雅に頭を下げる
紳士なその動作に誰もが目を奪われた。
だが次の瞬間
「ばーろ。元気なわけねーだろーが肋骨1、2本いかれちまってるよっ」
ムクリと起きあがった死体・・・なりそこないに誰もが唖然とした。


「まったく相変わらず無茶をする方ですね。」
「無血の闘いをすんならそんくれーしねーとな。てメーを当てにするのはしゃくだったが背に腹は代えられねー」
「一歩間違えれば命を落としていたとしても?」
「死なねーよ。約束したからな」
ふんっと鼻を鳴らすコナンにKIDはやれやれとため息をついた。



『それにしても、実に興味深いお話ですね。怪盗KIDが殺された?それはユニークな。ではここにいる私は一体なにになるのでしょうね』
明かりの下に晒された青年達に向かって微笑む。
『に・・偽者だっっ』
『そうだそうだっ俺達は聞いたんだからなっ』
『怪盗KIDは殺されたってあの人に・・・』
『そうだあの人が嘘を突くはずがない。そんな事してなんの得が』

『ワシらの口止めに利用されたのかもしれん・・・』
マーシェリー氏が慌てて駆け寄ったマリアに治療をされながら呟いた。
『口止め?』
『ワシラは彼が・・・・・あの人が殺されたことを知っている。だが彼がKIDだったとはあの人の口から一言も言われていない。ワシラが勝手に判断しただけのこと。あの人は殺された。だがその前にも一度彼は命を狙われている。それを見てしまったワシラが口封じをされるのはおかしな事ではない。それが8年もたった今だと言うことは不思議でたまらないがな。』

「怪盗KIDが日本に現れたからかもしれない・・・」
『え?』
「どういうことです?」
コナンの声に振り返ったのは日本語が分かる祖父とピエロとKIDのみ。

「組織は・・・KIDを殺したと思っていた。だが本物のKIDとしか思えない存在が8年もたった今、日本に現れた。
では彼らが殺したその人は間違いで殺された事になる。それを見てしまった存在を生かしておいては、まだ生きている"本物のKID"の殺害時にじゃまになると考えたのかもしれない。もし犯人の顔を見ているのならばなおさらKIDが組織壊滅の為にそれを手がかりとするかもしれない。ならば消すのが一番。それも自分たちの手を下さず、ただの身内内の事件としてみせかけて。」

コナンの体を支える祖父が息を飲むのが解った。
ピエロはパチクリと目を見開いてコナンを見ている。

「・・・・・」
それだけの事をさっきの会話から瞬時に組み立てたのだろうか?
KID軽く肩をすくめるとはチラリと青年達を伺い見た。
5人の関係は大学のサークル仲間らしい。
「みすてりー同好会」
又の名を怪盗KIDファン倶楽部。

コナンの予想通りナイトメアの手紙には5家の人間がバッチリ入っていた。
KIDファンには金持ちが多いのだろうか?
いやいやそうではない、ミステリー同好会は会員がかなり沢山いるらしい。
幽霊部員も含めれば校内の5人に一人は会員だという。
それだけいれば5家の人間が出逢う確率も高いことだろう。
(うーんさすが怪盗KIDは人気者だねぇ)
今回はそれが仇となったが。
5人がちょうどそろってしまったのが運の尽き。トントン拍子に話が進んだに違いない。


「誰がそそのかしたのか聞いてみろよ。さっき言ってた"嘘をつくはずのないあの人"が黒幕だろ?」
KIDも気付いていたので頷いた。

『私をそれだけ信仰してくださっているのでしたら言えますね。その事を教えてくれた親切なあの人とは一体どなたの事ですか?』

『それは―――――』
一人の青年が口を開いた瞬間KIDは飛んだ。
「ちぃっ」
突然飛びかかられ倒された青年は何が起こったのか呆然と舌打ちをするKIDを見つめていた。

「思ったより出番早かったな。黒幕さん・・」
コナンが振り返った方に人々が目を向ける。
目の前で繰り広げられている事が読み込めない。
コナンの言葉も解らなければ突然現れたKIDの存在もまるで幻のようで・・・
「ですね。おかげで少々間に合いませんでしたよ」
白いマントに血がにじんでいた。
「かすり傷だろ」
しれっと返されKIDは苦笑を見せた。

『外したか・・君たち内緒だと約束したでしょう?』
ナイフを持つその男はタキシード姿のインテリ眼鏡の老人だった。

『『『『『プロフェッサーっっ!!!』』』』』
5人が異口同音に叫ぶ。
それにコナンとKIDはやっぱりと納得した。





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ようやくここまで来たって感じです。
ちなみに言っておきますがこれは推理小説ではないので、
突然に犯人が出てきたとしても有りなのです。
登場人物の中にいると思った方おりましたら
(そんな奇特な方多分いないと思いますが)きっと「おいっ」と
思ったことでしょう。
でもこれは縁真にとって最初から予定していた事なので別につじつま合わせに無理矢理というわけではありません。

だから文句は受け付けないよーん。