72時間の奇跡〜幽霊の事情〜 其の5 「どっわーーーーーやっべーーやっべーーって白馬の奴頑張りすぎーーーー」 夜。 怪盗が飛ぶ。 月しかない闇夜を。 ハングライダーたった一つで。 自由自在に好きなように 今夜はお仕事の日だった。 昨日来日した素敵な蒼いサファイアがお目当てのしな。 なんと言っても青の中に赤い光があったら素敵ではなかろうか? そんな簡単な理由から快斗はこの石がやって来ることを心待ちにしていた。 「さてさてお目見え〜〜」 つい先ほど超危機を脱してきたとは思えないお気楽な口調 いつもより張り切った白馬を振り切るのはこの世界中の警察をいいように翻弄する怪盗でも苦労するのだ。 特に今日はきっと昼間の恨みなのだろうもの凄い執念だった。 「・・・ちぇっ。はーっずれ。」 唇をとがらせる。 手のひらの石をぐっと握りしめ いっそ砕いてしまいたくなってきた。 あーやだやだ。 いつまでこんな事続けなきゃなんないのかねぇ。 復讐。 その思いを胸の中にずっと溜め続けるのは結構苦痛だ。 パンドラを見つけて砕いた所で本当に復讐が終わるのかと言ったら実はきっと違うだろう。 次の復讐が始まるんだろうな。 父を殺した組織を探し出してつぶす。 結局それがもしなしえた所で父が帰ってくるわけでもなく、自分の身が危うくなるだけだと言うのに 解ってるのにやめられない。 ごめんね。母さん。 ジイちゃん。 それに父さん。 仕事をするたび思う。 愁傷な思いを胸に潜ませ怪盗はポケットにいらなくなった石を放りこんだ。 「さてと。そろそろ帰ろっと」 明日は何やら工藤新一という探偵がつきまとうらしいから下手な行動は出来ない。 しかもそいつは俺の死を宣告してきやがった。 なんなんだあいつは一体。 やれやれ ため息一つ 白い羽をつきよに羽ばたかせ怪盗はフワリと世界に舞い降りた。 「うっわ。・・とぉ」 珍しく着地失敗。 ここで頭打っておだぶつなんてしたら、そらあんたかなりの おおボケもんでしょう。 母さんには末代までの恥とののしられ、 あの探偵からは「だから言ったろう」と呆れられるのだろうか ってか正体ばれちゃうじゃんねぇ 体勢を立て直すと ふと人の気配 この家は最近まで無人だった筈だが? 訝しげに視線をやると 「げっ」 昼間の探偵君じゃぁあーりませんかぁ 慌てて姿を隠す。 事前調査は正確に。 己の手抜きにちょっぴりうなだれるキッド。 そう。最近まではこの家は無人だったのだ。 ほんの一週間前に調べた時は。 なんでこいつが? なんてアホな事は言いません。 だってここは有名な工藤新一様のお宅ですもの。 最近までどこにいたのやら知らないが工藤新一は帰ってきてそうそう快斗の死の宣告にやってきたと言うことだろうか。 暇なの?ねぇ暇なの? 思わず揺さぶって聞きたくなってきたよホント。 その新一はやっぱり空へと目をやり何事か小声で呟いている。 (あそこに俺の幽霊がいるってわけか) 誰も周りにいない今もやってるって事は嘘じゃない・・・のかなぁ。 むしろ頭がパーになっちゃったって説の方が有力な気がするんだけどねー そして隣家へと勝手しったる自分の家とばかりにチャイムも押さず入って行った。 「あ・・」 (あそこは・・とってもとっても怖いお子様のおうちだわっ) キッドは頬に手をやった。 怪盗KIDにとって怖い物 それは魚と小さな探偵君とその友人のこわぁぁぁぁい少女。 (なに、あいつら知り合いなわけ?じゃあやっぱり新一もあの名探偵の行方知ってるのかなぁ) どれだけ探しても見つからないあの蒼い瞳の小さな子供 この俺が、あれだけ探したのに まるでかき消えたかのごとく唐突に消え失せた ・・・・・・ ちょっくらお邪魔しよっかな 「よぉ灰原」 「あら工藤君。今日はちゃんと来たのね」 「さすがに昨日さんざん叱られたばっかりだからな」 「あそこまで言っても全然懲りてなかったじゃない」 「はっはっは」 ずかずかと入り込んできた新一にちょっと目を見張りそして微笑んだ灰原。 