祖父からの最後の手紙には彼から譲り受けた部屋のキィとなる物が示されていた。


 『都へ
  この手紙をお前が受け取るとき、きっとワシは生きてはおるまいな。
  約束を破ったとお前は思っているかもしれん。

  だがそんな事するはずなかろう。

  年を食ってもボケてないのだけがワシの自慢だからな。

  さて、こうして手紙をしたためているのは訳がある。
  もちろんお前との約束を果たす為だ。

  あの地下の秘密部屋は約束どおりお前に譲る。
  そして部屋の中にある全てのものもお前の物だ。

  秘密部屋のカギは秘密部屋の中に置いた。
  あんなボロなくせに一著前にオートロックなんぞついているからなそう言うことも出来る。
  じゃあどうやって入ればいいのか・・・解るまいな。
  あれはな、ちょっと頭を使わねば開けられん。

  というかもしもうっかりカギを中に置いたまま出てしまった時の為の非常策だからそうそう簡単にバレてしまってはカギの役目が無くなってしまうからな。

  でも簡単に教えてしまっては面白くもなんともない。
  だからここにヒントを記しておく。

  猫の目を探せ都。

  6対の猫の目を集めろ。

  そしたらおのずと道は開かれよう。

  出来れば夜がお勧めだ。何故か?それはお前自身で考えろ。これが一番最大のヒントだからな。

  もう一度繰り返すがあの部屋に置いてある全てのものはお前のものだ都。
  遠慮はいらん。
  お前の親が何を言っても堂々と主張していいぞ。

  この手紙がその証拠だ。

  さていい加減手が疲れてきたな、本当はビデオにしておきたかったのだがワシは機械にめっぽう疎くてな・・・といい加減にしておくか。
  こんな事で腱鞘炎になったらまたお前にバカにされてしまうな。

  都。お前の幸福を誰よりも祈っているよ。』







 遺言と言っていいだろうその言葉。

 それは彼の葬式の真っ最中に母から渡された手紙に書かれた内容だった。

 生前の祖父を思い出させるような語り口調。
 まるで目の前に彼がいるかのようだ。

 6対の猫の目。ということは12個。
 きっと彼が収集していたキャッツアイの事を指すのだろう。
 すぐに思い至った。

 いつもいつも見せてくれた彼の宝物。
 あれは地上の彼の部屋に飾ってあった。
 都はすぐに探した。

 大切な葬式を抜け出して。



「どうしてっどうして無いのっっ」

 すでに無くなっていた彼の宝物達。
 12個のキャッツアイは無惨にも形見分けと称して親戚の人が勝手に売り払った後だった。
 それなりの価値のあるそれは、大して財産を残さなかった祖父の唯一ともいえる財産だったのかもしれない。

 キャッツアイを収集する彼を浪費家と蔑んでいた彼らは思ったよりも良い値のつくそれを颯爽と売り払ったらしい。

 祖父命名の「秘密部屋」への侵入手段はもう無い。いやもちろん鍵屋を呼ぶという手があるのかもしれない。それでも・・・・


「都。お祖父様とのお別れはすんだの?」

 眉一つ動かない白い顔は安らぎに満ちていた。
 これが最後。
 もうあの笑顔を見ることは一生出来ない。
 頭では解っている。
 でもまだ実感が湧かない。

 もう一度能面のような顔の老人を見下ろした。
 そして頷く

「・・・すんだ」

「貴方が一番懐いてたものね。ちゃんと見送ってあげましょうね」

 母の言葉に都はそっと視線をはずしながら

「うん」

 小さく頷いた。

地下にあるこの秘密部屋はお前に譲るよ。
ワシの事を理解してくれるお前だけに。
でもそれには一つだけテストを受けてもらうけどな。

そう言って笑ったしわくちゃの顔を思い出す。

祖父の思いに答えられない自分が悔しかった。すでに無い宝石達。
じゃあどうすればあの部屋は開くのだろうか?


