悪夢到来!!!  無血の闘い方7



『お前が仕掛けたんだろ?解除できねーのか?』
ボールが襟首を掴んで振り回すとセディスは
『ふっ私がそんな高度な技を持っていると思うのですか』
開き直りやがった。
『・・・』
むしろ死を覚悟してどうでもいい気分なのかもしれない。
『仕方ねーな』
ボールはかりかりと頭を掻くとセディスを離した。

『後何分だ?』
『そ・・それは物によりますね』
『は?』
『全部で5つ仕掛けてありますから』
本気で頭が痛くなってきたらしいボールは深く深くため息をついた。
『程々の威力のものが4つ。そして最悪な事に一番威力の強いものがこの部屋にあります』
この建物はおろか少し離れた隣家まで巻き込むくらいに大きいものだとセディスは暗い声でいった。
遠く離れてから押すつもりだったそれがまさか上から落ちた衝撃で押してしまうとは・・

「ってかお前のせいじゃん」
「・・ですよね?」
KIDが心なしかからだを縮ませる。
「責任とって行ってこいよ。俺は大丈夫だから」
「貴方は?」
「俺?爆弾って聞いただけで手の震えてる俺が?冗談じゃねーよ」
「・・・・」
「それに今はけが人だしな。お前とボールさんで大丈夫だろ」
「あの人も出来るんですか?」
「出来る出来る。多分な」
あの落ち着き具合からしてきっと出来るのだろう。

やれやれと首を振るとKIDはコナンを下へ降ろしセディスへと近づいた。

『爆弾のある場所を教えてください』




さっさと大きなのから処分したかったが小規模の方が5分を切っていたので仕方なくそちらへ回ったボールとKID。
コナンの予想通り解除の経験のあったボールは可愛い娘の
『凄いですわお父様っっっ』
の声に張り切って解除に回った。
場所が離れていたので時間的危うかったが何とかセーフ。
『ボールさんそんな事が出来たんですねーー』
感心したようなピエロの声が空から降ってきてボールは
『昔取ったきねづかってやつだな』
あんま自慢出来る過去じゃねーけどなとしかめっ面で笑った。


最後の爆弾は周囲の予想を見事に裏切らずに威力絶大の物だった。
タイマーがまだ余裕なのを見てこれならいけるかもと全員が思った。
『あと7分。楽勝だな』
ボールはホッとすると丁寧にカバーを取った。
そして固まる。ガチガチに凍った父を見てアリスが怪訝な声をあげた。
『どうしたんですの?お父様?』
『さっさとやっちゃってよーーボールーーーいつ爆発するかと思うと怖いじゃない』
『後7分は大丈夫よマリア』

『いや・・こりゃやべーわ』
メアリの言葉にボールは絶望的な言葉を返した。
『やっかいだぞこいつは』
『難しいの?』
『難しいんですの?』
マリアとアリスの同時質問にボールは頷いた
『これが解除出来るのは作った人間くらいだな。それ以外で出来る奴がいるなら腹で茶ぁわかしてやるよ』
『茶?』
『日本のことわざだよっそんくれー無理だってぇ事だ』
『じゃあ・・』
『まあ一か八か賭でやってもいいがかなり分が悪い。・・・あんたも出来ねーだろ?』
嫌そうな顔で離れた場所にいたKIDに問いかけた。
ホテホテと近づき爆弾を覗く。
『・・・・・・』
おや?という顔をしたKIDにボールは一瞬希望を見いだす。
だが白い泥棒はあっさり否定の言葉を述べた。
『残念ながら私にはできません。ですが―――――』


チラリとコナンの方を見た。

『なんだよ続きあんのか?』
『・・・・・・・あと7分・・・いや6分ですか。』
『だからこんなに焦ってんだろっっあーもおいいっ。テメーが出来ねーなら俺がやるしかねーだろっっ!!!』
憤慨するとボールは勝手に爆弾解体に取りかかった。
(うっわーまだ死にたくないんだけどなー)
KIDは肩をすくめせっかち(いやこの状況では仕方なかろう)なボールの背中を見つめた。

『名探偵申し訳ないですがもう一仕事お願いしましょうか。』
「・・けが人に仕事押しつける気か?」
『一度失敗した事に挑戦するのは勇気のいることです。ですが貴方のチャレンジにここにいる、そして上で信じて待っている全ての人々の命がかかっている事だけはお忘れなく』
沢山のコードに唸り声をあげるボールを背にコナンに話しかけた。
わざわざ英語で。

「・・・・」
(解ってる・・解ってるけど)
手が震えている。
体が動かない。
歯がカチカチと音を立てる。

『まずはこれだな』
多分と心で付け加えボールがコードを一本取りだし慎重にはさみを差し込んだ。
誰もが息を飲んで見守った。
ボールも緊張でか喉をコクリとならした。
そして・・・・




「あーーもうっっ解ったよやればいいんだろやればっ」
とうとうコナンは観念した。
これ以上心臓に悪いことはない。
暗に教えるからKIDが解体すりゃいいじゃんというのは見事に拒否されたので自力でするしかない。
自分や他人の命なんかよりコナンのトラウマを回復するほうが大切だと考えているのだろうか。
KIDの飄々とした顔からは何も読みとれないがこのままで居たら死へと近づくのだけは確実だ。

