悪夢到来!!! 無血の闘い方5
『ただの懐中電灯ではありません。これは起爆装置ですよ。』
その言葉に戦慄が走った。
起爆だと?
青年達まで驚いた顔でセディスを見た。
『運良くこれを触る物はいなかったようですけどね』
その言葉に微妙な顔をした者数名。
「って事はマーシェリー家に送られてきた手紙形爆弾もこいつの仕業ってわけか」
コナンは呟く。
銃か毒を使う敵が珍しい攻撃をしてきたものだと思ったのだ。
実際人を殺すほどの威力はなく。
コナンですらはじき飛ばされる程度で外傷は無かった。
『さあ離しなさいKID。これ以上私を怒らせれば貴方はおろかこの建物にいるすべての人の命はありませんよ』
ふふんっ。
胸を張る。
それに対するKIDからの返答はやはりなかった。
『・・・』
『い・・いいのですか押しても?』
今のKIDには残念ながらセディスの脅しは聞こえていない。
ただ憎悪の念でのみ動いているのだから。
まさかこの脅しに乗ってこないとは思わなかったセディスは焦りだした。
まだ自分は死ぬ気はない。
これを押して死ぬのは嫌だし、このままKIDにトランプで殺害されるのも嫌だ。
『ま・・待って下さい。解りましたすぐに貴方の前から消えますからっっっこれも貴方に渡しますっっ』
本気を悟ったのだろうセディスは真っ青になって背後から冷気を醸し出す存在に必至に言い募った。
返事はない。
『ど・・・・どうすれば・・・』
脅しも効かない。泣き落としも効かない。
まるで噂されるKIDとは違う存在の彼にセディスは泣きそうになってきた。
さらにググッと埋め込まれるトランプにこのままでは本当に死ぬと悟ったセディスは周りで呆然と見ている人々に助けを求めるように視線を送った。
だが、一言でも発せば次は自分が殺されそうなそんな雰囲気のKIDに誰もが息をすることすらはばかれた。
「・・・・なにやってんだお前」
そんな中何気ない口調でそう言った人物が一人。
「バカじゃねーの。それどうすんだよ?殺すの?やれば?後で後悔してもしらねーぜ?」
コナンは相変わらずロイドに支えられたまま上半身起こした状態で苦しそうに言う。
「いいかげん目ぇさませよ?いつものきざったらしいセリフはいて手品でもショーでも好きなだけ楽しくやれよ。それが本業だろ?今お前がやってることは一体なんなんだ?頭冷やせよバーーカ」
―――――・・・・お前は・・・怪盗KIDだろ―――――
それにピクリとKIDの体が反応した。
指先に血が通るのを感じる。
周りを見る余裕ができて、一切消えていた声が耳に入るようになってくる。
強ばっていた体から力が抜ける。
どす黒い思考がスッと抜け落ちたみたいだった。
自分のしていることを見てゾッとする。
何やってんだよ俺。
このまま激情のまま過ちを犯してしまえばきっとあの蒼い瞳を見ることはできない。一生・・・。
このまま過ちを犯してしまえばあの世で父に顔を見せることができない。いたたまれなくて。
このまま・・・・
いっそ殺してやりたい。
本当ならこの手で・・・
でも父のポリシーだから。
この白い衣を他人の血で染め上げるなんて絶対に出来ない。
解っていたはずなのに。
『・・・・これはこれは少々手荒な事をしてしまって申し訳ありません』
腕の中で死にかけているセディスに向かってニコリといつもの笑みをみせた。
そしてパッと手を離すと支えられるように立っていたセディスは崩れ落ちた。
し・・・少々?
かなり疑問が残るところである。
だが間違いなくいつものキザで穏やかなKIDに戻った。
「お手数おかけしてすみません名探偵」
「まったくだな。けが人に気ぃつかわせんじゃねーよ」
セディスは逃げ出したかと思えば手の放れたKIDの足下で喉を押さえてうずくまっていた。
膝がガクガクして逃げられなかったのだろう。
『覚えて置いて下さい。しようと思えばいつでも出来るのだということを。』
なにをとはあえて言わない。
コクコクとセディスの頭が頷く。
セディスは一刻も早くここから立ち去ろうと立ち上がり青年達に顔を向けた。
そこには固まって座り込む5人の青年達。
朦朧としていた。
自分たちが犯した全ての事は仕組まれたことであり、全部騙された事であり、自分たちの手は汚れている。その事実をつきつけられて。
なんでこんな事になったのだろう?
何で・・?
そうだあいつが悪いんだ。
俺達をだましたあいつが。
それを解き明かしたあいつが。
ここにいたあいつらが。
全部いらない・・・
みんな死んでしまえばいい・・・
二人の青年がフラリと立ち上がった。
眼鏡をかけた賢そうな青年と大柄なラグビーでもしてそうな青年だ。
機械のような動きでセディスの方へと向かってきた。
何をするのかと固唾をのんで見守っていたセディスはうっかり持っていた起爆装置を奪われた。
『や・・やめなさいあなた達っっっ』
セディスが慌てたように手を伸ばした。
それに構うことなくその青年達はうつろな瞳で振り返った。
『みんな・・・いらない・・・』
『・・いらない・・・全ていらない・・・』
彼らは躊躇無く、スイッチを押した。
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