真実への扉 後編

「もっとすごい人だよ。」

にっこり笑うと彼の腕をつかみもといた場所に引き戻す。

服部を背に俺達を正面にしたその位置に。

「もっと・・?」

今、旬の人(笑)毛利小五郎以上にすごい人といったら・・・考えつかず信一は

眉をよせる。

その反応に満足つつ俺は服部の方に目をやった。

「そうだよ。ね。東雲信也君。」



その名にやっと彼は反応してくれた。今までの笑顔のポーカーフェイスをはずして。

「な・・・に?」

俺の目線を追う信一。服部の隣当たりに少年が一人現れた。

東雲信也その人だ。少し憔悴した顔に強い目。多分意地と根性でここに

立っているのだろう。

「信・・・也」

呆然とつぶやく信一に彼はつかつかと近寄ると軽蔑のまなざしをむける。

「話は全部聞いたよ。お兄ちゃん。お母さんにもお父さんにももう話してある。」

まだ丸め込めると思っていたのだろう信一はその言葉を聞いた瞬間固まった。

「そ・・・そんなバカな話を信じたのか?信也は。」

「うん。さっきの会話もテープに撮ったし。それに僕をさらった人たちが言ってたから。」

と手にもったカセットテープを見せる。これ以上ないくらいの物的証拠だ。

実際小学一年にしては信也は大人びているほうだと思う。

こんな状況で冷静に話しができるのだから。全て理解した上で自分がすべき事を

きちんとこなす。自分の感情を後回しにして。

泣くのは後でもできるから。



「江戸川君。巻き込んでごめんね。」

「いいよ。俺こそつらい思いさせてごめんな。もっと早く助けにいけたらよかった

んだけど。」

頬のはれと手や足の小さな傷を見て唇をかむ。ちくしょう。こんな小さな子に

手をあげやがって。

「ううん。そんな。あの人が助けてくれなかったら僕もうここにいないよ。」

そこまで解っているのか。この少年は。

兄よりよっぽどしっかりしている。

「一体・・・一体どうやってあそこから・・。」

「だから最後の隠し玉だよ。」

これが本当に最後の最終兵器。めったに手助けしてくれない彼を無理矢理引き込んだのだから。

「なあ。白い泥棒さんよぉ。」

声をかけた瞬間信也の後ろに白い影がフワリと浮かぶ。

「怪盗と呼べっていつも言ってるだろ。名探偵。」

「き・・・っど?」

信一には目もくれずこちらに話しかける。知らない人がいたらもぐりだろう。

白き怪盗怪盗KID。よくも悪くも今一番時のひとだろう。

もちろん名探偵の毛利小五郎以上に。

目を見開きKIDを見つめる信一はまるで狐につままれたような顔をしている。



「は・・・はははははは。」

狂ったように突然笑い出す信一。腹を抱え込んで苦しそうに笑う。

「悪いが潜入捜査は服部が信也君奪還はKIDがそしてパソコンによる情報収集は

灰原と博士が受け持ってくれた。俺は単なるおとりだよ。」

そう言うことだ。これだけの人に秘かに連絡を取るのも結構な苦労だったが(特にKID)

協力さえ得られればこれほど頼りになるメンバーはいないだろう。

「これは・・・俺の人選ミスってことだな。」

まだ笑う彼はとぎれとぎれに語る。そりゃこんな豪華メンバーのつてがある小学一年生

などそうそういないだろう。

「そうだな。そう言うことかもな。」

「だが・・・君だけは逃がさないよ。」

え?と思う間もなく間合いをつめられコナンはナイフを喉に押し当てられた。

「往生際が悪いで。」

「おやおや。」

「やめてお兄ちゃんっ。」

落ち着いた二人と反対に信也は慌てて止めにはいろうとする。

だがしかし・・

「それ以上動くと撃つわよ。」

チャキと拳銃をかまえられ、信一はハハハと笑う。小学生に何ができる?

