正しい連休の過ごし方 前編

「よー工藤ぉー」
軽快な声が戸の外から聞こえた。
この発音・この間のびした呼び方。いや・・なによりコナンを工藤と呼ぶ人物は
どう考えても一人しか思い浮かばなかった。
「服部・・・」
また来やがったのかこいつ。
ピンポンピンポンとチャイムをがんがんに鳴らし。(一度で十分だっての)
さらに大きな声で「くどーくどー」叫ぶ。はっきり言ってうざい。
近所迷惑だ。
無視してやろうと思ったがこれでは苦情が来かねない。
(ったくよー。)
渋々玄関の戸を開けてやるとやはり黒い男は笑顔で立っていた。
背後に控えた彼の相棒のバイクと共に。
(またバイクで来たのかこいつは。)

「なんの用だ?」
「用が無いと来たらいけひんのか?ええやんええやん。お前と俺の仲やないか。」
(どんな仲だ・・・)
単に遊びに来たらしい服部の言葉にちょっと切れかかるコナン。
蘭は朝から部活で、小五郎はつい先ほど暇だとパチンコに出掛けた。
コナンは一人でお留守番をしていたのである。
優雅に洋書を開きソファでごろごろしていた。
至福の時である。
それをこの関西人に邪魔されかなりご立腹。
しかも玄関先で「くどーくどー」叫ばれ更にムカついていた。

「てめー蘭達がいたらなんて説明する気だったんだ。」
いまだにコナンと呼ぶのになれない服部は飄々と工藤と呼び続けていた。
「ええやんおらんかったんやろ?」
それは結果にすぎない。まったくこれだから関西人は・・・
と、なにやら関西人を誤解しているようなことをブチブチつぶやきつつ部屋に
あげてやる。
「ん。あがれ」
だれもいないしな。
「お?ええんか?ついでに茶ーかなんか冷たい飲みもんくれへんか?もう暑うて
たまらんわ。」
パタパタと汗でベトベトのTシャツを仰ぐ服部にやれやれと冷蔵庫に向かうコナン。
(そりゃこんな暑さの中バイクで大阪からぶっとばしてくりゃ暑いだろうな)
はは。と乾いた笑いでコナンは思う。
まったくそんなに暑い思いをしてまでなんで東京まで来るんだかな。
コナンにはさっぱり分からない。

「ほらよ。お茶。」
「おおきに。」
ガラスのコップを受け取るとその瞬間に飲み干してしまった。
(ボトルごともってくるべきだったな。)
また冷蔵庫まで戻らなくてはならない。めんどくさ・・とコナンはため息をついた。
「くどおぉぉもう一杯」
上目遣いに見てくる服部に自分のグラスをテーブルに置くと待てと手で制止をする。
その合図にピタと動きが止まる服部。
(犬・・・犬だな。)
パタパタ嬉しげに降られるしっぽが見える気がした。
これだからこいつに怒りが持続しないのだ。いっそのこと最初っから最後まで
ずうずうしい態度で一貫してくれたらネチネチいじめてやれるのに。

ピーンポオオン。
なにやら間延びのしたチャイムが鳴る。
「誰だ?」
まったく何で俺一人の時に限って来客が多いんだ・・。
まさか依頼人か?まっさかなぁ。
お茶のボトルを服部に預け、訝しげに玄関に向かう。
「はい?」
「あっうちやうちっ」
陽気な声が聞こえる。この関西弁・・・。なんでこいつもこっちにいるんだ?
あいつバイクだったろ?高速で二人乗りはやばいだろう。別口か?
「こんにちはー和葉おねーちゃん。」
可愛らしく挨拶をしてみるコナン。そんな姿は本当に可愛い。
「こんにちはコナン君。今日もかわええなぁ。うちんとこのバカここに来てる?」
くりくりとコナンの頭をなでなでしつつ首を傾げ尋ねる和葉。
「平次兄ちゃんのこと?うん来てるよ。」
奥の客間をさすコナンにやっぱりと和葉はつぶやく。
「やっぱりここにおったんか。」
和葉はやれやれと首を振る。何がやっぱりなのか解らず、コナンは不思議そうに
和葉を見つめる。

