悪夢到来!!!  エピローグ2


人々が見守る中、ゆっくりと青い目を閉じ次に開いた時はその青にも負けない神秘的な紫の瞳を空気にさらした。

『え?おいっ』
『ええ!!!』
『どうしてよっ』
叫ぶ彼らに元の姿へと戻り肩の力を抜いた快斗は情けない顔を人々にさらした。

『・・・なんて言えばいいやらって感じだけど、2重の偽りごめんなさい。俺が貴方の探してた彼の息子だよ。黒羽快斗。もうすぐ高3。工藤新一に頼まれてここにやって来ました。ほかに質問ある?』

工藤新一と寸分違わぬ容姿。
変わった事といえば瞳の色だけ。
なのに・・・
解る。彼との違いが。
放つ空気が全然違う。
青から赤へと変わったかのような空気の色。
場が明るくなったようなそんな存在。
それがきっと黒羽快斗なのだろう。
疑う事は出来なかった。
誰もが知っている"彼"と同じ空気を持つ"彼"の息子の存在を

『君が・・・盗一の息子・・・』
『そー。またまた騙しちゃってごめんね。』
出来るだけ軽く言う
『では君が黒羽快斗君。私達が探し求めていた・・・・・・・死ぬ前に会えて良かった』
感極まった様子でマーシェリー氏は呟いた
『これだけが心残りで仕方なかったんだよ。どうか聞いて欲しい彼からの伝言を』
『もちろん。それを聞くためにわざわざ名乗り出たんだから聞くよ』
それに頷き口を開こうとした丁度その時カチャリとどこかで音がした。
普通なら聞き逃すほどの小さな音だったが誰もが耳を澄ましていたためすぐに聞き取った。
それは扉の開閉する音。

『おや。失礼』
扉を開いて注目を浴びた人物は飄々と片手をあげてみせる
(父さん・・)
見計らったかのごときタイミングにコナンは顔をしかめた。
もしかするとこの部屋に盗聴器でも仕掛けておいたのではと思えるような見事なタイミングだった。
『いや思ったより事態は早く進んでくれたようで私は嬉しいよ』
『おじさん・・』
『快斗君もすまなかったね。こんなだまし討ちのような事をしてしまって。これでも色々と考えた末の結果なんだよ』
許してもらえないかな?と穏やかに尋ねられ快斗は苦笑をみせた。
この人は新一ですらやりこめるタヌキなのだ、今の言葉をとても鵜呑みには出来ない。
『いいですよ。コナンと旅行出来たのは結構楽しかったですし。でも後でじっっっくりとお話しましょうね』
恨みを込めた快斗の皮肉は優作にニッコリと軽く受け流された。
『それは良かった。時に新一。お前はどこまで話したんだい?』
・・・・・言うな。
せっかく言わずに帰ろうと思ってたんだから
コナンの心の叫びを意に介せず優作はわざとでは無いのだろうかと言うほどに朗らかにコナンに手をさしのべた
『新一には快斗君に内緒の行動をさせてしまって済まないと思っていたのだよ。それにほら仕事も終わった事だし新年は家族三人で凄そうな。有希子も新一に会うのを楽しみにしていたよ』
新一新一連発しまくる親にコナンはピシピシと切れそうな血管をなんとかしのぎ微笑んだ

「わざとだな?そうとしか思えねー・・。」
『ん?英語で言ってくれないとな。郷に入っては郷に従え。ここはロンドンだ。英語を話しなさい』
あわあわと手を振る快斗をよそに優作は怒りをあおる。
『ロンドンかぶれして日本語を忘れたようですね父さん。あいにく僕は新年には用事があるのでどうぞ母さんと二人でにぎやかに過ごしてください。』
あくまで反撃なのだろうコナンはひくひくと引きつる口元になんとか笑みを浮かべそれだけ言った。
『なんだもしかして彼女でも出来たのか?それなら連れてきて一緒に新年を祝えばいい。新一を連れていかないと有希子が拗ねてしまうだろう。あっでも蘭君にはまだ話してないのだよね。それとももう実は僕が工藤新一だよって告白したのかい?
・・・おっとその顔では違うようだね。って何を怒ってるんだい新一?』
『―――――!』
快斗はプッツリと血管の切れる音を聞いた気がした

