「ただいまぁ」
「あら?コナンちゃんは一緒じゃないの?」

帰宅後、お帰りの言葉の前に尋ねられた母からのひと言。

それに快斗は

「は?」
これ以上無いくらい素っ頓狂な声で聞き返してしまった。





赤いバラが咲いた小国 5


おや?
と、銀三は思った。
彼は本日早番で昼過ぎに職場から退散してきた。
この時間だと冬休み中の娘はまだ友人宅から帰ってきておらず、ちょっとつまらない。
どーせなら笑顔で出迎えてほしいなんて思っている父は娘が返ってくる時間までどこかで潰そうとフラフラしていた。

丁度近くの公園に差し掛かったときだ。
知った顔を見つけたのは。

小さな少年。
彼はさまざまな事件に巻き込まれ警察関係者内でとても有名である。
整った顔立ちと青く強い瞳。
将来工藤新一のような美形に育つだろうともっぱら噂である。

そんな彼が公園のベンチで寝ていた。

「コナン君?」

こんなところで寝ていたら人攫いにあっても可笑しくない。
それほど彼は愛らしいのだから。
近くに親や快斗が居る気配は無い。
とすると、1人で遊んでいるうちに眠くなってしまったのだろうか。


「ん・・・」

眠りは深いらしく、背もたれにもたれ、器用に眠っている。

とりあえず帰り道だから快斗のところにでも連れてってやるか。
そう親切心を出し、銀三はコナンを抱えようと手を出した。

その時だ。
「お主何をしておるのじゃっ」
「え?」

甲高い声。
子供とは思えないほどの強い言葉に銀三は慌てて後ろを振り返った。

そこには声に似合った強い瞳を持つ少女が仁王立ちで立っていた。

「その子はワラワの知り合いじゃ。連れて行くことは許さぬぞっっ」
「いや、彼は私の知り合いでもあるのだが・・・」
こりゃ誘拐と間違えられたか?
と慌てて銀三は手を振り誘拐説を否定する言葉を口にした。
「んん?」
それに少女は銀三をまじまじと眺め、それから

「お主見覚えがあるぞ。もしや怪盗KID様を追うケージじゃなっっ」
「は?なんでそれを・・・?」
何故この変な喋りの少女がそんな事を知っているのか。
知り合いらしいからコナンから聞いたのだろうか?
一瞬疑問が頭を巡った。

「ふむふむ。エサは1つより2つのほうが効果は大きいかのう?それともこれはエサにならぬか?」
腕を組み首をかしげる少女。
良くわからないが答えが出るにはまだ時間が掛かりそうだ。
真冬の寒さの中で眠っては風邪を引いてしまう。とコナンが気になった銀三は

「彼は私の知り合いの大事な友人でね。その彼が心配するだろうからこのままつれて帰ってもいいだろうか?」
そのほうが早いしな。いちおう友人だろう少女にお伺いを立てたのはただの建前で。
すでに銀三はコナンを連れて帰る気満々だった。
その銀三の言葉に少女は頷いた。
・・いや、銀三の言葉は綺麗にスルーして自分の脳内完結に頷いたのが真相だが。


「うむ。決めたぞ。お主もお茶を一杯飲むがよい」
「は?いやお茶は別に・・・」
「ワラワのお茶が飲めぬというのかっっ」

そんじょそこらの酔っ払いより面倒だなぁと思い、少女の差出した水筒のフタを受け取り、中身をぐっと飲み干した。←男らしい(笑)

さっさと飲んで、さっさとサヨナラしてしまおうと思ったのだ。
もちろん。
これは失敗だったのだが。



「そちらの男性も連れて行かれるおつもりで?」
「だめかのう?KIDの知り合いじゃぞ」
「知り合いとは些か距離感を感じるのですが。」
「そうか?手がかりは一つでも多い方がいいとおもってのお。起きてから必要なければ返せばよいし。」
「・・・・世の中あなたが思うほど簡単に事は運んだりしませんよ」
「・・・わかっておる。」
苦々しげにつぶやいた少女の言葉に青年は柔らかな笑みを浮かべた。






「・・・おはよう中森警部」
「ああおはよう」

寝起きだからか頭がまだしっかり働かない。

何故わたしは飛行機にコナン君と乗ってるんだ?
というか・・・


「どこに向かってるんだ?」
「さあ?」
子供は慌てた様子もなく首を傾げてみせる。


「おじさん眠る前のこと覚えてる?」
眠る前?
んん?最後の記憶は・・・・眠るコナンと変な少女・・・・

「女の子を知らないか!?」
「は?」
そうだ公園であの子に呼び止められてそれからそれから?