答えは一つ。


6対の猫の目を集めてあの部屋を開く。
それが彼への最後のはなむけになるはず。
きっとそうだ。

都は一人決意を固めるとギュッと唇をかみしめた。



猫の
を探せ1



扉を開いた瞬間一斉に注目を浴びた。
男子はヒュウと口笛をふくし女子はちょっと眉をよせる。

すでに数を忘れるくらい転校を繰り返した都にとってそんな彼等の反応は扉を開く前から火を見るよりも明らか。たやすく予想できた。
自分の容姿が与える周囲の反応というものを都は充分すぎるほど知っていた

バカみたい

都は新しいクラスメートを冷めた瞳で見渡した

「転校生の東都(あずま みやこ)君だ」

どこに行っても同じような事を言う先生の言葉におざなりに頭をさげるその拍子にサラリと長い黒髪が肩をすべり落ちた

(うっとおしい髪)

いっそショートにしてしまおうかしらと何度も思ったがなかなか思い切れず延ばしっぱなしの髪に内心悪態をつく

「席はあそこの空いてるところに。左の中森に教科書をみせてもらうといい。間違っても右はやめといた方がいいぞ」

そんな担任の言葉にクスクス笑いが広がる。何の事か首を傾げつつ一番後の席につくと何となくわかった。

「えーっと中森さん?」

「青子でいいよー。よろしくね都ちゃん」

いかにもな慣れ慣れしい左の少女に適当にうなづいておく
右を向けば机につっぷす少年が一人

「中森ー旦那おこしてやれ」

「先生!!都ちゃんに誤解されるような事言わないでくださいよぅっ」

「ああ間違えたな未来の旦那か」

「ちっがぁぁぁう」

それを笑って見守る仲間達 実にありふれた風景だ。
青春の一ページはたまた中学生日記を見ているようなクラスに今更ながら都はこの学校を選んだ事を後悔した

「かいとーおきなさーいっ」

「んあ」

もぞりと右の物体が動く

「バカイトー」

「っだよーホームルームの間くらい寝かせろよ」

うっとおしそうに手をふる。そして青子のほうを向いた瞬間時を止めた。
知らない人がいてビックリしたらしい。
もともと大きな瞳がさらに真ん丸になっていた

「転校生だよっ東都ちゃん」

都の後ろからひょっこり顔をだす青子

「ああビビッタアホコが変身したかと思った」

「するわけないでしょっ」

わざとらしく胸に手をあと驚いた顔をすると青子からお叱りの言葉が飛んだ。

「だよなぁそんでーああ転校生ってかーえらい時期はずれだなぁ」

本人前にして悪びれない口調の男にプッツン切れたのか青子は持っていた筆箱を思い切りなげつけた。
都の目の前を通りすぎたそれは目にも停まらぬ早さでカイトの額へとつっこんで行った

「だあっっ」

思い切り顔面攻撃をうけたカイトは額を押さえたまま椅子ゴトひっくり返った。
そして転がったまま声もなく呻く。
転んだ拍子に打ち付けた頭より額の方を押さえている事からして、どうやら筆箱はものすごく痛かったようだ。

そうしてしばらくしてからようやく唸った。

「こ・・・殺す気かぁ」

「いっぺん死んだ方が世の為かもよ」

「いっぺんしか無いだろ人生わぁ」

叩けば響く会話を延々する二人に間に挟まれた形の都は席替えを心底望んだ

(脳天気が移りでもしたら裁判所に訴えるわよ)

とりあっては貰えないだろうが。




二人がクラスの中心人物であることに気付くのに一日もいらなかった。
男は黒羽快斗。青子の幼なじみらしい

学校には「体育と弁当の為に来るタイプ」ね。
都は決めつけた。

あながち間違っていない

ガキ大将が大きくなったような感があり、クラスのムードメーカー的人物であった。
そして青子。無邪気に無敵なタイプだ。
この手の世話焼きタイプは都にとって、もっとも苦手な存在である

(いちいち構ってきそうでやっかいね)

全体的にみてまとまった良いクラスだとは思う。
だがちょっとノリが良すぎて都には馴染みにくい・・・というより

(馴染んだら最後って感じ?)

一人大人っぽい少女がいたが彼女は何故かあの「黒羽快斗」に言い寄っているらしい。

もったいない。

掃除の時間には間違いなく野球ごっこをしそうなあの男のどこがいいのか都にはさっぱりだ。

だがしかしこんな笑顔がキラキラ輝く爽やか3組のようなクラスでただ一人緊張を強いられる存在が棲息した

「すみません遅れまして」

慌てて教室に駆け込んで来た少年。彼の名は白馬探。

「ちょっと警察によってきたもので」

と物騒な事をまるでコンビニにでも寄ってきたような気軽さで言った

「あっっっ黒羽君ひどいですよ全部僕におしつけて一人だけちゃっかり先に来るなんて」

「だってお前探偵じゃん 俺みたいな一般人が説明するより刑事さんも楽じゃん?」

そう彼は探偵。
たとえこんな人畜無害なダンゴムシのように見えたとしても(酷い例えだ)