「あー和葉。なんでここにおるんっ」
「それはこっちの台詞やっっ。昨日の夜電話したら平次おれへんって平次のお母はんが
いってんで。まーた遊びにいっとるな思うて来てみたんや。」
声を聞きつけて出てきた服部に、腰に手をあてムンと胸をはる和葉。
「なんや俺に用か?」
東京までおっかけて来るほどだ何か用があるのだろうか?コナンも服部も
視線を和葉に集中させる。
「用がなかったら来たらあかんのか?」
なにやら聞き覚えのある返答が返された。大阪人ってのは受け答えにマニュアルでも
あるのか?
しかも用がないのに東京まで来ちゃうあたりさすがと言うかなんというか・・。
「それより。平次実は蘭ちゃんに秘かに気があるんちゃう?」
コナンはカクっと体が傾いた。どうしてそうなるんだ?
「はあ?」
思いっきり訝しげな顔の服部に和葉は慌てて言い募る。
「だ・・だって平次いっっっつもここに入り浸っているやん。暇さえあれば
東京に来とるし。こないだ遊園地さそったら暑いゆうて断ったのに東京には
バイクで何時間もかけて来るんやなー思ったら・・そうなんかな?って・・」
違うん?とすがりつくような目で服部にかけよる。
「あーほっ。違うに決まっとるやろ。」
(俺の情熱は工藤一筋やからなっっ。)
呆れたような服部の返答にほっとする和葉。真実を知らない事はとても幸せな
ことだ。

「あーよかった蘭ちゃんライバルやったらどうしよ思うたわ。」
うちじゃかなわへんし・・。
と少し赤くなった顔をうつむかせて言う。
(こーゆーとこ素直で可愛いよな。なんで服部の奴あんなにじゃけんにすんだろーな?)
今の所、服部の心は服部本人とそのライバルにしか分かっていないようだった。

「ここがいっつも平次が入り浸ってるっちゅう家か。へえ。」
和葉の背後から声が聞こえた。
何?更に人がいたのか?コナンは慌てて玄関の外を見る。
開け放たれたままの戸の向こうに一人の女性。
「前来たとき事務所ん中は見たんやけどー。」
服部は声だけで分かったのか青ざめてた。
「な・・・な・・・・なんでここにおるねんおかんっっ。」

「何でって平ちゃんの思い人ってどんな人かなー思うて和葉ちゃんに頼んで一緒に
つれてきてもらったんよ。」
ケロっと言う平次母に服部はあーうーと赤くなったり青くなったりしてうろたえていた。
(あ・・・あかんっ。おかん意外に感するどいからバレてまうかもしれへん。
和葉ならなんとか誤魔化せるがおかんじゃ無理や・・・)
どないするねんーーーと壁に頭をゴンゴンぶつける平次を気味悪げに三人は見守った。

「えっと上がる?今ちょうどおじさんも蘭ねーちゃんもいないんだ。たぶん蘭ねーちゃん
もーすぐ帰ってくると思うし。」
「あっそーなん。久しぶりに蘭ちゃんとしゃべりたかったんや。ほな待たせてもらうわ。
ちょっとお茶もらえる?もう喉かわいて喉かわいて。」
さすが同じ関西人。遠慮なくお茶を要求する。
コナンはとりあえず頭を打ち続ける服部をほおっておいて女性ふたりを客間にエスコートする。
「はいお茶。お菓子はどこにあるかわかんないんだ。ごめんね。」
申し訳なさ気に謝るコナンに「気いつかわんといてー」と笑顔で笑う。
「んもーコナン君は可愛えわぁ。うちも弟欲しかったなー。」
ギュっと抱きしめられコナンは思考が止まる。
「かーーずーーはぁぁぁぁ。」
地の底からはい上がってくるような声に視線が服部に向かった。
どうやら平ちゃん復活のようだ。

「なんや平次か。びっくりしたわ。誰の声か思うた。」
平次母は胸に手を当てふふっと笑う。
「ほんま。平次怖いでその声。」
のんきな和葉に服部は
「やかましわっ」
とコナンを奪還する。
(ちくしょう俺の工藤にペタベタ触りおって。くううう。ええ抱き心地や。)
なかなか離そうとしない服部にコナンは
「はーなーせぇぇぇ。」
ともがく。
「ええやんスキンシップやっ」
嬉しそうに頬ずりをする服部。そんな服部を真剣な目で見つめる一対の目。
そう彼が恐れていた平次母のその目はどうやら的確に平次の心を見抜いたようだ。
(平次・・まさか・・あんた・・・。)


