コナンさん+快斗君ハッピーバースデー&当サイト3周年記念小説
珍しく。KID×コナンっす

花舞う街で  


26.


「白いバカって・・・・・・・・・・もしかして・・・KID?」
半信半疑でようやく思い至ったことを述べてみれば、暇だったのだろう双眼鏡で向かいの建物を覗いていた子供はフと振り返り数瞬瞬きを繰り返した。

「え?あ、うん。そっか突然黙っちゃったと思ったらそれを考えてたんだね。そーあのドロボウの事だよ。んーもうすぐつくかな」

腕時計を見て、電車の時刻表を頭から引きずり出したコナンは頷く。

「電話が来たら公園の中のブランコ近くで白いバカを捜してってお願いできるかな?」
「ええ。それは出来るけど・・・本当にいるの?そこに」
「時間的にギリギリだけど、間に合えばまだいるはずだよ」

あっさり答える子供に佐々木は悩んだ。

「いえ、そういう事じゃなくてね。えーっと・・・約束でもしてたのかしら?」
「KIDと?なんで?」

不思議そうに首をかしげるその子供のほうが不思議で堪らない佐々木。

「なんでって・・・」
「KIDがどっかの公園とか建物によって盗んだ宝石をチェックするのは周知の事実だよ。」

報道関係者でありながら全く知りませんでした・・・

「その場所がどこか割り出すのは確かに難しいかもしれないけど、風向きとか考えると結構あっさり出るし」

いや、あっさり出たら警察が捕まえるのに苦労しないって。
この子供がKIDから宝石を取り返したという記事が頭の中をクルクル回り始めた。
あーかなり信じてなかったけど本当っぽいわこれ。


「でもそれなら警察に・・」
「僕がね、KIDはこの公園にいくと思うんだって言ったら刑事さん信じると思う?」

真摯な瞳でそう返され苦笑した。
無理でしょうね。
ええ。
ひどくあっさり納得した。

「それにどうせ盗まれても返してくれるんだしいいんじゃない?」

そう目くじら立てて通報することもなかろう。
と肩をすくめ鷹揚にのたまう。

「いやもう。大物だわ。」

思わず拍手をかましたくなるではないか。
だが佐々木が拍手をする前に着信音が響いたので実際することは出来なかったが。

「カメちゃん?お疲れー。うん。着いたらブランコの近くでね白いバカを探して欲しいんだって」
そのまま伝えれば亀田ははぁ?と聞き返す。

『白いバカって・・・変質者でも捕まえろっていうんですかーー?』
いやですよ僕襲われたらどうするんです

と情け無い声をあげた亀田に思わず二人で笑い出してしまった。
そうかっ夜の公園を彷徨う白いバカと聞いて変質者を思い浮かべるのかカメちゃんはっ。
どういうイメージを持ってるのか知らないがそれはそれで面白い。

「あははははっへ・・変質者っっ近いっっ限りなく近いっっ」
コナンは地面を叩きながらそんな失礼なことを口にする。

「襲われたら記事にしてあげるからちゃんとインタビューに答えなさいよ」
『絶対イヤですぅ。で?着きましたけど・・白いバカ?』

向こうで辺りを見回す気配がする。


『って・・・あっっっっっ』


そして次の瞬間亀田の叫び声が聞こえた。

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27.

「白いバカ・・・ですか。名探偵以外にそんな失礼な呼び方をされると思いませんでしたよ」

苦笑する気配が伝わってくる。

ブランコの隣に立っている電灯の上、まるで小さな鳥のように佇むその姿はまぎれも無い、さっきまで必死にカメラで追いかけていた人物であった。

「し・・・・・白いバカって怪盗KIDのことですかぁぁぁぁぁ」

思わず驚きのあまり叫んでしまう。

『そうよ。驚いたでしょ』
「当たり前ですっっっ。なんで先に言っておいてくれないんですかっ。そしたらカメラ絶対に持ってきたのにぃぃ
『あっ。しまったわ。だって私もさっきまで知らなかったんだもん』
「可愛い子ぶりっこしても駄目ですっ。だいたい佐々木さんはいつもいつもそーやって・・・・ってああっ」

『どうしたの?』

「失礼お嬢さん。怪盗KIDと申します。どうやら貴方の指示でこちらの彼はここへいらしたようですが・一体どうやって逃走経路を・・・」

亀田から電話をスルリと掏り取り、柔らかな調子で口を開く。

会話の流れから彼が偶然公園を通りかかったわけでは無いことが分かりKIDとしては捨て置けなかったようだ。
もしかするとコナンはここで待ち伏せしているかもしれないという淡い期待はまたもや裏切られちょっと腐っていたし、
持っていた宝石を見てみるとどことなく引っかかるものがある。
いろいろと胸にもやもやした状態で、まったくの素人が自分の逃走経路に気づくなんてハプニングまで。

