コナンさん+快斗君ハッピーバースデー&当サイト3周年記念小説
珍しく。KID×コナンっす

花舞う街で  
32.


「今宵は素晴らしいご招待ありがとうございます。」
皮肉以外のなにものでもない言葉を笑顔で言ってしまえる厚顔さ。さすがKIDである。

「ばーろ。別にてめーを招待したんじゃねーよ」
「おや?では他にこのような場所に私を呼び付ける理由がおありですか名探偵?」
「けっわざとらしい。どうせ知ってんだろ」

横を向いて悪態をつけば軽い苦笑がかえってきた

「あいにくと本当に知らないんですよ」
肩をすくめた怪盗を訝しげにみやる
「あまり私を過大評価されても困りますよ名探偵」

それもそうだ。特に今日なんて自分の事で手いっぱいだったはず。自分に降り掛かった悲劇やテロの事なんて気にしている余裕はなかっただろう。
何となくこいつは何でも知ってるイメージがついてたな。思わずコナンも苦笑した。

「わり。普段のお前の態度からくる偏見だ。」
「わたしのせいですか」
「ああ、お前の日頃の行いが悪い」

怪盗にむかって日頃の行いもなにもあったもんじゃないだろうが。
大いに不服な怪盗だったが、そこで反論しても話が進まないと思ったのだろう一歩引いてやる姿勢をみせた。

「まぁそういう事にしときましょうか。それより最初の質問に答えて頂いていませんよ」
「その前にこちらから一つ質問していいか?」
「どうぞ」
「今日盗んだ石をどう思う?」

微かに眉をよせ

「どう、とは?」

あいまいな質問に尋ね返せば彼は不適な笑みを浮かべた。
「それこそどーせ知ってんだろ。お前の専門なんだからな。」

その言葉に先程から持てなかった確信をようやく持った。
もちろんそんな事おくびもださず肩をすくめ

「さすが名探偵おみごとな推理」

おみそれしましたと言ったように頭を下げてみせる。
「素晴らしい出来栄えですよ」
コワク的な表情を浮かべ本日の獲物を取り出してみせた。

「ああ。やっぱり天才だな。さすがJだ」
「・・・なるほどJでしたか」
ため息をつきながら納得する。

「とすると警察のしわざではなく、全くの偶然であると・・・」
「そうだ」

(うっわ。ついてねー)
心の中でペシッと額を叩いてみせるKID。

「ち、ちょっと待ってJって何よ?」

今まで呆然と二人の会話を聞いていた佐々木はようやく我に返った。
まさかキッドが本当に来るなんて思わなかったのだから、呆然と惚けてしまったことは仕方ないと思ってほしい。

むしろ二人の仲をぶち壊すかのように割り込んだ自分の勇気を誉め讃えて頂きたいもの
だ。

「Jと言うのは宝石のレプリカ作り専門屋ですよお嬢さん」
「れぷりか?じゃあそれって」
「ええ。まんまと一杯食わされてしまったようです」
己の失態に苦笑を見せる。
「仕方ねーだろJの作品じゃあな」
「はじめからご存じだったあなたに言われても慰めになりませんよ」
「いやさっきまで気付かなかったぜ」
それでも偽者を手にする前からコナンにはわかっていたということになる。

明らかに自分より上手だ。

「で?今度こそわたくしの質問にお答え頂けますか?」
「ああ。ここにお前を呼んだ理由な。深い理由は無いぜ。ただ・・・・・・・」


あごをクイッと上げ、不適に微笑むコナン。
その瞳は真剣そのもので、あまりの美しい蒼にKIDは思わず魅入ってしまう。

「あいつらに一泡ふかせてやりたくてな」

(うわっかっこいーー)
KIDが改めて惚れ直しちゃうくらい小さな探偵は素敵だった。

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33.

言葉の意味はさっぱりわからなかったが、相変わらずコナンが何かしらに巻き込まれたのだけは悟ったKID。
そんでもって自分もそれに見事に巻き込まれるだろうこともきっちり悟ったKID。


「もしや・・わたしにそいつらの居場所をさぐれとでも?」
「いや。場所はわかっている」

「では犯人を見付けながらも未だあなたが乗り込まない理由はなんです?」
それに苦虫を噛み潰したような顔を見せると顎でキッドを示した
「わたしですか?」
「正確にはてめーが持ってくる石に用があった」
偽物である事に気がついていても、さすがにそれ以上の情報は掴んではいないのだろう、KIDは白いシルクハットを斜めに傾けた。

レプリカの石に名探偵は用があるらしい。
そして関わっているのはJという男。
そこから導き出される答えは一つ。

「貴方が追いかけているのはJだったんですね。」
「そうだ」
それならこれがレプリカと知っているのも頷ける。
ようやく納得できKIDはほっとした。

さてさて。ここで問題です。
この小さな少年くん。
あのかなり裏で有名なJと言う男とどんな関わりを持っているのでしょうか?