こちらは自分の意志により【灰原哀】を選んだ。そのうちきっと【阿笠哀】に変わるだろうがそれはまだ先のこと。 意地悪げな彼女の言葉に新一は笑うしかなかった。 「そういえば新一。今日は出掛けていたようじゃな」 「あ、うん。何か用事でもあった?」 「いや。哀君が焼いたクッキーを届けに行ったらおらんかったから」 「ああ。そっか。わりぃ今日は本屋行ってた」 「・・・・」 「なんだよ灰原。その目は。嘘は言ってないぜ?」 訝しげな目を向けてくる灰原に新一は唇をとがらせる。 「あなたが何かを隠すときさりげなく視線をはずす癖・・・まだ直ってないのね」 ぐっ 新一はつまった。 「何があったのかキリキリ白状してもらいましょうか。工藤君?」 (科学者に幽霊の存在なんか認めてもらえるのかぁぁぁぁぁ!!?) 非常に重要な問題である。 どうか頭が変になったと思われませんように。 祈りつつ洗いざらい告白することにした。 だって灰原だけは敵に回したくないし・・・ 「ふぅん?で、貴方は明日からその黒羽って人の護衛をする・・と言うわけ?」 「そうデス」 冷え冷えとした空気に新一はビシリと固くなる。 「身の程を知らないとはこのことを言うのかしら」 「は?」 「あなた。自分の体力と相談して物を言って頂戴。ちょっと日光に当たったくらいで倒れる人が護衛?可笑しすぎて笑えないわ。」 否定できない・・ 「でもさ。あいつ信じてないみたいだったし・・心配じゃねーか」 「まあ探偵に目の前の(未来の)被害者を放っておけというのは無理な相談なのは重々承知よ。でもね、それならとりあえず三日間家の中に閉じこもってれば問題ないでしょ?」 「あ・・・・」 全くだ 「でも、家の中の事故かも・・・・」 「そんな事まで知らないわよ。でも外より家の中のほうが危険は少ないのは確かだし、折良く今は夏休み。なにか支障でもある?」 「ナイデス」 全くもってその通りだと新一も思った。 明日会ったらそう言って置こうと心に決め後にいる幽霊に目をやる。 『うーん。相変わらず怖いなぁ』 さりげなくこの幽霊、灰原から身を隠すように新一の背後にへばりついている。 どうせ見えないというのに。 「なんだよ快斗。お前も灰原苦手か?」 『だってどこか紅子に通じるところがあるだろ〜』 「紅子?」 『あの背中まで長い黒髪の女。』 昼間みたろ? 「ああ。居たな。唯一俺の言葉を信じてくれた人だ」 『あいつも超こえーんだよー。逆らったら呪い掛けられそうでさ』 「・・・・・」 嫌な友人を持ってるな。 新一の心中はきっと幽霊君は察したことだろう。 「っていうか。工藤君。おまえ『も』って何かしら?」 顔を戻した先には怪しい試験管を持った怖いお子様が待っていた。 さぁどっちが怖いでしょう・・・? そんな難問が二人の頭をよぎった。 ギャイギャイ楽しそうな彼らを窓の外から眺めていた変態・・・もとい怪盗は目立つ扮装をとくとそっと庭の草木に身をひそめた。 (なんか俺変態ちっく?) ちっくというよりもすでに変態の域に達しているような行動をしている自分に快斗は首を傾げてしまう。 あんな電波青年の事なんか気にせず帰ればいいのに。 何故か惹きつけられて止まない。 (もしかして俺ってなるしぃーー?) ナルシー=ナルシスト 自分と同じ顔の男に興味を持つなんてそれしか考えられないのではっっっ ちょっぴり戦々恐々してしまう。 それでも目が離せないのか快斗の視線はずっと新一だけを追い続けた。 昼間は怒ってばっかりだった彼だが、今は困った顔やら苦笑やら思わずといったように吹き出したそんな愛らしい姿がもったいなくもさらされていた。 快斗がそれを見てどう思ったか。 「うわ・・俺も混ざりてー」 こんな草の影に隠れているのが寂しくなってきたらしい。 