「撃てるものなら撃てば―――――」

最後まで言う前にパキュンと撃たれた。素晴らしい命中率でナイフをはじき飛ばす。

角度が悪かったらコナンの首にナイフがささるところだ。

「悪いわね。その手の冗談は言わない主義なの」

構えはまだ解かない。また新たに動いたら弾が飛んでくるのは必至。

とんでもないダークホースだ。



「あっぶねー。灰原ー。もうちょっと安全な方法はねーのかよ。」

助けてもらっておきながらこの言いぐさ。

この少女が拳銃を本当に撃ったことに驚いたのは東雲兄弟二人だけだ。

博士は危ないじゃろと慌てていたが驚いてはいない。

「東雲。」

「え?」

ピシュッと麻酔銃を信也に撃つ。もういいだろう。事件はもう解決なのだから。

これ以上は見る必要はない。

ドサッと倒れる前に何とか支え、博士に預ける。

「博士。ちょっと抱っこしてやってて。」

「わかった。」

目をつぶっていれば可愛い小学一年生だ。こんな子がこんなツライ目に会うなんてな・・。

本当に許せないよな。

「信一さん。あなたにはきちんと罪をつぐなって頂きます。」

「・・・うっわ。怖い子だなあ。なんだその時計?」

いざとなったらこれで彼を刺す予定だったのだ。だからの二人の余裕。

その前に灰原に危ない方法で助けられたが。

「KID頼む。」

「了解。あーあーあー『もしもし?俺俺快斗ーなんかさーちょっと事件にまきこまれちゃった

みたいなんだよねー。あははは。

あの幽霊病院の裏でさちょっと立ち回りなんかやっちゃってさぁ。

うん。そうそこっ。ちょっと来てくんない?近くに拳銃が落ちてるんだって

もう超ビックリよ。そーそー。コッワイよなー撃たれなくてよかったよー本当に。

あーうんここで待ってるから。オッケー』

っとこんな所でいかがでしょうか?」

途中中森警部の「ばっかもーん」という叱咤の声が聞こえたが全然こたえてないらしい。

プチっと突然取り出した携帯の電源を切り、ニコリとKIDは言う。

その豹変の仕方に俺は毎度の事ながら笑ってしまう。

どちらも本人なのだがこの格好であのしゃべり方は笑えてしょうがない。

「んじゃま気を失ってもらいますよ。」

「拳銃はどうすんだ?」

楽しげに聞いていた信一は灰原の銃をみる。

「これはあなたの仲間の一人が持ってた銃よ。ちょっと裏取引で譲ってもらったのよ。」

ふふ・・と笑う灰原。こえーよお前。

しかももしかすっと信一の名で譲ってもらっているのかもしれない。こいつのことだ

抜かりはないだろう。

「あーあ。ゲームオーバーだな。こんな無敵チームに手を出したのが運の尽き・・か。」

次は負けないぜ。

とか言う信一に俺の怒りはピークに達する。反省はない。

後悔もない。悪いことしたと全然思っていない。こんな奴が

この世の中を駄目にしてるんだ。

留置所に送られてもう一度世に出てきてもすぐ同じ事を繰り返すんだ・・。

過去どうしようもなくて犯罪を犯してしまった人たちの顔が浮かぶ。

あんな人もいるのに。こんな奴もいる。

探偵なんて言ったって捕まえてはい終わりしか出来ねーんじゃ意味ないじゃないか。

自分の無力さに嫌気がさす。



「とりあえず大した罪にはならないしね。」

楽しげに言う信一。確かにこれだけの証拠では、銃刀法違反と弟誘拐、はたまた殺人未遂

と言ったところしか罪状はないだろう。

たいした罪にはならない。後一歩で信也君が死んでしまうところだったとしてもだ。

過去沢山の人をひどい目にあわせて来たとしても・・・だ。

たまんねーよな。

家族はこいつを見放すだろう。でもその分今まで以上に自由に生きるのだろうこいつは。



「さあ。それはどうかしら。」

唇をかむ俺の耳に灰原の楽しげな声が聞こえた。

もしかして何かつかんでる?