いくらKIDの超人的な頭脳でもその解答は出せなかった。
考え込んだ様子のKIDに気がついたのだろうコナンはフッと小さく笑い、

「まぁたんなるお仕置きだ。気にすんな」
余計気になるっての。

「はいはーーーいっKIDさーん。あたし知ってまーす。この子の友達が悪の男どもにひき逃げされちゃったんでーす」
そこに会話に入れず傍観していた佐々木が勢いよく入り割り込んで元気よくとんでもない発言をかました。

「ひき逃げ・・・?」
これは穏やかでない単語が出てきたものだ。
コナンを振り返れば苦い顔で口にした

「歩美がな・・・」

十分に察した。
どうにも言葉を濁すと思えばそんな理由。
そりゃー軽々しくいえないよな。

しかも妹のように可愛がっているあの女の子がそんな目にあえば必死にもなるだろう。
ってことはー

「あのお嬢さんももしやそうとうお怒りでは?」
「撃ち殺しそうな勢いだった」

それはそうだろう。
「そういうわけでちょっとその石持って隣のビルまで付き合ってくれ」
「わかりました。お付き合いいたしましょう」

きっと「ちょっと」なんかじゃ済まないだろう事をわかっていながらKIDはあっさり頷いた。
何せKIDだって「お仕置き」の権利があるのだ。
よーくーも、このKID様にレプリカなんか掴ませがったなぁぁぁぁぁぁ。

逆恨みではないでしょうか?



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34.

亀田は走った。
ひた走った。
目の前建物の目の前まで超急がせてタクシーを走らせてみたものの、かなりのタイムロスは否めない。

真実、初めて乗ったタクシーという乗り物はあまり居心地のよい空間ではなかった。
車の中に知らない人と二人きり。
まるでエレベーターのような息苦しい空間である。
たまに口を開けばなんだかいかにもな世間話。
佐々木の破天荒さに慣れた亀田にとってはつまらない会話だった。

口を開けば「早くっとにかくどんな手を使ってでも時間を短縮してくださいっっ」
それしかいわない客に運転手はとうとう世間話を打ち切り、運転に専念した。
客を乗せてるとは思えない急発進、急ブレーキ、急カーブ。
とにかく運転手なりに頑張って客の注文に答えてみせたのだ。偉いよあんた男だねっ

その結果、初めて車酔いなんかかましてしまったカメちゃん。
亀田的にはブルジョワな乗り物は僕には向いてません・・
だった。
いや、普通はもっと丁寧な運転だからね。
諦めちゃだめよ。なんて諭してくれる人はこの場にはおらず、(亀田にとっては)法外な料金を奪われ精神的ショックを受けたところで
建物を見上げてため息一つ。


「ここの屋上って・・僕に上れってことですかぁぁぁ」

エレベータが動いていないいじょうそういうことになる。



そんな経過を経て、


「ああー!!!」
やっと追い付いたかと思えば最初に見た場面は、小さな子供を抱え地面から飛び立つキッドの姿。

ヒドイよぅ
あの子供とようやく会えると思ったのに連れ去っちゃうなんてぇぇ。

「キッドのバカァァ僕のタクシー代返せぇぇ」

持っていた領収書(一応もらっておいた)を握りしめ涙ながらにさけぶ。
無理もない。

それを眺めていた佐々木は

「60階まで猛ダッシュで駆けあがってきた根性は認めるけど」

ハァと頭を振って辛辣な一言。

「遅いっ」
「最短スピードです〜」
「キッドを見習いなさいっ」
「僕に空飛べって言うんですかぁ」
「・・・それは無理よね」
「無理です。大体なんですかっあの子供誘拐されてるんですか?」

