恋の罠しかけましょ 6 3巻まで出ていた本をきっちり3冊ともゲットして。 もちろんハードカバーで重いそれは快斗がさりげなく持っていて。 ご機嫌なお子様が目の前にいた。 うっかり本屋で読書モードに入ってしまったコナンに付き合い1時間以上潰してしまった。 もちろんここで何人かのストーカーが入れ替わり立ち代りチャンスとばかりに近づいてきたのだが、そのどれもをさりげなく追い払い、コナンの幸せ読書の時間は護られていたのだった。 (うーん意外と控えめなストーカーだなぁ。てっきり密かな攻撃とか受けると思って身構えてたのに) 誰もがただコナンを近くで見たい。あわよくば話しかけたり・・・なんて小さな夢しかもっていないように見えた。 「なんか・・・プチアイドルって感じ?」 ま、エスカレートしたら怖いから今のうちにきっちり引導を渡しておくのが一番だろうけどさ。 全くそんな事に気づかずホクホク顔で本を抱える子供からそっとそれを預かり、左手で小さな紅葉の手の平を握り締める。 それを嫌がるでもなく甘受するコナンがちょっと不思議で、期待してしまいそうな気持ちをぐぐっと押さえ込む。 今はそう。背後にうごめくあいつらがいるから、我慢してくれてるのかもしれないしな・・・・。 そう思ったら、それが事実にしか思えなくなってきた。 うう・・あいつらに感謝すべきなのか俺は? 「しっかしさー買うなら読まなくてよかったじゃん」 「いや、買うか決めるために読むんだ。」 「でも半分以上読んじゃったから勿体無くない?」 「別に。そーいやお前は何読んでたんだ?」 「んー暇だったからそれ」 近場のテーマパーク特集の雑誌を視線で示してみせれば(片手は本、片手はコナンの手でふさがれている為)フゥンと何気なくその本を手に取るコナン。 決してこんな雑誌を読むとは思えないコナンである。 もしや初挑戦では、などと密かに思っていた快斗にパラパラ中を見ていたコナンはフイに尋ねた。 「どっか良い所あったか?」 「んー。やっぱり良い所はどこも混みそー。あ、でも温泉とかは結構よさげ。ちょっと高いけどこことか良くない?」 「ふむふむ。へーたまにはこーゆーのもいいかも」 「でしょ。」 今度行こうか? いわれると思ったのに今回はそれがないのにコナンは何となく快斗を見あげた。 「なに?」 「いや、これも今度行くか?」 「・・・んー。泊まりになっちゃうからさ。」 「だから?」 「・・・いや、色々とね。」 何にも考えていなそうなコナンに困った顔で言いつくろう快斗。 ちょっとそこの天然お子様っっっ。 何が『だから?』よ? そんな可愛く首かしげるなーーーーー!!←危うく頭に血が上りすぎて倒れるところだった コナンの言葉は嬉しいけど。困るのが正直なところ。 2人旅をしても良いと思うくらいに気を許してくれてるのは本当に涙が出るほど嬉しい。 だけどさー。大好きな人と温泉旅行ってさー。 それってどれだけ理性試されるやら。 想像するだけで理性ぶちきれるに1票って感じだ。 間違いなく98%の確率で我慢の限界が来る。 そしたらどうしてくれるのよ? 俺、絶対コナンちゃん押し倒すよっっ←言い切るし そしたらコナンちゃん絶対怒るよね。ってか絶好?縁切り?もう顔なんか見た無いとか言われたら・・・ 俺はどうやって生きていけばいいのよっっ?←アホみたいだが深刻な悩み(笑) だから 「じゃあ。行けたら、ね」 適当に濁しておくことにした。 それに何だか不服そうな顔を見せたコナンに気分をよくして。そんな危険は流しておくに限るとばかりにコナンの思考を切り替えることにした。 「コナン。とりあえず次行こうか」 「は?次?どこ行くんだ?」 「ひみつ〜」 「はあ?」 「探偵なら推理してみろよ。ヒントは俺が行きたい場所。