正しい連休の過ごし方 後編

なんでや。なんでこないな事態になっとんねん。
服部は激しく昨日の自分を後悔していた。
後悔とは先にはできないものである。
「うわぁ。すごいやんあの人ぉぉ。」
「ホントーー。すごーーい。」
遊園地の中にある広い劇場ホール。観客席は日陰になっていて、疲れた家族連れなどが
くつろぐついでにショーを見ている。
前の方の席を取れたためコナン達一行は結構間近でマジックショーを見ることができた。
それに満足していないのは背後でウオウオとわめいている服部一人のみ。

そのうち呻くのにあきたのか地面に『の』の字を書きだした。
うっとぉしい。。。隣にいたコナンに何度もつぶやかれたがそれでも服部はその態度を
やめなかった。
蘭、和葉とともに前にいた平次の母は背後を振り返り、
「平次あんまぶちぶち言うてると帰ってから日本刀でぶった切ったるで。」
ドスの聞いた姉さんしゃべりで脅す。
これは怖い。隣で聞いていたコナンですら背筋が冷えた。
まさか本当にやるとは思えないが本当にやるかもこの人・・・と思わせる顔だった。
「お母んーーー。それだけは勘弁したってやー。」
ううーー。と情けない声を出す服部。
(もしかしてすでにやった経験ありなのか?さすが大阪人。やる事が派手だ)
そういう問題じゃない。
「あんたがアホーーな事にヒラヒラっと大事なチケット落したんが悪いんやろが。」
一番痛いところをつかれ服部はうっっっと胸をおさえる。母強し。
まあ、一番の敗因は和葉の前でちょぉぉど運悪く落としてしまったところだろう。
拾った瞬間それは彼女の物になった。

(くどぉと二人で来るつもりやったのに・・。二人でマジックショー見て、二人でアイス食って
二人で観覧車乗っちゃったりなんかして・・そのままいい雰囲気に持ち込もかなぁぁって
いうナイスな計画がすべてパアや・・。)
限りなく実現不可能な計画。少なくとも観覧車あたりからは叶うことのない夢の計画だろう。
「あれ?あいつ・・。」
母が怖いためやっとまともにショーを見始めた服部は隣から小さなつぶやきを聞き取った。
「ん?どないした?」
「いや・・知ってるやつ・・に似てるから。」
舞台ではまだ年若い男の人がシルクットから鳩を出していた。しかも一匹二匹ではない。
どんどん出てくる。まるで魔法だ。
「すごいやないか。」
たかが手品とバカにしていた服部はあまりのすごさに目が離せなかった。
どうなってるんだあの帽子は・・。
本当に魔法かもしれない。観客にそう思わせるのが一流の手品師。
ならばこの若いマジシャンは確実に一流と言えるだろう。
観客の心を奪っている。演出がうまいのもある。
だがやはり腕がとてもいい。

「やっぱりそうだ。快斗だ。」
なんだあいつ出るんなら一言言えばいいのに。
ぶつぶつと独り言が聞こえる。あまりの手品に口をポカンと開けていた服部は
もう少しで聞き逃すところだった。
(快斗?聞いた事ない名やな・・。)
自分の知らない名を聞くと嫉妬を覚える。どんな関係なんや?
なんで手品師なんかと知り合いなんや?
「知っとる人やったんか。」
「ああ。そう。後で逢えたら紹介してやるよ。絶対驚くぜお前も。」
ニッと意地の悪い笑みを見せるコナン。驚く?一体何に?
聞いても「まあ、見れば解る」としか答えてくれないコナンに首をかしげつつも
服部はうなづいた。
「へえ。そりゃ楽しみやな。」