そう見えるかもしれない。

「キッドがおちご趣味だった・・・なんて事になったら世の女性が盛大に嘆くわよ。」
「じゃあ」

あれはなんだ?と指を指す。
超絶に視力の良い亀田はしっかり目撃してしまったのだ。嬉しそうに子供を抱っこするキッドを。


「あれは、共同戦線をはった二人の友情の証よっっ」
「あの〜よくわからないんですけど」

佐々木にだって何を言ってるかわかっちゃいない。ただ、適当な言葉が見つからないのだ。

「友情が芽生えているようには見えませんし。むしろ・・・」
一方通行の愛が見える。
亀田。お前の目は確かだ。

「まぁいいわとにかく二人は隣の建物内の悪党を退治にむかったんだからあたし達も行く
わよっ」
「どうやってですか?」
「・・・」

頑張って駆けあがってきた60階を下り、また60階弱を昇れと?
恨みがましい亀田の視線を感じながら佐々木は空を仰いだ。

「うんっ移動中に決定的瞬間を逃したらもったいないものね。ここから見学しましょ」
果てしなく嘘臭い理由を口にした佐々木に亀田は心から同意を示した。
「賛成です」


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35.

「警察から連絡はまだなのか?」
「そんなすぐには無理でしょう。なにせ50名以上の犯罪者を一挙に釈放しろなんてむちゃな事言ってるんですよ。
上からの指示がいるでしょうし、何より向こうは爆弾を探すために時間を稼ぎたいだろうし」
「ま、見つかるわきゃねーけどな」

精巧なレプリカは見事なもので、どこから見ても中に爆弾が仕掛けられているなんてわからない。

「重さも調整しましたし、万が一疑われたとしても希少価値のあの石を割るなんて出来るわけありませんからね」

絶対見破られない自信を持ったJの言葉。
無理もない。
あの怪盗と、あの探偵が口をそろえて

「さすが」

と称賛する出来栄えだったのだから。

自分達の情報をチェックする為持ち込んだテレビが突然緊急ニュースに変わったのは次の瞬間だった。

「なんだ?」
「・・・KIDですか」
「うっわ。どのチャンネルもKIDのニュースがやってるぜ」
「まあ。視聴率が確実にとれますから」
「だからって番組占拠していーのかよっ」
ダダンっ机をぶったたく。
「仕方ありませんよ。まぁしばらくはKID関連しかやらないでしょうね」

Jに言われブスッと不貞腐れると勢い良くテレビを消した。

「貴重な電池をKIDなんかの為に使いたくねー」

この建物は当然電気が通っていない。
そのため乾電池式の小さなテレビを用意したのである。
音も悪いし画像も悪い。見ていて楽しいものではない。必要なのだから仕方ないと我慢して見ていたが・・・。
ああん?KIDだぁぁ?見てられっかぁぁぁぁっ。

そんな相方に肩をすくめるとポケットから石を取り出した。

「彼ならこれは見破れるんでしょうかね?」
「あ?さあな。普通ムリだろ」
「過去に一度私の作品を素人に見破られた事がありまして」
「は?素人に!?」
「ええ。苦い思い出です。それ以来初の作品なので」
かなり力が入っているらしい。

「まさか3年もこもって全力投球してたのって・・・そのせい、か?」
恐る恐る尋ねられた言葉にコックリ頷く。
「自分の未熟さを思い知らされましたから」




「んじゃさっさと行くか。つかまれよボウズ」
小さな声でコナンにだけ聞こえる声でそう告げる。
大抵二人のときはこうだ。
周りに第三者がいると、とたんにあの笑い出しそうな丁寧なしゃべりになる。
(器用なヤツだよなこいつも。)

カシャンとハンググライダーを用意したKIDに近づくと取っ手に手をかける。
それを包み込むようにKIDが取っ手を持つとグッと引いてそのまま空へと身を投げ出した。

初めてならば悲鳴をあげるだろう空気の抵抗に瞬き一つせずコナンもKIDも空を舞う。

「キッドのバカァァ僕のタクシー代返せぇぇ」

せっかくここまで追いかけてきた亀田が背後で叫ぶのが聞こえたが無視無視。
二人はまっすぐ目的地に向かって飛んだ。


フワリと向かいのビルの屋上に降りたった二人。
グラリと体制をくずすコナンをうまく支えたKIDはまたもや驚くほどのスピードでハンググライダーを畳み、どこかへと消し去った。

「そういえばこの石がどうして必要なのか聞いてなかったな」
その言葉にコナンは内心舌打ちをする。

(うまくごまかせたと思ったのに)

