72時間の奇跡〜幽霊の事情〜 其の8 今日は一日家を出ないつもりだった。 「ホンットーに申し訳ないっっ」 そんな電話が朝っぱらからリンリン鳴らなければ リビングで寝ていた快斗は夢うつつに何かの音を聞いた。 リンリンリン 鈴虫? なんでこんな所に鈴虫が 寝ぼけた頭でそう思う あんまりに長く鳴き続けるので外にはなしてやろうと思った快斗はモソリと体を起こした。 そして気づく 電話だっっ!! 階上で眠る新一は見事に深く夢の世界にはまりこんでいるらしく起きる気配は見せなかった。 よって何故か人様の家で人様の電話を朝っぱらからとるはめになってしまったのだ。 「はいはいはーーーい」 カチャリと豪華な受話器を取れば第一声 『新一君すまないっっっっ』 思い切り謝られた。 「は?」 思わず疑問を口に出したとしても許してやってほしい 本当に予想外の展開だったのだから うっかり「黒羽です」なんて言わないようにと気をつけていたその時の彼はそればかりに気を取られ、誰から電話かなんて思考を巡らせていなかったのだ。 ちょっと考えれば分かったかもしれない。 こんな朝っぱら(と言っても8時だが)から電話をかけてくる人なんて、 時差おかまいなしの新一の両親か、HELPコールの警察か。 この場合どうやら後者のほうらしい。 まっさきに謝るってどゆことよ? 『戸倉が逃げた』 「戸倉?」 『本当に申し訳ないこちらの不手際だ。そちらにはすぐに刑事をよこすから―――――』 「ちょーーーーーーーーーーっと待ってくださいっっ違いますっっ俺新一じゃないですからっ」 『・・・は?』 顔だけでなく声までそっくりの快斗の言葉にあいては間の抜けた声をあげた。 「えーっとどちら様ですか?」 『あっああ、これは失礼を。警視庁捜査一課の目暮ともうします。あ〜工藤新一君はご在宅ですかな?』 実に今更な事だが礼節を欠かない所に好印象。 「ええ。ただいま熟睡中なのでたたき起こしてますね。目暮警部さん。」 茶目っ気たっぷりに笑うと保留の音楽をならし二階へと駆け上がった。 なるほどなるほど。今のが目暮警部かー 以前小さな探偵関連でお目にかかった事がある。 というか視界の隅に入っただけだけど(メインは名探偵さんだから) バァァンと勢いよく扉を開けば恐ろしいほど冷たい空気が流れ出す。 さ・・寒いよこの部屋。 思わず両腕をさすりながらカーテンを開け勝手にエアコンの電源を切った。 「しーーんーーーいーーーちーーー。電話だよー。目暮警部から。なんかねー戸倉が逃げたーとか言ってるよー」 「ん〜」 モゾリと布団が動いたかと思うと バッと起きあがった。 昨日とは大違いの寝起きである 「戸倉が!!?」 「うん。詳しい話は電話で聞いてね。」 はい、と子機を手渡す。 「あ、うん。そうだな」 サラサラのおかげで寝癖がついてもすぐに直ってしまう新一の髪を見てほくそえむ 新一の寝癖なんて寝起きの数分しかみれない貴重なものだよね♪ ひどく得した気分になった。 「はい。ええ、はい。それで・・・・。いえ。ボクも行きます。いえ大丈夫ですから」 それから数度頷いて電話を切った新一はため息をついた。 朝から疲れた顔である。 「はいコーヒー」 「おう、サンキュ」 受け取り一口含めばほぅと柔らかい息をこぼした。 「ねー。戸倉ってさー。もしかして先週くらいにニュースに出てたあの戸倉?」 「ああ、たぶんその戸倉だ」 「確か連続通り魔だよね。あれって捕まえたの新一だったの?」 「いや、アドバイスを少々。」 獲物はジャックナイフ。 まるで切り裂きジャックを気取ったとんでもない犯罪者だった。 重傷3名。軽傷に至っては名乗り出ていない人もいるので詳しくは分からないが10名はかるく超えているだろう。 