「快斗兄ちゃん。」
「おう。来たなぼうず。」
顔は見えないが声でわかる。
若い若いと思っていたらどうやら自分たちと変わらないような年齢のようだ。
「へえ。若いやん。」
まだ遠目でしか見てないからよくわからないがどうやら結構綺麗な顔立ちらしくファンが
おしかけていた。
まあ、子供のファンも大量にいるから顔だけの人気ではないのだろうが。
後ろの方から呼びかけたコナンの声に即座に反応したあたりをみるとこの劇場に
コナンが居たことに気づいていたのだろう。
「さっき鳩だしながらお前らの漫才が見えてな。吹き出しそうだったぜ。」
シルクハットで顔がよく見えない。
もうちょいずらせやぁ。考えていたらファンをかき分けこちらによってきた。
「漫才ぃぃ?ああ、服部・・っと平次兄ちゃんのことだね。」
普段の口調でしゃべりだしそうになり慌ててかわいこぶるコナンに俺は一つわかった。
(いつもの話し方がついでてしまうくらい仲ええっちゅーことか。)
だいたいこのしゃべり方は大人の前ではしない。唯一の例外と言えば、
自分の事を知っている両親と博士。お仲間の灰原哀。そして自分服部平次それだけのはすだ。
だが今ここに一人追加されることになる。
快斗と呼ばれた同年代の少年。
ムカムカする。

「蘭ねーちゃんも知らなかったよね。えっとねーこの前のドライブで知り合った
探お兄ちゃんのお友達だよ。」
「あら?探お兄ちゃんってってあの黄昏の館に来ていた白馬君のこと?」
「うんそう。クラスメートなんだって。」
マジシャンとクラスメートなんてすごいわー。と手を叩く蘭にコナンはにこにこと
皆に紹介する。
「黒羽快斗お兄ちゃんだよ。」
よろしく。とシルクハットをとった瞬間・・蘭と服部の時が止まった。
「すっごい美形やなぁ。」
「ほんまや。私もあと10才若ければなあ。」
和葉と平次母が楽しげに語りあう。10才じゃたりんやろっというつっこみは
残念ながら今、服部は出来なかった。
「な・・・・・ななななななんで・・・新一?え?黒羽?ちょっとどういうことなのコナン君っ。」
やっと沈黙していた蘭が叫びだした。失礼ながら快斗を思いっっっきり指さしながら。
「くどおぉぉぉ。え?え?ええええーーーーー?」
そして、それにつられたようにようやく服部が叫びだす。コナンと快斗を交互に指さしながら。
その反応にコナンはお腹を抱えて笑い出す。
「お前言ってなかったのか・・。」
「だってその方が楽しいじゃねーか。」
呆れたような快斗にニッと唇をつりあげるコナン。あきらかに計画的犯行だ。
「驚いたでしょ。」
ニコリと天使の微笑みを浮かべるコナンに蘭と服部はコクコクうなづく。

「なんやなんや二人して何叫んどるん?」
あまりの反応についていけなかった和葉達は眉をよせている。和葉などまた服部と
蘭の関係を疑いだしていた。やっぱ怪しいわこの二人。
「新一に・・私の幼なじみにそっくりでビックリしたのよー。えー本当に新一じゃないの?」
和葉に言いつつもう一度まじまじと快斗の顔を見る。微妙な笑みを浮かべそんな目を
きちんと受け止める快斗。
「え?新一ゆうたらあの?蘭ちゃんの大事な人?」
聞き覚えのある名に和葉がぴくりと反応する。なあなあと蘭を手で招き耳元で
コソコソと話す。
「大事っ・・ってそんな・・。単なる推理バカの幼なじみよ。」
頬を赤らめつつそんな憎まれ口を叩いても説得力のないこと。和葉はハハーンやっぱ
あの工藤新一のことやな。と据わった目をみせる。
そして蘭のハートを射止めた工藤新一とうり二つの黒羽快斗をあらためてまじまじ
と見つめ始めた。
蘭の視線から解放されたと思ったら今度は和葉に値踏みされるような目を向けられ
疲れたような顔の快斗。
「なんや・・蘭ちゃんむっっっっっちゃ面食いやん。」
このこのっと肘で蘭の脇をこづく。
「だから違うってばっ和葉ちゃんってばっもお・・。」