「っていうか何よあいつ。最初っからあんな顔しとけば俺だってちゃんと対応したってーのにさ」 プリプリプリプリ怒ってばっかりだったから悔しく感じる。 ムッと唇をとがらせてから数秒。 かさりと揺れる草木 ちょっぴり哀愁ただよう背中を夏のなま暖かい風が吹き抜けて行く。 快斗はポツリと呟いた。 「んで。俺は一体何がしたいわけ?」 大いに謎である。 「どうかしたのか快斗?」 視線の先の人物が唐突にこちらを振り返り自分を呼ぶのに草木に埋もれ窓にへばりついている快斗はビクリとした。 うわっバレタ? こんなみっともない姿見つかっちまったのかぁぁぁ 「なんだよ?そこに誰かいるのか?快斗っ?」 訝しげに窓まで歩みよってくる新一。 それに身を固めていた快斗はあれ?と首をひねった。 「快斗っその物言いたげな瞳だけで何か伝えようとすんなっ喋れるんだからちゃんと言葉に出せよっ。」 死人に口なしとは言ったものだがせっかく死んでも口があるのだから有効に使えっとかなんとか訳の解らない理屈を述べる困った男は窓の外を見て、そして固まった。 一瞬、鏡かもと思った。 でも、そうでない事は今日一日で身にしみて解っていた。 そして理解して、更には新たな疑問が浮かび上がった。 「何やってんだお前?」 呆然と呟いた新一に生身の快斗はえへっとうつろに微笑んだ。 「コンバンワぁ」 その気の抜けた挨拶に脱力してしまう。 「お前なぁ余命3日の貴重な命なんだからこんな所で時間つぶしてないで家族団らんしてこいよ」 「・・・・」 そうきたか。 「死なないって〜なんで決めつけるかなぁ」 「そこにお前の幽霊がいるからだっ」 「むー。」 「ってことで―――――住居不法侵入」 ビシイと指をつきつけた 「だって外で新一見かけたからさー・・つい」 「つい・じゃねーよっ。まったくこんな所で盗み見なんかしてないで堂々と入ってこいよ」 「・・・え?いいの?」 「?いいに決まってるじゃねーか」 不思議そうに新一に言われ快斗の頬が綻んだ。 「んじゃ、遠慮なく。おっじゃまっしまーす」 「おいっっ黒羽っっ玄関から入ってこいっっ」 「えーめんどくさいじゃん」 快斗はムッとする。 文句つけられたからかカチンときた。 「いいからっ玄関に回れっ。こっから入ってくると灰原がうるせーんだよっ」 「・・・なんか尻にしかれてるね・・」 「うるせーっ」 頬を赤らめ毒づく新一はとても可愛かったので大人しく玄関に回る事にした快斗。 その後姿に 「あっ黒羽っ」 新一は声をかけた。 「んぁ?」 「お前夜飯くった?」 「まぁ一応」 「今日カレーなんだよな。まだ鍋に残ってるから食うか?灰原のお手製カレーはなかなか凝ってて美味いぞ」 「えーっと・・いいの?」 「いいに決まってるじゃねーか」 決まってるのですか? なんでこんなに気負い無く誘ってくれるのだろうか非常に快斗は疑問に思う。 工藤新一という人間は誰にでもこうもフレンドリーなのか? 俺以外にも? 胃の辺りがムカッとした。 「んで?どーすんだ黒羽」 「ん、ありがたく頂きます。」 ムカムカする胃を押さえながらニッコリ返す。 「オーケー。早くこいよ」 「了解」 まるで長年の友人のようなこの気さくさ。 顔がそっくりだからなのか。 見た目を裏切って新一が人なつっこいのか。 快斗の胃のムカムカはどんどんと悪化しているようだった。 「あーーもうっうざいから、どっか行ってろよ快斗っ」 部屋に入った瞬間そんな罵声を浴びせられ快斗は足を止めた。 いや解ってる。 新一が幽霊に向かって言ったって事くらいいい加減解ってるさ。 でも胃のムカムカの原因がようやく分かってしまった。 そうか・・そう言うことなのか・・ 「ああ。来たか。ほらここの席座れよ黒羽」 「・・・・・・・・」 「なんだよ?」 笑顔で誘ってくれるのは大変嬉しいのだが今気付いてしまった事実に快斗は心を奪われていた。 