多分コナンも気に入るよ」 挑戦的な言葉を受け負けず嫌いのコナンは道すがらうんうん唸ることになってしまった。 こいつが行きたくて、俺も気に入る。 映画以外でだろ・・・・。 ま・・まさか宝石店とか言わないだろうな?仕事の下見ならぜってぇ却下だぞ。 ふいに思いついた事に快斗を見あげてみれば何となく読み取ったのだろう、先に言われてしまった。 「あ、さすがにお仕事に名探偵をつき合わせたりしないから安心してね」 だよな。 だとすると。どこだよ・・・・くそっっ思いつかねぇっっ。 そんなコナンの手を引き腕時計を見ながらのんびり目的地まで歩いていく快斗。 人にぶつからないように上手くコナンを誘導しているのだが、そんなこと思考の迷路で楽しく迷子になっているコナンが気づくはずもなく。 結構な人ごみの中を抜けてきたというのにコナンにとってはゆったり散歩していたような感じだ。 たまに見あげれば穏やかな視線を向けてくれる快斗がいて、いたずら気に「謎は解けたかな?」などとからかってきたりして。 結構な距離を歩いたのにそう感じないし、何だか楽しい散歩だったなぁ・・とすら思える。 ただ歩いてただけだと言うのに。 こんなにもこいつの隣が居心地良いなんて。 「・・・悔しい」 「ん?」 「なんかデート慣れしてるだろお前」 「えー?デートなんてしたことないけど俺?」 「嘘だっっ」 「ホントホント。彼女なんて居たことないもん」 「むむ・・・・その顔で彼女なしってのはおかしいっっつーか詐欺だっ」 「工藤新一だって居ないじゃん」 「俺は蘭がいたから・・」 ポツリとつぶやいたひと言に今まで楽しそうな顔を見せていた快斗の表情が一瞬歪む。 え?と思う間もなく笑顔を見せたが。 「・・・・・そうだったね。蘭ちゃんがいたね新一には」 「や、だからといって彼女ってわけじゃねぇからな」 勘違いすんなよ。と事実を述べるが快斗はしつこく蘭=彼女説をやめない。 うぜぇなー。←酷い 「戻ったら蘭ちゃんに告白するの?」 「・・・・突っ込むなよな」 「気になるし。」 「はぁ。まー幼なじみが長いからな。どうなるか解んねー。でも・・・」 「でも?」 「多分、もう男と女の関係には戻れねぇような気がする」 「?」 「あいつは俺にとって家族なんだよな。妹かはたまた姉か。そんな感じ。ある意味灰原も俺にとってはそんな位置だなー。護ってやりたいけど、一生一緒に生きて行きたいとまでは思わねーや」 しみじみずっと密かに思っていたことを吐き出せば快斗は目をキョトンとさせ、それから。 「・・・そっか。」 泣きそうな顔で微笑んだ。 嬉しいのか、哀しいのか全然解らないその顔になんともいえない焦燥感が募る。 「お前は。なんで彼女いねーんだ?」 「似たようなもんかな。俺も幼なじみがいてね。ん、最近までずっと多分あいつと将来結婚するんだろうなーとか思ってた。まだ付き合ってすらいねぇのにな」 苦笑を見せた快斗の言葉にコナンは眉をよせた。 「・・・するのか?」 「え?」 「結婚」 「や、最近までって言ったろ。ん、こんなヤクザな商売やってるとね。一般的な幸せなんて手に入れるのがおこがましいって思うんだよね。俺はあいつに幸せになって欲しいけど、俺が幸せにしてやれる自信はねぇ。」 悲愴な面持ちで語られたわけではない。 なのに深く染み入るその心地よい声音は苦渋に見え隠れしていて。 隠し切れない辛さを探偵ならではの能力で拾ってしまった。 とつとつと語られた快斗の内心にそんなことは無いと否定してやりたいが犯罪者番号まで頂いている存在にかける言葉が見つからない。怪盗KIDがどこかの組織に命を狙われているというのも密かに知っているし。 だいたい目の前の男が怪盗KIDだなんて誰が信じる? コナンですらうっかり忘れてしまいそうだというのに。 