光のかけら15
「動機は敵討ち。」
だよね伊瀬さん?
「敵討ちだと?」
伊瀬が答えるより早く意味を計りかねた佐久間が尋ねる。コナンは驚愕する伊瀬の顔を見つめると一瞬つらそうな目をした。
「ま・・待ってくれコナン君。どういう事なんだ一体?敵討ちって一体だれの?」
「社長を殺害した動機は敵討ち。あなたの・・・家族の仇討ちですね。」
佐久間を無視して伊瀬だけを見つめる。
「・・・・」
返事がないのが肯定の印なのだろう。
そんな伊瀬を佐久間が胸ぐらを掴みあげた。
「どういう事だ伊瀬っ。お前の家族って光ちゃんとか未来さんの事かっ。何があった?言え!!!」
「佐久間さんっ」
「コナン君っ冗談だろ?なあっ嘘だって言ってくれよっ」
今度はしゃがみ込みコナンに掴みかかる。そんな動揺あらわな佐久間にコナンは傷む胸に気付かないフリをしながら佐久間の肩に手をおいた。
まあ、伊瀬の家族と懇意だったという話を哀から聞いている事もあり、こんな展開は予想していたが。
「言ったでしょ真実を話すって。」
混乱をきたした佐久間に真剣な瞳で答えるとコナンは伊瀬へと向き直った。
「社長を殺す気ではなかった・・これだけは本当のことだよ」
「伊瀬っっ」
「佐久間さん黙ってて」
コナンに落ち着き払った口調で叱られ慌てて口をつぐんだ佐久間。
しばらくして、何故素直にその言葉に従ったのか首を傾げながら伊瀬を見つめたままの小さなその背中を見つめた。その小さな背中から尋常でない空気が流れていた。
背筋を嫌な汗が流れた。身震いするような空気。
彼は今闘っている。
自分の3分の1くらいしかないようなこんな子供が持ち得る筈のない気迫が見える気がして佐久間・・・そして周りの誰もが緊張を強いられた。
その緊張感がピークに達した頃、伊瀬はようやくとつとつと語りだした。
隣りの部屋で書類を探していた伊瀬はそこである物を見つけてしまった。
「私の妻と娘の名前が被害者リストに載っていたんだ。日付は事件の2日前だった」
その言葉に佐久間が目を見開く。被害者リスト・・・唇がそっとつぶやく。脳に浸透するまで時間がかかったのかしばらくしてからようやく口元を押さえた。
それに伊瀬は哀しげな瞳を向けると話を続けた。
薬を使用した人物名は空白だった事から社長であると判断した。
多分間違っていないだろう。
「あまりの驚愕に二人の口論すら耳に入らないほどだったよ。そのままそこで呆然としていたら社長のうめき声が聞こえたんだ。それから下手な英語とその後佐久間・・君を殺してでも書類を手に入れろという声が聞こえた」
慌てて社長室へ行くと社長は伊瀬を見てさらに手に持っている書類を見て全てを悟ったらしい。
『お前らグルだったのか』
正確には違うがそうとも言える。いやその時はそれに答える気も起きなかったけれど。
『社長これは・・どういう事なんですかっ』
『見たまんまだ。お前の妻は少々めざわりだったからな。』
『なっっっ』
『大方お前が残した日記でも読んだんだろう?電話を連日掛けてきては夫を帰せやら警察に訴えてやる・・やらうるさくて仕方ない』
『だから・・・殺したのかっ』
『そうだ。』
「すでに警察に訴えても無駄なことを妻は承知していたのでしょう。下手をすれば証拠をすべて握りつぶされる。だから無謀と知りつつ社長に直訴に出たのだから。」
本当に無謀な事を・・・。
自分たちが開発した毒は無味無臭。まだ完全とは言えないが毒と気付かれないように
実験を重ねてある。うまく作用していれば毒は発見されず、心臓発作等で片づけられる。
はたまた突然死。ガス中毒などまったく理解に苦しむ死因を書かれているかもし
れない。
この自分が持っている書類さえ世にでなければこの男は罪に問われる事がない。
それを知っているからの余裕の顔だったのだろう。
高宮義之は言った。
『お前の大切なお友達の佐久間。あれはいかんな。
