72時間の奇跡〜幽霊の事情〜
       其の2






死因は何なのか?
実に重要だろう事をまず最初に聞いた新一。

幽霊の答えは


     「わかんない」


それだった。





実に簡潔な答えをありがとう。
・・・・だけどな。
"わかんない"じゃすまねーーーーーんだよっっっ!!!

助けろと言うくせに全く役に立たない幽霊は、

『だってどうして死んだのか全然記憶にないんだもーーん。』

しくしくわざとらしく泣き出す。

「・・・(怒)」
それに怒り心頭。
もういい。どうでもいい。
とりあえず今出来る事だけやってさっさとこの件から手を引くっ。
そうと決めたらさっさと終わらせてしまおうと思ったのか新一はサクサクと行動にうつした。
持ち前の行動力と知識で幽霊から聞き出した住所だけで快斗の自宅を理解すると電車に飛び乗った。

「次の駅でおりて大体南下すればつくだろ。番地までってことはマンションじゃなく一軒家。黒羽なんてそうそう聞く名前じゃねーしすぐにでも見つかるな」

いざとなったら道行く人に聞けばいいし。
そう呟く。

『っていうか俺が道案内すればいいじゃん?』

もっともな快斗の言葉に新一はキッと空を睨み付けた。

(俺に独り言を大声で呟けというのかこいつは。)

さっきの公園でもハッと気付いたら周囲の人々は新一を遠巻きに見ていた。
きっと気が狂ったとでも思ったのだろう。
遠くから救急車のサイレンが聞こえ冷や汗かきつつ逃げ出してきたのだ。
一体どこの親切な方が救急車を呼んでくれたのやら。ありがたすぎて涙がでてきそうだ。

いっそ目の前の幽霊を見捨てて
「ああやっぱり俺頭おかしいんだよーーーそうだよこんな幽霊なんて俺が作り出した幻に違いないじゃーーん」
とか言って病院送りになってみるのも楽しそうだが、精神科に送られた探偵なんてあまりに信用性なくて名に傷がつくこと間違いなし。
一時のヤケは後々やっかいな事になるのでグッと押さえておく。

(さっさと終わらす。そして永遠に縁を切る。一時間後には家に帰って寝てやるぞ俺はっっ)
心に決めると新一は右隣り上に浮く存在から視線をふいっとはずした。


だが、それすらも楽しいと言ったように快斗は笑みを浮かべ、決して目を合わせようとしない名探偵のつむじを見下ろし・・・

かっわい〜い♪

心の中で呟いた








ようやく『自力で』快斗の家へたどり着いた新一はチャイムを押す。
奥から駆けてきた人物は覗き窓からヒョイと見てすぐにドアを開いた。

「お帰りなさい快斗」

素敵な奥様がエプロン姿で迎えてくれた。
なんの疑いもなく自分の息子の名を呼ぶ女性を見て新一は空を仰いだ。
ああ、なんていい天気だろうか。

そうだよ。うん。こんな可能性なんで俺考えなかったんだろう。
この素晴らしい天気のせいかな。

ささやかに意識をとばしてみたりした。

まあ自分ですら間違えるくらに似通った顔立ちなのだ母親が間違えても仕方有るまい

そのまま部屋へ引き込もうとする快斗の母に慌てて意識を戻し足を踏ん張った。

「えーっとすみませんがこちらは黒羽快斗君のお宅でしょうか?」
「何いってんのよこの馬鹿息子っ暑さで頭でも狂ったの?」
と返されなんと説明すればいいのか非常に困った。
「・・・いえ僕はあなたの息子ではありませんので」
「まあっっ私がお腹を痛めて産んであげたって言うのに薄情な子ねっ」

助けて〜だれか〜

泣きそうになった。
さすがの名探偵もこういう相手には思考が止まるらしい。

「くっ工藤新一です初めまして」
「・・・・・え?」
「だから貴方の息子ではなく、顔はそっくりですが僕は工藤の家の人間でしてそのあのっ」

もう支離滅裂だった。
どういえば良いのか。
どの言葉なら相手が納得してくれるのか新一には解らなかった。
やっぱり隣りで快斗は腹を抱えてこの状況を笑っているし。
お前母との再会だろーがもっとなんか感動的な顔はできねーのかっ
とチラリと睨んでみたが快斗は気付く様子を見せなかった。

しばらく冗談じゃないの?と疑った瞳でまじまじと新一を見つめていたが、ようやく納得したらしい。
口元を押さえ愛想笑いを浮かべた。
「あら。あらあらあら。まあ御免なさいね。まー本当に。よく見ればうちのバカとは大違いの知性の輝きが見えるわ」

後からならなんとでもいえる。

「まあそうよねーえーっと新一君?うちのあのアホに何か用なのかしら?」
絶対にこけ降ろさないと気が済まないのか、それに新一ははあ、と頷き

「えーっと伝言があったのですが・・その〜家に居ないのですか?」
「そうなのよーあの子ったらバカなもんで今補習に出てるのよ」

『あ!!!』

隣りで声が聞こえた。
そう言えばそうだったな〜なんて脳天気な顔で手をポンッと打っている。

うん。そうだな。バカだから忘れてたんだよな。広い心の俺が許してあげない筈もないが、生身の黒羽快斗に攻撃の一つや二つ加えてもいいよな?
新一は引きつった笑みでそう思った。