「そういや、あんた今日どこに泊まるつもりなん?」
母の言葉に服部はこともなげに答える。
「工藤んち」
「な・・にぃぃぃぃぃ」
(聞いてないぞ。そんなことひとっっっことも)
目で服部にうったえるコナン。だがまたもやあっさり服部は言う。
「ええやん。だーれも使ってなくてもったいないやろ?」
(そういう問題か?)
ガクっと地面に手をつくコナン。
「鍵持ってるの?」
「ああこのガキが持ってる筈や。なっくど・・・・やない・・・えーーーっとコナン君・・・」
あたふたと名前を言い直す服部にコナンは白い目を向ける。
「うん。もってるよ。新一兄ちゃんには許可とってるんだよね?それならいいよ。」
ニコっと天真爛漫な笑みを見せるが目が笑っていない。
(くどぉぉぉ怒っとるんか?)
シュンとしてみせる服部にククっと笑い出すコナン。
服部のこんな風に素直に感情を表現できてしまうところは結構気に入っているのだ。
とても自分には出来そうにない。
「いいよ。貸してやるからそんな顔すんなって。」
捨てられた子犬のような顔の服部にそっとささやく。

「なっそんならうちらも一部屋貸してもらえへんかな?」
「え?」
てっきり宿をとってるとばかり思ってたコナンはビックリする。
「なんやこのシーズンホテル混んでるみたいなん。飛び込みで宿とろ思っとったら
無理かもしれへんのや。」
肩をすくめる和葉にそういう事情ならとコナンはうなづく。
「うん。いいよ。新一兄ちゃんもいいって言うと思うから。後で案内するね。」
「おおきに。」
助かったわぁと女性二人は多いに喜んだ。


お茶菓子を探しに台所へ行ったコナンにヒョコヒョコついてきた服部は
深呼吸を一つすると意を決してコナンに話しかけた。当初の目的を。
「くどぉ明日遊園地いかへん?なんかマジックショーあるらしいで。」
「遊園地ぃぃ?ヤロー二人でか?おっお菓子発見。ポテチあるじゃねーか」
とてつもなく嫌そうなコナンの顔に服部は秘かに傷つく。
「ええやんーー俺マジックショー見たいんやーー。」
やっと発見したお菓子第一号を台所の机に置くと振り返り、
「てめーの彼女といけばいいじゃねーか丁度ここに来てるんだし。」
だだっ子のような服部に呆れたような声でコナンは言った。
「和葉はそんなん違うて。俺は工藤と行きたいんやっ」
なーなーなーなー行こーーー行こーーー。
と服の端をひっぱられたコナンはあまりの子供っぷりに呆気にとられた。
「お前なぁ・・。分かったって分かったから服ひっぱるな伸びるだろーがっ」
「行ってくれるんやな?」
「ああ。行くからほらっ手え放せって。」
やったぁと万歳する服部にやれやれとため息をつくコナン。なんでこんな犬に懐かれた
んだか。

そしてその会話を影で盗み聞きしていた人物が一人・・・。
(やっぱり平ちゃん。そういう事なのね。お母さんちょっと信じられへんわ。)
母は悲しいで・・・とそっとハンカチで涙を拭う真似をする。
実は、ショックというよりどこかワクワクしていた。
(平次・・いつの間にそんな道に走ったんや。ホモの上にショタ・・しかもまだ
片思いのようやな。)
しかもかなり情けないくらい心は伝わっていない。
まあ、小学生相手に高校生がここまでなりふり構わないってのも問題だが。
それに気づかない鈍感なコナンもまたいい感じだ。

「ただいまー。」
「あっお帰りー蘭ちゃん。おじゃましてますー。」
にぎやかな家に首を傾げつつ部屋の戸を開けた蘭は明るい大阪弁にビックリした。
「和葉ちゃん。え?来るなら言ってくれればよかったのに。」
「ああ。ちゃうねん。突然来たから。あーこっち前会った事あるよね。
平次のおかーはん。」
向かいに座っていた平次ママは少し離れた所でテレビを見ている服部と
コナンが気になってしょうがなかった。
「おばさんっっおばさんっ。」
和葉に肩を揺すられはっと目線を目の前の蘭に移動する。
「え?あ・・ごめんごめん。ちょっとぼーっとしてたわ。勝手におじゃまさせて
頂きましてえらいすんませんね。蘭ちゃん。」
「いえ・・。それはいいんですが。何かあったんですか?」
突然平次とその母と和葉が来ればこちらに何か緊急の用があるとしか思えなかった。
「ちがうんよ。うちのバカ息子ががいっっっっつもここに入り浸りやから引きずり
戻したろ思うておっかけて来ただけなんですわ。すんませんね面倒かけて。」
ぺこりと母に頭を下げられ、蘭は慌てて目の前で手を振る。
「あっいえっそんな。いつも服部君にはコナン君の面倒を見てもらっちゃって。
なんか本当の兄弟みたいなんですよね。」
微笑ましそうな目でテレビを真剣に見つめる二人をみやる。
「兄弟・・・みたい・・ね。」
同じく蘭の目線を追い(前途多難やで平次っ)と好奇心丸出しの母。

