コナンさん+快斗君ハッピーバースデー&当サイト3周年記念小説
珍しく。KID×コナンっす

花舞う街で  

1.


風で髪がはためく。
体すら吹き飛ばされそうな強風の中。
大きなメガネをかけた一人の少年はある建物の屋上から暗くなってきた空をみあげた。
「・・・・そろそろだな・・・」
首にかけた望遠鏡で向かいのビルを覗きこみ、まだ男がいることを確認する。
ようやく見つけたあの男。

あの男だけは許すわけにはいかないのだ。

瞳を細め睨みつけるように凝視する。

早く・・・早く来い・・・・・


怪盗KIDっ!!





その日は全国的に快晴だった。
コナンの気分もそれはそれは快晴だった。


工藤新一の名も人々の口に上がらなくなってきた今日この頃。

寂しいと思う暇もあたえられず相も変わらず事件まみれの人生をおくる一人の少年はその日、非常に機嫌がよろしかった。

思わず音の外れた鼻歌を歌ってしまうほど。

「気持ち悪いくらいの上機嫌ね」

そんなことを言われても笑顔がくずれないほど。


「よぉ灰原。今日はいい天気だな」
「あなたの能天気には負けるでしょうけどね」
「なんだ朝からつっかかるな」
「・・・睡眠不足の朝は他人の幸せそうな顔は見たくないものなのよ」
「そうか?」
「もう一つ言えば、貴方の脳天突き抜けそうな清々しい声を聞くと腹が立つわね」
「・・・の・・のうてん」
突き抜けそうってどんな声だよ。

どうやら目の前の少女は少年と反対で朝から絶不調な様子。


あー朝から嫌なもの見たわ
とでも言わんばかりに靴を履き替えさっさと教室へ向かってしまう

「・・・・・・・・・俺が悪いのかよ」

たんなる八つ当たりである。



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2.


「コナンくんなんか良い事でもあったの?」
「ううんいつも通りだよ。どうして?」
「だってすっっっっごく機嫌いいもん。」
「そうですよコナンくん。滅多にしない鼻歌までしておいていつも通りとは聞き捨てなりませんよ」
「もしかして朝ごはんがうな重だったのか?」


「いや。それはあんまり嬉しくないから」
元太の言葉に疲れたように合いの手をうち、コナンは昨夜の事を思い返した。

単にこそ泥から予告上が届いただけである←かなり重大
その暗号文がとっても、とっても、とーーーーーっても難しくて嬉しかったのである←コナンだけ
毛利探偵へと届けられたわけではなく、コナン宛となっており。
更にはいつの間にやら自分のランドセルに混入されていたのである。
・・・・・・・・まるでストーカーのような奴だ。

ま、それは置いといて、
とにかくその暗号文をとくのに昨日から徹夜だった。
そして今朝方ようやく大方の目星がついたのだ。

上機嫌にもなるだろう。


そしてそんな事口外できるはずもない。

よって

「きっと昨日の夜ご飯が俺の好きなものばっかりだったから機嫌がいいんだよ」
まるで元太のようなことを口走ってしまった。

「コナンくんでもそんなことあるんだー」
「珍しいですね。コナン君が食べ物で左右されるなんて」
「そうだよな。俺も昨日ハンバーグだったからすっげ機嫌いいぜっ。一緒だなコナンっ」

はは。
元太と一緒・・・
嬉しくねーーー


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3.



「坊ちゃま。こちらの花で本当によろしいんで?」

ヒョロリとした老人が自分の3分の1も生きて無いだろう若者に向かって敬語で尋ねる。
それはけっして強制されたものではなく、本人がしたくてしていることである。
いくら目の前の若者が
「坊ちゃまも敬語もやめてくれよ」
と言ったところでガンとして譲らなかったのはこの老人本人であった。

元の主人亡き今、彼が仕えるのは主人の息子であるこの少年ただ一人。
もちろんただの若造だったならばこんなに心酔することはなかったであろう。

類まれなる頭脳と、行動力と、運。
先代に勝るとも劣らないこの少年はまだたったの17歳。
なのにすでにこれだけのカリスマを放っているのだ。
誇らしくてしかたない。




「うん。そっ。これじゃなきゃ駄目なの。」

あまりパッとする花ではない。
だが確かに彼はこれの名を口にした。

何故この花でなければいけないのか?
寺井には判断がつかなかったが、目の前の少年はこう見えても驚くほどいろんなことを考えている。

きっと意味があるのだろう
くだらない詮索は自分には出過ぎたこと。
彼が満足気な顔をしたのだからそれで良しとしよう。


「ではこちらのほうで手配しておきます」

「うん。頼むよジイちゃん。」
「はい。坊ちゃま」

主人と認めた少年の不敵な笑みに寺井は嬉しそうに微笑んだ。




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4.



