コナンさん+快斗君ハッピーバースデー&当サイト3周年記念小説
珍しく。KID×コナンっす

花舞う街で  

20.





シャーコシャーコシャーーーコ

チりんちりーーん


「どけどけどけぇぇぇぇぇぇぇぃ」

とても女性とは思えない勢いで自転車をこぐ。

あの人は誰かと尋ねられたならば。

相棒のカメちゃんはこういうだろう。


「ちょっと元気な僕の先輩デース」
ちょっとで片付けられる元気ではないと思われるが、カメちゃんにとっては佐々木はちょこーっとパワーが溢れすぎちゃった
元気で陽気で楽しい先輩なのだ。


ここで一転上司の黒崎はなんと答えるか?

「わが社の動く騒音。はたまた文才のない雑誌記者。音痴の歌手よりかは人様に迷惑かけちゃいないだろう」

・・とまぁ遠慮なくコケ下ろすに決まっている。




そんな彼女。
ただ今必死に一人の少年を追撃(追跡の間違いだろう)中。
追いついたら本当に追撃しそうな勢いだ。

ぜは・・ぜは・・ぜは・・

当初は当然走っていた。
途中から注意をする亀田がリタイヤし、遠慮なくそこらへんの自転車をお借りした(パクッたとも言う)佐々木さん。

「ふ。ちゃんと返すわよ。終わったらね。覚えてたらね。そこまで戻しにいく気力があったらね・・・」

限りなく自分勝手な理屈を述べながら必死にシャカシャカこいでいた。
「あのスケートボードは一体なんなの?新しいおもちゃ?子供にあんなもん与えるんじゃないわよおもちゃ屋ぁぁぁぁ」
変なところへ八つ当たりしながら佐々木はひたすらこぐ。

時刻は間もなく21時。

辺りは暗くなってきた。


しかもなんだか、かなり郊外へと向かっている様子。
店はポツポツと、電灯が立つ間隔が長い。

そこまで来てようやく佐々木は少年が一台の車を追跡しているらしきことが分かった。

よくぞ、とさえ言えるだろう。
敵はスピードを出してはいないとはいえ、車である。
きっと車では通れない道で先回りしまくったのだろう。
自転車で追いかけていた佐々木はしみじみ通ってきた獣道を思い返した。

草むらの中突っ切ったり、店の中通り抜けたり、下手したら人様のお宅のお庭にすら侵入して走ったのだ。
こちとら自転車の身でかなり恥ずかしい思いをしながらそういう道を走ってきたのさ。

ふふ、もうあの道通れないっての。


佐々木はやけっぱちな気分でひたすら少年目指して走り続けた。
きっと既に何のために追いかけてるかなんて頭から抜け落ちているに違いない。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

21.



これでもかと車を走らせた二人組のおかげでへとへとの少年が一人。
その後にバテバテの妙齢の女性が一人。
二人は心底思った。

(よかった!明日まで走り続けなくて)

本気で危ぶんだのだ。
高速に乗らなかったのは犯罪者ゆえの行動である。特にもし、今日何かをしでかすつもりなら人に顔を覚えられるようなことは最小限にすべきだ。

それだけは分かっていたから車をスケボーで追い掛けるなんて暴挙に出たのだ。
せめて前みたいに服部がバイクで拾ってくれたなら・・・・・・

(また、すっ転ぶかもしんねーけど)

ははと一人で笑い、いない人間の事を頭からおいやった。
それから到着した周辺を見渡す。


「このビルは・・・」

廃墟である。
今はもう使われていない古い高層マンション。
崩す費用すら惜しまれた悲しいマンションの残骸たちが立ち並んでいた。
バブル期にいっきに建てたツケが回ってきた結果がこれ。
郊外という不便な立地により結局無用と化したこの沢山の建物達はまるでゴミ捨て場に捨てられた粗大ゴミのようだった。