警察のヘルプコールが出たのは重傷者3名のうち一人が死者となってからだった。 「それで新一が呼ばれたの?」 「ああ。本当はもっと早く連絡とれればよかったんだけど・・・」 呼ばれないうちからだって新一は捜査に参加できる。 ほかの管轄ならともかく都内ならば知り合いの刑事ばかりなのだから、反対に喜ばれるくらいだ。 だがまだその頃は元に戻ったばかりでドクター灰原のメンテ中。 それに元に戻った反動でか衰弱が激しく、まともに歩ける状態ではなかった。 ベッドの上で資料を片手に分析をして電話で指示を出来るまで回復したのが死者が出た後だったのだ。 悔やまれてならない事件だった。 「犯行の現場の位置と様子とを電話で聞いたんだ」 それぞれを見比べて習性を見つける。 そうすると自ずと現場の共通性が見えてくる。 そうすりゃ簡単。 「次に起きそうな事件現場をいくつか割り出して張っておいてもらったってわけだ。」 な? 簡単だろ? 首を傾げ本気で言っているのだろう探偵に犯罪者はうつろに笑う。 いや、あんたアッサリ言ってくれますがそれが出来なくて警察は頭を痛めていたんですけどね。 しっかし・・・・・・・はあ、そんな電話ごときで逮捕できちゃうものなのですか。 探偵は足で捜査するという。 それが出来なくても探偵が出来てしまうのが工藤新一という人間なのだろう。 感嘆の声をあげるよりも先に呆れて物が言えないくらいの有能っぷりだ。 「それが犯人にバレてな。」 「めちゃくちゃ恨まれてるだろうねぇ」 逆恨みも甚だしい。 だいたい犯行の動機だって"バイトの面接に落ちた憂さ晴らし"と言うんだから同情の余地もない。 たぶんこの夏の暑さでよけいむしゃくしゃしたのだろうと言うのが新一の分析だ。 くだらないったらありゃしない。 「で?そいつが逃げ出したって事は―――――」 「十中八九俺ねらい」 ハアァァァ。 そりゃもう盛大にため息をついちゃうねぇ 「それで?しばらくおとなしく家に居てくれって?」 「まぁそう言うことだな。だけどあんな危険なやつのさばらせる訳にいかないから囮になることにした」 「はぁぁぁぁぁ?」 何考えてんだこいつっ 「あいつは俺の家を知らない。基本的に工藤の家は母さんが元女優な事と、父さんが売れっ子小説家、そんで俺が探偵なんかやってるから世間には絶対公表されないようになっている。調べようとしても簡単には調べられない。」 「ああ。」 「そうすると、あいつはどうすると思う?」 「・・・事件起こして新一引っぱり出す・・?」 ポツリと一番最初に浮かんだ答えを口にすれば 満足そうな探偵の顔。 「正解。そんな訳にいかないだろ?」 理屈で言えばね。 でもやだ。 そんな危険な事してほしくない。 「新一が外いくんなら俺も行くからね」 「は?だめだっっ。」 「やだっ」 「お前は今日だけは家でおとなしくしてろっ」 「やだねっ今日が一番新一危ないじゃんっ」 「バーローおめーほどじゃねーよ」 「いーや。俺より新一の方が危ないね。確実に命狙われてるんだから。しかも相手は殺人犯だよ?」 まだ死者が出る前なら躊躇しただろうが、今なら一人も二人も同じとやけになってるに違いない。 「おいっ快斗っっこいつこんな事いってやがるぞっ。全然真剣味たんねーーー!!」 空にむかって叫ぶ新一にむっとする。 おいっこらっここに本物がいるというのに何故そっちの幽霊にはなしかけるっっっ 「なんて言ったって俺はついてくからねっ」 それだけ宣言すると耳に蓋をした。 絶対に絶対にずぇぇぇぇったいに、そんな所に新一一人でやるもんかっっっっ きり番部屋 9へ |
駄々こねているのは快斗なのか新一なのか(笑)
どちらも引かないから大変ですねぇ