「公園で小さな女の子にお茶を貰ったんだ」
「・・・・それってお姫様喋りの?」
「そうっその娘だ。まさかあの子も巻き添いに!?」
「・・・」


心底心配しているお人よしの警部さんがちょっと哀れでそれでいてその刑事としてどうかと思う程の純粋さが羨ましいと感じてしまったコナン。


「その女の子があなたを誘拐したんです」

なんてとても自分の口からは言えないと思ってしまったコナンだった。




「おお。目覚めたようじゃな」

せっかく言わないであげたのにタイミングよく登場した少女。そして付き添いの青年もいつものごとくひそやかにその後ろに立っている。

「やっぱり君も誘拐されてしまったのかー!私の巻き添いにーー」
や、勘違いですから。
なんて突っ込みは今の彼の耳には届くまい。

(ホントーーにいい人なんだよね中森警部って)
なのに空回りばかりな気がしてしまうのは何故だろうか。


「巻き添いとはなんじゃ?わらわはお主らに頼みがあってついてきて貰ったのじゃ」
ついてきてぇぇ?
「睡眠薬使っておいて何いってるの?」
「それは本当に申し訳なかったと思っておる。ほれこれでよいか?」
「うん」
手渡されたのは先ほど請求した睡眠薬の成分表。少女とその従者はこれを取りにいっていたのだ。
ちょうどその間に中森が目覚めた訳だが。

「・・・・・・・」
ざざっと眼を通す。それからもう一度さらい。
以前哀に聞いておいた危険薬品と一致しないことを確認して。
「よし」
ホッと一息ついた。
もしうっかり身体に合わない物が混入されていたら発作をおこしかねない。
ただでさえ今の身体は耐性が弱いというのに。

どれだけ謝られてもブツブツ文句は出てしまう。そんなコナンの横で中森警部が一生懸命に現状を理解していたりしたが。
「誘拐されたというのか?この子供に?いや馬鹿な。そんなまさかーーー」
それしか状況的に答えが無いのが現状。
諦めろ中森警部。


「確かに強引だったかもしれぬ。すまなかった。わらわはお主らにKID様を呼んでほしかったのじゃ」
「呼ぶ?」
「お主ならできるよのぉ?」

出来ますがねぇ肯定する訳にゃいかんでしょーよ。

「僕、KIDの連絡先なんて知らないよ?」
発動っカワイコブリッコ!
んなもん子供相手に使う意味がわかんねーっっ←1人突っ込み

だが相手は子供子供したその態度に疑問を覚えるでもなく
「なんとっ!」
純粋にショックをうけているようだった。

ちょっとかわいそうな気がしてきた。(っつか何で俺が連絡先知ってると思ったんだ?)




とりあえず事情を教えてもらえる?

当然の権利だよね?と尋ねてみれば目の前の少女はうむと1つ頷いて語り始めた。

第一声はこれだ
「実はつい最近ワラワの両親が事故で命を落としてしまってのう」
「え?」
淡々とした口調に頷きかけハッと顔をあげる。

そこにはその哀しみを乗り越えてる最中の深い瞳が真っ直ぐこちらを見ていた。
おいおい最初からそうくるのかよ。
コナンとしては困った展開。何故にこんな深刻な話から入るのだ。
いや一番重要なんだろうけどさー。これじゃ怒りも削がれるってなもんだ。


「もちろん葬儀は盛大に執り行われたがやはりいきなりの事にわらわはもちろん大臣たちも多いに慌てておってのー」
大臣達が慌てるってあーた・・・・それは国にとっての重鎮さんですかあなたのご両親は?


「そのごたごたの際に大切な大切な王の証である宝石を盗まれてしまったのじゃ」

「は?国王が持っていたんじゃないの?」
「いや、国の守護石として厳重に保管されておったのじゃ。」
ああなるほど。
重鎮の葬儀の際にそれが無くなった。そりゃ大問題だな。

「それがなければ戴冠の儀が執り行われぬのじゃ」

「・・・・・え?戴冠の儀って・・・もしかして国王いないの?」
「うむ?だから亡くなったと言ったであろう?」

「わお。」

嫌な感じですよこれは。
亡くなった国王。
亡くなった少女の両親。

その答えは・・ご両親が国王の側近で巻き込まれて亡くなったか、はたまた。

「まさか国王の奥さんも亡くなったとか?」
「だから両親が亡くなったと言ったであろう?」

ふ、ふふふ。こちらですかそうですか。

「という事は・・・君が次の国王?」
「そうじゃ。・・・あれ?もしや言っておらなんだか?」
「初耳ですね。根本をようやく理解したので次へどうぞ」

国王夫妻が無くなった。
しかし次の王に少女が就くには戴冠の儀を執り行わねばならない。
しかしその際に必要な国宝の宝石が盗まれてしまった。
よって現在この国は王が無いまま。

要約すればそういうことだろう。

「それで困ったワラワは思ったのじゃ。怪盗キッドさまならばきっと取り戻せるっっと」

名づけて『餅は餅屋にっっっ大作戦!!』じゃ。

何故そこでキッドが出てくるのだ?
確かに世界的に有名な怪盗だけどさ。


「・・・で?」
まさしく『それで?』って感じだ。一体、一般人の俺になにさせたいわけ?

