この物語はフィクションです。
登場する国はすべて作り物。いわばファンタジーと思い込んでください。
深く考えずさらりと流して読んでください。
お願いします。


ある小さな小さな国のお話です。
花の王国と謳われたその国では、その名のごとく季節折々の花たちが溢れかえっていました。
中でも薔薇の栽培には力を入れており、どの家も必ず薔薇を育てているほどです。
王は様々な品種改良を繰り返しより美しく、より長持ちする薔薇を求め続けました。
こうして薔薇の名産地として名をはせ、花の国は沢山の観光客により護られてゆきました。

しかし

鉱山が発掘され、そこでとれる鉱物に法外な価値があると解った何代目かの王は即座に花の育成を打ち切り宝石の国へと変えてしまいました。
今はもう薔薇のように手のかかる花は国内で見かけることはありません。
ここはもう石の国になってしまったのです。




「うーーーーどうすればいいのじゃっっわらわ人生最大のピーーーンチかもしれないのじゃーーー」
中華系の袖の長いドレスを着込み、腰を太めの紐で縛る。簡素だが赤という派手な色のせいか実に豪勢に見えるいでたちだ。
長い裾には両側にスリットが入っており中にはぶかっとしたズボンを履いている。
赤いドレスに黒い紐と黒いズボンそれに赤い扇子で口許を覆うその人物はひじを机についたまま思案に暮れていた。

『かもしれないというより大ピンチなのでは』

背後からの冷静な突っ込みに彼女は思い切りよく振り返った。
怒りに頬を染めたその顔は一流の蝋細工師が作ったかのように整っており、その肌は透き通るような白。
唇にはピンク色の紅を。
そんな彼女は、どーーーー見繕っても10代・・もしくはそれ以前の少女にしか見えなかった。

日本語で叫んだ彼女に対して母国語で返してきたのは20代半ばか、後半かと思わしき青年。
精悍な顔立ちと落ち着いた雰囲気。
何事にも動じませんっといった様子をみせるその青年はこの少女の側近だった。

『わかっているならお前も考えろ。サフィネル・グレイっっっっっ』
少女は精巧な文様が彫られたいかにも高そうなイスの上にちょっこり立つとびしぃぃっと青年に偉そうに指を突きつけた。

『考えてはいるのですが中々と。そうそうそろそろ勉強のお時間ですとお知らせに伺ったのですよ私は』
勝気な少女に相手は顔色1つ変えずシレッと返す。

『今日はパスっっ』
『少しでも多くのことを学びたいとおっしゃっていたではありませんか。次期・・・いえ、もう国王になられるのですから』
『そうだな。それも戴冠式さえできれば・・・の話だけどな』
それに必要な宝石が失われた今となってはそれは難しい話となってしまった。
どうなっちゃうんだろうかこの国は。

国王になる予定の少女はぐでーと机に突っ伏し盛大な溜息をついた。
それからゆっくり顔を起こすとうむ、と1人頷いた。

『仕方ない。最終手段を使うしかない。』
『はい?』
『日本にあることわざだ。「餅は餅屋」とな。ようするに宝石を盗まれたのなら盗み返せばよいっっっ』
『・・・具体的には?誰に盗まれたかも解っていないこの状況でどうするのです?』
『うむ、だから宝石専門のあの怪盗にお願いするのだっっっ』
『・・・・・まさか・・・』
珍しく驚愕を見せたサフィネルに少女はにんまり笑った。

『サフィネルよっ命令じゃ。混濁したこの世を浄化する白き輝きを手に入れに行くぞっっ』

女王様の命令は絶対だった






赤いバラが咲いた小国 1





「まったくさー。コナンちゃんは人使いが荒いよねぇ。」
知ってはいたけどさぁ。
ブツブツ呟きながら歩くのは1人の見目麗しき青年。
いつもとは雰囲気が違い、少年っぽさを控えめにしている。

「そりゃさー。そりゃさー。俺の方はなんとかなったしぃ。コナンちゃんのおかげだけどさー」

黒羽快斗。

江戸川コナンを愛してやまない変態・・・もとい恋する青年である。
時々彼は思う。
(もしかして俺って片思い?)
それはコナンと神のみぞしる話であろう。
ちなみに怖いので快斗が本心を聞ける日が来るとは思えない。

さて、そんな彼、本日はいつもと違ったいでたちをしていた。
制服である。
「っつかなんで俺が行かなきゃいけないのー」

帝丹高校の・・・であるが。


本日、彼は『工藤新一』としてこの場に存在していた。
キッと『校長室』のプレートを見あげ軽く戸を叩く。

「校長。工藤です。」
「ああ、待っていたよ入ってくれ」


つい昨日、江古田の校長を大喜びさせてきた快斗である。まさか次の日に他の学校の校長にもお目にかかれるとは思いもしなかった。
そう、あのおかしな大会が終わって、事情聴取に警察に連れて行かれたその帰り。
コナンがいきなり言い出したのだ。
「あーそういや快斗。明日帝丹高校に行ってくれ」
「はい?」
「何が起こるか分らなかったから行けたら、と言ってはおいたんだけどな。どうやら明日はなんとかなりそーだし」
「いや、何のために俺が行くわけ?」
「・・・・・そりゃお前、工藤新一の進級の為に決まってんだろ」

当たり前。
と胸を張って言われたその言葉。

黒羽快斗よりよっぽど進級の危機の彼である。そりゃ当然だろう。
しかも目の前にとっても使える人材がいるのだコナンが使わないはずが無い。
だがしかし快斗には激しい疑問が1つ。