あれも殺すのが当然だが、今回だけは特別にその書類を渡せば見逃してやろう。
その書類を私に返してすぐに捕まえにいけ。
外に情報を漏らさなければ今回の事は不問にしておいてやる。』
そう言ったその男の目は明らかに笑っていた。
「多分・・例え言われた通りにしたって結局二人まとめて殺されていたと思うよ」
「うん・・そうだね。あの男の目を見て私もそう思ったよ。それでカッとなって殴りつけてしまった・・。」
うつむき地面を見つめる伊瀬にコナンは唇をかみしめた。
こういうときに何を言えばいいのか。分かっている。それが心からの言葉であれば響くだろう。口先だけの言葉なら間違いなく激怒される。
今の正直な気持ち。それは目の前の哀れな男を助けたい。それだけだ。
「僕はあなたじゃないから気持ちは分かるとは言えないけど同じ立場なら同じ事をしてしまったかもしれない。
多分あなたは衝動的に灰皿を握ってしまった。殺意がどうの言う前にとにかく目の前の男を許せなかったんだよね。だから殺すつもりでは無かったというあなたの言葉信じるよ。」
罪を認めてスッキリしたのと、穏やかな子供の声。
静かな静かな声音のコナンに伊瀬は昨日の事を思い出して荒れていた心が少しずつ静まって行くのを感じた。
この子の目を見ていると思う。
本当に見た目通りの子供なのだろうかと。
深い深淵を覗くような瞳も、ゆっくりとした落ち着いた声も、この惨劇にふさわしくないほど穏やかで、同時に強い威力を持っていた。
「ごめんね・・こんな事語らせて。」
悲しげな瞳でそう囁かれ伊瀬は小さく首を振った。
「それはこっちのセリフだよ。ごめんね。こんな事したくないよね。」
真実を見つけるというのは己の強さを必要とする。
探偵というのは見つけた後にそれを公表する勇気のある者への称号だと伊瀬はコナンを見て思った。
もし自分が、誰かがこんな事をしたのに気付いたとしてそれを突きつけられるかと聞かれたら答えは『ノー』だろう。
自分にはそんな勇気もそんな強さもない。
犯人からの恨みを抱えて、犯人に近しい人からの恨みも受け、なにも良いことなどないではないか。知らないフリをして忘れたフリをして何事もなかったかのように流れていったほうがどんなに楽か。
伊瀬はずっと探偵という職業は英雄みたいなものだと感じていた。
人々の尊敬をうけ、人々に頼られ、なんでも出来るヒーローだと。
しかし今目にしている一生縁がないだろうと思っていた探偵という人種。それが目の前にいる傷ついた瞳を見せるこの小さな少年である事に疑問は感じなかった。
自分が初めてみた探偵はこの小さな少年だ。生まれて初めて、そして最後にみる探偵。
それがそこらの自称探偵やへなちょこ探偵で無いことが嬉しい。
そしてこれからもこの小さな子供がこんな事件の渦中へと巻き込まれ傷ついていくのだろうと思うと哀しく思う。
『eagle eye』探偵を示す英語は数多くあるけれど。この子はこの言葉が一番似合っている。eagle=鋭い眼力。
全てを見つめ、物事の本質を見つける瞳を持つ子供。
「あのね。僕も、途中まで佐久間さんを疑ってたんだ。行動がとても怪しくて、なにか隠してる風だった
から。それに社長さんを見つけた時亡くなっていたことよりあそこに彼がいたことに驚愕している
様に見えたから。」
哀しげな瞳をひっこめ、探偵としての仕事を更に続けるコナン。それに伊瀬はコナンの強さに感嘆の思いを抱く。
やっと混乱が落ち着いたのか(というより混乱しすぎて憔悴した)地面から立ち上がった佐久間はびっくりした顔でコナンを見た。
「気づいてたのか。ああ、そうだ。俺が殺したと思ってたからさっきまで。今朝君に僕が犯人じゃないと言われてもそれでも信じられなかった。」
でもそれを黙っていたのは社長をあそこまで運んだのが伊瀬さんだと気づいたから。
彼には家族がいる。
彼が犯罪の片棒を担いだと知れたらもちろんただではすまないだろう。伊瀬さんの家族にまで被害がおよんでしまう。