「学校はどこか教えて貰えますか?」
「伝言なら伝えて置くわよ?」
「いいえ。自分の口で伝えたいので」

ニッコリ微笑むと新一の魅力に落ちたのか快斗の母はポッと頬を染めた。いくら息子と同じような顔でもやっぱり持ち前のフェロモンは効果絶大ということだろう。


「江古田高校・・ね。ここから歩いていけるな。」

じゃあ行くか。
母のお茶でも飲んでいきなさいという誘いを丁寧に断ると新一はまたもや歩き出した。
一刻も早くこの茶番を終わらす為に。
そう。伝言を伝えればそれで終わりだっ後は知るかってんだ


『あっそうそう言っとくけどねー俺頭悪くないからねーーー』
(補習うけといて何いってやがる)

『たまたまテストの三日間に風邪ひいちゃって寝込んでただけだもーん』
(ほっほーう。それが頭悪くない証明にはならないけどな。夏風邪はバカが引くもんだしなー)

『ちょっとねー春先に海で泳ぐはめに陥っちゃってねー小さな探偵さんがおいつめるんだもん〜』
(なんの話だ?)

『知ってる?江戸川コナンってーガキ。』
「!!!」

『うーんやっぱ知らないか。何でだろ突然消えちゃってさ。寂しいな〜』
(なんなんだこいつ何でコナンの事知ってんだよ。俺こんな奴知らないぞ?)

『まあ新一とは入れ替わりで出てきたから知らないかな。ほんじゃ白馬もしんねーよなー』
(白馬?もしかして白馬探?なんでこいつそんなに探偵事情に詳しいんだ?もしかしてこいつも探偵?)

『あっ不思議そうな顔してるー俺ね白馬のクラスメートなのっあいつもお前が消えてから現れたからしらないかなーと思ったけど知ってるみたいだね〜』

ってことは白馬から江戸川コナンの存在を聞いたのか?いやその前にこいつなんか知り合いっぽい言い方したよな。追いつめられたとか・・もしや犯罪者?
海で泳ぐようなおいつめ方した事あったか俺?

(うがーもどかしい話聞きたいのに口開いたら俺大声で独り言の変な人だしーーーちくしょっ)
『うへへ』

頭を抱えそうな程に混乱した新一に快斗が不気味に笑う
(人悩ませて喜んでやがる・・)

『あーもう嬉しいなー新一マジ可愛いし。こんな風にでも話せてうれしいなー』
「?」
『だってもう死ぬと思ってたし。』
(そういえばこいつ幽霊だったな)

なんか独り言は嫌だとか浮いてるとか目の前に事実突きつけられているのにうっかり忘れてしまう。
目の前の男が脳天気に笑ってるからだろうか。
それとも幽霊とは思えないほど明るいからだろうか。

(伝言したらこいつは成仏するのかな?)

ふと顔をあげて快斗の顔をのぞき込んでみる。
そこにはやっぱり笑った顔があった。

『なあに新一?俺の顔に何かついてる〜?』

おちゃらけた幽霊から勢い良く顔を前へと戻した。

(何感傷的になってんだ俺。ちょっと前に会っただけの幽霊に愛着でも湧いてんのか?)
これだけ騒がしく話しかけてきた奴がいなくなったらそりゃ寂しくなるかもしれないだがこれは幽霊なんだ成仏するのが一番に決まってる。
(そうだよな。大体こいつがずーっとつきまとってきたら五月蠅くてたまらないし・・な)

うつむいて、ふうと小さく息をつく新一に快斗はそっと目をつむって微かに微笑んだ。
さっきまでとはちょっとだけ違う笑い方で。






『さーあ新一君。ここが快斗君の通う江古田高校ですよーん。とっても穏やかな校風でお勧めでーーす』
(別に転校してくるわけじゃねーし)

ニコニコと学校を案内してくれる快斗にそんな事を思いつつふうんと頷いた新一は校門をくぐった瞬間、隣を通り過ぎた人間に突然肩を掴まれた

「黒羽君っ何してるんですかっ」
「え?」
「えっじゃありませんっ何でこんな所で油をうってるんですか!!!」
「は?」

肩を掴まれて振り返らされたと思ったら止まらない説教。
相手はさっきの噂の人物、白馬探だった

「大体今日だって本当は僕は来なくてよかったんですよ。なのに黒羽君がっっっ」
「あーっえっと黒羽快斗ってーゆー奴この中にいるのか?」
「黒羽君でしたらさっきまで教室にってここにいるじゃないですかっっ話をそらそうとしたってそうは行きませんよ。いつまでも同じような手に引っかかる僕ではありませんっ」
『引っかかってるくせに〜』
楽しげな元凶の声が聞こえたが無視して新一はうんざり顔で肩におかれたままの白馬の手をそっとはずした。

「僕は工藤新一です。初めまして白馬探偵」
「は?」

工藤新一にしか出来ない悩殺の微笑みをみせるとそのまま訳が解らず固まった白馬を置いてサクサクときびすをかえして校舎へと向かった。

「やっぱり殴る。絶対なぐる。なんで俺がこんな目にあわなきゃなんねーんだ」

足音荒く歩く新一。
どうやら怒っていたらしい。
似ているのだから仕方ないと言ったところで新一の怒りは冷めるはずもない。
快斗に言われた教室の前に立つと新一はピタリと止まった。
そして深呼吸を大きく一つすると
勢いよく扉を開いた





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頑張れ新一!