「よーするにお主はKID様を呼び寄せるエサじゃっ」
「・・・・・・うーわー」
凄いこと言っちゃったよこの子。俺がえさ?
そりゃぁ素敵な大物が連れるに決まっている。


っつーか、よーするに俺はあいつのとばっちりかよ

「・・・なんで俺が?」
「おぬしが怪盗KIDととっても仲良しさんだからじゃ!」
自信満々のそのお言葉に意識が飛びそうになる。

「一体どこでそんなエセ情報手に入れて来たんだ」
事実じゃん、なんて快斗の声がどっかから聞こえてくる気がするがコナンは認めたくなかった。


「うむ。日本のとある地域で広まっておったぞ」
「・・・」
主に警視庁付近だろうか?それしか考えられない。
そうに決まってる。決まっているったら決まってる。
あの人達面白がってあること無いこと言いそうだしな。特にあの婦警・・・。
思わず復讐心が芽生えてしまうコナンである。←怖ろしい


「半信半疑だったのじゃがこの間ロンドンでたまたま2人が一緒の姿を見掛けてのう」
これも運命じゃのう・・・などと感慨深気に言われ溜め息をつきそうになる。
(はは・・・偶然すぎだろ。ってか)

「まさかあの胡散臭いパーティーにいたのか?」
「うむ?」
2人が一緒にいたのはあのパーティーの騒動の最中だけだ。地上に這い上がってからKIDはすぐに姿を消したのだから。

「あの爆破さわぎに巻き込まれたのかって聞いてるんだ」
「ああ、いやわらわは幸いサフに助けられて落下せずにすんだのじゃ。下で騒動が起こっているのは知っておったがサフが近づかせてくれなくてのぉ」
プクリと膨れてみせるお子様に(当たり前だっ)とコナンが内心叫ぶ。


「むしろあのパーティーによく参加させて貰えたなぁ」
「うむ。わらわはカジノという物を一度でいいから生で見てみたかったのじゃっっ」
だから頑張りました!と胸を張るが
「無難にベガス行けよ」
カジノの都だろラスベガスっ。
んな裏黒いパーティーでカジノ拝見よりかよっぽと安全だと思うぜ。

「まぁ幸い昼間のパーティーでしたから」

疲れた顔で補足したサフにコナンはとりあえず同意した。

まぁ子連れでベガスも目だってしかたねぇか。



「・・と、言う訳で早速調べたのじゃが、お主が江戸川コナンと言う名前で以前日本の毛利という探偵のところに住んでいたところでまでは掴めたのじゃが」
「そりゃ凄い」
よくぞそこまで調べた物だと感心したい・・・だがかなりストーカーちっくで怖いぞ

「ん?そうか?とある刑事に聞いたら簡単だったぞ」
おいこらプライバシー保護法はいずこへ去ったんだっ。

「わらわがKIDと会った事がある子供を知ってるか?と尋ねたら」

知りうる限りの情報を嬉しそうに教えてくれたらしい。

そーゆー親バカ(親じゃないけど)交じりにうかつな事をするのは
(・・・高木さんか?)
彼相手では溜息をつくしかない。
気に入ってるしなぁ。←復讐心は芽生えないらしい(笑)

だがその先の情報は完璧に途切れていた。
海外に住む親の元へ帰ったとしか情報は無い。


目の前にコナンが現れたのは日本についてここまでの情報を手に入れてから、さてこれからどう捜そう?とちょっぴり途方にくれてる時だった。





「これは神様からの贈り物に違いない!!」
そう思ったのじゃ。


はっはっー俺は神様からの貢物ですかい?