かなり腹が立っていた。

あーもうっ今日は最悪の日だ!!
名探偵はいないしっ
この石なんか怪しいしっ
全然知らない奴が待ち伏せてるしっっっ

もーーーーヤっっ

そんな彼にさらなる悲劇が。


『きゃーKIDっっ本物?ホンモノよねーーーうわー感激。カメちゃんにKIDが触ったその携帯私に頂戴って言っておいてくれない?』

「あの、それより質問を・・・・」
させて欲しいのですけどぉ〜〜

『やーんどーしよ。本物に会えるなんて思ってなかったからすっごいスッピンなのっうわーきゃーたいへーん』
「大丈夫ですよーー佐々木さんは素顔美人さんですからー」

後ろから亀田の声が聞こえる

『カメちゃんったら良い事いうじゃなぁい。私の教育の賜物ねっ』

一人もりあがってゆく佐々木。
合いの手を入れる亀田。
電話の相手の筈のKIDはなんだか取り残されたまんまだった。



「あーその。本日のショーは終了したので残念ですがお会いすることは出来ません・・・のですが。」
と聞こえていないだろう佐々木に呟いてみたり。

「ですのでこのまま退散させて頂きたいのですが・・・」

電話を持っているのは自分のはずなのに佐々木は背後の青年とずっと会話を繰り広げている。

「・・・聞いてます?聞いてませんよね。はい」


一人むなしくポツリポツリ呟く。
寂しいかも。


『あっそうだわKID。至急来て欲しいところがあるんだけど』
「はい?」

突然会話が振られたせいか、その内容のせいか、実に間抜けな返事をしてしまった。

「ちょーーっと待ったぁぁ。先輩っちょっと待ってください。場所は僕だけ聞いてもいいですかっ」
『え?別にいいけど急いでKID連れて来てちょうだいよ』
「分かってます。で?どこです?」

キョトンとしたまま固まっているKIDから自分の携帯電話を奪い返すと亀田は一気に走り絶対にKIDが聞こえない位置まで距離をとった。


「はいっいいですよ」
『えーっとねー』


何がしたいのだろうか?

思わず遠くからKIDは眺めてしまった。

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28.


うーむ。変な奴だ。
何がしたいのか分からない所がまた面白くていい。
見ていて飽きないなぁ、とのんびり電話が終わるのを待ってみた。
帰ってもよかったのだが、まだ気にかかることがあるからもう一仕事待っている。


「これ・・・・やっぱり違うのかなぁ」

今日の獲物を月に翳してみる。

パンドラで無いのはまぁ諦めよう。
だがしかし。

「なぁんか・・うーんどっかが違うんだよな」

言い切れないところが微妙で、悩みどころだ。
名探偵だったら分かるのかな?
宝石の鑑定とかなんだか得意そー。
見慣れてて目が肥えてそうだもんね。

それでも宝石専門のドロボウとしては一介の探偵より宝石に詳しくなくては面目が立たない。



どうやら会話を終えたらしい青年が帰ってくる。
その顔はどことなく真面目で、先ほどまでの頼りない表情とは一変していた。

なんだ?

そいつはズンズン自分に近づいてくるとある程度の距離を保ち立ち止まった。

「実は先ほどあなたの現場に僕はいました」
「ああ、それは光栄です。」
で?
何が言いたいの?

「あの時、気にかかっていたことがあるのですが・・・・ようやく答えが見つかりまして。ひとつお伝えしたい事実があります。」

ヒタとKIDの瞳を見据え青年は口を開く。

「もし眼鏡の少年を探してるなら僕は居場所を知ってますよー」

ニッコリと衝撃の一言を。


そのときのKIDの心情はどんなもんだろうか?
自分が誰かを探していたことがバレたこと。
それが名探偵だってこと。
そして彼の居場所をこの男が知っていること。

どーしてーーー?

まあ一瞬にしていろいろ疑問符が浮かんだが、とにかく驚いていた。


「何故そう思ったのですか?」
「ま、企業秘密ということでぇ」

にっこり。
手ごわい


「知りたいですか?」
「まぁそうですね」

どっちでもよさそうな素振りを見せるが内心は嵐が吹き荒れている。
知りたい知りたいしりたーーーーーい!!