『わーーーストップストップコナンちゃーーーーん!!!さすがに身内殺しはヤバイっしょーーーいくら怒っても灰皿振り上げちゃダメよーーーーー』
『はなせっ快斗っっこんな奴こんな奴ーーーーーーーー!!!』
離れた位置にも関わらず素早くコナンの背後に回り暴れる体を押さえ込んだ
『優作さんもっっあんまりコナンちゃん苛めるとひねくれちゃいますよっっ』
『おや?そのひねくれ具合がまた可愛いのに。』
『そうですけど―――――って納得してる場合じゃなかった。待てっっ耐えるんだコナンっっっ』
『知るかぁぁぁぁこんな人類の害虫なんて撲滅してやるっっ』
背後から抱え上げられブンブン唯一自由な足を振り回すが快斗は腹を蹴られようが腕にかみつかれようが必至で押さえ込む。それこそ離した瞬間が世界の終わりだとでも言うかのごとく必至で押さえ込んだ。

『どうどうっほらっ皆見てるって。ね?落ち着け』
確かに誰もが呆然と暴れ狂う子供を見ていた。
『―――――』
それにも構わず暴れ続けたコナンはそのうちピタリと電池が切れた彼のごとく動きを止めた。
きっと疲れたのだろう肩で息を付くその姿はとても哀れみを誘われた。
『ちくしょう覚えてろよーーー』
叫ぶ元気も切れたのか快斗にしがみつき歯ぎしりしながら呻いた

『いやー良いコンビだね二人とも。新一が切れるとさすがに私でも止められないのだよ』
なら切れさせるなよ。
快斗は真剣に思う
子供の特権とばかりに全力で暴れたコナンのお陰で腕やら腹やら蹴られた快斗は改めて新一の黄金の足の威力に下を撒いた。

『君は・・・・』
『ああ。ご挨拶が遅れて申し訳ありません。私は工藤優作。あそこにいる不肖の息子の父です。』
真面目くさった顔で優作はマーシェリー氏に挨拶をかました。そして扉のほうへ顔を向けると声をかける。
『もう入ってきていいですよ』
『はあ。失礼します』
居心地悪そうに入ってきたのは

『団長っ!!!』
『・・・あなたたちなんでこんな所に・・・ってぼっちゃまっっっっ?』
『ふえ?あれ?・・・・・ジイちゃん?』
『何でぼっちゃまがロンドンに。』
『あ。うん。それがコナンちゃんに頼まれて来たんだけどさぁ・・・えーっと。団長?』
快斗は久しぶりに会う寺井の顔を失礼にも指さした。
『団長ーーーもうめちゃくちゃなのよーーーーモリスとか新一とか快斗とかコナンちゃんとかわけわかんないのーーーー!!!』
『そうなですのーーー誰が誰やら混乱してきましたわーーー』
マリアとアリスが泣きついた。
まあ確かにめちゃくちゃかもしれない。
『ってか団長知ってたのか?あの人の息子の事』
『もちろん。とは言う物の私も再会してからそんなに経ってませんが・・・』
快斗が初めてKIDの衣装を纏った時が寺井との再会の時である。
それからまだ1年たっていない。

『えーっとモリス・・は解りませんが、新一さまと快斗ぼっちゃまそれにコナンさまは解ります。
それでは全てをお明かしになられたのですね?』
『えーっとまあね』
まだKIDについては言っていないが
『勝手に父さんにバラされた』
ムスっと言う
『相変わらずですね優作さまは。ですがそうですかいつかぼっちゃまに彼らを紹介しようと思ってはいたのですが。丁度よかったといえば良かったのかもしれません。
ぼっちゃま、彼らがKIDとしての活動の資金源ですよ』

かなりあっさりと深い事を述べられたような気がする。
快斗と、それにサーカス団の団員は一斉に寺井につめよった。
『は?』
こう一遍に情報が公開されると訳が解らなくなってくる。
だがそのお陰でコナンは深く追究されずに放っておいてもらえホッとしていた。

『お前は気付いていたようだな』
その言葉にそっぽを向いたまま不機嫌な声でコナンは答えた。
『まあね。あのサーカス団は慈善団体みたいなもんだと言ってた。「あの人」の為の。その「あの人」がさっきの会話でKIDだと解った以上団長となるのは彼の付き人である寺井さんしか考えられない』
『ふむ。まずまず。』
『父さんがロンドン通いしてたのは単に欲しい本の為じゃなかったんだな』
『おや?そんな風に思われていたのかい』
『あのサーカス団と連絡をとるため・・・か・。快斗を探してたんだろ?親友の息子である黒羽快斗を。』
『・・まさかお前が先に知り合ってるとは思わなかったけどな。そう。あの事件の時に快斗君のお母さんは彼と二人でどこかへと身をひそめた。ずっと探していたよ。寺井さんもね。』
『すぐにでもロンドンに連れてきたかったけどいろいろあったから出来なかったってわけか。まあ俺が記憶失ったりしてたからな・・・』
『そう言うことだな。』
ふう。

