悪夢到来!!!  依頼者達4




「しんいちにーちゃん」

フとコナンが快斗を振り仰ぐ。
それに快斗は口の端を小さくあげるだけで左手でコナンの頭を正面に戻した。

「分かってる。」

こういう時の快斗には従うほうが身のためなのは過去の経験から学んでいる。
さっきから背後に殺気を感じ背中が痛くて仕方ないのだ。
だが快斗はそれを無視しろと命じる。
しかも気付かないフリをしろと言っているのだろうこれは。
と言うことは背後の殺気は作り物の殺気であるか特に実害のない殺気なのだろうと判断できる。
それならいっか。

快斗を信じる事にし、コナンは肩の力をストンと落とし気楽に歩き始めた。
どうせ何か起こっても快斗が絶対に守るだろうことは分かり切った事実なのだから。
以前ならこんな時絶対に自分を信用して手を出さないでくれたが、今はどうあっても護る気だろう。
コナンとしては自分達は同等であるのだからそんな事はハッキリいってするなって感じだ。
だが今は心配性というどうしようもない病気にかかった快斗の為に大人しく守られてやるしかない。
本当はそれによる自分の自己保身能力が低下するのが一番怖い。
タダでさえ元の姿より能力が落ちていると言うのにこれ以上落ちたら快斗の傍にいることすら出来ないではないか。



鬱々とコナンがそんな事を考えていた時とうとう殺気がピークに達した。
何かする・・・そんな予感を感じたその瞬間ヒュッとコナンの左頬を何かがかすめていった。
左側だけ不自然にフワリと浮かぶ前髪と前方50メートル先にある扉が立てる盛大な音。
そして磨き抜かれ人を映し出すほど輝く床にカシャンと甲高い音を立て落ちた物体。
それらが0コンマ一秒のうちに起こったように思う。

コナンの目はそれをコマ送りのように見取り、驚くべき動体視力で自分の横をかすめていった物体を壁にぶつかる前に判別していた。
ナイフ。
たぶん折り畳みナイフだろう。床に落ちたその姿はカクリと約60度に二つに折れ曲がっていた。
そして驚いた事にナイフは2本落ちていた。
と言うことは快斗も同じ洗礼を受けたのだろう。
これはもしや新人歓迎のセレモニーなのだろうか?
しかしちょっとでも左を向いたらナイフが刺さっていただろう距離だった。
下手をすれば耳か鼻が削がれるような事態に陥っていたよなぁ。


暢気にそこまで考えているうちにコナンの頭を押さえていた手が小さく震えるのにようやく気付いた。
慌てて右隣にいる男を見上げる。
その場で立ち止まりうつむいたまま小さく震えるその姿。
ナイフを向けられた怒りのためだろうか。いや・・・違う。
コナンは簡単に怒りの理由が予想つき、小さくため息をついた。

「新一にいちゃん」

そっと声をかけてみる。
どうやら目をつむって怒りを押さえ込む努力をしていたらしい彼はゆっくりと蒼い瞳を空気にさらした。
その目は未だ怒りに燃えているらしく、柔らかく微笑む口元にコナンは寒気を感じた。

『へっ探偵っつってもてんで大した事ねーな。せっかく殺気放って今からナイフなげますよーて教えてやったのに振り返りもしやがらねー。あれか?親の欲目?ナイトバロンもちょっと息子見る目にフィルター掛かってたんだろうな。しっかしそれで探偵やれるんだから日本って平和だよなホント。俺も日本行って探偵事務所開いてやろうかな。この程度気づけない奴よりかはどーーー考えてもマシだと思うんだよなー。どう思う?false detective(えせ探偵)さん?』



コナンの第一感想。
(バカだな)




快斗が怒っているのにも気付かないくらいなのだから観察力がまったく足りない。それで探偵をやろうってんなら小五郎の方が遙かにマシな探偵だろう。
しかもこいつ更に怒りに油を注ぐような真似をした。バカ意外の何者でもないだろう。

雰囲気を読んでいるのか読んでいないのか背後から現れたその男にコナンは目を走らせると思わずさっきの立ちくらみを思い出した。
顔立ちはどこからどう見ても犯罪者だった。
放つ雰囲気もどこかダークで見た目で判断とかではなく間違いなく過去に大罪を犯しているだろう事は分かる。執行猶予中の元犯罪者。
それ意外に目の前の男を表す言葉はないとコナンは思った。