「隠れるには好条件だよな」
なるほどとつぶやく
「さてどうすっかな」
やることは一つ。ひっとらえてぶんなぐる。分かりやすいことこの上ない。

少年は一つの建物に迷わず入っていく二人組を視界にとめるとポケットから探偵団バッチ
を取り出した。




「廃墟・・・ね。何する気かしら。」
少年が隠れる建物の一角から更に下がった草むら。
抜群に視力の良い彼女はかなり遠い位置にも関わらずコナンはおろかそのずっと前方にい
る二人組までもきっちり捕らえていた。

「ふぅむ。悪人面ね」
犯罪者決定。
心の中で判決を下すと、彼女もまた横掛けにしていたバックの中から携帯を取り出した。


時刻はすでに9時を回っていた。





一方そのころ、警察署では大変な騒動が勃発していた。

「え?なんですって?」
「落ち着いてくださいよ佐藤さん」
「これが落ち着いていられますかっての。高木君それホントなの!?」
「本当ですよ。何せ目暮警部が緊急に会議を開いていましたから」
「それで?そいつは?どうなったのっ」
「なんだか工藤君が関わっているらしくて・・・」
「えっ工藤君こっちにいるの!?」
「さ・・さあ?電話のみの会話だったそうですし、それに元ネタはコナンくんらしくて」

そこまで聞いて佐藤はこれ以上ないというほど目を丸くした。

「コナンくんまで関わってるの?もうっ訳わかんないじゃないっ最初から説明しなさいよ」
「いやー僕もちょっと断片的にしか聞いていないので説明するには・・・」

頭をかきながら頼りないことをほざく高木にため息をついた佐藤は目暮に真相を聞こうと自分のデスクから立ち上がった。

「あ、待ってください佐藤さんっ」


慌てて借りていた隣の人のイスから立ち上がった高木はその瞬間見てしまった。

激しい勢いで突っ込んできた自分の上司の姿を。


「高木ーーー高木はいるかーーーー!!」
「はいーーーー!!」

慌てているのだろう、目暮の珍しい呼び捨てに高木の方も思わず慌ててしまった。
なんだ?
なんかやったか僕?

そんな直立不動した高木に目暮は一呼吸置く暇すら持たず、そのままの勢いで話し始めた。

「さっき伝えておいたテロの話だが、動いたぞ」
「えっ」
「今電話が来ている。堂々と警察にな。」
「ええっ」
「ちょうどいい、佐藤君。すぐに手の空いている人間を会議室に集合させてくれ」
「はいっ」

緊急なのを察した佐藤は無駄口を叩くことなく返事と共に駆け出した。

「それから高木君は爆弾処理班を要請するからその人たちに付き合ってくれ」
「ば・・・それって・・・」
「ああ。爆弾テロ再びって状況だ。心して行けよ」

「うっわぁぁぁぁぁ」


高木は過去の辛い爆弾探しを思い頭を抱えて泣き出しそうになった。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

22.


連絡を取ろうとしたがなかなかとれず、電波が悪いのか?
と時間を置いて何度も探偵団バッチで通話を試みていたコナン。

もちろん犯人たちを見逃すわけにはいかず、かと言って呼べと言われたのに勝手に一人で叩いたら哀にどんな報復を受けるか
分かったもんじゃない。

ということで、現在コナンは二人が入っていった向かい側のビルの屋上へ来ていた。
どの階のどの部屋にいるか調べるためだ。
リュックに詰め込んでおいた双眼鏡を取り出し、明かりのついたフロアをジッと覗き込んだ。

二人の男がなにやら緊張した面持ちで一つの携帯電話を見つめていた。

「なんだ?」



テロ男の日高はいかつい顔をさらにしかめ、手のひらの中の携帯を見つめる。子供が見たらゼッタイ泣き出すだろう。
ひ弱男Jは白い顔に脂汗を浮かばせながら日高を促した。

それに日高は神妙に頷く。

と、ようやくどこかに電話し始めた。

その様を首をかしげながら眺める。
一体どこへ・・・



「あーもうっ何でカメちゃん出ないのよっ」
何度電話をかけても「電源を切られているか〜」のくだりがながれる。
忠告しといたにも関わらず圏外のところにいるのだろうか?
それともたまたま今は電波が悪いだけ?