「どういうことかなおじょうちゃん。」

灰原を今にもなぐりそうな雰囲気で信一は問い返した。

「私達がタッグを組めば君が思った以上にいろんな情報を入手できたりするんですよ。」

「そうこいつらに口わらせた情報もあるしな。

ちょっと汚い手つこた所もあるけど確かな情報をいろんなとこからゲットしてきたんやからな。」

と暗闇に転がしてあった、信一の仲間をKIDと二人掛かりでよいせと

手前に転がす。約15人。

最初はKID一人で乗り込むつもりだったが、コナンが服部も起用したのだ。KIDは信也君救出を中心に。

服部はその補佐に。できれば何人かとらえて口をわらせるつもりだった。

だが二人そろえばなんて事ない。全員を(ちょっと手こずったが)捕らえてしまったのだった。


「他にもお前さんのせいで自殺に追いやられた方々の家族などをあたっていろいろ証拠を調べたしの。」

博士が静かに口をひらく。抱きかかえている信也君を気遣ってのことだろう。


ようするに罪状はもっと増えるということだ。

それに消化不良の家族達の怒り等がいままでやってきた分だけ戻ってくるだろう。

警察から解放されたとしても平穏な生活が果たして送れるかどうか。


「・・・・」

さすがの信一も青ざめ口を閉ざす。

もっと気軽に考えていたのだろう。銃は自分のではないし、誘拐といっても自分の弟だ。

単なる悪ふざけですむ。

後はうまく口と金を使ってすぐにでも医者に戻って次のゲームを考える。そんな風に。

賠償金やなんやかやで信也君の家は本当に大変な事になるだろう。

だからこそ信一をかばう余裕もなくなる。いや。傷だらけの信也君を見た瞬間から

あの両親はもう信一を見捨てているのかもしれないが。

「お・・俺は何もやってない。君たちが言ってるだけだ。」

「今更ね。」

「認めた後でいうたかて説得力ないで。」

辛辣な灰原と服部の言葉。

カセットテープがある時点でもう取り返しはつかないのだ。

「ちくしょう俺の人生をめちゃくちゃにしやがって。」

「さんざん人の人生をめちゃくちゃにしてきておいて何言ってやがる。」

自分がやって来た事がやっと返ってきたのだ。

文句を言う筋合いはない。

俺は怒りにまかせて怒鳴り返した。

まだ何か言おうとする信一をスッと動いたKIDが目の前に手をかざし眠りにつかせた。

ドサッと地面にくずれ落ちる信一。もちろんKIDは助け起こす気もないのだろう。

たぶんこぶの一つくらいできている筈だ。

「まだ文句言ってやりたかった。」

ブスッとふくれて言う俺にKIDは俺の頬に手をやると

「あれ以上あんな奴の言葉を聞いたら耳が腐りますよ。」

と耳をスッとなでた。

「KID〜抜け駆けやでー。まあ、その意見には俺も同感やけどな。

それにお前があれ以上つらい言葉吐くんはちょっと胸が痛いしな。」

胸を押さえ悲しそうに笑う服部。

「そうね。感情にまかせて言った言葉は後で自分で思い返してきっと後悔してしまうわ。」

灰原も服部の言葉にうなづく。

そして博士も。

「新一はそんな奴じゃからな。」

みんながみんな自分の心配をしてくれている。

こんな後味最悪な事件に巻き込んでしまったあげく怒りにまかせて怒鳴ってしまった
自分を。


「ありがと・・・な。」

言葉が転がりでてきた。顔が赤くなってるのがわかる。耳まで熱い。

いつもは素直に言えない一言。胸が熱くなり言わなければどうしようもないほど

心に溢れた一言。

怒りはほとんど治まった。今あるのは温かい感謝の気持ちだけだから。

こうして事件は終わったのだった。






後日談

「快斗ー。中森警部なんて言ってた?」

「ん。今他の罪状を調べ中だってさ。なんか調べたらほこりが出る出る。