「と言うわけなのじゃ」
「国宝っていうのは、ビッグジュエル?」
「・・・そうじゃ」
「だからこそKID、か」
「餅屋であろう?」
「そうだな。確かに、あいつが一番得意な分野だ。でも、それは諸刃の剣でもあることをわかってる?」

得意な分野。
それはKIDがビッグジュエルを狙っている事を意味する。
もしKIDに頼んで取り戻してもらってもその後KIDに盗まれたら意味は無い。

「他にも沢山の泥棒がいる。でもワラワは怪盗KIDを信じたい。」
「泥棒なのに?」
「お主の知り合いじゃ」
「あはは。それは信用に値するの?」
「まだ解らぬのう。もし、本当にもし怪盗KIDが宝石を盗むとしたら、国が落ち着いてからであろうとワラワは思う。」

静かな声音で呟いた言葉にコナンは「ふうん」と感心を示した。


(なるほど)
とは思うもののありきたりな話しである。
ちょっと違うのはそこで出て来た餅屋の発想。
それと
「・・・訳は解った。だが何故わたしまで」

巻き込まれた警部さんの存在。

「運が悪かったのお」
運?運の問題?

「私はKID専任だぞ。捕まえるのが目的なのだぞ。」

「うむ。」
「KIDの生息地を知っていたら即お縄だ!」

(あはは)
出来もしない事を言い切る中森にコナンは笑いを必死で堪える。

優しい中森のその嘘。

「でも家に踏み込んでもきっと逃げられちゃうよね」
「ぬぬっおのれKIDめぇー!」

拳を振り上げ叫ぶ中森をよそにコナンは考えていた。

(どーするよ俺)
全くとは言わないが事件がコナンを呼んでいる気配がする。
だがまだ断る気満々だった。
今ならまだ帰れるのだから。
多分Uターンして日本に戻るくらいの燃料は残っているはず。コナンの予測ではあるが。

だがしかし

『Big Jewel』
その言葉にピクリと反応する自分が確かにいた。

小さな国だと言う。
普段は保管されていると言う。

もしそれがアレだったならば。


例え可能性が低くてもチャンスを逃す事にならないか?

「・・・」
俺も毒されたもんだ。

はぁぁと特大の溜息を一つ。
「解った。一応僕の知り合いに頼んで何とかKIDと連絡できないかやってみるよ。」
「本当かっっ!?」
「ただし、条件が1つ。この件が片付くまで僕に協力させてくれる事。」
「・・・え?」
薬の件で何気に物凄く怒っている様子だったから協力なんてしてくれないかと思った。しかもKIDに連絡をつけるまでではなく・・・

「さ・・最後まで?」
恐る恐る聞き返してみれば大きな眼鏡をかけた少年は気軽にコックリと頷いた。

「うん。関わってしまったものは仕方ないし、それに気になるじゃない?」
「・・・・嬉しいが。おぬしはそれで良いのか?家のものが心配したり・・」

本当に今更だが、そんなことに思い至った少女。
コナンは子供である。いい大人だって家に帰ってこなければ心配されるというのにこんな小さな子供がいきなり行方知れずになったりしたら・・・。

「そりゃもちろん連絡は入れるつもりだし。家って言っても今は知り合いの所にお邪魔してるんだけどね」
複雑そうな事情をさらりと述べたコナンは「でも」と続けた。
「さすがに中森警部は仕事があるからすぐに返してあげないとね」

「うむ。ケージ殿の事は明日には帰せるよう手配するとしよう。すまぬが今日のところはこのまま我慢して欲しい。」
コナンの言葉に頷いて中森に向き直り頭をさげた少女。

「コナン君を一人置いて帰るわけにはいかん!」
「・・・僕なら大丈夫だよ」
「いいや快斗君に合わせる顔がない」
「(いや快斗どーでもいいし)」←ひどい

「ダメだよ。お仕事そんなに休めないでしょ?」
明日は元々の休み。

じゃあ明後日からは・・・

「有休がある」
あって無きがごとしの幻の有休。


それを発動するのがどれだけ大変かは警察関係者に知り合いが多いコナンは知っている。

「刑事になって過去何回使った?」
「・・・ふふっ初体験めでたい事じゃないか!」
なにやらやけっぱちに言い放つ中森に適当に相槌をしておく。
「確かにめでたいね」
使って良い休みなのだから当然の権利。だがしかし

「後が怖いけどな」
代わりに警部補がいるのだが。
突発に仕事を押し付けられたらさぞ困るだろう。


「誘拐されましたって素直に言ってみたら?」
「・・・誰が聞いても嘘臭くないか?」
「嘘くさいね」
大人で警部のおっさんを。
一体誰が掠う?

「無難にインフルエンザにしておけばどーかな?」
「うむ。医者に頼むか。」
中森程の健康体を蝕むインフルエンザも怖いが(笑)





    つづく  小説部屋

あいも変わらずお久しぶりです。
謝っても許してもらえないくらいお久しぶりなのでは・・・。
お詫びってわけではないですが今回は少し長めです。
中森警部。愛してるぜ!としみじみ思いました。

2007.5.11
By縁真