なにせ爆弾かもしれない物体だ。持ち歩くなんてもってのほか。
だが、これが爆弾か見分ける為に本人達にみせるのか一番なのだ。
でも自分で持つなんて怖いこと嫌だ。←わがまま

「行けばわかる」

よって答えを先送り。
さらには危険物はキッドにもたせる。
さすがである。


「まぁ俺はJを懲らしめれば気が済むから構わねーけど・・・もかして、本物の石はあいつらが?」
ピンポーン
答えはしなかったが無言を肯定と判断したキッド。
ひくぅぅい声でボソリと心意気を呟いた。

「それも当然返してもらわなきゃいけねーなぁ」


「てめーのもんじゃねーだろ」
思わずコナンは突っ込んだ。


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35.

「無事向こうについたようね」
「・・・僕には見えないんですけど」
コナンから餞別(?)にもらった双眼鏡で一人楽しむ佐々木に不服を述べる亀田。

「あらあんなにヒッついて・・・ふふふ」
そんな亀田を当然無視して怪しい笑いが佐々木の口から漏れ出た。
「ど、どういう意味の笑いですかぁ」
どことなく嬉しそうな佐々木に怯える亀田。もちろんまたもや無視された。

「そういえば佐々木さん。あの子供についてちゃんと聞きました?」
「え?ああ何か友達が跳ねられて復讐中だそうよ」
さらりと過酷なことを。

「いえ、そういう事じゃなくて名前とか」
ピキリ

「年令とか」
ピキピキ

「KIDとどんな関係か・・・とか」
少しずつ頬が引きつってくる佐々木の顔に亀田は手摺りにもたれた


「すみません愚問でした」
「うううー(涙)迂闊だったわ」
(いえ、もう迂闊のライン軽々高飛びしてますって)

「聞こうと思ってたのよっだけど先に事情聞いちゃって後に回してたらぁぁ」
「えーっと・・じゃあKIDはナンテ呼んでました?」
「え?KID・・・あの子の名前なんて呼んでたかしら?」
ううーんとひとしきり唸ってそれから

パッと笑顔を見せた。

「そうだわっメータンヘーっ」


「は?」
「きっとタンペイ君なのよっ」
「メーはいずこに・・・」
「うんっ間違いないっ」
佐々木はうろ覚えの事実を自信満々にいいきった





その頃たんぺー呼ばわりされた子供はすでに敵の懐へと侵入していた。

「ねぇーおじさん達歓談中悪いんだけど、忘れてる事無い?」
子供独特のソプラノの声が響く。突然の侵入者にまったく気付かなかった二人はその声に
勢い良く振り返った。
扉に持たれかかってねめつけるようにこちらを見る大きな眼鏡をかけた小さな少年が一人。
手足がポキリといきそうなほど細い。
その見るからにひ弱な子供は脅えたようすも見せずまっすぐに二人の大人を見つめている。

蒼い瞳・・・。
憤りを込めたその瞳に覚えがあったのはJのほうだった。

「あ・・・」
「なんだお前の知り合いか?」
「貴方も知ってますよ。昼ごろに・・」
見たでしょう?
促せば首をかしげて見せる。

昼?
ひる・・・・


「ああ?っあん時のガキかっ」
合点言ったと言うように嬉しそうに手を叩いた。
だがすぐに
なんでこんな所いるんだ?驚愕の思いをみせる。

それに子供は笑顔を見せた。
ひどく冷たい笑顔を。


「おじさん達が忘れてるから・・・わざわざ取り立てに来てあげたんだよ」

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

35.

その少年はあくまで静かな声音でそれだけ言うと
いきなり攻撃をしかけた。

「悪いことしたら」

腹からサッカーボールを生み出す。
まさしく突然膨らんだボールに驚きにとまっていた二人。


「ごめんなさいだろーがっっ」


容赦無い蹴が炸裂する。
怒りが浸透していても冷静な頭は作動している。
まず最初は攻撃力の高そうなテロ男だ。

は?

と目をみはる間に隣の相方が吹き飛んだ。それを思わず見送って青ざめる。

何だアレは?