叩いて叩いて叩きまくってやるーーとか意気込んでたぜ。」

まるで布団ののりだな。


「そりゃ頼もしいな。」


あれから二日。あの後快斗の電話を受けた中森警部が颯爽と登場し、俺達の説明を聞くと、

転がっている人たちを一気に回収してくれた。

昨日、東雲一家は警察に事情聴取された。信也君は6才とは思えぬ

しっかりした口調で事件のあらましを説明したらしい。

そのさいKIDの事は伏せるという最初の約束はしっかり守ってくれたようだ。

KIDのかわりに快斗が手助けしてくれた事になっている(まあ、同一人物だけどな。)。

一週間後東雲一家は引っ越すらしい。

おととい家に来た信也君とその両親は何度も俺に頭をさげ、お礼とお詫びの言葉を述べていった。

やっぱり後味の悪い事件だったなと俺は改めて思ったのだった。



そして今日あの事件以来初めて快斗が顔をみせた。

電話でちょこちょこ現状を教えてくれたが知った顔だけあって警察のほうに何度か

呼ばれていたらしい。

やっとそれから解放され毛利家へと訪問できたのだった。



「悪いななんか後を全部お前に任せちまってさ。」

「いーって。別に。大した事じゃねーしな。」

服部はすでに昨日の夜こちらをたった。

学校まで休ませて来てもらったのだから仕方ない。

本当はもう少し居て欲しかったが引き留めるわけにはいかないだろう。

今は人の優しさが欲しかった。心がちょっとつらかったから。

「そーだなー。どうしてもお礼がしたいっていうならー。」

何かたくらんでいるような笑いをする快斗に真剣に俺は尋ねた。

「なんか俺に出来る事ならするよ。」

「へー。いーの?んじゃここに名探偵の口づけが欲しいなー。」

と自分の頬をさす。唇じゃないだけ結構な譲歩かもしれない。

「え?そんなんでいーのか?」

てっきりそんな事できるかと怒鳴ってくると思っていたらしい快斗は

俺のあっさりした返事に目をまるくしていた。実は昨日服部にも同じ事を

言われたのだ。減るもんじゃねーしな。

恥ずかしいが今回どれだけ助けてもらったか考えれば大した事ではない。



そんなコナンの考え(減るもんじゃないしー)を知ったら逆上しそうな快斗君は

今とても幸せの絶頂にいた。

コナンから自主的にキスしてもらえるのだ(たとえ頬でも)。

こんな事この先ありえるだろうか?もしかするとハレー彗星見るより難しいかも

しれない。きっとそうだ。

「えっと・・かがめよ。」

照れくさそうに言うコナンがまた可愛らしい。ちくしょう押し倒してあーんな事や

こぉぉんな事がしてやりたいぜ。

そんな思いをおくびも出さず快斗は腰をかがめる。

チュッと可愛らしいキスをされ快斗はもう死んでもいい・・・と思ったかもしれない。

(くぁぁぁぁ。もう顔洗えねーーー。)

頬に手をやり幸せにひたる快斗であった。




これからもこんな後味の悪い事件があるだろう。でもその後側にいてくれる人達がいるから。


俺は耐えていけると思う。


服部も快斗も。


絶対に側にいてくれる。


そう思うから。


あいつらには照れくさくて言えないけど、


そんな人たちがいる、それだけで俺はすくわれるんだ。


end

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あとがき

はいー。これはほんっっっとうに自分の欲望のままに書きました(笑)
ようするに皆さんに最強タッグを組んでほしかったのですね。
それ以外のなにものでもない(爆)

哀ちゃんに拳銃うたせたかったしぃ。
ああ・・・満足だ。
こんなんでも面白いって言って下さる方是非掲示板に一言「おもしろかったよー。」
と書いてやってください。
そしたらこんな話しが増えるかもしれませんから(笑)