『とりあえず父さんに言われた事はもうやったから帰ってもいいよな?』
『家族で新年迎える約束はどうなるんだい?』
『俺の事バラしたから却下』
『・・・・・有希子になんて言えば・・・』
『それは自業自得てもんだろ。』
『・・・・』
自業自得の優作は愛らしくも憎らしい息子の顔を見ながら深くため息をつくしかなかった。


『・・・と言うわけでしてぼっちゃまは怪盗KIDの二代目を受け継ぎ日本で活動しているのです。』
『はあ、あの人も秘密主義だよな。俺達巻き込みたくないのは解るけど言ってくれりゃ一緒に石探ししたってーのに。』
『我々もそんな話は知らなかった。盗一はそんな事に巻き込まれていたのか』
『団長もやっぱり詳しくは教えてくれないのね?』
ちくしょうと呟くボールとうなだれるマーシェリー氏を横目にマリアがため息を付きながら尋ねる。
寺井は申し訳なさげに頭をさげた。
『ええ。それが盗一さまの意向ですから。その石についても、組織についても言うわけにはいきません。』
『今と変わらず僕達が出来る手助けは資金源を稼ぐことだけって・・・ことですよね。』
『それも立派な手助けということでしょ。』
『でもアリスは全然サーカスに参加できませんからお手伝い出来てませんのーーやっぱりボールにナイフ投げ教えて貰うしかありませんわね』
『んな危険な事誰がさせるかっっ』
『だってーーー快斗お兄さまの手助けの為ですわ。怪我の一つや二つどって事ありませんわよっ』
『重要だっ。ちょっとでも怪我したらサーカス団へ遊びに来ることも禁止するぞ』
『むーーーそしたらお母様を盾にとって二人で押し掛けますわ』
『くっっ』
そんな親子のほのぼのな会話はさておき、すっかり忘れられていた事が一つある。


「そういえば」
とコナンが口を開いた。
『遺言についてはどうなったんだ?』
それが今回の引き金だったのだ。
聞かずに帰ったらここまで来た意味が無くなってしまう。

それに快斗とそれにサーカス団員(団長含む)の面々は「あっっ」と素晴らしいハーモニーを醸しだした。
『ようやく思い出してくれたか。このまま騒ぎながら帰られてしまうかと思ったよ』
苦笑をみせるとマーシェリー氏は快斗へと近づいた。
どういう顔をすればいいか解らないといった風の快斗にマーシェリー氏は目元をゆるめた。
『何。最後の言葉とは言った物の、大した事ではない。それがたまたま最後になってしまっただけというだけで遺言というわけではないから安心するといい。』


あの最後のマジックショーの日、黒羽盗一はいつものように開演前にやってきたマーシェリー達に激励の言葉を頂き、いつものように笑顔でちょっとしたマジックを見せていた。
御世話になったから・・・というもの少しはあったが、5人は5人ともひたすらに手品を愛しており、こんな簡単なマジックにすら眼を輝かせてくれる素敵なお客様だったからだ。
その日も手のひらから取りだした小さな日本のゲーム場のコインを手渡すと嬉しそうな笑顔をみせた。
特別なコインではない。
ただのメダル。
それを彼らはとても大切にとっておいてくれる。
彼らは盗一の一番のファンだった。

『盗一。あれ以来あんな事はなかったのかい?』
例の襲撃事件の事だ。
つい先日こうして開演前に訪れた彼らは何者かに襲われている盗一を発見して慌てて大声を出して相手を撃退させた。
それに盗一はニッコリ微笑むと
『ええ。まったく音沙汰ありませんからきっと間違いだと気付いたんだと思います。その節はありがとうございました』
『いやいや。私たちが出来たのは叫ぶ事だけですからな。何を隠そう私など叫ぼうとして怖くて声が出なかった次第。お恥ずかしい』
それに柔らかな笑い声があがる
『それにしても世間を騒がせるあの怪盗KIDに間違えられるとは鼻が高いですな』
『それだけ彼の腕が素晴らしいと言うことですよ』
『本当に盗一さんがKIDだったとしても我々は驚くどころか納得してしまうかもしれませんな』
『そうですか?そこまで誉められると照れますね』
『なんにせよ、もうあんな事が無いことを祈るばかりですな』
『そうですね』
盗一が笑む。
彼は天下一のポーカーフェイスの持ち主。心の中で何を考えていようが誰も読めないだろう完璧な笑顔を仮面を持っていた。