蹴りの威力についてか、少年そのものについてかは分からない。
とりあえず恐ろしいものを見た、とばかりにただ、ひたすら少年を凝視した。
かなり頑丈なのだろう。
普通の大人なら一撃で撃沈する蹴りを受けながらフラリと身を起こそうとした日高は、
脳震盪を起こしているのか、そのままヘタリと壁を背に座り込んで呆然と小さな子供を見詰めていた。

それを見届け、Jは心底思った。
(私じゃなくて良かったっっ。私なら一撃で死にますっっっ)
自信満々に。情け無いことを。

「あのですね。大人になってもごめんなさいの一つ言えないって恥ずかしくないですか?人としてどうかと思いませんか?なあっそこんとこどー思う?」

あくまで静かに静かに。
だからこそ余計に漏れ出る怒りのオーラが恐ろしい。

扉の影で聞いていたKIDが密かに蒼ざめていた。

(切れてるっっ。名探偵が完全に切れてるうぅぅぅ)

怖いよう。
久々に恐怖を感じた。

「あ・・・」
何か言わねばと思ったのだろうJが口を開けば

「そこの、ガキぃぃ。これが目に入らねーのかっ」

復活したのか未だに床に座り込んだままの日高が目の前に掲げた大き目のトランシーバーのような物体。


(なんだ?)
KIDは小首をかしげた。
詳しい事情を聞いてないのが悔やまれる。


「何それ?」
わかっていながらコナンはわからないフリで尋ねかえした。

「知らないのか?ってああ、まだ報道されてなかったな。」
一人納得したように頷く日高。

なにせ爆弾がしかけられたなんて知らされたら近辺住民は大パニックだ。
それでももう少ししても爆弾が発見できないようならば警察は即座に住民を避難させるだろう。

「これはな。爆弾の起爆装置だ」

勝利を確信したかのごとく日高は笑い出す。
何せこれさえあれば警察だって手も足も出ないのだ。
気分も良いことだろう。

「起爆?」

「俺たちはある場所に爆弾を隠した。お前がアホな事しでかしたらこれ押して、そこらへんの住民が死ぬんだよ。」
お前のせいでな。

「わかるか?」

「ふぅん」

あまり効果のなさそうな反応に日高はカッとなる。

「お前っ」
「まあまあ。まだ子供ですからよく分かってないんですよ。一時の激情は身を滅ぼしますよ」
掴みかかろうとした日高をJが諌める。
下手をしたら勢い余ってスイッチを押しそうな日高から念のため起爆装置を預かっておく。

「それって何に仕掛けたの?」
「言えねーなぁ」

「それってどのくらい凄いの?」
「このビルと周りのビルくらいなら吹き飛ばせるぜ」
「・・・・」

考え込む様子の子供にようやく恐ろしさが分かったかと日高は嬉しくなる。

「おじさん達さ、今日KIDがなんの宝石盗んだか知らないでしょ?」

「「は?」」

「そのボタン押してみる?」

コクンと首をかしげあっさり恐ろしいことをのたまった子供に二人はつっこんだ。


おいっ。

いや、もう一人突っ込んだものがいたようだ。
「あのですねぇ名探偵。さすがにそれを促すのはどうかと思うのでお邪魔させて頂きますよ」


「・・・・・・・かっっっっっ」
「噂のKIDですねぇ」
驚きのあまり声も出ない日高の代わりにJがその名を口にする。

「ずいぶんと卑劣なことをなさりますね。子供は撥ねる、爆弾は仕掛ける。」

「お前は一体なにしにきやがった!!」

「いえ。ただ、この方に同行を願われまして。それで?もしや名探偵。私が持っている石が"そう"だと・・・言ったりしませんよね?」

もしそうだと言うなら、さっきの挑発はまさしく命がけ。
お前はいいのかもしんねーけど巻き込まれる俺が可哀そうだろ?
なあ?

「言うけど」

うっわ。あっさり肯定されちった。

「だからここまで黙秘を通してこの石を私に持たせて来たんですね・・・・」
あー。
やられた。


ポンッと煙幕とともに取り出して見せた宝石に二人の犯罪者は気が遠くなりそうだった。
日高の隣にJも力無くへたりと座り込んだ。


「「なんでそれがここにっっ」」


それを見てこの石が爆弾であることを確信したコナンは満足そうに笑った。

「KIDが盗んだから」
「名探偵が持って来いとおっしゃったからです」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