そのうち前方の少年が動き出した。
こーなったら一人でもとっ捕まえてやるんだからっ。

すでに目的を忘れたらしい佐々木さんはそんなことを心の中で決め、またもや後をつけ始めた。

少年は小さな体で大きな建物の階段を昇ってゆく。
もちろんエレベーターなんて動いているはずもなく、佐々木も疲れたからだにムチを打って階段を昇る。

「辛い・・・つらいわよかなり・・これって筋肉痛ちゃんと明日来るんでしょうねっ明後日きたら承知しないわよ」
ブツブツと自分のからだに文句をつけながら暗闇の中、手すりを頼りに昇り続ける。

一体この子供は何がしたいの?
車の後をつけたかと思えばつぎは突然階段昇りだすし、しかもさっきの二人組みが入ったのとは違う建物。
意味わかんなーい。


かなりの差をつけられながらゼハゼハ息をついて屋上にたどり着いた佐々木は、そこで双眼鏡を覗き込む少年の姿を目にした。
だが次の瞬間クルリと振り返り青い瞳は初めて自分を射抜いたのだ。

「で?」

疲れのあまりヘタリこんだ自分を眺めやり、少年はとくに驚いた様子も見せず冷静に問うた。

「僕を追いかけて、一体お姉さんは何がしたいの?」

あらーん。
バレバレっすかー。


「いいか。今から言う言葉をよく聞けよ」

日高成治と名乗った男は、上ずる声を必死で抑えながらそう言った。

彼が以前爆弾テロのグループにいたことをここにいる人間は知っている。
何故なら工藤新一の通報のおかげで、既に対策本部が設置されていたからだ。

迅速な行動がとれて警察としてはありがたかった。


「○×区に爆弾を仕掛けた。爆弾の在り処を教えて欲しければ俺の仲間を24時間以内に解放しろ」

そう言った要求だった。

日高が爆弾作りのプロなどではなければ、ただの脅しと侮ったかもしれない。
だが彼らは日高が前回のテロのときに作ったとんでもなく精巧な爆弾を知っている。

だからこそ、彼らが出来るのは出来る限り期限を引き延ばすし、探索の時間を多くとること。
そしてもう一つ。
日高と一緒にいたという男。
それの正体が分かったのだ。
もちろん新一がある程度のヒントを蒔いてくれたからこそなのだが。

「○×区内の宝石店だっ。デパート内の宝石店も見逃すなっ。」

Jと呼ばれるレプリカ造りの男と組んだということはそういうことだろう。
目暮はそうふんでいる。
もちろんそうで無い場合も考慮して警官などに区内のいたるところを探し回ってもらうつもりだ。
それでも重点的に宝石店を探してもらおうと決めていた。

「はっそういえば、今日はKIDの予告日だったな。確か狙われた宝石は○×区にあったはず・・」
「ええ。中森警部が既に張り切って待ち構えてますよ。」
「予告時間は何時だった?」
「確か・・・・10時30分。あと19分です。」

その宝石店にもし爆弾が仕掛けられていたのなら大変なことになる。
あの建物の周りには、時間的にいつもならいないはずの人々が大勢野次馬としてたむろっているのだ。


「すぐに避難を・・・・・」
「中森警部に連絡がつきませんっっ」

圏外か、電源を切っている可能性が・・・・


「・・・・電源を切ってるなあの人は」

目暮警部どのは沈鬱な顔で額を押さえた。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

23.


