悪夢到来!!!  依頼者達3




メアリの運転する小さな車で一時間くらい走った頃ようやくたどり着いたのは大きな街だった。
平日だというのに人でにぎわい、活気溢れる都心。
その大通りの一角に大きな建物があった。その前へ車を止め降りるように促されるとコナンと快斗はビルとビルの間にある二階建て風の建物を見上げた。

『ここが私たちのホームよ。』

指さして見せたのは今丁度見ていた二階建ての建物だった。
外から見ただけではどのくらいの広さかは分からないがどう考えても学校の体育館が軽く5.6個は入りそうだった。扉にはCLOSEDの看板が立ててあり、自動ドアも動かない。
まるで大きな映画館のような風体だ。


「・・・サーカス?」


横に立ててあった看板に目をやりコナンは小さくつぶやく。
『そうサーカス団なのよ。だからあだ名で呼び合うの。その方がなんか楽しいでしょ』
どうやら名前に深い意味はなかったらしい。
それに二人してホッすると楽しげなマリアを置いてメアリはサクサク先へと進んだ。
『姉さん通行のジャマよ。』
建物の脇にある小さな扉をカードキーと指紋チェックで開き(かなり厳重だ)扉を開いたままメアリが呼ぶ。

『はーい。ごめんなさいねメアリったらいつもこんな調子で。』
『でもさっきは―――――』
『あれは友好というより挑戦的だったのよ。気付かなかったならそれでいいんだけど』
『そうだったんですか。全然気付きませんでした。』

そう言う快斗にフゥ・・とため息をつくコナン。
気付いていたに決まっている。
だからこそ快斗はあんな笑みで応戦したのだから。大人げないといえば大人げない。

『残念ながら団長は不在なの。とは言ってもあの人はしょっちゅう世界を駆けめぐっているからあまりここにいないけれど。』
『それでは依頼人は一体?』

扉をくぐると多分劇場を壁一枚挟んだ所にある通路なのだろう細い道が続いていた。
カツンカツンと足音だけが響く一本道を少し進むと一つのドアが遠くに見えた。

『依頼人は私たち団員よ団長が元々ナイトバロン・・あなたのお父さんと知り合いなんだけど、よくいらっしゃるから私たちとも友好を結んでいるの。』

へー知らなかった。よくロンドンに行くのは知っていたがどうせロンドンに良い本屋でもあるんだろうとか思ってたな。
当たりを見回しつつ二人の会話を聞いていたコナンはそんな失礼な事を考えていた。

『さっきのは劇場。月二回公演よ。私たちはここを拠点にしているんだど、たまに他の国に呼ばれて出向く事もあるのよ。』
『結構有名なのよ私たちのサーカス。』
妹の言葉に姉が指をふって付け足す。
まあわざわざ呼ばれるくらいだしそれは人気な証拠だろう。
そんな事を思っているコナンをよそに快斗は楽しそうに聞いている。
サーカスもマジックもなにか共通するところがあるのだろうか。

『そ・れ・にー私たちはサーカス団兼マジシャンなのよ。珍しいというより他にはないわよね。』
『マジシャン?』
訝しげな快斗の口調にマリアはほくそ笑む。
『そう。団長がマジシャンなのよ。』
マジシャン・・・感慨深げにつぶやく様子にコナンは快斗のズボンを引っ張った。
「ねえ。何て言ってるの?」
「ああ。」
またもやコナンの耳元にひそひそやる。これが一番楽な方法だと分かったからだろう。

「へーマジシャン。格好いいね。」
「そうだな。こんな所でマジシャンと関わり持つとは思わなかった」

マジシャンは快斗の夢である。尊敬する父の職業であり、自分が一番輝ける舞台。
こんな機会でもなければ舞台裏は覗けなかったかもしれない、そう思うと初めてロンドンまでコナンに付いてきてよかったと感じた。
『そうすると団員はどうやって構成されているんですか?』
『サーカス団がメインなのよ。団長以外でまともにマジックが出来るのはそうねー彼くらいかしら。』
いたずらを思いついたような顔で小さく笑い出すとマリアは驚くべき人物の名をあげた


『ナイトバロン』




とうさーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん



気が遠くなるかと思った。
実際コナンは一瞬立ちくらみに似た感覚を感じ、快斗の足にへばりついた程だ。

なにやってんだあの人はっ。
なに考えてんだあの人はっ。

どうして手品なんかやってんだよっっっっていうか出来たのかあの人ぉぉぉ。
もう頭の中がグルグルだった。
あまりに非常識な自分の父に呆然とする。

「コナン・・・無事か?」

そんなコナンに快斗は気の毒そうな目を向け、とりあえず無難な言葉をかける。
「あ・うん。大丈夫。ちょっとめまいが」
あははは。と笑いやけっぱちで病弱少年を演じてみる。
コナンの気持ちは正直な所分からないが、それでもコナンの父のあまりの特異さに快斗はさすがこの子にしてあの父ありと感動を覚えてしまった。


『それは驚きですね。と言うことは父があなた方と同じ舞台で演じていた・・と?』
『ええ。前座でナイトバロンが。トリに団長がマジックをするのが大体の常ね。でもナイトバロンは本業のほうが忙しい時には参加できないから、そういう時の為に団員が少しずつ団長からマジックを習っているのよ』
『なるほど。よく分かりました』
その団長がいないのが非常に残念だが、今度このサーカス団が来日する機会があったらショーを見に行こうと心に決め、快斗は別の話題に移ることにした。
その際、まだフラフラしていたコナンの頭を左手で支えながら歩いていたため歩調は自然ゆっくりとなっていた。






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