『そうそう今日は私の息子が来ているのですよ』
『おや。というと初めてお目にかかれるかな。秘蔵のお子様に』
『黒羽夫人の顔なら覚えているから会場で挨拶できるかもしれないな』
『よしっそうしよう。貴方にそっくりだというお子さんとお話をしてもよろしいかな?』
『もちろん。あの子はやんちゃざかりですからご迷惑をおかけしてしまうかもしれませんが』
『なーに。男の子はやんちゃが一番だろう。彼の名はなんといったかな?』
『快斗です。』
『カイト・・・黒羽カイト・・うん。良い名前だ。あうのが楽しみだな。
それでは今日のショーも楽しみにしているよ』

手をあげ控え室を後にしようとした5人を盗一は少し考えたあげく呼び止めた
『あ。ちょっとすみません。あの・・・もし・・・・あの子に会えたら伝言を頼めますか?』
『なんだね?』
盗一は目を細めて口を開いた。
あの爆破騒動のせいで伝えられなかった最後になる言葉を。



『彼の言葉をそのまま言うぞ?』
コホンと咳を一つするとマーシェリーは快斗の頭にポンと手の平をおいた
『快斗。今日は帰りが遅くなるかもしれないから戸締まりをきちんとしておくように。それから私がいない間はお前が母さんを守るんだぞ。いつものようにな。』
呆然とした顔で目の前に立つマーシェリー氏を見た。
遺言ではない。
最後の言葉。
でも・・・・・・・
今確かに父を深く感じた。

いつもいつも遠征に行く前にする約束事があった。男と男の約束だ。
『快斗。私はまたしばらく家を空けなければいけない』
『うん。解ってるよ。また遠くで手品するんだろ?』
『そう。だから。いつものだ』
『解ってるってーー。いっつも言ってるじゃん?』
『それでも、だ。いいか快斗。私がいない間はこの家の大黒柱はお前だ。大黒柱は家族を守るのが役目だ。お前が私の代わりに母さんを守るんだぞ。』
今までめんどくさそうに聞いていた快斗は真剣な父の瞳に真剣な表情を見せた
『もちろんだよ。母さんは俺が守る。父さんがいても母さんを守るのは俺なんだからなっ』
『頼もしいな。』
細められた瞳と頭をなでる大きな手のひら。
それはいつもの父との約束。


何で忘れていたんだろう。
あんなに大切な約束を。
快斗は視界がにじむのを感じた。
(あ。やべ。かっちょわり)
頬を滑り落ちる熱いものにようやく自分が泣いている事を自覚して慌てて腕で拭う。
それでも止まらない涙。
そのうち鼻水まででてきて大変な事態だ。
目の前で驚いたようにそれを見ていたマーシェリー氏はそのうち愛おしい者をみるかのように微笑んだ。
(この言葉を伝えるのは無意味なのかもしれないと思っていた。だが決して無駄ではなかったのだろう。)
そうと知って快斗を探し続けてきたこの短いとは言えない月日に感謝した。

『あーもう。恥ずかしいなーお前。ほらっハンカチ。それとティッシュも。しゃがめ。拭いてやるからっ』
ぶっきらぼうにコナンが述べる。
なぐさめるという行為はあまり得意ではないコナン。事件に関わった女性を慰めた事は新一時代に何度かあったが男を慰めた事はあまりない。
『うー嬉しいけどいいよ。』
こんな鼻水まみれの顔みられたら恥ずかしいしー
先にティッシュだけ受け取り遠慮なく鼻をかむ
『ふうー驚いたーなんか目から水流れてくるんだもん。』
未だ赤い目でそんな強がりを口にする。

『バーロ。この状況で泣いても全然恥ずかしくなんかねーよ。泣きたいだけ泣いとけっ』
無理矢理腕をひっぱりしゃがませると頭を腕で抱え込んだ。
頭に抱きつかれ快斗はコナンの胸元に顔を押しつけられた。
(あ。コナンちゃんの服に鼻水ついちゃった・・・)
『鼻水俺の服につけんなよ』
タイムリーに言われ快斗は遅いよーーーっと心の中で叫ぶ。
だがもうつけてしまったのだからこれ以上ついたところで怒られるのは一緒とばかりに思い切りコナンの服に顔をこすりつけた。
コナンの体温と頭をなでる小さな手の平に快斗は止まっていた涙が復活したのを感じた。
今だけ・・・ね。








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