ガガガガと雑音が響く。
先ほどまでうんとも寸とも言わなかった相手がようやく反応を示してくれたらしい。
コナンは双眼鏡からいったん目を離し、ポケットの中の探偵団バッチを取り出した。

「灰原?」
『いやワシじゃ哀くんは今手が離せなくてのう』
「じゃ灰原に伝えてくんねー?二人を発見って」
手が離せないってなんでだと思いながら伝言を頼めばむこうから会話が聞こえてきた
『だそーじゃよ哀くん』
『聞こえたわ。博士バッチ貸してくれる?』
『ああ』
『ありがとう。見つけたそうね江戸川君?』

「なんだよお前連絡しろって言っときながら全然でねーで」
『仕方ないでしょ』
返ってきた声はどことなくひそめられた物であり、まさかとコナンは思い至った。

「お前まだ病院にいんのか?」
『そうよ。悪い?そう言う事だからあまり大きな声は出さないでくれない』
「ああ、それは分かったけど」
なぜ家族でもない哀がすでに面会時間がおわったであろう歩美の病室にいるのだ?
純粋な疑問がわく

『哀くんは歩美ちゃんに手を握られていてのうこの場を離れられない状態なんじゃよ』
言いたくないらしい哀を察したのか阿笠博士が説明する。

それにようやく納得した
歩美に甘い哀らしい。
握られた手のひらを振りほどくなんてできる筈がないのだ。
『歩美ちゃんのご両親は気にしないでいいと言ってくださったんじゃがの』
哀がこのままで良いと言い張ったらしい。
自分の手に縋りつくように触れられた小さな手のひらが嬉しくて仕方なかったようだ。

『心配されるご両親には申し訳ないが代わりにワシと哀君が看病させてもらっとるんじゃよ』
遠くから余計なこと言わないでいいわよ
と不機嫌そうな哀の声を聞き咎め謝る博士に苦笑をもらす。

「それで歩美の状態は?」
『依然かわらずじゃ』
「そうか」
哀の様子からも予想していたが、まだ・・・
ため息をもらした。

『そういう訳だから二人組は貴方に任せるわ』
「ああ」
了解したと頷く
『私の代わりに徹底的な報復をお願いするわ』
「いやお前程はムリだけどな」

突っ込みはサラリと無視された。

『それでそちらの状況はどうなの?簡潔に述べてちょうだい』
「んあ?みっけたぜ。あの二人。ただ、な。問題がたった今勃発だ」
哀はこの上なくいやぁな予感を覚えた。

「なんだか・・・・・ひっじょーーーーにやっかいな展開になってる気がすんだけど」

口元に探偵団バッチを当てたまま視線を向かいのビルに向ける。
望遠鏡の向こう側に見える風景。
とある建物の最上階の一室。
そこで電話を終えた二人の男が楽しそうに談笑していた。

仲良さそうだなあ

と思ったのはつかの間。
次の瞬間度肝を抜かれた。

ひ弱男、Jがポケットから取り出したものを蛍光灯に透かしていた。

石。
なんだか宝石のようにキラキラしている。
しっかりしたカタチや色まで分からないがコナンの頭に警鐘がなり響いていた。

なんだか・・・

なんだか・・・

なんだか・・・・



すっげーーー見覚えがあるんですけど・・・



その嫌な予感(こういうものは的中率が高い)の正体を確かめるべく望遠レンズの倍率をあげてみる。


そして思わず呟いた。


ジーザス・・・・

「・・・・・・・なんであいつが持ってんだ・・・」
激しい疑問を誰にともなく言ってしまったのは、きっと彼が非常に動揺していたからではなかろうか。

(宝石のレプリカ造りのプロ + テロの爆弾作成男) + 宝石


さぁこの公式の答えを求めましょう。



わかるかーーーー!!




「なんだかなーーー」
『貴方の事件体質が見事に作動しているわね』
「いらねー。いらねーよこんな体質」
心の底から嘆く


『あるものは仕方ないんだから諦めて受け入れなさい。とりあえず私たちの当初の目的はあの二人に生まれてこなければよかったと思うような目にあわせること。その石のことはどうでもいいわ』
「あ・・あの灰原さん。いつからそんな目的に?」
『私の中では最初からこれよ。』
「さようで・・・・」

知らなくてすみませんでした。

思わず謝ってしまう。

歩美。お前は確実に灰原に大切にされてるぞ。胸張れるぞ。


結局はこっちにこれない状況になってるからいいものの、もしあの男共が目の前にいたら灰原のことだ拳銃ぶっぱなしても不思議ではない。
むしろ超自然←言い過ぎでは?