36

「あーん。何やってんのかしら?よく分かんないーーー」
「僕なんてもっと分からないですよ」

ぷぅと膨れてみせるが佐々木は絶対に双眼鏡を譲ってはくれない。
つまーんなーーい。

ちぇっとふて腐れていると突然に佐々木の携帯が鳴り出した。

「カメちゃーん。ちょっと出てくんないー?この着メロあのバカ編集長のなんだわー」
出たくなーい。

と鞄から携帯を取り出し亀田に放り投げる。

「僕だって編集長とあんまり話したい気分じゃないんですけど」

思わず受け取ってしまった以上しかたない、大人しく通話ボタンを押してみる。

「はい?亀田です」
『亀田?佐々木のヤツはどうした』
「隣で必死に覗きをしてますー」
「あっカメちゃんっなんてこと言うのよっっ」
「ホントの事じゃないですかぁ」

『人の電話を亀田に任せて・・・覗きとはいい根性だ。』
「ええ。佐々木さんの根性は素晴らしいと僕も思いますよー」
『・・・・とりあえずそれは置いておいて。さっき緊急のニュースが入った。○×区のどこかに爆弾が仕掛けられたらしい』
「はい?爆弾!!?」
亀田の叫びに佐々木は振り返った。

「ええっ何?カメちゃん爆弾がどうしたの?」

「そ、それって一体どこに・・・」
『詳しい事情はまだだ。後ほど警察から報道関係に緊急会見を開くらしい。』
「は、犯人はいったい誰です?目的は?」
『犯人は二人。』
「ふ・・二人ですね」
『日高成治と霧島雄吾。霧島のほうは通称Jと呼ばれるレプリカ作りの天才らしい』

「ひだかせいじ、ときりしまゆうご。通称J・・・・」
忘れないように繰り返す。
「先輩っっメモっメモ帳下さいっっ忘れますっ絶対忘れます僕っっ」
「え?ちょっと待ってよ。何がどうしたのか説明しなさいよっ」

「えー繰り返しますよ編集長。メモって下さいよ佐々木さん。えー本日○×区内に爆弾が仕掛けられました。犯人は二人。名前はえーっと・・・」
『日高成治と霧島雄吾。霧島のほうは通称Jと呼ばれるレプリカ作りの天才だ。時間が勝負だ緊急会見前に調べれるだけ調べてこい』
「了解です。じゃあその二人について至急調べますね。はーい。」
ぷっつり通話を切れば目の前で佐々木はメモに書き込みながら首をかしげていた。

「レプリカ作りのて・ん・さ・い・・・っと。うーん。聞き覚えが・・・爆弾にレプリカ作りのJに○×区・・・」

えーっと
確かあの子、爆弾テロがあそこにいるって言ってたわよね?
それからKIDが偽者つかまされたとかなんとか・・
あとーえーっと。

なんであの子がKIDの持つ石を待っていたのか。

それって・・それって・・・・

「今日のKIDの現場って○×区だったわよね?」
「ええ。あっ偶然ですねぇ。同じ区ですよ」

亀田の言葉に見た目より聡明な佐々木が答えをはじき出した。


「か・・カメちゃぁん。スッゴクいやな予感があたしの頭を横切るの・・・」

「なんです?」

「とにかく至急ここから逃げたほうがよさそー。あそこに爆弾テロの犯人と爆弾が存在するっぽいのー」

指差した向かいのビルに目を一瞬やり、それから佐々木に頷いた。
亀田は知っていた。
恐ろしいまでの佐々木の感のよさを。
佐々木がそう言うならきっと「そう」なのだ。

「即座に逃げましょう」

二人は一斉に駆け出した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

37

は・・・ははは。
もう笑うしかないといった様子の日高。
かなり可哀想かもしれない。

「いや、もうなんだか数ヶ月前を思い出す・・・」
現実逃避だろうか?
それにJも付き合う。
「あの一斉検挙の時ですか?」
「凄かったぜ。あの時の指揮。もうまさしくネズミ一匹逃さねーって感じで。」
「貴方は逃れたんでしょう?」
「あれはただの運だ。」

「なるほど。ぜってーに爆弾作りに関わってた人間は逃さないように気をつけたのにそういうことか・・・」
ボソリと呟く子供の言葉に隣にいたKIDは誰が指揮を執ったのか理解した。


「知ってっかKID?工藤新一ってークソガキ」
「ええ。存じてますよ。私が認めた生涯のライバルです」

穏やかに答えられ日高は苦笑する。

「あいつだけは敵に回したくねー。俺はそう思うね」
「同感です。私も思いますよ」
Jまでもが頷く。

「・・・・まさかお前3年前の・・・」
「ふふ。まさかこんな偶然がって気がしますけどね。ええ、そうです。3年まえ私の偽者を見破った素人は工藤新一ですよ。まだ中学生でしたか?まさかこんな子供にって・・・。いえ。もうショックのあまり引きこもってしまいましたよ」


「「・・・・・・・・」」


コナンとKIDは思わず黙り込んだ。
KIDはコナンをチラリと見て、
コナンはあらぬ方向へと視線を走らせていた。

あー・・・・あれか?
それともあれか?