「教えてあげますよ。ただし・・・・・」

キラリと瞳を輝かせ、亀田はフッフッフと笑い出す。

「条件がありますけどね〜」
カメちゃんと呼ばれた青年はちゃっかりしていた

「お聞かせ願いましょうか。」

どんな条件を出されるやら、とドッキドキのKIDに亀田は思いのほか良心的なプランを提案してきた。

「では遠慮なく。貴方のほどほどのアップの写真を数枚撮らせてください。」


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29.

「カメちゃんったら一体何がしたかったのかしら?」
「さぁ?」

僕に任せてください!!悪いようにはしませんからっ

そう言った亀田はコナン達の居場所を聞いてゼッタイKIDを連れて行きますから。
と約束を交わし電話を切った。

「ま、連れてきてくれるなら何でもいいけどね」
「そうだね」

双眼鏡の向こうは未だ動く気配なし。
警察に向かって大きな宣言をしたばかりだ、そりゃ動くはずも無い。
だがしかし、もしKIDが持っている石が「そう」だったのだとしたら、それは結構やばいのである。

何せKIDがあの石を盗んだことは当然テレビで放送されている。
もし、彼らがそれを見ていたら・・・・・

(慌てるだろうなぁ)

なんでKIDがせっかく用意しておいたあれを盗むんだ!!?

逆にKIDの方もよりにもよって自分が盗む石を狙うなんてどーゆーことだ!!?

ってなもんだろう。


ま、運が悪かったなお互いに。


「そういえば何であの二人を追いかけてたの?」
実に今更な質問だ。
それにコナンはちょっと首をかしげてそれからあっさり事情を説明し始めた。


「え?ああ、僕のね友人を車で撥ねかけたんだ。」
「ええっっ」
「その子はね、まだ意識を覚まさない。」
「なんてこと・・・」
「だからね。あいつらとッ捕まえて謝らせようと思ったんだ」
「そういう事だったの・・・」

その程度で許すつもりはさらさら無いけれど。
可愛らしく子供らしくそんなことを言ってみせる。

「偉いわっそうよねっひき逃げ犯を見逃しちゃいけないわ!!」

別に轢いちゃいない。
ちゃんと「撥ねかけた」と言ったので勝手に勘違いしたのは佐々木なので放っておく。

「でもそれじゃなんで乗り込まないの?」
「うーん。ちょっとね。」

どうしようかなぁ・・・と考えたあげくコナンは佐々木にある程度正直に述べることにした。

「あの人たちね、実は爆弾テロ犯みたいなんだ」



「・・・・・・・・はい?」

今実に理解不能な単語が出たわ。
佐々木は盛大に首 をかしげた。

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30.

「じゃあ後で撮る、ということで。約束破らないで下さいよっ。いいですか?いいですねっ?」
「ええ。もちろん。」
亀田のしつこいくらいの確認に辛抱強く頷き返したKIDは、ようやく捜し求めたコナンの居場所を聞き出した。

「なんであんな廃墟に・・・」
「誰かを追っていたらしいですよ」
「なるほど」

あんな小さな子供が誰かを追いかけこんな時間に廃墟にいることをKIDはあっさり納得する。
それに亀田のほうが驚いた。

あの子は一体この人にとって何者なんだろー?

さぁて行こうかな、とハンググライダーをセットして目標を確認してフと唐突にKIDは気がついた。

「もしかするとその少年は先ほどの女性と一緒にいる・・・・のですか?」
「そうですよ〜」
「もしかすると先ほど来て欲しいとおっしゃられていた言葉はよもやその子供からの伝言だったのでは・・・」

「・・・・・・・・・・・・さぁ?」


あっさり肩をすくめた亀田にKIDは「肝心なことだろ聞いておけーーーーー!!」と思う。←いや、カメちゃんにとってはどうでもいいことだし(笑)

ぶん殴りたい。
KIDにあるまじき思いがフツフツとこみ上げてきた。

だがしかし一転して考えをポジティブにしてみた。


ああ、大変だ。
名探偵からのお呼び出しだったら急がないと待たせちゃうっ

ウキウキとやる気満々。
だって彼から望まれて行くのなら本望ではないか。←別に嫁に行くわけじゃあるまいし
よっしゃー超特急で行くぞう!!