よかったなお前ら。
俺が温厚な人間で。


双眼鏡の先の二人に今感じている恐怖をおすそ分けしてやりたかった。
『ま、頑張りなさい』
その言葉と共にプツリと音信が不通になった探偵団バッチを見下ろし、どっと脱力感がきた。


はぁぁぁ。と外見年齢に似合わぬ盛大なため息をついたその時、背後から気配を感じた。
ああ、よくここまで追いかけたよなこの人も。

そう思いながら探偵団バッチの通信を切り、背後をゆっくり振り返った。

「で?僕を追いかけて、一体お姉さんは何がしたいの?」




白い翼を羽ばたかせ、いつものごとく優雅に不敵に大胆に。
怪盗KID華麗に参上!!

そんなテロップが背後に流れていそうな彼、KIDと呼ばれるドロボウは、予告の時間にちゃんと到着していた。
だって遅刻なんて失礼なこと出来るわけが無い。

というかそんな事したら中森警部に「コラー」って叱られるもんね。

叱られるのは学校の先生だけで十分よ。

の快斗はKIDの白い扮装で現場からちょっと離れたとあるビルに舞い降りた。

その瞬間すでにたむろっていた人々が一斉に「あっ」と頭上を指し示した。

アナウンサーのKIDですっ怪盗KIDが姿を見せましたーーー!!の叫びにあわせて
テレビカメラがこちらを向く。
それを避けるように飛び立つとKIDは予定していた窓からスルリと建物に侵入した。

「んーおっかしいなぁ。てっきりあのビルにいると思ったんだけど」

首をかしげ小さく呟きながら。






亀田から見て、今夜のKIDはどことなく注意力が散漫だった。
いつもどおりの華麗な手品で警察陣を翻弄させるのはさすがの一言に尽きるが、それでもフとした瞬間にどこか遠くを眺めていたりするのだ。

(誰かを探しているのかなぁ?)

内心呟き、それからフと一人の少年の顔が浮かび上がった。
「あーそういえば佐々木さんどうしたかな。まだ追いかけてるのかそれとも追いついたのか・・見失ってるかもしれないよなぁ」


亀田はただ今KIDの現場にいた。
人がごったがえしたこの場は当然ながら携帯など通じない。
分かっていたが、それでもやるだけはやっておこうと思ったのだ。
この距離でKIDの姿がビデオにちゃんと収まる筈が無い。
だが、やらずに帰れば黒崎のお叱りをうける。
自分はいい。
まだただの助手の立場だから。
一番叱られるのは佐々木なのだ。
そう思うといてもたってもいられなくなった。

「佐々木さんに八つ当たりされるのは僕ですしねー」

なんて言い訳を口にしながらいつもなら適当にやる仕事に専念し始めたのだった。



「それでは今宵はこれにて。皆様お集まり頂きありがとうございました。
これはほんのお礼ということでおすそ分けです。」

ニッと笑い、優雅な礼を一つすると、宝石を持っていないほうの手でパチンっと指を一つ鳴らす。
その瞬間、KIDの姿は煙幕にかき消された。

その後残ったのは屋上から降ってくる少量の黄色い花。


地上はKIDが残した花の争奪戦で物凄いことになっていた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

24.

煙とともに掻き消えた問題の怪盗は、実は未だ現場に留まっていた。
理由はただ一つ。
愛しの名探偵を探すため。

せっかく警察へ送るよりも早く招待状(予告状とも言う)を届けておいたというのに、何故ここにいないのだ?
そういえばあの『迷』探偵もいない。
あれーもしかして最初から来るつもりなかったー?