例え震える手でも、全く解らないボールがやるより生への道は広がるだろう。
そんなコナンを見下ろしKIDは目を和らげた。

『ミスタースミス少々お待ちを』
『あ?緊張してる時に声かけんなっうっかり別の切ったらどーすんだ』
事実もう少しで別のコードをうっかり切る所だったのだ
だれだ邪魔したのはっと振り返るとそこにはKIDが立っていた。
『この場でそれを解除できる唯一の方が許可を下さったので交代です。』
その言葉に人々はいっせいにセディスを振り返った
『わ・・わたしは出来ませんよ』
ブンブンとちぎれそうなほど勢いよく首をふる。
KIDはそっとうつむいたままのコナンを抱えると爆弾へと近づいた。
まさかと呟くボールをどかしそこにコナンをおろす。
「負けるな」
未だに震える手を握りしめ耳元にそう囁くとコナンは小さく頷いた。

『お・・・おい』
恐る恐るコナンを指さす彼らにKIDはニッコリ笑ってみせた
『おーーーいーーー俺はまだ死にたくねーぞーーー』
コナンをどかそうとするボールはKIDによって簡単に遮られた。
『彼なら任せても安心ですよ』
それを信じたものがこの場に一体どれだけいたことだろうか?
彼らは一本切るたびに寿命が縮む思いをしながらビクビクと体を震わした。



『まさか・・・』
というのはセディスの声。
そんなバカな。
と思った。
どう考えたって不可能だった筈だ。
あの口の悪い男も言ったではないかあれを解体できるのは作った本人くらいだと。
何故あんな子供に出来るというのだ?
よくよく考えてみればあの少年は一体何者なのだろうか?
さっきからKIDと親しげに話しているし。
てっきりマーシェリー氏の孫かと思えば見事な啖呵をきって拳銃の弾を心臓にうけた。
あっそういえばどうして生きてるんだあの子供は?
それにあのロイドとかいうやつもよく解らない。
とにかくとんでもない奴らを敵に回していたのだろうと言うことだけは薄々と感じてきた。
逆らったら・・・・多分人間やめるはめになるんだろうな。
あの組織と敵対するのとどっちを選ぶかと言われたら困る所だが今死ぬか後で死ぬかの違いなら後でのほうを選ぶ。
今は大人しくしとこ・・・
セディスはそう結論づけた。


パチリパチリと音がする。
止まることなく、よどむことなく。
大量のコードがどんどん切られていくのを呆然と眺めていた他の人たちは残り1分を切ったところで上から新たな縄梯子が降ってきたのに気が付いた。

『さあっ登って来て下さい今度はセディスは最後にしてくださいね』
ロイドは階下で解除を勧めるコナンを目の端に止め小さく微笑むとそう言った。





最後の一本を切り終えた時にはすでにここにはKIDとセディスしか残っていなかった。
『もう大丈夫ですね?』
震えの止まった手のひらを見つめコナンは頷く。
『荒療治かと思いましたが今しかないと思いましたから。トラウマは後にのばせば伸ばすほど恐怖が増しますからね』
そう。鉄棒の選手などがそうだと聞く。落ちて骨折した恐怖をつけないため骨折したその手でもう一度鉄棒を掴ませるという。
早ければ早いほどいいという見本だろう。
「そうそう爆弾解体の危機なんて無いだろうと思っていましたから本当にラッキーでした」
「・・・・まさかわざとやったのか?」
「ナンノコトです?」
セディスを落としたのはスイッチを押させるその為だったのかもしれない。
真相はKIDの胸の中。
「お前・・バカ」
「貴方が関わる時だけですよ。」
「だよな。ホント馬鹿すぎて言葉もねーや。さっさと登ろうぜ。」
「そうですね」
泣きそうな顔のコナンを抱きかかえるとKIDの胸にグッと顔を埋めた。
それが無性に愛しさを書き立ててKIDは抱える手に力を入れる。
『さあ。まだまだ対決は残ってますよ名探偵。申し開きをしなければならない相手がいますからね』
孫だと嘘を付いていたマーシェリー氏に、日本語しか話せないと偽っていたサーカス団のメンバー達。
今ここにいないモリスの事もきっと後で話題になることだろう。
それが一番やっかいかもしれない。


チラリと目線を送られたセディスは両手をあげた。
『何もしませんよ。そんな事したら上で待機する彼らに何をされるやら』
その言葉に納得したKIDはコナンを抱え無防備に背をさらした。
(今ならやれるんでしょうねぇ)

でもする気はない。
ここで飢え死にさせられるなんてまっぴらだし。
続いてセディスも縄に手をかける。
(それに)
解体された爆弾に目をやった。
(命を助けられたようなものですしね)
セディスは軽く肩をすくめ米俵並の重さを片手に抱えているにも関わらずトントンと身軽に長い距離を3飛びで駆け登ってしまった存在を見上げた。
あれと自分は別世界の生き物だな。
そしてあの小さな生き物もあの人類外の生き物の仲間というわけか。
みせつけられた様な気がした。









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