「黒羽君。私はね、君はこう見えてもとても賢いのだと思っていたよ。いや、今もそう思いたいのだけどね」
ふう、とわざとらしくため息をつく御仁に
(『こう見えても』ってなんだろうねぇ)
と、ささやかに心の中でつっこみつつ
「やだなぁこーちょーセンセってば買いかぶりすぎだって〜」
手を振ってニコヤカに否定した
それを受け、資料にもう一度目を落とした校長は内心そうかもと思ってしまった。
手元にあるのは印が押された『誓約書』
きっちり何度もそこに書いてある名前と年齢を確かめた
更には書き間違えであるのかもしれないと目の前の少年に確かめた。
それでもこれが事実。
確かに相方は誰でもいいと言った
言ったがね?
なんでなんで・・・・
小学一年生を選んでくるんだぁぁーーーーーーー!!
「本当にいいのかね?」
「うん。何か不都合でもあった?」
キョトンと不思議そうに首を傾げられ校長は苦悩した。
「不都合というか、理解に苦しむというか・・白馬君。何か彼に言ってやってくれませんか?」
救いを求めるように向けられたそれに白馬はにっこり天使の笑みを見せた
そして
「校長先生。彼はすべてを理解した上でこの選択をしています。最初に黒羽君のパートナーを用意すべきか尋ねられたとき
要らないでしょうと答えたのは、彼のパートナーはすでに決められていると思ったからです。
黒羽君のパートナーはこの人以外にはありえません」
彼は、その笑顔から想像できないような死神の最終通告のごとき言葉を述べた。
ふ・・所詮、彼は黒羽君の味方・・
可愛い生徒に味方になって貰えずちょっぴり悲しくなってきた校長先生は
密かに心の中で傷ついた。
仕方ないので大人の威厳でもっともらしくうなづいておく。
「わかりました。最初から勝負を投げ捨てているわけでないのならいいんです。」
「まかり間違って一回戦敗退なんて失態だけはしないからさ、安心してよ」
事件でもおきない限りは
そう付け加える快斗の顔はおちゃらけてはいるものの、(多分)信頼に足るものであり校長は渋々うなづいた。
「信じてますよ黒羽君。それじゃ、これでエントリーしておきます。」
江古田高校出場者名簿
・高野さつき(南由紀)
・一ノ宮透(今井勝行)
・白馬探(中森青子)
括弧の中が本人が選んだパートナー
たいていは同じ学校から選ぶ。
だがここに例外が約一名。
・黒羽快斗(江戸川コナン)
大会史上最年少の参加に校長はおろか
大会の幹部まで総立ちしたことは後に延々語られ伝統として残るかもしれない。
そんな大きな出来事だった。
学校対抗
チョーーウラトラスーパーバトルロワイヤル
誰がつけたかそんな名の大会がこの世に存在している。
そして誰が決めたのか一応ルールなんかあったりした。
誓約書
以下の条件をよく理解した上で印鑑を押してください
1.武器持ち込み可(ただし責任は自分で負うこと)
2.死者は出さない
3.ゲーム中の事故、怪我等の責任はいっさい当方では負いません
4.何が起こっても知りません
都内の各高校から4名が選出。
参加者とパートナーの二人一組で出場
参加者は3年以外(受験生だから)
パートナーは17才以下なら誰でも良い
↑社会人でも、一般人でも、他校の生徒でも制限はありません(その際優勝トロフィーは参加者の高校に渡される)
これは校長が自分の生徒を自慢する大会である。
優勝、すなわちそれは
知力・体力・時の運。すべてを兼ねそえた生徒を持っていることと同義語であり、
校長は鼻高々。
ようするにこれは校長の見栄合戦でもある
よってがんばるように
印
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それが届いたのは新年あけて2日目の朝だった
学校対抗
チョーーウルトラスーパー
バトルロワイヤル
「なんだこれはーーーーーーーーー」
それを見て小さな子供が叫んだ
尋常じゃない精神の持ち主の怪盗もさすがのこれには度肝を抜かれたらしい
呆然と紙を手にしたまま固まった
「おいっこれ一体どーゆー意味だよっ?なあなあっ特にこの4つ目のやつっっっ」
命の危機をひしひしと感じる
「ただのゲームだって言ってたじゃねーかっどーゆーことだっ」
ソファに座ったままピクリとも動かない青年の上に乗り上げて襟をひっつかむ
「おーーいーーーー聞いてないぞーーこんなんっっ」
ブンブン前後に振られようやく意識を取り戻した青年は自分の膝にちょこんと乗った小さな子供をギュッと抱きしめた
「はなせーーーーー」
さらにギュウギュウ締めてくる相方に顔を歪ませながら暴れだす。
そんな少年の肩口に顔を埋め
「ごめんね。俺も知らないのーーーー」
シクシクと悲しそうにそう呟いた
「知らないの、ですむかっ。却下だ却下そんなゲームだれが参加するかっっっ」
「むむっ。約束を破る気ねっっ」
「約束の内容が明らかに違反と判明いたしましたーー」
「違反してないもんっギリギリおっけいラインだもーーん」
生死がかかっているような誓約書を見せておいて
よくも『ぎりぎりおっけー』などとふざけたことを言えるものだ
呆れかえるコナンをほおって快斗はさらに言い募る
「俺だって知らなかったしー情状酌量の余地はあるじゃない?それに、今までさんざん危険をくぐり抜けてきた俺たちに
怖いものなんてある!!?無いに決まってるじゃないの!!」
それにね、こんな事言ってるけど今までうちの学校から死人が出たなんて話聞いてないから
きっと大げさに言ってるだけなんだよー
とかなんとか
「・・・・」
止められない止まらない
「お前のことはかっぱえびせんと呼んでやろうかっっ」
コナンが叫びたくなるほど立て板に水のごとき弁論
もちろんコナンの思考回路の読めなかった快斗は『かっぱえびせん』と呼ばれる由来に首を傾げたが。
「だいたいな、なんで受ける前にちゃんと内容を校長に確認しておかなかったんだ?」
「あー・・うん。いや。あの場合断れる状況じゃなかったしぃ」
進級がかかっているのだ
参加すればそれでオッケーといわれたのだから「ま、いっかー」と思っても仕方あるまい
「紅子たちの好意を無にすんのもなーとか思ったし」
まぁ数パーセントは思っただろう
「いや、お前はきっと何にも考えてなかった。『ゲーム?なにそれちょっと面白そー』とか思っていたに違いない。」
ドキッ
「・・・・」
「さらには『内容?あはは、そう言えば聞いてなかったなぁ』とか思っていたに違いない」
ドキドキドキッッ
いやはや、そこまでどんぴしゃヒットされてしまうと、さすがに厚顔無恥な怪盗も笑顔がこわばってしまうというもの
「うーん。さすがだ相棒。以心伝心。俺たちの電波は通じあってるね!!」
ビシィっと親指を立てれば
「いらんわっそんな電波っ。とにかく俺は参加しねーからなっ」
即座につれないお言葉が打ち返され暴れだした。
ちょっぴりやけ気味になった快斗は、腕の中から抜け出そうとする小さな体をさらにギュゥゥゥと抱きしめ
そして
「ふっふっふ・・」
少年が動けないのをいいことに、
「こうなったら」
「やめろっなにする気だっっっ」
「死なばもろともおおおおぉ!!」
てぇぇぇぇいっ
問答無用でポォォォンっと印を押した
「一人で死んでこーーーーい!!!!」
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