何も考えずてっきり100%確実にあの青い瞳の少年がやってくることを予測していた自分。
何故疑問を覚えなかったんだろうか?
覚えたならちゃんと事前にここに来ざるを得ない理由でも用意しておいたというものを。

やーーーん。せっかく名探偵のために犯行を今日にしたのにぃぃぃぃ(涙)

嘆きながら必死で小さなその姿を探す。

30分後。

「いなかった。うーわーマジで来てないよ名探偵ーーー」
かなりショックーと口元を押さえながら嘆くKIDの姿があったとか。
探偵探しのために今は変装をしていたが、空へとあがるためにKIDの扮装をまとい、もう一度怪盗として動く。
まだポケットの中の石を確かめていないのだ。

せっかく良い月なのだから今日のうちに確かめよっか。
今日は大切な日だし、もしかするともしかするかもしれないし・・・・

いや、期待はいけない。
何せ期待していた名探偵だってここにいないのだから。
落胆が大きくなってしまう。


「あーあ。どうしよ。予定が狂っちゃうじゃないの。」

そう呟くと予定していた中継地点へと向けて羽ばたいた。




「な、なんのこと?」
ばれてるとは思いながらもわざとらしくしらばっくれてみる。
「あんな必死の形相で追いかけてきて気づかないと思った?」
「あら?私もただこっちの方面に用があっただけよ。ほらここなんて星を見るには絶景かな絶景かな」

はっはっはーと額に手をかざし空を仰いでみせる。

白けた視線が自分をツキツキと突き刺すのを感じていたが佐々木は気にしない。

「あのねお姉さん。僕に用事があるならすぱって言っちゃったほうがいいよ?」
「あ、じゃあ聞くけど。ここに何しにきたの?」
「・・・・・お姉さんと一緒で星を見に来たんだよ」
ニッコリ
可愛らしい笑みが返ってくる。

うーわーこの子かなり手馴れてるわ。

「じゃ、じゃあKIDってどんな人?」
「え?」

予想外の質問だったのだろう、キョトンとした顔で見つめられ思わずその顔に胸がキュンとした。
か、可愛いわ。
マジ可愛いってこの子。男の子だったわよね?
実は女の子ってことないわよね?
写真で見たときも可愛い子ねぇって思ったけど実物は写真の目じゃないわよっ

やーんカメちゃんにも見せてあげたかったーー

暗闇に映えるぷっくりとした白い肌と青い瞳が佐々木の(実はあったらしい)母性本能をくすぐる。

「KIDって・・怪盗KIDのこと?」
「そうよ。間近で見たことあるんでしょ?」
「あ、うん。でもちょっとだったし暗くてあんまり顔みれなかったからわかんない」
「そっか。そーよね。そんなもんよね」

期待していた自分が間違いなのだ。
佐々木はガクリと肩を落とした。

と、そこへ
ピルルルルル
ピラリラリラリ、ルラリラリ〜

単調な電話音と軽快な着メロが同時に鳴り始めた。

慌てたのはコナンだ。
向かいの男たちにこの音が気づかれたら大変。
急いで電話にでる。

佐々木はというと電話の相手を見てちょっと眉をしかめてそれから出た。


「はい」

「なぁにーカメちゃん」


一声を放ってからようやく相手も携帯に出ていることに気がついた。
示し合わせたかのようにジリジリと離れる。


コナンはもちろん工藤新一として話すため。
佐々木は亀田に陰険なイヤミを言うのを聞かれないため。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

25.


「目暮警部。また何か進展があったんですか?」

電話の向こうは切羽詰った声でテロの男が要求を述べてきたことを簡潔に説明した。
仕掛けられた爆弾は重点的に宝石店を探していることを聞きコナンはほっとする。
よかったJの正体掴んだようだな。
さすがに一介の探偵が知っていて良い情報ではなく、ズバリ口にするのはためらわれたので苦労したのだ。
「それで?ええ、二人の行方ですか?それは分かります。」
あっさり答えた言葉に電話の向こうから驚愕が返ってきた。
「コナンにお願いされたんですよ。歩美ちゃんをあんな目に会わせたやつらを捕まえて欲しいと」
苦笑しながら言えば目暮はあっさり納得してくれる。