とっても素朴な疑問だ。

「ってかコナンちゃん・・・。まだ進級諦めてなかったの?」

失礼ながら本当に不思議でたまらなかったのだ。

しかしそれはかなりの地雷だったのだろう。コナンは一瞬で絶対零度の空気を快斗にぶつけてきた。
「ほほーーぅ。それは何か。俺には希望1つ持たせないというお前の冷酷な心から出た言葉か?それとも戻れるわけが無いというお前その面白可笑しい素敵なIQがはじき出した絶望の言葉か?はたまた・・・冗談でいってんのか?」

1つ1つ。ゆっくりと。胸に痛い言葉である。

「や・・・あの・・・。すみません。冗談でしたー」
その選択肢しか許してくれないという空気をきっちり快斗は感じ取っていた。
もちろんそれ以外を選んだときどうなるか・・・なんて考えたくもない。

「だろうな。ってことで頼むな明日」
「・・・はぁぁい」


という経過の末、今ここにいる。
って言うかさ。俺思うわけよ?コナンがどうにか進級したくてもさー帝丹の校長しだいじゃないの?
それでダメって言われた時、俺はコナンちゃんの八つ当たりうけるの決定?
それって理不尽ですーー。

そんな気分でやってきたわけだから、楽しいはずもない。
快斗は目の前に座る校長をジッと見据えると深く息を吸い込んだ。

「長らく登校できませんですみませんでした」
「いやいや、君が事件で忙しいのは分っているよ」

校長はとてもニコヤカである。さぁどうでる校長?
サクッと「だからもう辞めてはどうかな?」と来るか、「どうにかしてあげよう」と温情を見せるのかっっ!!
それに俺の明日が掛かっているっっっ。
冗談でなくかなり真剣である。

だがこの際、校長から退学を言い渡されるより、潔く身を引いたほうが工藤新一の株をあげるだろう。
だからこそ賭けにでるつもりで来たのだ。

「いえ、事件といえども本業は学生の身。この先もどうなるか分らないというのが現状です。このまま留年するぐらいなら潔く大検をうけようかと考えているしだいです」
むしろそれが工藤新一の為では?と快斗は思う。
たとえ、どんなハイスピードで解毒薬が出来たとしても、組織を潰すまでは表に出れないのが『工藤新一』だ。
たかが一年程度であの組織をどうにかできるなんてコナンだって思っていないはず。

多分昨日彼が言ったとおりに『希望』なのだろう。

だから快斗はそんなコナンの心情を思って泣きたくなったりする。
幼なじみと学校へ通う。
そんな普通の生活すら出来なくなるかもしれないのだ。
高校の友人と遊びに出かけたり、つまらない授業を受けたり。
そういうものをすっ飛ばして、大学に入る事になる。

多分そうなる。

それが現状だ。

こんなことしても無意味なのに。
でも希望は1つでも多く持っておきたい。
来年の進級の事は来年考えればいい。
今はただ・・・・あの同情すらさせてくれない強い心の少年のために出来ることをしてやりたかった。


「やっっ待ってくれ工藤君!」
慌てたような校長。実に良い反応である。・・むしろ驚くほどの反応を返してきた。
「君目当てに入学してくる生徒が沢山いてね、君が退学するのは正直なところ大変困る。」
だろうねぇ。
ソレがあるから快斗は賭けにでれたのだから。

ってかこの校長ぶっちゃけ過ぎない?フツー生徒に言う?いや、他のやつだったら天狗になっちゃうほどの褒め言葉か。
新一と快斗にとっては呆れ返るようなその発言だが。

「今年は特に江古田にも名物がいるから大変なんだ。むしろ君がいなかったらほとんどあっちに持っていかれるだろう」
近隣の同レベルの高校というものは最大のライバルだろう。
いわばいかにして向こうより多くの客(生徒)を取るか、戦いである。

「ああ、もしや白馬探偵ですか?」
KIDを追いかけてやってきたというハンサムなロンドン帰りの探偵って有名ですよね。
(天然だけど)
と心で付け加えてみせたその言葉は即座に否定された。

「いや違う。あそこの名物はお祭り少年の黒羽という生徒だよ」
「は?」
俺ですか?
素で驚いた。そりゃ確かに校内で有名だけど、そこまで?
さすが俺・・と思うよりも前にちょっと怖くなる知名度である。

「工藤君は知らないかもしれないがこの間の学祭で彼がやったマジックショーが盛況でね」
毎年やる上に他校の生徒だとなかなか見れないらしい。

(わぉ・・)

「しかもバトロワまで優勝するし。・・ああっ工藤君が出ていればうちの勝利間違いなしだったのにっっっ」
(うわー俺ってすげー帝丹の障害物だったんだー。ごめーん)

「という訳で君に辞められたら非常に困るので免除のテストを受けてもらう。それに受かったら進級ということで。いやーうちが私立でよかった、ほんとーに」

確かにここまで休み続けた生徒を進級なんて江古田だったら絶対に出来なかっただろう。

「はぁ・・ちなみにノルマは?」
「1教科につきミス1つまで」
「・・すごくレベル高くないですか?」
俺のところと条件が全然違うや。
「工藤君ならこれくらい軽いでしょう」

ああ、さすがに模擬試験の上位の常連さんだもんねぇ。仕方ない。何とかしますか。



    つづく  小説部屋

長らくお待たせしました。約束シリーズの弟4弾の「赤バラ」でぇす。
もうサクッとバトロワの次の日から開始っすよー。2人とも大忙しですね♪
つじつまが合わなかったりしてもサラ〜っと流して、適当に楽しんで下さると大変嬉しいです。
ちなみに冒頭の切ないお願いが今回一番のドキドキなのです。うう・・本当にファンタジーっすよ。
2006.7.22
By縁真