思い当たるフシがあり過ぎるらしい。



「それにしてもまさか貴方も彼に関わっているとは思いませんでしたよ」
「表だっては警察が動いてたんだけどな、あんまりにも効率がよすぎる検挙だもんで調べたんだ。はっ。おどれーたぜ。一介の高校生が裏で手ぇまわしてやがった」

そりゃ驚くでしょうとも。
KIDも内心ふかぁぁぁぁく同意をする。

「それはもう、実に狡猾な手口だったぜ」

しみじみ語る男にコナンは
(手口って俺は犯罪者か?)
もう一撃蹴り飛ばしたくなった。

「恨んでらっしゃるのですか」
KIDの言葉に、だがしかし二人はあっさり首を振った。

「あ?あそこまでグウの音が出ない手でこられたらいっそ爽快だぜ。むしろあのガキを巻き込んだ俺たちの運が悪かったって事だな。ありゃー災害みてーなもんだ。」
「全くですね」

犯罪者にそこまで言われる探偵っていったい・・・
あー落ち込んでるかな
横を見れば肩を震わせた子供が一人

子供はズンズン二人に近づくとゲシッと一撃ずつ蹴りを加えた。

「ざけんなぁぁあ善良な一般市民に迷惑かけてる分際で探偵を災害呼ばわりすんじゃねーーーー!!!」
あら、怒ってたのね。ちょっと驚いた。

善良な一般市民とやらに自分をさりげに混ぜてるのかは、さすがのキッドにも判別つかなかったが、多分彼は自分の過去が暴露されたのが非常にいたたまれなかったに違いない。
それだけは判った。

「人がおとなしく聞いてりゃグダグダうるせぇんだよ」

いえ、全然おとなしくなかったっす
真っ先に攻撃しかけたのどこのどなたっすか〜?
未だに吹き飛んだほうは立ち上がれないようですけど〜?

快斗ならば突っ込んだだろうが紳士のKIDなので心の中に秘めておく。
うわーむっちゃ突っ込みてぇぇ
口元がむずむずする。


「悪いことをしたのはテメーらなんだからおとなしくお縄につきやがれ!!!」

ビシイっと指をつきつける
(かっちょいー♪でも今お前「てめーら」の中にさりげなく俺も混ぜたでしょ)
なにげに失礼な子供は頬を紅潮させ肩で息をついている
碧の瞳がいつも以上に強く輝く

小さな身体に、これでもかと漲る強い意思。

ああ。
見ているだけで胸が熱くなる。
自然と口元に笑みが浮かぶ。

出会えた喜び。
横に立てる喜び。
歓喜に満ち溢れる心を押さえる事が出来ない。
こんなに可愛くてカッコイイ探偵なんてこいつくらいだ。

思わず跪いてコウベを垂れてしまいたくなる衝動と戦いながら、油断なく目の前の悪党を見据える子供に目を細めた。


突然ぶちきれた子供の気迫に負けて遠慮なしに踏みつけられていた二人はしばらく呆然と蹴られていたが、ようやくはっと我に返り立ち上がった。

「霧島っ」
「ええ。分かってます」

二人は窓に走り寄ると止める間もなく勢いよく飛び降りた。
迷い無い動作から予定通りなのだろうが・・・
おおー息ピッタリ〜


となると今までの現実逃避めいた戯言は単に体力を回復するための時間かせぎだったってことか。

(なるほど、なるほど〜)

以心伝心な二人の仲と、予想以上に頑丈な日高の体に思わず感心してしまった。

(いやぁ。あれまともに受けたら俺ですら一日はへたり込んじゃうってのにねぇ
そう考えると名探偵って人間兵器だよねぇ。・・・・でもさぁ)

KIDは二人が飛び降りた窓へ近寄り、ヒュウと風が吹き抜ける階下を見下ろした。


・・・・・ここ57階ですけどー


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