そう決めたが即実行。

「では私は急ぎますので」
「ま・・ちょっ待ってっ僕も連れてってくださいぃぃ」
「すみません急いでますから自力でお願いします」
「そんなぁぁぁ」

しがみついてでも来なさい。の佐々木の言葉を思い出した亀田はこの際男だろうが何だろうが置いていかれるよりかマシだと勢いよく飛びついた。

・・が、ヒラリと交わされる。
うーん鮮やか。
って感心している場合ではない。

「もう電車も走ってないし。たとえ走っててもあんなところに駅なんてあるわけないしぃぃぃ。」
どうしろと言うんだーーーー


それにニコリと微笑んで
「頑張ってください」
まったく役に立たない応援の言葉を一つ残し、怪盗KIDは優雅に月夜に消えていった。


「・・・・・・KIDのバーカーーーー」
なぁんて叫んでみてもどうしようもない。

亀田は地面にへたり込み
「もう駄目だ。佐々木さんにどつかれる・・・・・・」
と確実にくるであろう未来予想を呟いた。
だがしかし、次の瞬間スックと立ち上がる

「なぁんちゃって。僕には最後の手段が残されてるもんねー」

そう。
最後の手段が。
これを使えば後々自分が苦しむ嵌めになる。
分かっているのだが。
今使わないでいつ使う!!?



亀田は勇気をもって表通りに出た。
そしておもむろに親指を立てる

「へいっタークシーーー」

貧乏な亀田はきっとタクシーを使う機会が今までなかったのだろう。
あきらかにヒッチハイクと間違えていた。

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31.

亀田からの電話を切った瞬間
「お腹空いた」
と言い出し、突然背中のリュックから取り出した小さな包みを開いたコナン。
包みの中は手作りのクッキーが入っていた。
ちょっといびつな形が可愛らしい。

いくつか砕けているのはあんな激しいスケボー技術に耐えれなかったからだろうか。
そりゃあれだけ激しく動けばリュックの中は凄いことになるわよね。
むしろこれだけ原型をとどめられたほうが奇跡だわ。
内心佐々木は納得する。


そんなクッキーをつまみ、一個食べて、
「あ、美味い」
コナンにしては珍しい感想を述べた。
基本的にクッキーとか甘いもの系は手を出さないのだが今回は特別である。
だが実際甘くないように作ってあるらしくコナンでも美味しく頂ける出来だった。

それをジーッと羨ましげに眺めていた佐々木に
「食べる?」
仕方ないなぁと差し出してみせた。


「いいの?」
「まぁお腹空いてるのはお互い様だと思うし」

二人とも夕方からずっと走り続けていたのだ。
もちろん夜ご飯は抜きだ。

コナンのほうは実を言うとお昼すら食べていない。

よく持つものだ。

「じゃありがたく。・・・ってこれ甘くないわよっ」
「うん。甘くなくて美味しい」
「へー結構いけるじゃなーい。もう一個いい?」
「どーぞ」

ほのぼのと見えるかもしれないが、待機の時間は実に緊張が孕んでいた。

早く・・・
早く来い。
KIDっっっ

お前の石が「爆弾」であるか確認をしないと下手に動けねーじゃねーか。
ってかあのJの作品だけあって、見ただけで分かるか疑問だがもし分からなかったとしてもKID巻き込めばあいつらとッ捕まえるのも楽になるし。
とにかく早く来い!!てなもんだ。

計算づくである。
こき使う気満々である。



クッキーを頬張りながら体力を温存しているとふいに冷涼な気配を感じた。


「来た」
「へ?はには(何が)?」

目の前の女性はもごもご食べながら尋ねる。
何がって今までの会話から答えは出るだろ?コナンは呆れた顔で佐々木を見たが、彼女は実際KIDが本当にここへ来るなんてまっっったく信じていなかった。
だって「あの」KIDだしー
そんな簡単に応じてくれるなら警察だって苦労しないでしょー?

それが普通の対応かもしれない。

だから佐々木さんはコナンが視線を向けたほうを何気なく見て、面白いくらいに固まったのだ。



「こんばんわ名探偵」

月を背に、シルクハットを腰まで持ってきて優雅に頭を下げる白いタキシード姿の人物が目に入る。
おかしなくらに目立つ井出たちのその姿は怪盗KID以外にいないのではなかろうか?

じゃあこれKIDなの?

ちょっと待って。
凄いっっ凄いわっこんな間近でみちゃった。

まるで人気俳優が目の前にいるかのごとき興奮が佐々木を突き抜けていく。
むしろどんな俳優と出会うよりきっと自慢になるであろうこの相手は、一心に・・本当にまっすぐ小さな子供だけを見つめていた。


対する子供はというと


「よう」


実に簡単な挨拶を返した。



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