だがしかし、犯人の居場所が分かったところで爆弾のありかが分からなければ下手なことができない。
あーさっさと乗り込まなくてよかった。
とコナンは胸をなでおろした。

乱闘の末、うっかり爆破スイッチ押しちゃった♪なんてしゃれにならない。

そんな事を考えていたコナンは目暮の
「それで中森警部には連絡がつかず〜〜」

のくだりでハッとした

「そうかっ」
そうだ。多分、いやきっとそうだっ。

「目暮警部。KIDは今どうしてますか?」
『すでに宝石を手にして現場を後にしておるよ。中森警部が悔しがっておった』
「・・・・あー」
それは困った。

『工藤君?まさか君はKIDが盗んだあの石がそうだと言いたいのかね』
「確信はないのですが。可能性は高いかと・・・・」

さっきJが明かりにかざしていた宝石。
あれは今日KIDが狙っていた石とそっくりだった。

あれほどの石のレプリカを作るのはいくら天才と呼ばれたJと言えども不可能ではないか?
チラリとそうは思ったものの、彼だからこそその石に挑戦したのかもしれないとも思う。

「KIDの方は僕が当たってみます。目暮警部は引き続き捜索のほうをお願いします」
『ああ。よろしく頼むよ工藤君』

プツリと電話を切ったときさまざまなことが頭の中を回った。
どうやってKIDを捕まえるか。

なんと言っても距離がありすぎる。

今から向かってもすでに遅く、おそらくついた頃にはKIDは途中で寄るであろう中継地点の公園すらも去った後だろう。

目暮にああは言ったが困った。

眉を寄せ首を捻っていると向こうの電話の会話がもれ聞こえてきた。


「カァァメェェちゃぁぁぁぁぁぁん。何度電話したと思ってんのーーー」
から始まり
「電波通じるところにいろって言っておいたでしょーー」
とか
「もうっ人が必死に走り回ってるっていうのにっっっ」
だとか
ひたすら一人でしゃべり続けていたその女性は次の瞬間

「あっ現場にいたの?ごめんごめん。で?撮れた?」
態度が豹変した。
「まぁねーそう簡単に撮れたら誰も苦労しないってね。まぁいいわこっちに来てくれる?うん少年確保したわよ。」
俺って確保されたのか?
自慢げに電話の向こうの相手に言う佐々木にコナンはハハと笑う。

「え?いいわよKIDなんてどーでも」

うわ酷い言われようだなKID。
・・・・ってえ?


次の瞬間コナンは勢いよく佐々木を振り返った。

「ちょ・・ちょっとお姉さんっっっ」
突然すがり付いてきたコナンに驚いたのは佐々木だろう。
上目遣いで縋り付いてくるコナンの愛らしさに思わず携帯を取り落としそうになった。

「KIDの現場に電話の相手の人いるのっっ?」
「え?あ、うん。そうだけど」
「じゃあすぐに隣の駅にある平山公園に行ってもらえるっっ?」
「平山公園?」
「そうっすぐにっっっ」

首をかしげながらも佐々木は電話の向こうの亀田にそう伝えた。
「だそうよ。どうするカメちゃん?」
『別にいくのはいいですけどーこのカメラセット持って動くんですかぁ?』
「ああ、それはコインロッカーにでも詰めておけばいいわよ」
『分かりました。平山公園ですね。着き次第また連絡いれます』
「うんお願いね」


訳が分からないまでも緊急なのだろうと理由も聞かず走り出してくれた亀田に感謝して佐々木は電話を切る。

「えーっと。平山公園に何かあるの?」
そういえば名前聞いてなかったなぁと思いつつ優先順位の高い質問を口にする。
それに子供は青い瞳を煌かせさっきよりもグッと大人ッぽい表情を見せた。


「おおありだよ。すぐに行かないと逃げちゃう・・・あの白いバカが。」

「白い・・・・・・バカ?」

それの正体に気づくまでに佐々木は7分以上時間を要した。




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