汚れの目立つ白いTシャツと茶色のズボンという季節感を感じさせない見るからに寒そうな服装の彼は無精ひげをボーボーに生やしたままの顔にニヤニヤといやらしい笑顔を貼り付けゆっくり快斗に近づいてきた。
そこにきてようやく事態が飲み込めたのか、驚きのまま固まっていたマリアとメアリが間に割って行った。


『ボールっ』


ボウル?マリアの叫びに球技の玉が頭をかけめぐる。
この男には結して似合わない呼び名だ。
『なんだ?お嬢ちゃん。このヘボ探偵のおきれいな面に毒された口か?』
『だまりなさいっあなたは・・何て事をっ。もう少しで二人とも怪我をするところだったじゃないっ』
『ボール。単独行動がすぎるわよ』
激しく憤るマリアとと静かな声音のメアリ。二人の対照的な怒声にも堪えた様子は見せずその男は耳に小指を突っ込みそっぽを向いた。


その時ようやくうつむいた顔を上げ快斗は背後を振り返った。
ゆらりとしたその一連の動作に危険信号を感じたのはコナンだけではないだろう。

『なっなんだよ』

カラーコンタクトを付けた快斗の蒼い瞳がジッと何かを訴えるかのようにその男を見つめた。
『言いたいことがあるなら口で言え。』
無言の圧力に怯えた声を隠そうとして失敗したのか震えた声で怒鳴る。

『大方・・・伝わったと思いますが?目は口ほどに物を語る。と日本のことわざにありますし。』
ゆっくりゆっくり一言に力をいれるその言葉は怖いくらいに優しく、鳥肌がぞわっと立つ。
『僕が言いたい事はただ一つだけです』
当たりの温度を2.3度下げ、快斗は柔らかな笑顔を浮かべて人差し指を立てた。


『試すのは僕だけで充分なはずです。今後こいつに手をだしたら容赦しませんから』


ようやくふるえの止まった左手でコナンの手を握りこむと目を少しだけ細める。
『いーじゃねーかよ怪我したわけじゃねーし』
『してからでは遅いですから。この子に万一の事があったらご両親に申し訳が立ちません』
どうやらナイフを人間に向けた行為よりも隣りの子供に何かをしでかした事のほうが重要らしい快斗の言葉にくっくっとボールは笑い出した。

『オーケー承知した。このガキには決して手出ししないと誓おう。それでいーんだろ?たんてーくん?』
ちゃかすような言葉にようやく冷えた笑みを消し快斗は頷いた。
『ええ。結構です。それと僕には新一というきちんとした名がありますのでそちらで呼んで下さい』
『いーや俺は決めたお前は探偵君と呼ぶ。他の呼び名はねー。俺はボール。おっさんでもボーちゃんでもなんでも好きなように呼びな』

それだけ言うと大笑いしながら一行を抜かしサクサクと前方のドアに滑り込んでいった。
「ボール。思い出したぜ。」
「ばか。とんま。あほ。まぬけ。能なし。」
「なんだ気付いてたのかコナン。そうピッタリじゃねーかあのおっさんに」
ボール=ball
確かに球技のボールと言う意味もある。だがコナンが言った通りどうしようもない意味あいもある。何を好きこのんでそんなあだ名を付けたかは知らないが妙に似合っている。
さっきの怒りもなんのその陽気でちょっと陰湿で癖のありそうなボールに快斗は少しだけ好意を持った。
自分にそんな名をつけるひねくれ具合が面白かったのかもしれない。

「うーむ。一体どんな人が束ねてるんだこの軍団。」
「今日いないのが残念だね」
「まったくだ。」
「優作おじさんもいつ来るか分からないし。」
「来るの?」
「来るって言ってたじゃん忘れちゃったの?」
聞いてねーよっ。
教えてねーもん。
そんな視線の会話もなんのその二人はとりあえず和やかに笑い出した。
「そうだったなーすっかり忘れてたよ。教えてくれてありがとなコナン」
「ううん。新一兄ちゃんがど忘れなんて珍しいよね」
あはははは。

快斗がコナン後で覚えてろよと心で唸っていた事は当然コナンも気付いていただろう。





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一話が短いので一度に二話更新です。
さて早々更新目指すと言っておきながら遅いですが
こんばんわ皆様。
どんどん人が増えていきます。新キャラ・・
ふふ・・覚えきれなかったらごめんね。
2002.7.6