「快斗・・・・幽霊は快斗で・・俺は黒羽?」 「は?」 「俺のほうが生身なのに・・幽霊が快斗?なんだそれ。普通優先順位は生きてる俺の方が上じゃないのか?」 「は?」 「ようするにっっっ幽霊の方は呼び捨てなのに、なんで俺は名字なわけっっっずるいっっっ」 「区別する為に決まってんだろ」 理不尽だっと憤慨する快斗に向かって新一はあっさりと述べた。 「く・・区別。まるで物のように・・」 ガーーンとショックを受けた風の快斗。新一は額を押さえると 「はいはい。じゃあ分別って言ってやろうか?」 「さらにレベルダウンした感じ。ゴミと同等?」 「ゴミ以下っっっ」 「・・・・」 「これこれ新一。いい加減にしないと彼が可哀想じゃろ。」 「それに・・・・私たちもいい加減に彼を紹介して欲しいわね」 博士はいいが灰原の底冷えした言葉にガーンとショック受け中の快斗と意地の悪い笑みを浮かべた新一はピタリと口を閉じた。 お・・怒ってらっしゃるのかしら? 「誰がこの家の主かしら?誰がそこのカレー作ったのかしら?なんで貴方が勝手に決めて勝手に人様を家にあげているのか、あまつさえ食事をごちそうしているのか、とっても疑問なのだけど?」 「ぐ・・」 実にまっとうな意見だった。 「一言あってしかるべきじゃないかしら?」 ぐうの音もでません。 「まぁ今回はカレーを誉めてくれた件でチャラにしてあげるわ。いらっしゃい黒羽君。」 「あ・はい・・」 思わず下手にでてしまうのはきっと快斗に限った事ではないだろう。 こんな小さな自分の三分の一くらいしかない少女に本気で気圧された。 逆らうなんて怖ろしい。 「辛さのランクは5.6.7どれがいいかしら?」 香辛料片手に微笑む灰原さんがとっても怖かった。 「いつの間にランクが出来たんだ灰原」 「ついさっきね。」 ちなみに付け加えれば普通が3らしい。 新一にフフと怪しい笑いを見せると楽しそうに快斗を振り返った。 「・・・・ふ・・普通でお願いします」 「つまらないわね」 快斗だって命が惜しかった。 「まぁそう言うわけで、この3日大人しく家に居ることを義務づけるっ」 ビシィと指を突きつけられ、決定事項を述べられた快斗はスプーンを加えたまま 「なんだそりゃーー」 叫んだ。 「ていうか新一、なんか俺には横暴じゃない?」 「なんでかお前には何してもオッケーな気がする」 「そんなバカなっ」 「不思議だよなー。」 うんうん。頷く新一。だが態度を改める気はサラサラないのはその様子で見て取れた。 「どっちにしても明日も補習あるし―――――」 「休め」 「ダメだって。今日決めた事も連絡しなきゃいけねーんだから」 「・・・まったくあー言えばこう言う奴だな」 「そんな呆れた声で言われましても・・」 「わかった。じゃあ学校へいく。先生に伝言、そしてすぐ帰るオッケー?」 「全然オッケーじゃないでっっす」 「こんなに譲歩してやってんのに注文が多い奴だなー。お前死にたいのか?」 「だから死なないって言ってるデショー」 二人の会話は止まらない あきれ果てた灰原が肩をすくめてその場を去るくらい 止めるのもヤボかと思った博士がそっと皿を片づけだすくらい 二人の息はピッタリ 「だーーーーーーーーーっっいいから言うとおりにしろっっ」 「やーーーーーーーーーーだから人の話を聞いてちょうだいっっ」 「どーーーーーーーーーーして安全策をとらないんだーーーー」 「ばーーーーーーーーーーぼーーーーーーぐーーーーーうーーーーーー」 「だーーーーらーーーーきーーーーーしーーーーー」 わけが解らない呻き合いが始まった 一応二人の間では意志が疎通しているらしい 「「むーーーーーーーーーーーーー」」 「せめて日本語を話してくれんかの・・・」 残念ながら博士のぼやきはエキサイト中の二人の耳には届かなかった。 きり番部屋 6へ |
以心伝心です