このまま一生KIDにならなければ事件はお蔵入りでもう危険な目に会うことなんてないのに。 KIDをやめるつもりはない。 その強い意志が快斗の紫紺の瞳の奥から読み取れてしまった。 バカだよなこいつ。 誰よりも幸せになれる要素を沢山沢山持っているのに。 なのに誰よりも辛い道を選んぢまうんだから。 だけど快斗は辛そうな声音をふいに和らげ 「それになにより・・・・あいつよりずっと大切な人が出来ちまったからさ」 ゆっくりと壊れ物に触れるかのような柔らかさで言葉をつむいだ。 その「大切な人」を思い出しているのだろう。とても穏やかな微笑みを浮かべながら。 「え・・?」 驚愕の表情で振り返ったコナンにフワリと微笑むと怪盗はピタリと足を止め、フイに顔を上に向けた。 先ほどの会話は打ち切りとばかりに快斗は話題を変えた。 「さー到着でっす。さすがにもう解るよね?名探偵」 「・・これで解らなかったら探偵の資格ねぇよ」 いきなり話題を打ち切られたのと、謎を解く前に答えを目の前に出されたのとで二倍むかついてたコナンはブスッとした顔で目の前のホールを見上げる。 知らない人も沢山いるとは思うがコナンは知っていた。知識としてたまたま街中のチラシやらテレビの広告、そういうもので見かけたのだと思うが。 「マジックショーか」 そう大きなものではない。だが今日ここでショーを行うマジシャンはどうやらかなり有名な人・・・らしい。 (俺は知らなかったけどな) そういうのに詳しいっていうか良い男チェックに余念が無い園子から仕入れた情報によると今日ここでショーを行う男性は新進気鋭と謳われる今1番注目株(園子的)のマジシャンらしい。←この場合注目株なのは顔なのかマジックの腕なのか判断しかねるが 「ご名答♪さーすがっ。あんまり広告だしてないんだよーこの人。俺の勉強にちょっと付き合ってね」 「ああ、有名らしいもんなー。将来のライバルってか?」 「あはは。解らないよー俺の足下にも及ばないかもしれないじゃん」 不敵に言ってみせたがその言葉に引っかかったコナンは違和感の正体に思い当たり恐る恐る聞いてみた。 「・・まさかお前・・この人のマジック見たことないのか?」 「うん。ちょっと・・勇気が足りなくてね。いつかこの眼で見てみたいとは思っていたんだけどさ」 明らかにマジック大好き男が、有名なマジシャンを・・その腕前を一度も見たことがないなんて。 ありえないだろう? 驚愕の表情をみせたコナンに苦笑しながら快斗は情けないひと言を心の中でぼやいた。 (やーマジックを犯罪に使ってる俺が、なんかおこがましい感じするじゃんねぇ) コナンがいるから。 何故だか良い気がした。 日本警察の救世主とまでいわれるこの男が自分の存在を認めてこうして傍にいてくれるから。罪悪感が少し薄れているのかもしれない。 罪が消えたわけじゃないのにね。 さーてと。落ち込むの終了っ。今はコナンちゃんとのデートを楽しむことにしーましょ♪ サクッと気分を切り替えると快斗はコナンに向かって今後の予定を口にした。 「これは3時終了だからね。終わったら喫茶店行こうね〜」 快斗の少し大きな声音にちょっと首を傾げたあと (ああストーカーに聞かせる為か) と納得しつつ呆れてしまう。確かに何時に終わるか解らず見張っているのは大変だろう。 だがストーカーなのだからそのくらいの苦労は当然なのだ。 あんな奴らにまで親切にしてやるとは・・・優し過ぎだろ。 なんて泥棒の行動に苦笑しているコナンが (中にまでついてこられたら気になっていちゃいちゃ出来ないもんねー) などと快斗が実はかなり自分本位なことを考えている事を知ったら・・・それこそ真っ赤になって怒鳴ること請け合い。 上手い具合に己の株を上昇させた快斗は愛しの名探偵と仲良く手を繋いで会場に入って行くのだった。 つづく |
By縁真