そんな可愛い乙女達の会話を側で見つつ、私もその会話に入りたかったわ・・。
と疎外感丸出しの何十年前の乙女はとりあえず快斗にアタックすることにしてみたようだ。
「ってことは東の工藤っちゅうんはこーゆー顔なんやなぁ。
平次ー負けとるでぇ。」
ふむふむと快斗のあごをつかまえ見つめる平次母。やはり関西人だけあってか遠慮がない。
「こぉぉぉなぁぁぁんんんんん。」
顔を動かせず目線だけで足下にいるコナンを見やる快斗はもうマジ切れ寸前らしい。
さすがに紳士だけあって女性陣にそんな顔は見せないが目がやばい。
後で絶対むちゃくちゃ言われるなあ。とか思いつつもコナンはパワフルな女達に
たじたじの快斗をとても楽しく見ていた。
「頑張れ快斗兄ちゃんっ。」
ニコリと可愛らしい微笑みとともに。

「くどおぉぉぉ。どっちが本物やねーーーん。」
今だ悩んでいたらしい服部がおバカな質問をコナンに尋ねる。
「どっちって考えるまでもないだろ?」
最初っから快斗は黒羽快斗だと紹介しているのだ。いくらそっくりでも本物の自分が
いるというのにそれでも混乱している服部の気持ちがさっぱり分からないコナン。
「考えるまでもない・・・。考え・・・うぁぁぁぁ。頭ぐっちゃぐちゃで
考えられへーーん。」
頭を抱えてしゃがみこむ服部。だから考えんでもいいっつーとろーが・・。
(アホだ・・・ほんまもんのアホだこいつ。)
冷めた目で目線がいっしょになった服部の頭をこづく。
「バーロー。真実はいつも一つ。この世で工藤新一はただ一人しかいねーだろ?
考えねーでいいからさどっちが工藤新一だと思う?」
「お前。」
「それでいーじゃねーか。」
間髪いれず返ってきた答えに満足したコナンは腕を組みニッと笑う。
これだからこいつは憎めない。

「なあぼうず。この収集をどうつけてくれるんだ?」
「え?何のこと快斗お兄ちゃん?」
やっと服部の母から解放された快斗は服部の横に優雅にしゃがみこみ
(注:服部のようなヤンキー座りは決してしないっ。)低い声で問いかけた。
それを可愛い笑顔で返してしまえるコナンの神経は尋常なものではないだろう。
「ん?まあいいんだけどな。今度現場で冷やさせてやるかなぁ。それとも新一に
変装して彼女の前で変な事いっちゃおっかなぁ。あーそれとも・・」
「まて。俺が悪かった。」
それ以上言われる前に手であいての口をふさぐコナン。
ふふんとしてやったりの快斗にちくしょうと思いつつあっさりとわびを入れた。
「なあ・・現場ってなんや?お前も探偵なんか?」
さすがにするどい服部は聞き逃さない。
「違う違う探偵なんかしねーよ。探偵なのは俺のクラスメートの方。俺はその逆だな。」
「逆?」
危険な言葉を吐く快斗にコナンはおいおい・・と思いつつまあ服部は気づくわけねーか
と思い自由にさせる。
実際逆といわれて怪盗を思いつく奴などいなかろう。せいぜい依頼する側ぐらいしか
思いつくまい。
「まさか犯罪者とか?」
まっさかなぁーはっはっはーと笑う服部に快斗も一緒に笑う。
(はは・・正解だよ服部。)
据わった目で和やかな二人とともに一緒に笑うコナン。