KIDからの予告状がその宝石店へ届いたのは昨夜のことだった。
警察へと連絡したのは次の日の朝。
朝っぱらからの通報に嬉々として駆けつけた中森警部はあまりに難しい暗号に唸り声しかでなかったという。

「ムムムムムム・・・ムムムムム・・・むむむむむむむむむむむむむむむ。仕方ない」

物凄くものすゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーく悩んだ末に中森警部は口にした。

「毛利探偵に連絡を」

暗号とプライド破壊、いったいどちらにより多くの時間をかけたのか回りの人間には判断つかなかった。






「ムムムムムム・・・ムムムムム・・・むむむむむむむむむむむむむむむ。」
ほぼ同じようなうなり声を出したのは無理やり呼び出され暗号を見た毛利小五郎その人である。

北に困った美人がいれば車でも飛行機でもひとっ飛びで駆けつけ。
南に悩んでいる美人がいれば100mを9秒で走る勢いで駆けつけ。
陸の孤島に助けを求める美人がいれば太平洋横断する勢いで泳いででも駆けつる。

そんな男である。

ようするに美人に弱いと言うことがいいたいのだ。


そんな毛利探偵は本日いつものトンチキな解釈すらでてこないらしくひたすらに中森警部と二人唸っていた。

ちゃっかりついてきたコナンは二人の顔を交互に見て肩をすくめる。
蘭は部活の為、祭日である本日も学校へ通っている。



そりゃあ難しいよな。
俺ですら2日がかりで解いたんだし。

すでに3日前に同じ暗号文を手にし、昨日のうちに暗号がとけていたコナンはそんな二人を同情の目で眺めた。


「あれれ〜」


素っ頓狂な声をあげて文句言われながら、あまりにも哀れな二人にヒントを出してやったのはそれから3分後のことである。




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5.


「そっそうかっ。この最後の『夕陽を頂きに参上します』というのはパパラチアのことだなっ。あれは別名「インド洋の夕陽」と言われている。ということは、これは明日の夜10時30分にこの宝石店の「a shooting star」という石を盗みにくるということだっっっ」

中森警部がまるで自分ひとりで解いたかのごとく自信満々にコナンに導き出された答えを周囲に言い放った。

気づくのが早ければその役目は毛利探偵のものだっただろう。

良いところを奪われた小五郎は隣でニコニコしている(単にホッとしている)コナンに向かって憮然とした顔で尋ねた。

「お前インド洋の夕陽なんてよく知ってたなコナン?」
「えへへ。この間テレビでやってたよ。すっっごく珍しい宝石なんだって」
「ふぅん」

このガキ。そんなにテレビから雑学習ってどーすんだ?
激しく疑問である。
小五郎は変な知識を植え付けるようなテレビだけは見せないように気をつけようと心に留めておいた







所かわって窓の向こう側。
一羽の鳩が羽ばたいた。







スイとあげた手のひらに一羽の鳩を止まらせ肩へと導く。
鳩はまるで内緒話でもするかのように少年の耳元にくちばしをあてる。
それにやはり話を聞くかのように何度も相槌をうつと鳩に話かけるようにささやいた。

「ふぅん。あのボウズが。そりゃーご苦労なこった。中森警部じゃ解けないとは思ってたけど。そっか白馬には相談しなかったんだな」

毛利小五郎にだって解けるわけがない。
あの小さな探偵の為だけに作った暗号文なのだからそう簡単に解かれたら面白くない。

っていうかあの子があの場にいなかったら明日は俺とあの子の二人だけの対決になって面白そうだったんだけどなぁ

クスクス

予想が打ち砕かれた割に楽しそうな少年は黒い髪を風に舞わせよいせ、と立ち上がった





「さあって明日の準備をしましょうかっ」






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