「佐久間さんの話だと社長の死因は後頭部の強打だよね。でも僕が調べた死因はどう見ても
前頭部への衝撃・・・。それと佐久間さんがこっそり社長さんの手から取り出した小物も
あなたが犯人じゃないかなと思った理由の一つだよ。」
小物とコナンが言った言葉にピクリと反応する伊瀬と佐久間。
「小物ってまさか・・・。」
「ああ。お前の大切な宝物だよ。」
佐久間がポケットからそっとビー玉を取り出す。少し血がついている。それが決定的な証拠なのだ。
社長が残したダイイングメッセージ。
ビー玉。そこから連想するものは子供だろう。
しかも小さな・・女の子だ。
大人が持っていてもおかしくないかもしれない。
だが佐久間があそこまで必至に取り返したくらいなのだからただのビー玉と違う。もしかすると娘さんから貰ったものなのかもしれない。そこまで考えて、コナンは服部に頼んだのだ。
この会社で小さな娘を持っている社員を探してくれ・・・と。該当者はたった一人。伊瀬だけだった。助ける為に必至で隠したそれが決定的な証拠となってしまったのは皮肉な話である。
「ちょっと待って佐久間さん。」
「ちょっと待って下さい。」
コナンの言葉と白馬の言葉が重なった。伊瀬にビー玉を渡そうとしていた佐久間の手が止まる。
コナンと白馬を交互にみやるとコナンに尋ねた。
「どうしてだい?コナン君。」
「今はまだ理由は言えないけど、少しだけそれを伊瀬さんに渡すのを待ってくれないかな?」
「あたりまえです。それは重要な物的証拠です。犯人である伊瀬さんに渡すわけには
いきません。」
はーくーばぁぁ。てめぇ人間として間違ってるぞ。
白馬に据わった目を向けるとその隣にいた少年が社長の机に座っていた腰をあげ、近づいてきた。
思ったより上背があるな、とか背筋が伸びているななど感じる前にその男の気迫にただならぬ者を感じた。そして顔がしっかりと確認できる所まで近づいてから驚愕する。
よく見たらこいつ・・・・。
俺にそっくりじゃねーかっっ。
叫びださなかったのが不思議なくらいビックリした。
今推理ショーをやってることすら忘れてしまうくらい。
うーわー。近くで見れば見るほどそっくりだぞ。鏡見てるみてー。
あーでもなんか髪の毛つんつんしてるなこいつ。
じっと見つめる俺を睨み付けてくるその少年(って言っても同い年くらいか?)
はどうすれば良いのかわからず固まっていた佐久間の手からビー玉をそっと奪った。
「違うだろ。白馬。お前ら探偵にとっちゃこれは大切な証拠品なのかもしんねー。
でも違うだろ?今お前は頭が少し混乱してるだけだ。しっかり考えろ。
これは伊瀬さんにとってどんな物なのかを。」
俺が言いたかった事を言ってくれる。でもちょっとまてお前らって俺も入ってるのか?
俺が佐久間さんの手を止めたのは別の理由だ。一緒くたにして欲しくない。
「わかってますよ。伊瀬さんの大切なものなんですよね?でも証拠品を
彼に渡したら―――――」
「バーロー。自白したやつが証拠を消す必要ねーだろ。伊瀬さんはそんな事しねーよ。」
強い言葉が部屋の中に響き渡った。
あとがき
謎解き謎解き。いいですか皆さん サラーーーーーーーと流して読んで
下さいね。深いところまで考えていないので。
やっと書きたい部分の一つが書けました。長かったです。
コナンの最後の一言がそれです。
これ書きたかったんですよね。バーローって。
あとは次回の快斗君の行動も書きたかった物の一つ。
ようやく書けます♪
しかし書きたい事書くのに15話までこないといけないなんておかしな物ですね。
どこか間違ってますね。ようするに前振りがぐだぐだ長いんです。下手だから省けないんです。
なんで彼らはカレーなんぞ作ってたんでしょう←どうやらそこから間違えていたらしい(笑)
うーん。摩訶不思議。
By縁真
2002.4.29