「おや?」

そのダンゴムシは不思議そうに快斗の隣の顔をながめた

「ああ もしや貴方が長野から転校してきたという東都さんですか」

さすが白馬フェミニストに恥じぬ情報収拾と判断力だった
普通の女性ならば自分の事を気にかけてもらえた上天使のような微笑みを見せられ一瞬で落ちた事だろう
あいにく都は無反応だったが。

「ええまあ」

クラス中の視線を感じつつ無視するのは無可能と悟りボソっと答える。

「へー長野出身だったんだぁ」

「そうとは限んねーだろ」

青子の言葉にめんどくさいからうなづこうとした都をさえぎるように即座に否定が返った


「そうですね黒羽君の言った通りそうとは限りませんね。むしろ都心生まれの可能性の方が高いと思います」

確信をもって言われ都は明らかに不服な顔をみせた

「なんでそれを・・・」

まさかそこまで調べたのかなんて事聞けるはずがなく言葉を切ると

「方言の交じらない綺麗な標準語ですからね」

なるほどさすが探偵と言った所だろうか
たった一言しか発していないというのに見抜いてしまうとはやはりただの団子虫ではないということだろう。

(やっかいな奴がいるわね)

だが、と都は思う。
探偵という立場は使えるかもしれない・・・

(せいぜい邪魔をしないで欲しいものだわ探偵さん)








時を同じくして小さな探偵もまた目を丸くする事態に対面していた。

「あのね・・・・あのね・・・・」

言いにくそうに歩美が近づいてきた。
それにコナン始めそこにいた面々は首を傾げた。

コナンの机に寄りかかるように立つ光彦と横にしゃがみこんでいる元太、そして隣りの席で会話に参加せず黙々小説を読む灰原。

だれもが何だ?と歩美のほうへ目を向けた。

「あのね恵ちゃんに頼まれたんだけどーこれ・・・」

もじもじと差し出されたそれは一枚の紙だった
自由帳に書いたのか右端が不格好に破れている

「・・・なんだこれ」

元太のすっとんきょうな声にあゆみは微妙な笑顔を見せた。

「あ、うん・・・えーっとね」

非常に歯切れが悪い

(なーんか隠してるようだな)

感づいたが気付かないフリをしてあげるエセ小学生二人組み。

「どれどれ」

そして小さな紙覗き込んだ

「・・・」

その瞬間だれもが口を閉ざした。

「予告状?」

もっともな事を灰原が口にした。

(うん。俺もそれにしか見えないな)

「う、うん。そんな感じ。・・・お願いっ恵ちゃんのお母さんの危機なの」

意味が全然わかんねーよ

「これをどうしろって?」

「かっこよく文を作り替えて欲しいの」

「かっこよく?」

「そう例えばKIDみたいに」

妙に力が入っていた。

「・・・」

「吉田さん。全部教えてしまったほうがすっきりすると思うわよ。」

これまた灰原のつっこみは的確で鋭い。

(まあ聞かなくても、なんとなく予想はついたけどさ)

「だって内緒って約束なんだもん」

「でもさその内容によって文面も変わるだろ?」

「いいのっとにかくKIDみたいならなんでもいいんだから」

「・・・」

語るに落ちたとはこのことだとコナンは思った。

(ようするに、KIDの予告状を書いて欲しいんだよな)

文面と歩美の態度を見てありありと解った事情。
だがそこまでに至った経緯まではさすがの優秀な探偵の頭脳でも読めなかった。


「全くお手上げですね」

「っつーか俺達KIDの予告状みたことねーもんなー」

さっそく張り切って挑戦していた二人は早くも匙をなげた。

そんなーと嘆きつつ最後の望みを彼にたくす歩美。
キラキラお目目で見上げられコナンは(うっ)と内心いた。



いや・・出来るよ。出来るけどな。

その後の責任は誰がどうとるんだよーーーーーーーー。

彼は今究極の選択を迫られていた。


                  2へ

時間軸的には光のカケラの次の日です。
それが解らないと白馬と快斗の会話が解らないですよね(苦笑)
勝手に合流させてしまってすみませんマリコ様

By縁真