「すまんすまん。くだらん冗句いってもうたわ。まあええ。それよりえっと黒羽やったっけ?
まだこの後あるんか?」
「ん。そうだな片づけが残ってるくらいかな。あとはファンサービスだな。」
とまだ残っている若い女性や小さなお子様達をみやる。
「せやったらあいつらに伝言頼めるか?あの女どもに3人で楽しんできてや。」
とな。俺はくどぉと二人っきりぃぃ。と楽しげにコナンを抱え込む服部。
快斗の目がスッと鋭くなる。いままでの和やかムードは一転して一発触発
ムードへと変わる。
「な・・なんや?こわいで黒羽。まっっまさかお前っ」
「お仲間・のようですね西の名探偵さん。」
くっと笑うとシルクハットを深くかぶる。その仕草は例の怪盗を彷彿とさせる。
「仲間・・・まさかだってお前こないだ知り合ったばかりやろ?」
「おや?愛に時間など必要ないのですよ。」
突然変わった言葉遣いにとまどいながら服部はいきなりの爆弾発言にドキドキする。
ライバルがここにおるぅぅぅ。
「愛・・うっわ鳥肌たっとるでサブッ。まるでどこかのだれかさんみたいやな。」
「どこかのだれかさんとは?」
「あのキザキザなさぶいぼ立ちそうな台詞をベーラベラまくしたてる白っちい泥棒の
ことやっ。」
「失礼ですね。泥棒とは。せめて怪盗と言ってほしいですが。」
「お前の事言ったわけやないやろ。」
ここまで来てわからないらしい服部。お前探偵失格・・と心の中でコナンに思われていたと
しても仕方がない。
「まあいいでしょう。あなたと私がライバルだと言うことははっきりしましたしね。」
「せやな。」
(何故だ?服部は快斗の正体にまだ気づいていないというのに何故ライバル関係が
成り立つんだ?ライバル?なにかで対立してるんだよな?なにか・・
そういやさっき仲間がどうの言ってたな。それと関係が?)
コナンはぐーるぐると頭を回転させる。わっかんねー。

「今日は譲ります。でも分は私にありますよ。なにせしょっちゅう会ってますからね。」
ふふ。と笑う快斗に東京と大阪の距離にいつも悩まされている服部はぬぅぅぅと
うなる。
「しょっちゅう・・。現場でだろ?そういやお前こないだの暗号手抜きだったぞ。
つまんなかった。」
「解りました今度は腕によりをかけて名探偵の心を揺さぶるようなラブレターを
書きますね。」
ラブレターっておいっと叫ぶ服部をしりめにコナンは目を輝かせる。
暗号大好き推理おたくはちっさくなっても健在だ。
その点は快斗が有利っぽい。

「とりあえず服部。俺はこんな鈍感な奴の心が欲しくてしょうがないお前に心から
同情するぜ。」
「それは俺も同感や。」
立ち直った服部に快斗は右手をさしだす。二人で熱い握手をかわす。
端から見たらそれは友情に見える。
だが互いに骨を砕かんばかりにとギュゥゥとにぎりしめる手はどう見ても敵意丸出しだった。
「これからもよろしくな。」
「こちらこそ。」
今ライバル達の戦いは始まった。
のほほんと(おおなんか知らんがいつの間にやら仲いいじゃねーか)
とか見当違いの事を考えている当事者をおいてきぼりに。
ライバルをけ落とすより本命を落とす方が難しい事を彼らは気づいているのだろうか?
頑張れ男達。
草場の影で母は応援しているぞ。

「快斗ーー可愛いコナンちゃんを絶対ゲットしてくるのよぉぉ。」
「平次っ負けたらあかんっ。大阪人のど根性みせたりっ。」
母達は全てを知っている(らしい)

服部の連休はこうしてライバル出現というショックな出来事と、遊園地でコナンと
二人っきりで遊べたという幸せな出来事の二つで構成された。
とても有意義な連休といえるだろう。
そして、最後に母からコナンへのアタック許可を頂き本格的に攻撃開始となるのだった。

次の連休は何して遊ぼうなくどぉ。

end

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ひとこと
うーんやっぱり快斗君出しちゃった。彼への愛ゆえね(笑)
とりあえず今回は大阪組をおおいに出したかったので満足です。
でも大阪弁適当なんで見逃してください。
わかんないもーーん。

でもねぇ。もうちょっとお母さんを活躍させたかったんだけどうまく行かなかった(涙)
こんなものさしょせん。