「だーかーらーっこいつが犯人で決まりだろ?」
「何でやっだってこいつはさっきの所でアリバイが完璧にあったやないか。
そんならこいつの方が怪しいでっ」
「いや。トリック使えばなんとでもなるさ。それにこいつさっき
ひっかかる言葉はいたしな。」
「ん?変な事言ったかこいつ?」

どうやら声が聞こえない事をいいことに二人でドラマの推理に夢中だった。
どこからどう見ても仲のよい兄弟だった。

「せや。平次ー明日帰るでー。」
ちょっと大きな声をだし、和葉は決定事項を述べる。
「はあ?なんでや。明後日までの三連休やから明後日帰るで俺は。」
眉をよせ、むっと言い張る服部。隣のコナンは妙な顔をしていた。
(別に帰ればいーじゃねーか。あーでもさっき遊園地がどうの言ってたな
そんなにマジックショーみてーのかこいつ。はっっガキだなぁ。)
・・・本人が聞いたら血管がぶち切れるほど否定しそうな事を据わった目
で考えていた。
「ほな和葉ちゃん。うちらも明後日までこっちおろ。
な。コナン君明日までお泊まりさせて頂いてもええやろか?」
いやとは言えない雰囲気で平次の母は尋ねた。テレビ画面から目を離し、
背後を振り返るとコナンはコクコクと頷いた。それしかすべはない。
「え?泊まるって?」
「ああ。工藤君のお宅におじゃまさせて頂くんよ。」
まさかうちに?と首をかしげる蘭にちゃうちゃうと目の前で手を振り、
和葉が説明する。
「新一の家に?え?コナン君新一と連絡とれたの?」
「ううん。平次兄ちゃんが新一兄ちゃんに許可取ったって言ったから。」
ソファの背もたれにダリンとよりかかると可愛らしく足をぶらぶらさせつつコナンは
言った。
その足をよこしまな目でうっとり見つつ服部は蘭に言った。
「うんと前にな。こっち来た時は工藤んち貸したってや。って言っといたからえーやろ。
俺よりうちのお母んの方やな無理矢理なんは。」

肩をすくめ「なあ」とコナンにうながす。まったくだと思いつつも
さすがに本人を目の前にしてそれは言えない。
「俺はそれより俺ん家貸すってー約束の方が気になるんだがな。
いーーつーーそんな事言ったかなぁぁぁ。」
蘭達に聞こえないひくぅぅぅぅぅい声で服部をビビらせる。
「え?工藤が忘れたんちゃう?」
慌てて言い募る服部に
「おーれーがーー忘れっぽい男に見えるかぁぁぁ?」
嫌みったらしく言ってみるコナン。もちろん、もしかすると聞いたかもなぁとか思いつつ。
「いや・・見えへん見えへん。ええやんええやん貸したってやぁぁ。」
言ったつもりだったが言い忘れたのかも・・・いつもは自分の記憶に絶対の自信を持つ
服部だがコナンに対してだけは自信は半減する。彼に違うと言われると違うかも・・・
そう思ってしまうのだ。だって俺よりなんか記憶力しっかりしてそうだしぃぃ。
とか心の中で言い訳しつつ、ひたすら謝り倒す。
まさしく惚れた弱みといった所だろう。

       

ひとこと。

服部母。本当は服部静華さんなのですが、なんか名前だすと変だからずっっっと母とかママとかで
行きます。
なーんかあわないんだよなぁ。静華さんってのが。どうもね。
さて。やっと平次君が主役級の話し。
今回だけは快斗かKIDに愛が傾いてしまう私の悪い癖をどうにかしないと
いけませんね。気を付けようっと。

それにしてもなさけない・・平ちゃあああん。ごめんなー。快斗はおバカだが君はなさけないよ(涙)
へにょへにょだ。もっとかっこいい奴はかけんのか私っ。